不動産の証券化等の活用による都市開発事業推進委員会

 

 

                  中間報告

 

 

                平成10年7月

 

   委員会名簿
 

   委員会の検討事項

   中間報告の目次
 

 

 

     不動産の証券化等の活 用による都市開発事業推進委員会名簿                                    (敬称略、順不同)

             

委員長 岩原 紳作  東京大学法学部教授 

 

委員  村尾 裕   朝日監査法人代表社員                   

    田村 幸太郎 牛島法律事務所弁護士                    

    高崎 勝久  三和銀行証券営業部次長(第1回)

    佐藤 久和  東京三菱銀行公務法人部プロジェクト推進室長(第2 回〜) 

    松本 一男  三菱信託銀行不動産業務部業務課長(第1・2回)

    石橋 博   住友信託銀行開発不動産業務部不動産投資顧問主任調 査役 

                                 (第 3回〜)

    藤丸 政幸  朝日生命不動産部長                    

    大谷 泰秀  住友海上火災新種保険部保証信用保険室長         

    林  志明  メリルリンチ証券会社東京支店ヴァイスプレジデント    

    久保 敏彦  清水建設開発計画本部再開発計画部課長           

    佐藤 一雄  不動産シンジケーション協議会専務理事           

    河原崎守彦  (社)不動産協会専務理事                 

    竹歳 誠   住宅・都市整備公団企画調整部長(第1〜4回)

    柴田 高博  住宅・都市整備公団企画調整部長(第5回)         

    井上 順   住宅金融公庫企画部長                    

    松野 信也  日本開発銀行都市開発部長(第1〜3回)

    安藤 隆   日本開発銀行都市開発部長(第4回〜)           

    細渕 功   東京都都市計画局総合計画部長                

    片山 さつき 大蔵省銀行局債権等流動化室長(第1〜4回)

    八田 斎   大蔵省大臣官房企画官(金融企画局企画課)(第5回 )   

    辻原 俊博  建設省建設経済局不動産業課長               

    原田 保夫  建設省都市局都市政策課長                 

    各務 正人  建設省都市局都市再開発防災課長              

    近藤 秀明  建設省都市局区画整理課長

    松野 仁   建設省住宅局市街地建築課長(第2〜4回)

    椋  周二  建設省住宅局市街地建築課長(第5回)           

     角地 徳久  (財)民間都市開発推進機構常務理事         

                                      

 

 

 

 

 不動産の証券化等の活用による都市 開発事業推進委員会における検討事項                                 (第1回〜第5回)

                                           
第1回(平成10年1月30日(金))

 

 1.当委員会における検討事項及び審議の進め方について

 2.都市開発事業及び証券化等に関する制度の現状と課題について

 

            

第2回(平成10年3月25日(水))

 

 1.不動産証券の商品性について

 2.情報開示(ディスクロージャー)のあり方について

 3.不動産投資インデックスについて

 4.開発型プロジェクトにおける間接金融と証券化の役割分担について

 

 

第3回(平成10年4月28日(火))

 

 1.プロジェクト・ファイナンス型の融資及び証券化による都市開発事業に ついての

   企業等からの意見について

 2.米国における開発型資産の証券化について

 3.不動産特定共同事業の開発事業への応用と課題について

 4.不動産証券化商品に必要な情報開示項目について

 

 

第4回(平成10年6月5日(金))

 

 1.不動産証券化商品に必要な情報開示項目について

 2.不動産投資インデックスについて

 3.不動産の証券化の都市政策上の意義等について

 
 

 

第5回(平成10年7月14日(火))

 1. 「不動産の証券化等の活用による都市開発事業推進委員会」中間とり まとめ

                               以上


                  目  次

 

 はじめに                                  

 

T 不動産の証券化の意義、現状及び今後の見込み                 

 

 1 不動産の証券化の意義                         

 2 不動産の証券化の現状と今後の見込み                  

 

U 不動産投資市場のインフラ整備

 

 1 不動産投資市場に係る問題点                      

 2 特に緊急かつ重点的に検討すべき項目                  

  (1)情報開示(ディスクロージャー)について

  (2)不動産投資インデックスについて

 

V 不動産の証券化による都市開発事業の推進方策

 

 1 不動産の証券化の都市開発事業における意義と活用のあり方

 2 不動産の証券化による都市開発事業の推進方策とこれについての留意点

 

W 今後の検討項目

 

 補論

 1 不動産証券化商品に対する投資家のニーズ

 2 不動産投資インデックスに対する各方面からの意見に付いて

 3 プロジェクトファイナンスについて

 4 開発型不動産の証券化について

 参考資料(略)

 

 別紙 (不動産証券化商品に必要な情報開示項目)

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

はじめに

 

 長期にわたって上昇を続けてきた不動産価格は、バブル崩壊後、大幅に下落 し、着実な経済成長と右肩上がりの地価上昇によってリスクを吸収してきた都市 開発事業には、様々なリスクが顕在化するようになった。このため、都市開発事 業者の経営は、地価の上昇による土地の含み益をもとに借入金に依存するという これまでの方法では立ち行かなくなっており、不動産投資においても他の金融商 品と同様に過度にキャピタルゲインに依存せず、収益性と流動性を重視し、リス クとリターンを意識した投資行動が必要となっている。

 

 また、都市開発事業は、用地取得に多額の資金が必要であるうえ、開発期間 が長期にわたるため、他の産業に比べ資金の回転率は低く、借入依存度も高い。 さらに、近年の資産デフレの進行により、都市開発を行う事業者の財務状況は悪 化している。こうした状況から、都市開発事業者は、今後は資産と負債を圧縮し 、財務の改善を図るとともに、所有と経営の分離を図ることが重要である。

 

 こうした変化に対応し、都市開発事業を推進するには、企業の信用力をベー スとして銀行が融資を行うコーポレート・ファイナンスから資産・プロジェクト をベースとしたプロジェクト・ファイナンスへと資金調達手法を転換し、多数の 投資家に出資を仰ぎ、リスクとリターンの分散を図ることが必要である。不動産 の証券化は、このような新しい不動産投資に対応するための重要なスキームであ り、今後とも都市開発事業を着実に行うために不可欠である。

 

 一方、投資家にとっては、不動産の証券化によって都市開発事業への投資が 可能となり、他の金融資産への投資と併せてポートフォリオの選択肢の幅が広が ることとなる。

 

 不動産の証券化による市場の規模は、財団法人民間都市開発推進機構の試算 によると、今後10年の間に約15〜20兆円の市場規模に達するものと予想さ れるが、不動産投資市場が投資家にとって魅力ある投資先であるとともに、都市 開発事業の重要な資金調達手段として機能するよう、不動産の証券化の推進方策 の検討が急務である。

 

 こうした状況を踏まえ、本委員会では、投資家保護を図りつつ、不動産の証 券化を推進し、都市開発事業の健全な発展を図るための車の両輪として、不動産 投資市場の制度インフラの整備と不動産の証券化を活用した都市開発の推進方策 について検討することとした。

 

 本委員会における不動産の証券化の議論に当たっては、不動産の証券化を単 なる不良債権の処理のための方策として用いるのではなく、一般の優良な収益不 動産を対象とした証券化を積極的に進め、さらには開発型の物件への応用を視野 に入れつつ、幅広い投資家による投資が可能な不動産投資市場を整備することに 留意した。

 

 また、不動産投資について、これまでのように過度にキャピタルゲインを期 待し、あるいは節税目的に行われるのではなく、市場原理を基本とし、インカム ゲインを重視した収益性に基づいて投資される市場の整備が重要であることから 、本委員会においても、この点に留意して検討を行っている。

 

 なお、「不動産の証券化」という言葉は、現在様々な意味合いで用いられて おり、人それぞれにイメージするものが異なっているため、本委員会では、具体 的な商品のイメージが必要な場合には、不動産を裏付けとして発行される資産担 保証券(ABS)を念頭に検討を行うこととした。これは、不動産を裏付けとす る資産担保証券が、不動産としての側面と、有価証券という金融商品としての側 面をあわせ持っており、議論の対象として汎用性が高いと考えられるためである 。従って、不動産特定共同事業商品は、資産担保証券ではないため本委員会での 直接の検討対象ではないが、投資家から直接資金を調達して共同投資を行うスキ ームであり、共通する部分も多いことから、本委員会の検討結果を参考として、 その特性を踏まえた検討が行われることを期待するものである。

 

 本中間報告は現段階での検討状況をとりまとめたものであるが、本委員会で は今後の検討課題として挙げた点を含め、来年春までにさらに検討を進めていき たい。



T 不動産の証券化の意義、現状及び今後の見込み

 

1 不動産の証券化の意義

 

 「はじめに」でも触れた不動産の証券化の意義についてまとめると次のとお り。

 

(1)相対型の資金調達から市場型の資金調達へ

 

 金融ビッグバンの進展による金融機関の競争の激化や、BIS(国際決済銀 行)が定める自己資本比率規制等の制約から、金融機関は貸出債権等の資産の圧 縮を迫られており、今後は、金融機関からの融資による資金調達の比率が低下す ることが見込まれる。このため、都市開発分野の円滑な資金供給を確保するため には、従来の金融機関からの融資による資金調達に加えて、証券化によって市場 から直接資金を調達する途を広げることが不可欠である。

 

(2)保有不動産の分離による資産圧縮

 

 企業が保有する不動産を証券化することによって調達した資金で借入金を返 済し、資産の圧縮を図ることによりROA(総資産利益率=経常利益/総資産) 等企業の財務諸指標が向上する。これにより、企業の株価向上や、社債格付の向 上による有利な資金調達に資する効果が期待される。

  

(3)個人金融資産1,200兆円の運用手法の拡大

 

 我が国の個人が保有する金融資産は約1,200兆円に上ると言われているが、 その約6割は株式等に比較して低利の預貯金に向けられており、米国の約2割に 対し圧倒的にその比率が高い。このため、優良な収益不動産の証券化によって、 個人投資家の不動産市場への投資を容易にし、運用手法の多様化に資するものと して期待される。

 

 さらにこの結果、個人の金融資産を不動産投資へ呼び込むことにより、1,200 兆円の金融資産を、優良な都市ストックとして後世に残すという意義も期待さ れる。

 

(4)不動産投資市場への資金投入による不動産取引の活性化

 

 不動産の証券化によって幅広い投資家からの資金が不動産市場に向かうこと となり、不動産取引の活性化、土地の有効利用の促進に資する効果が期待される 。

 

(5)フィー・ビジネスの拡大による不動産業の新たな展開

 

 不動産の証券化の発展により、不動産投資に関するアドバイスを行なう不動 産投資顧問業や、証券の裏付けとなっている不動産の運営管理を行なうアセット ・マネージメント業等のフィー・ビジネスが日本においても発達し、地価の上昇 に依存しない不動産業の新たな展開が可能となる。

 

(6)不動産市場への反映

 

 不動産の証券化によって、不動産の収益還元による評価や、証券の裏付けと なる不動産の情報開示等が進展すれば、実物の不動産市場においても、取引がよ りオープンになり、価格形成における公正性、透明性が向上し、市場の規律性が 高まって、バブル経済とその崩壊の過程で経験したような不動産価格の急激な上 昇・下落が回避されることが期待される。

 

 

2 不動産の証券化の現状と今後の見込み

 

(1)不動産の証券化の現状

 

 不動産の証券化は、国内ではまだ広く行われていないが、銀行による担保不 動産の証券化が行われた事例がある。この銀行による担保不動産の証券化は私募 で行われたものがほとんどであるが、公募した事例もある。また、証券同様、投 資家から直接資金を調達するスキームである不動産特定共同事業についても、様 々な事業が行われている。

 

 これまでの事例では、我が国において導管体の法制上の手当てなど本格的な 証券化のための法制度が整備されていなかったことを反映して、海外SPCや不 動産特定共同事業を活用するなどの工夫がなされている。

 

 

@私募による担保不動産の証券化の例

 

 

  [事業化例]三菱銀行(現東京三菱銀行)

 

 

A国内公募による担保不動産の証券化の例

 


  [事業化例]第一勧業銀行

 

B不動産特定共同事業の例

(ア)任意組合型

 

  [事業化例]東京建物(所有権出資型)、安田不動産(賃借権出資型)等

 

(イ)匿名組合型

 ・マンション分譲型

          

  [事業化例]野村不動産、東急不動産、東京建物

 

 

・開発分譲型

 

  [事業化例]野村不動産、三井不動産

 

 

 

・ビル投資ファンド型

 

  [事業化例]野村不動産

 

 

 

(ウ)不動産特定共同事業を活用した銀行による担保不動産の証券化の例

 
 

  [事業化例]さくら銀行&三井不動産


(2)不動産の証券化の今後の見込み

 

 今後は投資家等のニーズに応えるため、様々なスキームを活用して多様な不 動産証券化商品が供給されることが期待される(不動産証券化商品に対する投資 家のニーズについて補論1参照)。特に、「特定目的会社による特定資産の流動 化に関する法律」に基づく特定目的会社や、会社型投資信託の活用が想定される 。また、アメリカのREIT(不動産投資信託)のような不動産投資に特化した 会社型投資信託スキームの創設も考えられる。

 

特定目的会社による不動産の証券化

 

 

 

 

 

 

U 不動産投資市場のインフラ整備

 

1 不動産投資市場に係る問題点  

 

  不動産投資市場についての問題点を整理すると次のとおり。

 

(1)不動産投資市場のインフラが未整備

 

 不動産の証券化を推進するためには、以下のような不動産投資市場のインフ ラの整備が不可欠である。

 

 @情報開示基準の確立

 裏付けとなる不動産や、発行者、証券等に関し投資家に情報開示すべき事項 についての基準を確立する必要がある。

 

 Aインデックスの確立

 株式における東証株価指数、日経平均株価等のように、投資の収益性のベン チマークとなるインデックス(指標)の確立が必要である。

 B投資対象不動産の評価方法の確立

 収益還元価格の導入など投資対象不動産の評価方法の確立が必要である。

 

 C格付の活用

 投資家が投資商品の安全性を他の商品と比較し、短期間で投資判断をするこ とを可能とするため、デット型の不動産証券化商品への格付の活用が必要である 。

 

 D不動産投資顧問業の育成

 不動産投資について投資家に専門的なアドバイスを行なう不動産投資顧問業 を育成し、機関投資家はもちろん個人投資家など幅広い投資家層からの投資を可 能にする必要がある。

 

 E流通市場の整備

 不動産証券化商品の流動性を高め、投資家が必要な時に売ったり買ったりで きるよう、流通市場を整備する必要がある。

 

(2)投資利回りに対する予測がつけにくい

 

 不動産証券化商品については、投資家に対し公開すべき情報開示の基準が整 備されていないことや、投資のメルクマールとなるインデックスが確立されてい ないことなど、投資の判断材料が十分に整備されていないことから投資利回りの 予測が立たないといった問題がある。また、バブル前後の地価の乱高下の経験が 地価に対する予測を困難にしている。

 

 さらに、日本の借地・借家をめぐる諸制度・慣行が借地借家人に有利なもの となっており、長期間の安定した賃料収入を確定できず、賃貸物件を投資対象と した不動産証券化商品のインカムゲインが不確定なものとなりやすいといった点 も指摘されている。

 

 また、我が国の土地・建物に対する公租公課がこれまで短期間に変更されて きたことも予測を困難にする理由として指摘されている。

 

(3)利回りに反映するコストの問題

 

 不動産証券化商品は、不動産特有のリスクを内包していること等から、一般 的にリスクプレミアムとして利回りを高く設定する必要がある一方、不動産取引 固有の税制など、利回りを抑えるコストの問題がある。

 

 また、不動産の証券化は、銀行によって行われている担保不動産の証券化ス キームで見られるように、リスク回避等のために複数のSPC(特別目的会社) を組み合わせるなど複雑な仕組みになるため、コストがかかるという問題がある 。

 

 なお、以上のような問題意識から、「特定目的会社による特定資産の流動化 に関する法律」に基づく特定目的会社においては、取得する不動産の所有権の移 転登記に係る登録免許税や、不動産取得税等不動産取引固有の税制の軽減措置が とられ、また、資本金が最低300万円とされ、取締役数が1名より可能とされた こと、設立登記に対する登録免許税の軽減措置がとられたこと等によりコストの 低減が図られている。

 

 

2 特に緊急かつ重点的に検討すべき項目

 

 1(1)に述べたとおり、不動産投資市場を整備するためには、市場インフ ラの整備が不可欠であるが、中でも投資家が自律的に投資判断を行うために必要 な情報開示(ディスクロージャー)とインデックスは、緊急に整備を図るべきも のと考えられる。このため、本委員会では、この2つの項目について速やかに検 討することとした。

 

(1)情報開示(ディスクロージャー)について

 

 不動産の証券化に当たっては、証券の発行者や証券そのものに関する情報の 他に、裏付けとなる不動産に関する情報の開示が極めて重要である。特に、投資 家の立場から見れば、投資判断をする上で、裏付けとなる不動産から生ずる収益 に関する情報が最も重視されるものと考えられる。

 

 我が国ではこれまでほとんど不動産の証券化が行われていないことから、不 動産証券化商品に係る情報開示の基準は未整備であるが、今後、不動産の証券化 を推進し、健全な市場を整備していくためには、その整備が不可欠である。この ため、本委員会においては、不動産を証券化する際に、どのような情報を開示す ることが必要かについて、特に公募を前提に、ある程度汎用性のある基準を作る こととし、検討を行った。

 

@情報開示の意義

 

 不動産の証券化に限らず、一般的に、証券の発行・流通においては情報開示 が重要であるが、その意義を整理すると次のとおりである。

 

○投資家保護の観点から見れば、投資家が自らの責任で投資を行うためには、 投資しよう とする証券のリスク、リターンを認識し、自律的に投資判断できる ことが不可欠であり、 そのためには当該証券に関する情報が十分開示されてい る必要があること。

○発行者の資金調達の観点から見れば、あらかじめ想定されるリスクを開示し ておくこと により、発行する証券に係る責任を限定することができること。ま た、十分な情報を開 示しない場合、市場から実態以上にリスクが高いと評価さ れることとなることにかんが みれば、より多くの情報を開示することによって 、結果として低いコストでスムーズに 資金を調達できる効果が期待できること 。

○健全な市場の整備の観点から見れば、市場原理が働き、投資家が自己責任で 投資を行え る環境を整備することが必要であるが、そのためのルールのひとつ である情報開示が市 場のインフラとして重要であること。

 

A不動産証券化商品に必要な情報開示項目の検討に当たっての留意点

 

 不動産の証券化においても情報開示の必要性・効果は同様であるが、現在、 不動産の証券化がほとんど行われていない状況の中で、不動産証券化商品に必要 な情報開示項目を検討するに当たっては、特に、次の点に留意して検討する必要 がある。

 

○投資家保護の観点から、投資家が自己の責任で投資行動を決定できる必要十 分な情報が 開示される必要があること。

○一方で、発行者に必要以上の情報開示を義務付けることとなると、証券の発 行自体が控 えられ、かえって市場の整備に支障をきたすことにもなりかねない という懸念がある。 このため、開示項目の検討に当たっては、投資家にとって 必要な情報が開示されること を第一としつつも、発行者にとって対応可能か否 かの視点も必要であること。

○今後、国内だけでなく広く外国からも投資を呼び込むためには、グローバル スタンダー ドに適合したものでなければならないこと。

 しかし一方で、我が国独特の制度、商慣習等があり、それにも十分対応可能 なものであ る必要があること。

 

B不動産証券化商品に必要な情報開示項目について

 

 上記の留意点を踏まえ、一定の前提の下に、 証券の発行時と継続時における具体的な情報開示項目をとりまとめたものが別 紙 である。

 

 ここでは、不動産証券化商品の最も典型的なモデルとして、裏付けとなる不 動産を商業用賃貸ビルとしているが、その他の不動産の証券化についても、 別紙 を参考にして必要な情報開示が行われることが期待される。

 

 また、公募を前提としていることに特に留意する必要がある。私募の場合に は、相対の取引の中で、投資家からの要求に従って投資家ごとに必要な情報を開 示すればよく、あえて別紙に従った情報開示は必要ない。

 

 別紙に示した情報開示項目の中で、投資家の投資決定に当たって最も重要な 項目は、裏付けとなる不動産の収益に関する項目であり、委員会においても多く の議論があった。特に、健全な市場の整備の観点等から、商業用賃貸ビルのテナ ントとの個々の契約内容を開示すべきであるとの意見もあったが、一方で、現行 の借地借家法を背景とした我が国独自の賃貸借に係る商慣習等にかんがみれば、 個々の契約内容の開示はテナントの流動性を高めてしまい、かえって投資家に不 利益をもたらすおそれもあることなどから、個々の契約内容まで開示を義務付け るべきでなく、当該商品の収益全体が開示されていれば十分ではないかとの意見 もあった。これらの意見を踏まえ、別紙では投資家保護の観点から最小限開示さ れることが望ましいと考えられる項目を整理した。

 

 また、健全な市場の整備、特に流通市場の整備の観点からは、発行時の情報 開示のみならず、裏付けとなる不動産の運用状況を継続的に開示していくことが 重要であり、別紙の継続開示項目を基準として定期的に積極的な開示が行われる ことが期待される。

 

 「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」に基づき特定目的会 社が発行する証券をはじめ、不動産を裏付けとする資産担保証券(ABS)に関す る情報開示ルールの検討に当たって、別紙の情報開示項目が参考とされることを 期待する。

 

(2)不動産投資インデックスについて

 

@不動産投資インデックスとは

 

 不動産投資インデックスは、不動産投資の平均的な収益性を示す指標で、イ ンカムゲインとキャピタルゲインの両面からの収益性を過去の実績をもとに指数 化するものである。

 

A海外の事例(別紙比較表参照

 

 イギリス、アメリカ等で開発・運用され、証券投資分析等に比べると精度に 課題があるとも言われるものの、市場で活用され、ビジネスとしても成立してい る。

 

B国内での取り組み(別紙比較表参照

 

 各作成機関とも、ベースとなる情報収集が最大の課題であるが、それぞれの 手法により実現を図っている。

 

C不動産投資インデックスについての基本的認識

 

 本委員会での議論を通じて、不動産投資インデックスについて以下のような 基本的な認識を得た(不動産投資インデックスに対する各方面からの意見につい て補論2参照)。

 

○従来我が国では、不動産投資では物件の個別性の強さ、単位当たり投資額の 大きさや取 引情報収集の難しさなどから、投資に当たっての客観的なベンチマ ークは利用・形成さ れにくかった。しかし、地価の安定化傾向が顕著となり、 不動産証券化商品も登場する 等の環境変化の中で、不動産投資においても収益 力の分析が一層重要となっている。

○機関投資家が不動産投資を行う上では、他の金融資産とのポートフォリオ分 析の面でも、 個別銘柄への投資決定の面でも、ベンチマークとして不動産投資 インデックスの意義は 大きい。また、不動産投資インデックスが市場に定着す ることにより、投資家が自ら判 断できる市場環境が整備されることが期待され る。

○今後、不動産の証券化が進展していけば、不動産証券化商品のインデックス も整備され ることが期待される。また、これは、不動産証券化商品の流通市場 の育成にも資すると 考えられる。

○同時に、不動産の個別の収益力の良し悪しに加え、ファンド毎の運用の良し 悪しも判断 される環境となることは自覚する必要がある。

○基本的な考え方としては、市場での自主的な取り組みを通し、様々なインデ ックス間で の競争があってよい。利用者は必要に応じて選択する。現在の取り 組みの機運を関係者 (投資家、デベロッパー等)間で継続性のあるものとして いくことが必要である。


V 不動産の証券化による都市開発事業の推進方策

 

 不動産の証券化を活用して都市開発事業を推進するためには、不動産証券市 場の制度インフラを整備すると同時に、都市開発事業の特徴と不動産の証券化の 特徴を踏まえながら、都市開発事業への活用方策を検討する必要がある。

 

 本章では、第2章で検討された情報開示や不動産投資インデックスといった 市場インフラの整備が推進されることを前提に、都市開発事業における不動産の 証券化の意義付けを行い、その活用方策と支援策について検討を行う。

 

1 不動産の証券化の都市開発事業における意義と活用のあり方

 

(1)不動産の証券化の都市開発事業における意義

 

 先に述べたとおり、今後の都市開発をめぐる状況には、コーポレート・ファ イナンスからプロジェクト・ファイナンスへ、キャピタル・ゲインからインカム ・ゲインの重視へ、デベロッパーと銀行に限られたリスク・テイクから投資家を 含めた参加者によるリスク・テイクへといった変化が生じるものと考えられる。

 

 これらの変化に対応して、不動産の証券化は、プロジェクトの実施主体の評 価ではなくプロジェクトそのものの評価に基づく資金調達(プロジェクト・ファ イナンス)により、地価の上昇によるリスク吸収に頼らず、ディスクロージャー を前提に幅広い投資家層にリスク・テイクしてもらうとともに、投資家に対して 応分のリターンを配分するという新たなスタイルの都市開発を推進するための重 要な手段である(プロジェクト・ファイナンスについて補論3参照)。

 

 また、こうした今後の変化を待つまでもなく、優良な都市開発事業の構想が 多くある一方で、従前のような銀行からの融資が困難となっている現下の厳しい 経済状況で、不動産の証券化は、都市開発事業の活路を開くものと期待されてい る。

 

(2)不動産の証券化の都市開発における活用のあり方

 

 概念的にはこのような考え方の整理ができる不動産の証券化であるが、都市 開発事業を目的として行われる不動産の証券化は、具体的には、次のような形態 の資金の流れになるものと考えられる。

 

@開発型物件の証券化により調達した資金を当該開発型物件へ充当する。

A既存物件の証券化により調達した資金を別の新規開発物件へ充当する。

B既存物件の証券化により企業財務の体質改善を図り、将来の新規開発へ備え る。

 

 これら3つのパターンについて、検討を加えると、まず、@については、開 発型物件の証券化は、そのまま都市開発事業とリンクしており、都市開発事業の 推進について直接的な意義を有しているということができる。ただ、その実現に ついては、開発事業に伴うリスクをどうするかといった解決すべき課題が多く、 引き続き検討が必要である(開発型不動産の証券化について補論4参照)。

 次にA及びBについては、既存の稼動物件は、そのリスク、キャッシュ・フ ロー、資産価値等を適正に評価しやすいものであるため、証券化になじみやすい ものであり、今後市場への普及が見込まれるのはこうしたタイプの証券であると 考えられる。稼動物件を証券化する場合には、その動機は様々であろうが、こう した証券化により調達された資金がそのまま新規開発に振り向けられた場合には 、都市開発事業の資金調達そのものとなる。また、証券化によって企業の財務が 改善され、新たな都市開発が可能となる場合がある。

 

 こうしたことから、不動産の証券化は、開発型、稼動型を問わず、都市開発 を推進する上で、大きな意義を有しているため、都市政策上の観点も併せて取り 組むべきものであると考えられる。

 

 

2 不動産の証券化による都市開発事業の推進方策とこれについての留意点

 

(1)不動産の証券化によって都市開発事業を推進するための方策

 

 上述のとおり、不動産の証券化は今後の金融情勢等の状況変化に対応した都 市開発を行うために不可欠の仕組みであり、都市開発を推進する観点からは、開 発型、稼動型を問わず、不動産の証券化を推進することが必要である。

 

 より大きな文脈で捉えれば、不動産の証券化の推進は、これまでプロジェク トの出来上がりの姿に着目して民間都市開発を支援してきた手法から、プロジェ クトを行う仕組み、実施主体である民間事業者により着目した手法への転換の手 段の一つとして考えることができるものである。

 

 証券化市場が未発達の我が国において、今後不動産の証券化を普及・育成す るためには、不動産証券市場の立上げを図ろうとするここ数年が極めて重要であ り、情報開示や不動産投資インデックスといった不動産証券市場のインフラの整 備と併せて、マーケット・メカニズムを最大限生かしつつ、必要な市場育成策( 公的支援策)を講じていく必要がある。市場の育成期に当たり、公的な支援策が 重要な役割を果たすことは、アメリカの例に見られるとおりである(住宅ローン 債権が主であり、また、必ずしも市場の育成のみを目的として講じられた施策で はなかったが。)。

 

 不動産の証券化によって都市開発を推進していくために必要と考えられる市 場育成策として、

○不動産の証券化に際しての信用補完の不足、不動産の証券化を活用した都市 開発事業の ノウハウの蓄積不足といった現状

○都市開発事業に対して従来行ってきた融資、債務保証、事業参加等各種公的 支援策との 関係

などを考慮すると、具体的には、次のような施策を挙げることができよう。

 

@優良な都市開発に資する証券についての公的な信用補完

 

 不動産証券化商品の商品設計において、格付けを向上させることによって流 通性を高めるとともに、資金調達コストを低減するため、また、投資家にとって も安心できる商品として証券の普及を図るため、優良な都市開発に資する証券化 商品(例えば、証券化によって調達した資金によって都市開発事業が行われる場 合)について、公的機関による債務保証等の信用補完を行うことが考えられる( 例えば、今年4月に策定された総合経済対策に盛り込まれた日本開発銀行による ABS証券への保証は、その効果的な施策の一つであると考えられる。)。

 

A証券化を使った都市開発事業への公的機関等の参加

 

 証券化を使ったプロジェクトへの投資の呼び水として、また、証券化スキー ムにおける一定のリスク・テイカーとして、公的機関等が証券化を用いた都市開 発事業に参加することが考えられる。この場合の参加には、証券化による資金調 達を予定している場合に、開発初期段階において民都機構の参加業務や土地取得 業務を活用する場合や、公的機関等がデット又はエクイティの引受け等によって 参加を行う場合、従来の3セク等への出資を証券化スキームで行う場合など、多 様な参加パターンが考えられる。

 

 @及びAで挙げられた施策は、これまで都市開発事業に対して公的金融機関 等が行ってきた融資や債務保証の延長線上に位置付けることも可能であり、従来 こうした融資や債務保証が対象としてきた要件を満たすような優良な都市開発事 業が行われる場合に、従来の支援手段に代替するものとして、不動産の証券化と いう手段に着目した支援を位置付けることも可能になるものと考えられる。

 

B証券化と公的金融の適切な役割分担

 

 都市開発事業完成後は証券化によってリファイナンスを行うことが予定され ている場合などそのプロセスの中で証券化を活用するプロジェクトについて、証 券化になじみ難い開発初期段階においては公的金融によって支援するなど、一連 の開発プロセスの中で証券化と融資(公的金融)を適切に組み合わせることが考 えられる。この場合、都市開発事業におけるリファイナンスの重要性にかんがみ 、リファイナンスのための資金供給を公的金融により手当てすることが必要であ ると考えられる。

 

Cモデル・プロジェクトの実施

 

 都市開発事業の資金調達手法として証券化を定着させるため、公的金融の活 用、公的機関による事業参加、公的機関が保有する土地や建築物の活用等によっ て支援を行いながら、証券化を使って都市開発事業を行うモデル・プロジェクト を実施することが考えられる(例えば、民間都市開発推進機構が保有する土地や 建築物を活用したモデル・プロジェクトの実施。)

 

(2)支援策を講じるに当たっての留意点

 

 証券化によって都市開発事業を推進するために考えられる公的支援策として は以上のものが考えられるが、こうした対策を講じるに当たっては、次のような 点について留意しながら、その実施の適否、実施の方法等について検討する必要 がある。

 

@市場の自律性の確保

 

○公的支援策によって市場の自律性を歪めることはないのか。

○モラル・ハザードを招くことはないのか。

 

A公的支援策の効果

 

○公的機関による支援策が市場の立上げに本当に資するのか。

○支援策は事業者にとってのインセンティブ付与になるか。公的機関が関与す ることで、 事業者が証券化に積極的に踏み切るようになるのか。公的資金以外 に民間資金が見込め なければ証券化しないのではないか。

○支援策は投資家にとってのインセンティブ付与になるか。公的機関が関与す ることで投 資に至る投資家の積極的な意思決定に影響を及ぼすことができるか 。投資家の投資動機 と都市開発事業の優良性は一致しないのではないか。

○支援策によって優良な都市開発事業が立ち上がるのか。

 

B不動産証券の市場整備との関係

○公的機関の役割としては、情報開示制度などの市場整備が先決ではないのか 。



W 今後の検討項目

 

 本委員会では、不動産の証券化等を活用して都市開発事業を推進するために 検討すべき項目のうち、特に緊急かつ重点的に検討を行うことが必要なものにつ いて検討を行ってきたが、今後来年春を目途に検討を進めていくべき課題として 、次の点が考えられる。

 

(1)不動産の評価

 

 我が国では、不動産の評価は、従来、近隣での取引価格を参考にして評価額 を算出する取引事例比較法が主流であった。

 

 しかし、不動産証券化商品では、裏付けとなっている不動産の収益力そのも のがその価値の根源であることから、その不動産の評価はそこから生ずる収益を 基礎としてなされることが適当であり、欧米の不動産評価で一般的に用いられて いる収益還元法による評価が行われる必要がある。

 

 また、不動産証券化商品の裏付けとなっている不動産の評価に当たっては、 価格面だけでなく、建物の構造や設備など物理的な側面、法律的な側面等からの 評価、いわゆるデュー・デリジェンスも重要である。

 

 このため、不動産の証券化を進めていくに当たって、裏付けとなる不動産の 評価について課題を整理し、そのあり方について検討を行う。

 

(2)不動産証券化商品の格付

 

 デット型の証券を発行する際には、格付が重要な役割を果たし、その格付に よって資金の調達コストが大きく変わってくるが、不動産証券化商品においても 例外ではない。海外では、既に多くのデット型の不動産証券化商品が供給されて おり、それに対する格付も行われている。

 

 このため、不動産証券化商品の格付について、その位置付けや活用方法等に ついて検討を行う。

 

(3)不動産投資顧問

 

 今後、我が国においても、REITのように裏付けとなる不動産が入れ替わ る、いわゆるアセット・プール型の不動産証券化商品が出てくるものと考えられ る。アセット・プール型商品は、裏付けとなる不動産を必要に応じて売却、購入 することによって、経済情勢等の変動に柔軟に対応することが可能であり、投資 家にとっても魅力的な投資対象となり得るものである。

 

 しかし、不動産の入替えの判断には、不動産に関する知識をはじめ広範で専 門的な知識や能力が要求される。また、不動産の入替えは利回りに重大な影響を 及ぼすため、不動産投資の専門家が第三者の立場でチェックを行うことも必要に なってくる。

 

 このため、アセット・プール型商品における不動産の入替えや、投資家の不 動産投資の際に、専門家としてアドバイスを行うこと、あるいは資産管理者や投 資家に代わって投資判断を行うこと等を業務とする不動産投資顧問について、制 度的確立をも視野に入れて、そのあり方について検討を行う。

 

(4)公的支援策の活用のあり方

 

 本中間報告では、不動産の証券化を活用して都市開発事業を推進していくた めに考えられる公的な支援策の大まかな方向性を示したが、こうした方策につい て、さらに検討を進める。

 

(5)開発型の証券化への取組み

 

 開発型の証券化を図るためには、プロジェクト・ファイナンスの定着、都市 開発の各段階におけるリスクや問題点等の明確化など解決すべき課題が多いもの の、実現可能性のある仕組みを構築するため、その金融的仕組みや必要な支援策 について検討を進める。

 

 この場合、市街地再開発事業や土地区画整理事業等の法定事業における活用 も視野に入れながら、まず、実現可能性、適用可能性の高いものについての証券 化の適用を検討する。

 

 


 不動産証券化商品に対する投資家のニーズ
 


 

 

 不動産投資市場を整備するに当たっては、市場の整備によって保護される投 資家のニーズに留意する必要があるが、投資家が不動産証券化商品に投資するに 当たり重視する主なポイントは以下のとおりである。

 

○高い流動性が確保されていること。

○投資対象不動産の複数化、多様化によるリスク分散が行なわれていること。

○投資対象不動産について専門家による質の高い管理・運営が行われているこ と。

○投資対象不動産等について十分な情報開示が行われていること。

○キャッシュ・フローが確実に見込まれること。

○リスクの所在が明確になっていること。

○他の証券と比較して不動産投資に対するリスクプレミアムが確保されている などパフォ ーマンスがよいこと。

○投資対象不動産の処分の方針が明確であること。

○投資対象不動産の価格形成が公正に行われていること。

○SPC(特別目的会社)を利用した証券発行の場合、バンクラプシー・リモ ート(親会

 社との倒産隔離)が確保されていること。

○信用補完(第三者による保証、優先・劣後構造等)によって安全性が高まっ ていること。



 

補論2 不動産投資インデックスに対する各方面からの意見について
 


 

 

1.必要性について

 

○厚生年金基金自身のディスクロージャーがアメリカ並みに要求されるように なると、不 動産投資をする際に投資決定を合理的に説明できるものとして、イ ンデックスは是非と も必要。

○アメリカのように長期賃貸借契約が一般的でない日本こそインデックスが必 要。(テナ ントが入れ替わる場合も視野に入れた収益の傾向が分かる。)

○年金の運用方針によっては不動産投資も考えられ、その場合にインデックス は必要。

 

2.内容について

 

○インデックスはいくつかあっていいが、どのように作成しているのか、どの ような特性 を持っているのか明らかにし、投資家が自分の必要とする特性で選 択できるようにすべ き。

○最低限のベースとなる用語の統一をすべき(例:何をもって「利回り」とい うのか)。

○不動産の場合、表示できるリスクには限りがある。価格変動リスクは表示で きる。ただ し、期間の取り方によりリスク・リターンも変化する。

○ベースとなる情報は詳細なほど理想だが、他方で継続的に提供可能なレベル であること が重要。

○指標として活用可能とするためには、不動産ではマーケットエリアの特性が 強く、地域 を細分化していくことが必要。

 

3.作成方法等について

 

○データベースの作成、厳重なデータ管理とデータの客観的な処理が必要であ り、投資家 及びデータ提供者双方からの信頼と継続が重要。

○データの集計等運営のコストがかかる。

 

4.発表頻度について

 

○発表頻度は、不動産の特性からして半年に1度で十分ではないか。特にイン デックス作 成を業としない会社にとっては、コストとの兼ね合いがある。

○年1回では少ない。年4回程度あれば有益。

○今後、不動産証券化商品が広く流通した場合には、そのインデックスも整備 され、もっ と発表頻度も高くなる。


補論3 プロジェクト・ファイナンスについて
 


 

 

 都市開発事業において証券化を活用するためには、直接金融・間接金融を問 わず、プロジェクト・ファイナンス的な手法の普及が重要な鍵であり、プロジェ クト・ファイナンスについての論点は、開発型案件の証券化と共通するものが多 い。プロジェクト・ファイナンスについて、金融機関、不動産事業者等の見解を まとめたところ、次のとおり。

 

1.プロジェクト・ファイナンスの意義

 

○プロジェクト・ファイナンスには、@オフ・バランス、Aプロジェクト・リ スクの明確 化、B大型ファイナンスの組成、C新規事業の機会創出、D資産処 分の新しい受け皿、 E証券化商品組成へのプロセス、といったメリットがある 。

○キャピタル・ゲインからインカム・ゲインへ重心を移す不動産事業の今後の 動向に対応 した資金調達手法である。

○不良債権処理の観点から、プロジェクト・ファイナンスでは、担保等が限定 されている ため、債権確保や損失確定を迅速に行うことができる。

 

2.想定されるプロジェクト・ファイナンスの形態

 

○都市開発事業者が自己の開発リスクやバランスシートの悪化を避けるため開 発主体を別 会社としてオフバランスする場合

○投資用に現地で働きやすい法人を作る場合

○公的プロジェクトを実施するために、国や地方公共団体が中心となって第3 セクターを 作る場合

○開発にかかわる複数の関係者がそれぞれの立場からリスクを分担し合いなが ら事業実施 主体を作る場合

○会社本体の業績が悪く十分な資金調達ができないため、採算の良い特定のプ ロジェクト だけを別会社とする場合

 

3.我が国におけるプロジェクト・ファイナンスの現状と課題

 

(1)プロジェクト・ファイナンスの現状と問題点

 

○我が国では、コーポレート・ファイナンスが基本であり、現状ではその方が 資金調達が 容易かつ有利である。

○オフ・バランスにより金利コストは上昇するが、現在の不動産市場では高ク ーポンを収 益でカバーできるプロジェクトは想定が難しい。

○プロジェクト・ファイナンスの妨げとして、データの蓄積がないこと、長期 的なキャッ シュ・フローの予測を困難にしている取引慣行などが挙げられる。

○一般的に、開発段階におけるリスクは、事業者のエクィティ又はコーポレイ ト・ファイ ナンスで負っている。

○バランスシートを健全化するというオフ・バランスの意義は、昨年来の金融 危機による 企業の資金調達事情の変化(例えば、有利子負債の多い企業の社債 は、市場の流通利回 りが上昇したり、発行そのものができないなど)や金融ビ ックバンを控えて、企業関係 者に十分認識され、プロジェクト・ファイナンス へのニーズは高まっている。

○最近では、会社の経営は厳しいが、プロジェクト自体はいいので、オフ・バ ランスで事 業をやりたいという事業者からの融資申し込みがある一方、会社の 経理状況からみて、 金融機関の側から、プロジェクト・ファイナンスを申し入 れることもある。

○事業者の不十分な情報開示、強制的事業者変更手段の欠如、当事者のリスク 分析能力の 弱さ等が原因となって、金融機関のスタンスは、(必要以上に)リ スク・プレミアムを 求める方向にある。

○現行の法制度がプロジェクト・ファイナンス導入の妨げになっているわけで はない。

 

(2)プロジェクト・ファイナンスの普及についての課題

 

○プロジェクト・ファイナンスが普及しない理由等については様々な場で議論 が出尽くし た感があり、今後いかに実行するかが問題である。

○従来都市開発事業者が行ってきた都市開発事業の内容の分析、コストの妥当 性の判断等 について、金融機関のプロジェクト審査能力の充実や各種機関の審 査能力の活用が必要 である。

○プロジェクト・ファイナンスとコーポレイト・ファイナンスの適切な役割分 担が必要で ある。

 ・リコースとノンリコースを事業の性格やリスクに応じて組み合わせること が重要であ  る。

 ・開発始動期で収支が不確定な段階では、コーポレイト・ファイナンスが現 実的である。

○公的機関の役割が重要である。

 ・公的機関の主導で、リーディング・プロジェクトを実際にやってみること が必要であ  る。

 ・リスクの定量化が難しいため、公的な信用補完が必要である。

 ・公的金融機関による低利融資のノンリコースの実績が積み上がれば、徐々 に民間金融  機関によるノンリコースも行われるようになる。

○技術的な問題として、次のような点が挙げられる。

 ・リスク回避のため、プロジェクト資産やキャッシュ・フローに担保設定す るほか、海  外の事例のように、株主の出資維持、追加借り入れ制限、財務比 率制限、配当制限な  どの条件を課すことが必要である。

 ・都市開発の場合は、賃料等のキャッシュ・フローのみで借入金を償還する のではなく、  資産処分を予定して償還計画を作る場合が多いと考えられるた め、プロジェクト・フ  ァイナンスを行う場合には、出口問題(元本の返済原 資の確保)が重要である。


補論4 開発型不動産の証券化について
 


 

 

1.開発型不動産の証券化の実現可能性

 

 一般的に、不動産の証券化を行い、投資家の投資を得るためには、次の条件 が必要。

○利回り等のもととなるキャッシュ・フローが存在していること

○実績に基づく必要な情報が開示されていること

○デットの場合には格付けがなされていること など

 

 これに対し、開発型不動産の場合には、次のような特徴を有している。

○利回り等のもととなるキャッシュ・フローが存在していないこと

○実績に基づく情報の開示が困難であること

○格付けが困難であること

○開発型事業固有のリスク要因があること

 @収益予測の困難性、A開発期間の変動、B事業費の変動、C投資時期と回 収時期の乖 離、D許認可の取得、E多数当事者間の調整、F対象不動産の不確 定性 など

 

 この結果、開発型不動産の証券化商品は、リスク・プレミアムの極めて大き い商品となってしまい、デベロッパーにとっても、投資家にとっても現実的な実 現可能性は低い。

 

2.開発型不動産の証券化が可能な場合

 

 次のような場合には、開発型不動産の証券化についても実現可能性が出てく る。

○開発に係るリスクが限定された物件である場合(例:物件が極めて優良であ る場合、許 認可やテナントの目処がついている場合など)

○既存稼動物件と新規開発物件を組み合わせるなど商品構成によって開発に係 るリスクを ヘッジできる場合

○一定の信用補完がある場合(公的機関による債務保証がある場合、事業終了 後のリファ イナンスが確約されている場合など)

○リスク・テイクする者を対象とした私募による場合 など



( 別 紙 )

        不動産証券化商品に必要な情報開示項目       


  発行時開示項目へ

  継続時開示項目へ  


 本資料は、不動産証券化商品において公衆縦覧に付すべき情報開示項目につ いて、以下の前提のもとで、典型的なモデルとして必要最小限の項目をとりまと めたものである。

[前提条件]

1.不動産を裏付けとする資産担保証券(ABS)であること

2.エクイティ型であること

3.公募であること

4.対象となる不動産は、典型的な例として稼働中の商業用賃貸ビルとするこ と。   なお、不動産の数は限定しないこととすること

5.法令による規制を前提としたものではなく、例えば自主ルールによる規制 等もあり得  ること

 

 

T 発行時開示項目

   項 目  内 容

発行者に関する事項

[1] 会社名

[2] 代表者

[3] 住所

[4] 業務内容

[5] 主要な経営指標等の推移

[6] 役員名

[7] 会社の沿革

[8] 資本の額

[9] 親会社の概要

[10]財務諸表

[11] 監査の概要


証券に関する事項

[1] 額面及び発行数

[2] 証券の発行による調達総額

[3] 募集の方法

[4] 募集の条件(申込単位、申込証拠金等)

[5] 申込期間及び申込取扱場所

[6] 払込期日及び払込取扱場所

[7] 引受け等の概要

[8] その他の資金調達方法(借入金、社債、CP等)及びその額

[9] 資金使途(不動産の取得については個々の取得(予定)価額又は評価 額(鑑定評
    価の場合は評価時点(価格時点)及び鑑定機関を、鑑定評価でない場 合はその他
   に評価額を併せて)を明らかにすること)


仕組みに関する事項

[1] 基本的仕組み

[2] 期間

[3] 信用補完等

[4] 収益の分配

    @管理・運営費(管理費、公租公課、保険料等)

   A修繕費及び修繕積立金

    B配当(償還)の計算方法(収益金分配の優先順位の明示等)

    C配当(償還)の分配時期

[5] 余裕資金の運用方法

[6] 追加資金が必要になった場合の調達方法

[7] 証券所有者の権利

[8] 証券所有者が負担する税金、利用可能な税制上の優遇措置


不動産物件に関する事項

[1] 不動産物件に関する事項

    @所在

    A土地の表示

    B建物の表示

[2] 登記簿に記載された事項

    @土地

    A建物

[3] その他の事項

[4] 法令に基づく制限の概要

    @都市計画に関する制限

    Aその他の法令に基く制限

[5] 周辺の状況

    @交通アクセス等利便性

    A周辺の公共施設等の位置

    B周辺の類似建物の状況


不動産の収益に関する事項

[1] 対象不動産の稼動状況

   @直近5年間各年の同一時点の稼働率

   A総賃貸可能面積

   B主なテナントの概要(例:全体の総賃料収入の10%以上を占めるテ ナント)

   C直近5年間各年の総賃料収入及び総費用の額

   D収益に影響を与えうる特殊な賃貸契約がある場合にはその内容及び総 賃料収入     に占める割合

   E既に解約通告等があり空室になることが確実な場合にはそれが収益に 与える影響              

   F賃貸契約終了予定時期と終了するテナントの賃料の総賃料収入に占め る割合

   Gその他、敷金、保証金等賃貸契約に関して特記すべき事項

注1: @、A及びCについては、主なビル(例:その総賃料収入が全体の総 賃料収入の10%以上を占めるビル)につ   いてはビル毎に開示することと し、その他のビルについてはまとめて開示することも可

注2: @及びCについては、発行者ないし原資産保有者の所有期間が5年未 満のためにデータの入手が不可能な場合に   は、発行者ないし原資産保有者 の所有期間のみで可

[2] 資産、負債、資本の額(貸借対照表)

[3] 総収入、総支出(損益計算書)

[4] 監査の概要

[5] 運用の概況

[6] 配当(償還)の実績

注: [5]及び[6]については、追加募集の場合に記載


管理・運営に関する事項

[1] 運営管理委託契約

   @運営管理受託会社の名称・所在・業歴

   A運営管理受託会社の財務内容

   B運営管理の概要(責任と権限)

  C運営管理の報酬

[2] [1]の他に、発行者がビルメンテナンス契約等を結んでいる場合に はその契約    内容

[3] 修繕に関する計画がある場合にはその内容

[4] 損害保険の内容

   @保険の種別

   A保険金額

   B保険会社

   C保険料

[5] 今後の管理・運営の方針

[6] 対象不動産の処分に関する決定の仕方

   @売却手続き

   A売却時期



リスク要因に関する事項

[1] 既に明らかな又は想定されるリスク

 例) 利益相反

    更新投資の必要性

    敷金、保証金の取扱い

    火災、大規模災害等への対応


証券事務に関する事項

[1] 証券事務の概要(名義書換えの手続き、譲渡制限がある場合の内容等 )

 

 

U 継続開示項目


項  目    内  容

発行者に関する事項

[1] 会社名

[2] 代表者

[3] 住所

[4] 業務内容

[5] 主要な経営指標等の推移

[6] 役員名

[7] 会社の沿革

[8] 資本の額

[9] 親会社の概要

[10]財務諸表

[11]監査の概要



仕組みに関する事項

[1] 基本的仕組み

[2] 期間

[3] 信用補完等

[4] 収益の分配

    @管理・運営費(管理費、公租公課、保険料等)

    A修繕費及び修繕積立金

    B配当(償還)の計算方法(収益金分配の優先順位の明示等)

    C配当(償還)の分配時期

[5] 余裕資金の運用方法

[6] 追加資金が必要になった場合の調達方法

[7] 証券所有者の権利

[8] 証券所有者が負担する税金、利用可能な税制上の優遇措置



不動産物件に関する事項

[1] 不動産物件に関する事項

    @所在

    A土地の表示

    B建物の表示

[2] 登記簿に記載された事項

    @土地

    A建物

[3] その他の事項

[4] 法令に基づく制限の概要

    @都市計画に関する制限

    Aその他の法令に基づく制限

[5] 周辺の状況

    @交通アクセス等利便性

    A周辺の公共施設等の位置

    B周辺の類似建物の状況



不動産の収益に関する事項

[1] 対象不動産の稼動状況

    @直近5年間各年の同一時点の稼働率

    A総賃貸可能面積

    B主なテナントの概要(例:全体の総賃料収入の10%以上を占める テナント

    C直近5年間各年の総賃料収入及び総費用の額

    D収益に影響を与えうる特殊な賃貸契約がある場合にはその内容及び 総賃料収入
     に占める割合

    E既に解約通告等があり空室になることが確実な場合にはそれが収益 に与える影
     響

    F賃貸契約終了予定時期と終了するテナントの賃料の総賃料収入に占 める割合

    Gその他、敷金、保証金等賃貸契約に関して特記すべき事項

    注1: @、A及びCについては、主なビル(例:その総賃料収入が 全体の総賃
       料収入の10%以上を占めるビル)についてはビル毎に開示す ることとし、
       その他のビルについてはまとめて開示することも可

    注2: @及びCについては、発行者ないし原資産保有者の所有期間 が5年未満
       のためにデータの入手が不可能な場合には、発行者ないし原資 産保有者の
       所有期間のみで可

[2] 資産、負債、資本の額(貸借対照表)

[3] 総収入、総支出(損益計算書)

[4] 監査の概要

[5] 運用の概況

[6] 配当(償還)の実績



管理・運営に関する事項

[1] 運営管理委託契約

  @運営管理受託会社の名称・所在・業歴

  A運営管理受託会社の財務内容

  B運営管理の概要(責任と権限)

  C運営管理の報酬

[2] [1]の他に、発行者がビルメンテナンス契約等を結んでいる場合に はその契約    内容

[3] 修繕に関する計画がある場合にはその内容

[4] 損害保険の内容

  @保険の種別

  A保険金額

  B保険会社

  C保険料

[5] 今後の管理・運営の方針

[6] 対象不動産の処分に関する決定の仕方

  @売却手続き

  A売却時期



リスク要因に関する事項

[1] 既に明らかな又は想定されるリスク

   例) 利益相反

     更新投資の必要性

     敷金、保証金の取扱い

     火災、大規模災害等への対応


証券事務に関する事項

[1] 証券事務の概要(名義書換えの手続、譲渡制限がある場合の内容等)