地方における民間活力活用の推進方策について

 

                                                                   民間活力活用推進懇談会報告

                           (いわゆる金丸懇談会報告)

                             昭和61年12月10日

 

 

1 地方民活に関する基本的考え方

 

(1)地方民活の意義

@ 民間活力の活用は,大都市地域のみでなく地方においてもできる限り推進されるべき である。それは,経済全体の視点から内需の振興を図るための有効な方策であることは いうまでもないが,個々の地域にとっては内需振興のためというよりは,むしろ地域経 済の活性化,地域発展の有力な手段としての意義が大きい。確かに,地方においては, 民間活力を導入し得る分野は限られており,その基盤も弱い。地域振興のためには,公 共事業や財政を通ずる所得の再分配といったいわぱ官活を求める声も多い。しかし,財 政に多くを期待し得ない現在においては,それを補完するとともに,地域における民間 の活力を十全に発揮させることが極めて重要である。

A 我が国の国際化,情報化等の急速な進展に伴い,最近,大都市地域特に東京圏への人 ロ,諸機能の集中化傾向が再び顕著となっていろ。このようなー点集中化傾向を是正し, 21世紀へ向けての国土の均衡ある発展を図っていくためには,地方中枢都市から農山 漁村地域に至るまで,それそれの地域がその特性を生かして活性化するとともに,地域 の核としての機能の配置を含め,適切な機能分担を行う多極分散型の国土を形成してい くことが要請されている。民間活力の活用は,こうした国土整備にも資するものでなけ ればならない。

B 円高の急速な進展等により深刻な影響を受けている地域において産業構造調整を円滑 に進め,産業及び地域の活性化を図っていくことは,当面の緊急の課題とたっており, このため各般の施策を重点的に進める必要があるが,その実効性を確保するためにも, 当該地域における民間活力の活用に期待されるところは大きい。

C 一般に民間活力活用の形態としては,公共事業ないし公共的事業への民間資金,経営 ノウハウ等の導入、公共事業やその他の施設整備に併せた計画的な民間投資の促進、規 制緩和による民間企業等の活動の活発化等がある。

  地方民活について考えると,公共的事業への民間活力の導入は,施設の利用効率や他 地域との競合性から,大都市地域に比較して採算にのりにくい場合が多いといわれてい る。これに対して,計画的な地域整備に併せた民間投資の促進は,都市開発や新しい産 業の導入など,これまでも地域開発の有力な手段として進められてきており、さらに未 利用資源の活用や先端技術の導入による新しい産業の起業化などは,地方において期待 され得る分野である。規制緩和による民間活動の活発化は,地方中枢都市等では大都市 地域と同様の状況が考えられろ。さらに,地方においては,民間投資という点では必ず しも大きくないものの,地域経済の活性化に大きな影響をもたらす地域特産品の生産や イベント事業も,民活のー形態と考えてよいであろう。また,例えば森林ストックの充 実に民間の資金を活用することも,今後一層重要になろう。このように考えると,今日 地方民活と呼べる分野は,決して少ないわけではない。

 

(2) 地方民活の推進に際して配慮すべき事項

@ 上述のように,地方民活は地域の開発,整備の有力なー手段となり得るものである。 したがって,地方民活を進める際には,先ず地域全体の長期的な開発整備構想と整合性 を確保することが極めて重要である。この観点から,地方自治体の主導性なくしては民 活の推進はあり得ないといえる。

A また,地方民活は地域経済社会の発展に資するものでなければならない。プロジェク ト等の実施が,できる限り地元住民の雇用機会の拡大に結びつくようにするのはもとよ りのこと,地域産業の市場の拡大,生産効率の上昇,さらには生活環境の向上,文化の 振興等をもたらすよう,さまざまな配慮が必要である。特に,投資が行われる際に極力 地元資本が活用されることが望ましく,さらに広い意味では地方で行われた貯蓄が地方 で投資され,生活環境の整備や地域発展に精ぴつくようにすることを検討していくこと も必要であろう。

B 地方民活は,大都市と比較して採算性等の面で不利な場合が多いので,広義のインセ ンティブの付与等官側の条件整備の下に,民側の活力をうまく引き出すといった両者の 緊密な連携が不可欠である。地方公共団体の主導の下で,地域住民や企業が自ら発想し, 工夫し,行動する中で,よりよい地域づくりのために,官民一体となって推進していく ことが,民活プロジェクトを成功に導く鍵となる。地域の特性に応じた民活をどのよう に進めていくか,これこそ官民一体となった地元の主体性によるのである。国の施策  としては,地方においても民活が進みうるー般的な条件の整備を行うとともに,各地域 が主体的に進める民活を側面から支援することでなければならない。

C 民活プロジェクトを地方において進める場合,環境破壊や土地利用秩序の破壊をもた らすおそれなしとしない。地域の経済社会環境や自然環境との関係に留意し,地域秩序 と調和のとれた形で進める必要があることはいうまでもない。また,地方においても民 活の推進が地価の高騰をもたらすことのないよう十分に配慮する必要がある。

 

2 地方民活の主要分野

 

 上述のように,地方民活は各地域が主体的に取り組み,その推進を図っていくべきものであるが,その主要分野としては次のようなものが考えられる。

 

(1)地方都市における再開発等の推進

 地方都市の活力の充実,ゆとりとうるおいのある住民生活の実現のために・地方都市の機能を地域の特性に応じ,適切に誘導,育成していくことが求められている。

 地方中枢・中核都市に.おいては,大都市のもつ高次の都市機能の分担、代替を図るとともに,園域内の拠点としての機能を果たしていく必要があり,また,地方中心・中小都市においては,それそれの定住圏レベルでの住民の生活・生産活動の中心としての都市機能の育成が求められている。この上うな要請に的確に対応していくためには,地域産業の振興,情報化の推進等と並んで,新しい都市拠点の整備,市街地の再開発,港湾等の再開発筈を,民間活力を最大限に活用しつつ,推進していく必要がある。なお,大都市圏の周辺都市は,過密地域に集中しがらな諸機能や人口の移転,分散の受け皿地域として,民間活力も活用しつつ整備を進めていくべきであろう。

 多極分散型の国土形成をめざす中で,地域間交流が活発化する今後においては,基幹的な交通インフラの果たす役割は極めて大きい。そのような交通インフラは,基本的には公共事業として行われるものであるが,それを補完するものとしての新交通システムの整備,コミューター航空輸送等は、民活推進の基盤の一分をなすものであろう。

 

@ 地方中枢都市等における国際交流拠点,情報・通信拠点等の整備

  地方中枢都市等においては,大都市に次いで都市整備の面で民間活力の活用が図られ 易い環境にあり,特に地方における国際交流拠点,情報・通信拠点,研究開発拠点等を 形成する観点から,国際会議場,見本市会場,情報・通信センター,研究セソクー等の 整備が期待されている。しかし,こうした拠点的な施設は,一全国的な都市機能の配置 との関係において急速な需要の伸びを見込めないこともあり,したがって,事業の採算 性,効率性等の観点から十分なチニリクを行い過剰投資にならないように努めるととも に,事業の初期段階における利用の効率性に配慮した官民の役割分担(例えば,国際会 議の誘致,イベントの開催等についての公共団体の主導的な役割,事業の採算がとれる までの間における特別の助成措置などを適切に行う必要がある。

A 市街地の再開発,商店街活性化等の推進

 ア 地方都市の中には,中心部に工場・鉄道施設跡地等相当程度まとまりのある空閑地  が生じ,中心市街地の再開発をすすめるうえでその活用が期待されているところが少  なくない。

   これらの空閑地は,駅周辺等利便性の高い地区に存在し,空閑地の特性から計画の  自由度が高く,民間活力を活用した再開発の素材となり得るものである。こうした地  域については,必要に応じ,用途地域,容積率等の変更,特定街区の決定等,都市計  画上の手法を適切に組み合わせつつ,民間の創意を活かして再開発を実施し得るもの  であり,そのための手法を検討する必要がある。なお.国鉄施設跡地を活用する場合  にあっては,プロジェクトの具体的計画について,その策定段階で国鉄改革の方針及  び国鉄清算事業団の用地の処分計画と十分調整を図る必要がある。

 イ 従来地域の拠点であった路線型商店街等は,街路等の都市施設の整備が遅れており,  近年その衰退が著しいところも多くみられるが,地方都市活性化の観点からその再生  は緊急の課題となっている。

   これに的確に応えていくためには,地元公共団体が商店街と十分な連携の下にマス  タープランを作成し,これに基づいて,各種再開発事業を組み合わせて商店街を中心  に新しい街づくりを進める必要があり,そうした事業を多数の権利者のニーズにきめ  細かに対応しながら推進し得る手法を整備していく必要がある。

 ウ 上述のような再開発事業は,その対象が権利関係の錯綜した既成市街地であり,地  元公共団体等も事業経験に乏しい場合も多いことから,再開発プロジェクトの開発企  画等を支援するための仕組みについても検討する必要がある。この場合において,何  らかの形でプロジェクトの開発企画等に要する初動資金に対する支援を行うこともプ  ロジェクトの具体化を進めるうえで重要なことである。

 

B港湾等の再開発

 多様化し高度化する港湾への要請に応えるとともに,臨海部の活性化を図るためには,港湾をはじめとする臨海部の再開発や人工島の建設を積極的に行い,港湾業務用ビル,旅客ターミナル施設,商業・業務施設,情報・通信施設,生活・文化・交流施設等を複合的に整備することにより,臨海部における地域の拠点づくりを推進する必要がある。

 この場合,港湾整備事業,街路事業,埋立事業等との連携に十分配慮するとともに,再開発や人工島の建設を計画的に推進するため,地域の実情に応じ,民間活力の活用による事業方式等について検討する必要がある。

 

(2) 新しい地域産業の振興,技術開発の推進

 地域の活性化のために産業の果たす役割は大きい。産業活動は本来民間によって行われ,技術開発もそうした面が強いが,計画的な地域整備や新技術の導入,開発が新しい地域産業の発展の基盤となり,また,官民連携によるいわゆる産業おこしが地域の活性化に大きな役割を果たすことも少なくない。このような,行政の積極的な支援,誘導により,民間活力を引き出していくことが必要である。

 その方向としては,まず,工業の集積が相当程度ある地方都市においては,先端技術産業の誘致,既存産業の技術水準の向上,ベンチャービジネスの育成が特に重要である。また,基幹的な交通インフラの整備,例えば空港の新設等により開発ポテンシャルが急上昇する地域については,それを開発の起爆剤として積極的に活用することも必要であろう。不況地域等活力の低下が懸念されている地域については,広く地域整備とも関連しつつ,新しい産業への円滑な転換を図っていく必要があろう。一方,工業の集積が乏しい小都市や農山漁村地域においては,特産品の生産や地場資源を活用した地域産業おこしが基本となろう。

 @ 地場資源の活用等による地域産業おこし

   未利用資源等広く地場資源を活用した地域産業おこしを進めるためには,行政がそ  の起業化について主導的な役割を果たすことが必要な場合が多い。プロジェクトを進  める中核となる人材の確保を図る他,公設試験研究機関,大学,民間企業等の連携に  より,技術の開発・導入等を円滑に行うことが肝要であろう。

 A 地域特産品生産の振興

   いわゆるー村一品運動は,地域活性化の核として,広い市場を前提に地域の新しい  特産品の生産を進め,またその高付加価値化を図るものである。その振興のためには,  地域住民の熱意の盛上りが特に重要であり,この点についての行政の役割は無視でき  ない。民側の自らの努力や自立の精神が基本になろうが,官側としても,必要に応じ  加工施設等の整備,新しい市場ニーズの発掘,流通システムづくり等による市場開拓  等の面で支援していくことが期待される。

 B 新技術の開発,導入,技術交流の促進

   技術革新の進展に伴い,技術開発の重要性が高まっているが,技術力の集積の不足  等により民間企業のみでは必ずしも十分な成果を期待し難い地方都市においては,行  政が呼び水的インセンティブを与えたり,オルガナイザー機能を発揮することにより,  民間活力を引き出す必要がある。開放型試験研究施設,研究開発型企業育成支援施設  等の整備,産学官の連携の強化,異業種技術交流の促進等を図ることが有用であろう。

 

(3)情報化の推進

 大都市との情報格差の解消や地域間交流の促進,都市機能の高度化,地域文化の振興等のために,情報・通信基盤の果たす役割は大きい。新しい通信のネットワークや情報システムの構築・それらのサービスの提供等は,基本的には民間部門で行われるものであるが,地域によっては,

 

莫大な初期投資に比し当面十分な需要が見込めないこと,また,社会サービスとして地域住民等への情報提供が期待されていること,根幹的な情報・通信施設を地域整備のー環として進めるのが効果的であることなどから,地域の総合的な情報化ビジョンに基づき,官民の十分な連携の下に進めなければならない場合も少なくない。

 地方の情報化の推進のためには,民間活力を活用して,ビデオテックス,VAN,都市型CATVや地域データーベース等各種情報・通信システムの構築,普及を図る必要があり,それを効果的に行うためには,情報化モデル地域等においてまず重点的に進め,その成果を頃次他の地域に波及させていくことが有用である。さらにパソコンを利用した通信の普及を図ることも必要であろう。また,これらのシステムの構築,普及は、地域のニーズに即応して進めることが肝要であり,そのため,新しい産業の導入や街づくり等と有機的連携を図りながら進める必要があり,これらの情報化に併せ,高度な情報・通信機能を備えた建築物の建設を進める必要がある。このような情報化が真に地域に根付くためには,地域住民がこのようなシステムに慣れ親しむこと,専門的な人材を育成,確保すること等が特に重要であり,そのための展示・研修・共同利用施設の整備,運営等に民間活力を導入することも有用であろう。

 

(4)リゾート開発の推進

 余暇時間の増大,国民意識の変化等に伴い,国民の余暇活動に対するニーズは量的に増大するとともに,質的にも自然とのふれあい,健康の維持・増進,文化活動,地域・世代を超えた人々の交流等創造的なものへと大きく変化するものと見込まれている。また,余暇活動は,日常生活の領域で増大するとともに,休暇の長期化等を背景に広域的な領域へと広がっていくと考えられる。

 こうした状況に対応して,海洋,山岳,森林,湖沼等地域の優れた自然資源,街並もや農村景観,郷土色溢れる生活,文化等の歴史的・文化的資源等を活かしつつ,民間活力を活用して,広く国民が利用できるリゾートを開発していくことが強く求められている。

 国,地方公共団体は,従来から,各種の公的レクリェーショソ地区整備を図るとともに,民間事業者の行うリゾード開発に関しても自然保護等の観点から規制を行うー方,用地の確保,道路等の基盤施設の整備を行うなどにより,これを支援してきた。今後は,地域の特性を活かした個性ある多様なりゾート,とりわけ,これまで我が国であまり整備のきれていない長期滞在,あるいは複合的な目的に応じられるリゾートの開発や,地域の自然的・文化的条件等を活かした日常的にも利用しやすい余暇施設の整備なとが求められている。また,こうしたリゾートを全国的に結び合わせるネットワークの形成,さらに,それを国際的に拡大していくといったことも,今後考えてよいであろう。

 民間活力の活用によりこのようなりゾート開発を進めていくには,地域整備の統一的理念の下に,官民の役割分担を適切に行う必要があり,官側としては,総合的な計画ないしガイドラインの作成,道路その他の関連公共施設の整備はもとより,国有林をはじめとする国公有地の利活用や規制の見直し等を図り,さらに海洋性リゾートの場合には,港湾のもつ他の機能や漁港の機能との調整を図ることが期待される。

 このようなりゾートが真に魅力あるものとなるためには,自然環境たけでなく,地域住民とのふれあいが大事であり,その意味で計画から運営までの各段階における住民の積極的支持,協力が不可欠である。また,地域経済に及はす影響という点では,地元産業の活性化,地元住民の雇用の確保等にできる限り結びつくように配慮する必要があろう。

 なお,地域住民とのふれあいは,リゾートにおいてのみ行われるものではない。都市居住者のふるさと志向を満たすためにも,過疎地の家屋等を取得しやすくするよう不動産情報の提供体制を整備するといったことも有用であろう。

 

(5)農村集落の整備等

 農村地域の集落の多くは,生産の停滞傾向がみられる中で,高齢化,過疎化がー層進んでおり,また,都市と農村の接点ともいうべき都市近郊の集落では急速に混住化が進み,適切な土地利用が図られず,都市的な面でも農業的な面でも整備が遅れがちとなっている。また,国土の大半を占める森林について,山村の過疎化等から必要な手入れが行われず,荒廃する傾向がみられる。このため,国土保全等の観点からも,その整備を行い森林ストックの充実を図っていく必要がある。

 @ 集落の整備

   集落の状況に応じつつ,特に都市近郊部において,土地利用の整序を積極的に図り,  必要な公共投資に加え,民間活力も活用しつつ集落の整備を推進する必要がある。こ  のため,地方公共団体が地権者の協力を得つつ計画的に土地利用を調整し,具体化し  ていく仕組みを検討する必要がある。また,集落の景観の保持を図りつつ,生産基盤  と生活環境との調和のとれた整備を進めるとともに,これらの地域の維持・振興を図  るうえで必要となる施設や住宅の用地需要を充足するための措置を講ずることが必要  である。

 A 民間資金の導入による森林ストフクの充実

   森林ストックの充実を,これまでのように所有者や行政の力のみで行っていくこと  が次第に困発となっているので,国民共通の財産として広く国民的支援を求める観点  から,分収育林制度の活用等により,森林の整備に民間資金を円滑に導入していく方  策をさらに進める必要がある。

 

(6)その他の分野

  以上の他,各地域の特性やニースに応じ,様々な分野で民活が考えられる。

 @ イベントによる地域の活性化

   地域で行われるイベントは,歴史的な行事ないし地域住民の親睦等のために行われ  るものもあるが,近年地域整備や街づくりのー環として,他地域からの多数の観衆や  参加者を得て開かれるものが多くなっている。このように,地域の経済的・社会的・  文化的基盤整備と連動して行われるイベントや反復して行われ地域のアイデンティテ  ィーを高めるイベント等は民間の参加が不可欠であり,一般にその地域に大きな経済  的波及効果をもたらすなと,地域振興の面で重要な政策的意義を持つと考えられる。

   このようなイベント事業には,地域全体の民間の活力を最大限に引き出し結集する  必要があり,その成否の鏡は,オリジナリティーに富んだコンセプトの構築とそれを  推進する人材の確保にあるといえる。地方自治体を中心に地元の衆知を結集すること  はもとより,必要に応じ民間の専門家,国やこの方面で経験豊かな自治体等の知見と  ノウハウを活用することが肝要である。

   また,地方自治体としては,イベントの成功に必要な交通アクセス等の基盤整備や  イベントを契機とした各般の経済・社会・文化基盤の整備充実を図るとともに,イベ  ント終了後にも各種の施設が有効に活用されるような社会資本整備の工夫も必要であ  る。

 A 民活に上る福祉の充実,文化の振興

   福祉,文化等,従来主として非採算の公共的事業として行われてきた分野において  も,近年民間活力の活用がー部進みつつある。これらは本来地域を問わないものであ  るが,地域の環境や特性を活かし,また特色ある地域イメージづくりや高度の地域性  の涵養を図る見地から,地方での推進が期待され得るものである。

   具体的には,福祉の分野では,有料老人ホームが既に民間により建設・運営されて  いるが,特別養護老人ホーム,福祉作業所等についても民間活力導入の万策を検討す  べきであろう。さらに,本格的な高齢化社会の到来に備え,老人が生きがいをもって  生活できるようにするためのシルバーコミユニティといったものを,都市整備のー環  として整備していくことも重要であろう。文化の分野においては,地域の特性を活か  した個性的な博物館,美術館や劇場等は,イベント事業と組み合わせる等により,採  算可能になる場合もあるとみられる。

   なお,これらの施設の建設や運営に個人篤志家の所有する文化財や土地建物等の資  産を充てている場合が少なくない。こうした個人の自発的な意思に基づく行為は,教  育やスポーツの振興,さらにはイベント,産業おこしといった面にも考えられないわ  けではない。かけがえのない地域,他に誇れるふるさとづくりなとが円滑に実現され  るような環境づくりも必要であろう。

 

(参考)

i)地方民活の主要分野のうち,地方都市の開発及び地域産業の振興に関連して,次のよ うな意見もあった。

 ○ 大規模な国際空港に隣接する地域について計画的な都市整備を行い,臨空港産業や  地場産業の振興,研究施設の整備等を民間活力を活用しつつ推進する必要がある。

ii)地方の中小都市や農村地域における地域整積について,次のような意見があった。

 ○ これらの地域について,域内道路,下水道等の生活環境施設等の整備を図り,全体 として余裕があり,情報化にも対応できるような街づくりを地域の民間資金等を活用し つつ進める方策について検討すべきである。

 

3 地方民活を推進するための措置等

 

(1)事業推進のための体制の整備等

 地方においては,大都市の場合と異なり,民活ブロジェクトが自然発生的に提起されることは少なく,したかってプロジェクトの開発企画を積極的に行い,関係者の合意形成を図っていく必要がある。そのためには,以下のような点が重要である。

 @ 地元の地方公共団体が主導的な役割を果たすことはもとよりであるが,地域の経済  連合会や商工会議所,農業協同組合等の経済団体,さらには政府系金融窟関,地元民  間金融機関,電力会社等の公益企業等が中立的立場でその推進役を担うことが期待さ  れる。

 A 各種の機関や団体が参加して,特定のプロジェクトに関する研究会等がつくられれ  ば,一般の関心も高まる。地方公共団体や地域の経済団体等が中心となって進める等  により,地元の熱意が盛り上るときは,具体化の大きな推進力となり,また,実施後  の地域経済への影響も大きくなるものと期待される。

 B ブロジェクトによっては,地方公共団体の内部において検討を進めなければならな  い場合もあろうが,そうした場合でも,その初期段階で構想を公開することなどによ  り,できる限り民間の創意,工夫が反映されるようにすべきであろう。

 C 地方の中小都市等で開発・企画力が弱い場合あるいは他の地域における同種の経験  を利用し得ない分野については,国の積極的な相談・支援体制の整備が必要である。  このための方策として,各省庁に統一的な相談窓口を設置するとか,現地に長期間滞  在し多角的に調査・検討するための専門家集団によるアドバイザリー.グループ制度  等も検討に値しよう。さらに,全国的な経済団体等において,分野別に専門家を用意  し,各地域に要請に応じて支援し得る体制の整備も検討する必要がある。また,今後  各地で民活プロジェクトが進展する中で,その成功例について分野別に整理し,関係  者に情報として提供することも考えられる。

 D 地域内における各種民活プロジェクトの推進母体として,地方自治体や国の出先機  関,各種の民間団体や金融機関等が参加した推進協議会を設け,プロジェクトの開発  ・企画から起案化に至るまでの事業推進上必要な事項について検討・調整し,また必  要に応じ融資の斡旋等を行うことも有用であろう。国の側においても,関係省庁がそ  れぞれの役割分担に応じて一体となって総合的に推進する体制を整備することはもと  より,地元の盛り上がりにより提起されたプロジェクトを受けとめて,その具体化の  ための必要な支援を行う機構等の整備も検討すべきである。

(2) 地域リーダー等の確保,育成

 上述のような体制整備を行うにしても,実質的にそのりーダーとなる優れた人材を確保・育成することが重要である。こうしたりーダーの確保・育成は,意図的に行い難い面もあり,また,民間のコンサルタントを活用することも考えられるが,リーダーの確保については次のような方策も有用であろう。

 @ 地方公共団体の職員等を予め他の類似プロジェクトに参加させる等により養成する。

 A 地元出身の大都市在住者のうちUターン可能者等を積極的に活用する。こうした外  からの地域リーダーは,一般的なニーズの動向等について情報を有し,また,地域の  特性についても比較的客観的に判断し得るなどの利点があるとみられろ。

 B 同種のプロジェクトを企画実施している地方公共団体相互に十分な連携をとり,共  同で地域リーダーの養成を図る。このような情報交換は,それ自体プロジェクトの推  進に有用である。また,類似プロジェクトの経験が豊富な地方公共団体から職員の派  遣を仰いだり,民間からー時出向の形で人材を受け入れたりすることも実践的な方法  であろう。

 C 国の側においても,各種研修機関の活用や各省庁横断的な研修会の開催等により地  域リ一ダーの養成に努めるとともに,全国的な経済団体等においても,地域の情報交  換や研修の場を積極的に設けることも必要である。また,国が民活に関する具体的構  想をすすめる過程で,人材養成に意を用い,構想推進のー環として支援していくこと  も実践的な方法である。

(3)国及び地方公共団体等の支援措置

 一般に地方民活の事業は,大都市地域のそれと比較して収益性や安定性に不安が多いといわれる。市場へのアクセスや情報の取得等の面で相対的に不利な条件がある地方において,民活事業が成り立つ上うにすることは,容易ではない。したがって,全国を日帰り交通圏とするための交通ネットワークの整備や高度な情報・通信体系の全国展開等により開発可能性を全国に拡大し,各地域の整備を進めていくことが民間活力の活用の面からも緊急の課題である。こうした努力は今後行われるにしても,未利用の資源を活用し,地域の活力を醸成し,生活環境,自然環境の増進,保全等にも資するように民間活力を適切に引き出し,誘導するための支援措置は必要であろう。その主なものは,次のとおりである。

 @ 地方の民活プロジェクトを起業化に踏み切らせるためには,必要に応じ事業主体の  設立,資金調達,用地取得,施設の運営等各般にわたって公的な支援措置が確保され,  官民一体となって推進するという体制づくりが重要である。

   事業主体については,その方式・規模等について必要な助言・指導を行う他,設立  を容易にするための措置や経営の安定化を図るための措置が必要である。

   資金調達面では,公的資金と民間資金とを複合的に活用すべきであるが,長期的に  安定的な資金供給を図るための施策の充実についても検討されるべきであらう。

   用地取得面については,場合によっては地元公共団体等が必要な用地を確保し,企  業等の進出が容易になるような手当てが必要であらう。

   施設の運営面についても,初期段階における利用効率を高めるため,官民一体とた  った創意・工夫が必要になる。

 A 社会資本ストックの脆弱な地方都市等において,地方民活を推進するためには,そ  の前提として交通インフラ等の基盤施設の整備が不可欠な場合が多いが,限りある投  資財源の有効活用のうえからも,関係行政機関の十分な調整の下で重点的に公共投資  を行う必要がある。この場合において,公共事業費の優先確保とか地方債のー層の適  切な運用等かたされるべきである。

 B 地方民活を機動的に推進するためには,地方公共団体の窓口をー本化し,関係部局  の調整や諸手続きを迅速に処理することのほか,大型プロジェクト等については,国  の関係行政機関と関係地方公共団体との間で意思疎通を円滑にするための協議会等の  設置も有効であろう。

 

(参考)

i)地方民活の推進に際しての地方公共団体の役割については,民間が活動しやすい環境 整備に責任を持つ程度にとどめ,あまりその主導性を強調すべきでないとの意見もあっ た。

ii)民活プロジェクトの開発企画等を行うに際しては,民間のコンサルタントの役割が重 要であり,そのようなコンサルタントの育成を特に重視すべきであるとの意見があった。

iii)地方民活の推進のための措置について,次のような意見もあった。

 ○ 地方民活をより効果的に推進するためには,国の権限の地方への委譲,中央・地方  の財源配分の見直し等思い切った措置を講ずべきである。

 ○ 地方で民間活力を活用するためには,プロジェクトの採算性の確保を図ることが特  に重要であり,このため資金コストの低廉化を図るための利子補給制度の創設,税制  上の恩典を伴った債券の発行,公共団体等による用地の低廉な価格に上る譲渡又は無  償貸与,用地取得を容易にする税制上の措置等を検討すべきである。

iv)逆に,税制上の措置については,現在,税制の抜本的改革が論議されている段階であ り,地方民活を推進するためといえども,あまり具体的に触れるべきでないとの意見も あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     民間活力活用推進懇談会(金丸懇談会)の概要

 

 

 民間活力活用方策を検討するため、金丸副総理の私的懇談会として設置。

 座長は斎藤英四節経団連会長。経済界、学界、言論界、地方公共団体の代表等20名

で構成。

 事務局は、内閣官房特命事項担当室。

 オブザーバー管庁は、経企、国土、大蔵、農水、通産、蓬叢、郵政、建設、自治の

9省庁。

 現在までの懇談会の開催状況は次の通り。

 第1回 61.9.3 民間活力活用施策推進に際しての基本的視点について討議

 第2回 61.10.9           〃

          会議後「民間活力活用施策推進に際しての基本的視点について」

          発表

 第3回 61.10.22

          大都市圏中心部の臨海部筈の再開発のための民間活力活用万策につ          いて討議

 第4回 61.11.6

          会議後「大都市圏中心部の脂海部等の再開発のための民間活力

          活用方策について」発表

 第5回 61.11.27

          地方における民間活力活用の推進方策について討議

 第6回 61.12.10

          会議後「地方における民間活力活用の推進万策について」発表

 

 今後は、62年3月末までに、数回、懇談会を開催し、

  ・土地信託制度等の利用による国公有地筆の有効活用方策

   その他民間活力を活用すべき分野の問題

等について検討を行う見込み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         民間活力活用推進懇談会

 

 

                                五十音順 敬称略
























 

  氏  名

        現      職

  石川 六郎  石原 舜介  伊藤 滋  伊夫技 一雄  上山 善紀  江戸 英雄  川越 昭  公文 俊平  黒川 紀章  河野 正三  河野 光雄  斎藤 実四都  下河辺 淳  鈴木 俊一  竹内 良夫  土屋 佳照  戸谷 松司  中田 乙一  松本 作衛  吉瀬 維哉
 

日本建設業団体連合会会長、株式会社鹿島建設会長 東京理科大学教授 東京大学教授 株式会社三菱銀行頭取 株式会社近畿日本鉄道社長 不動産協会理事長、株式会社三井不動産会長 日本放送協会解説委員 東京大学教授 株式会社黒川紀章建築・都市設計事務所社長 住宅金融公庫総裁 株式会社読売新聞論説副委員長 経済団体連合会会長、株式会社新日本製鉄会長 総合研究開発機構理事長 全国知事会会長、東京都知事 関西国際空港株式会社社長 自治総合センター理事長  姫路市長 株式会社三菱地所相談役 農林漁業金融公庫総哉 日本開発銀行総裁