都市開発の推進と不動産の証券化

     都市開発事業の動向に対応した新たな

     ファイナンス・システムの提案

 

 

     都市開発における不動産の証券化に関する研究会報告

                    平成3年4月11日

 


             目次

はじめに

 1.研究会の考え方

 2.研究の経緯

第1章 我が国における都市開発事業の動向と不動産の証券化

  1.我が国の都市開発事業の現状と資金調達

 (1)我が国の都市開発事業

 (2)都市開発事業における資金調達の現況

  2.都市開発事業の新たな展開

 (1)事業規模の巨大化と事業の長期化

 (2)特別目的会社による都市開発プロジェクトの展開

 (3)開発に関わる事業手法の変化

  3.都市開発事業における不動産の証券化

第2章 不動産の証券化の活用方策

  1.デット型形態

  2.エクイティ形態

 (1)不動産小口化商品

 (2)土地信託方式

 (3)不動産投資信託

 (4)都市開発事業組合制度

  3.ハイブリッド形態

第3章 今後の検討に当たっての課題

 (1)優良な都市開発事業への資金誘導

 (2)開発段階からの証券化

 (3)情報の開示と情報サービスの充実

 (4)地価との関係



はじめに

 

1.研究会の考え方

 従来より、魅力ある都市づくりの分野においては民間の能力に期

待する部分が多く、近時においても予断を許さない財政事情の影響

もあり、都市開発における民間部門に対する期待は大きい。このた

め、規制緩和や都市開発プロジェクトに対する多面的な助成により

民間能力を効果的に都市開発の分野へと誘導していくことが重要な

課題となっている。

 そのような状況の中で、官民を問わず各界において、民間の優れ

たノウハウ、資金力を十分に活用した都市開発の推進、土地問題へ

の対応等の観点から不動産の証券化に関する研究・議論が行われて

いる。「都市開発における不動産の証券化に関する研究会」(以下、

「本研究会」という。)は、昭和63年10月以来、各界の関係者

を幅広く結集し、不動産の証券化に関する海外の事情、不動産の証

券化の我が国における有効性等について研究を続けてきたが、今回

その成果を取りまとめたのでここに報告する。引き続き具体的な研

究を要する点も数多く残されているが、今後とも各界において更な

る研究を進めることによって、優良な都市開発事業の推進に資する

ファイナンス・システムが実現されることを期待するものである。

 

 

2.研究の経緯

 本研究会は、学識経験者、関係する民間企業、政策金融機関、関

係公団、建設省関係各課などのメンバーによって構成されたもので

あり、小委員会、第一・第二・第三分科会などの場において、この

2年余りの間に我が国の都市開発事業の現状と課題、我が国或いは

欧米における不動産の証券化の実態、資金調達手法の諸問題等につ

いて調査・研究を進めてきた。

 不動産の証券化が進んでいる米国については、その制度と活用実

態あるいは我が国が不動産の証券化を導入するに際してどのような

ことを検討すべきか等について調査するために、平成元年6月に訪

米調査図を派遣し8月にはその報告書をまとめている。調査団は、

デベロッパー会社、投資銀行、法律事務所、政府関係機関等を訪問

し、米国の都市開発の現状、法律・税制面の問題、不動産の証券化

に果たす政府関係機関の役割、投資家保護に関する問題について調

査を行った。

 平成元年11月にまとめられた中間報告においては、不動産の証券

化に関する論点を整理するとともに、それぞれの論点に関する基本

的な考え方をとりまとめている。中間報告では都市開発のための新

しいファイナンス手法として不動産の証券化は有意義なものであり、

積極的にその活用方策を検討していかなくてはならないとしており、

本研究会において引き続き所要の検討を行っていくこととされた。

 その後、不動産の証券化を活用して優良な都市開発事業を推進す

る観点から、官民双方の郁市開発事業担当者に対するヒアリング等

を実施し、郡市開発事業における事業遂行上の問題点等の検討、

ファィナンスに関する事業者のニーズ調査、事業手法の調査等を重

点的に行い、今回ここに報告書を作成するに至ったものである。

 

 

 

  第1章 我が国における都市開発事業の動向と不動産の証券化

 

 

1.我が国の都市開発事業の現状と資金調達

(1)我が国の都市開発事業

 「都市開発事業」とは、都市居住者やそこで働く人々にとって良

好な都市環境の形成や、居住機能・業務機能・レクリエーション機

能といった都市機能の維持・増進に寄与する都市の開発整備に関す

る事業のことを意味し、その中には、業務施設、商業施設、文化教

養施設等の施設の整備を含んでいる。このような事業は、国や地方

公共団体等が行う公共事業や住宅の供給とともに都市における経済

活動や生活の基盤になるストック形成を担っており、豊かな国民生

活を実現するうえで重要な役割を果たすことが期待されている。さ

らに、近年における産業構造の変化、情報化・国際化・高齢化等、

経済社会の変化に対応した都市の形成を図るためにもこうした都市

開発事業の推進は重要な課題となっており、各地で民間事業者等に

よる都市開発プロジェクトが企画・推進されている。

 とりわけ東京への一極集中に対処し、多極分散型の国土を形成し

ていくためには、地方都市の活性化を図ることが大きな課題となっ

ており、この面からも都市開発事業の推進が必要とされている。

 一方、2013年頃には我が国の人ロがピークを迎えると考えられて

いるが、2000年を越えるあたりまでは巨大な貯蓄が蓄積されていく

と考えられ、本格的な高齢化により貯蓄性向が低下していくまでの

約10年間は、社会資本に積極的に投資するラストチャンスである

ともいわれていろ。

 今後は、産業基盤への投資とともに生活基盤への投資も増大する

ことが必至であり、都市開発事業の役割も高まっていくことと思わ

れる。このような状況のもとで、官民の連携により、都市開発事業

の効果的な推進を早急に図る必要がある。

(2)都市開発事業における資金調達の現況

 現在の我が国の都市開発事業資金の調達手段としては、銀行借入、

株式発行、社債発行、各種政策金融機関からの借入、国・地方公共

団体からの補助金等が用いられている。それらの資金調達手段は、

国・地方公共団体からの補助金のほかは、専ら事業者そのもの或い

は事業者の背後に存在する者の信用によって資金調達を行う方法

(企業金融)によるものであるといえる。

 一方、近年地方都市開発プロジェクトの遂行などのためにその事

業のみを行う独立した会社を設立する例が多く見られる。これらの

事業においては、ある事業の実現のために資金供給者は資金供給を

行い、その利益配当・元金返済は当該プロジェクトによってあげら

れる収入によって賄われており、当該物件のみが責任財産になると

いう意味ではー種の資産金融(再検討の資産を企業から区分し、そ

の資産の価格を基礎として資金調達を行う仕組み)であるとも考え

られる。しかし、これらの会社においても、そのような会社の出資

者となっている地方公共団体や企業の信用力に基づいた資金調達が

行われており、当該プロジェクト自体の収益性のみが会社の資金調

達力を支えているとはいいがたい。

 このように現在のところ、我が国の都市開発事業における資金調

達は、従来の企業金融の枠内にあると考えられ本格的な資産金融の

導入は未だに行われていない状況にある。

 

 

2.都市開発事業の新たな展開

(1)事業規模の巨大化と事業の長期化

 現在進行中の都市開発プロジェクトの中にも「みなとみらい21」、

「幕張新都心」のように全体の民間事業費が1兆円単位に及ぶ大規

模プロジェクトが存在しており、全体的にみて事業は大規模化して

いる。近時行われた調査によると、全国の民間による主なプロジェ

クト97件の民間事業費は合計6兆4,600億円に及び、平均は1件当

たり 660億円に達するという。また、それらのプロジェクトを含む

118プロジェクトの平均事業期間は11.7年となっていろ。

 このようなプロジェクトの巨大化と長期化は、必要資金の巨額化

と初期段階の投資負担の増大を招くこととなり、従来の企業金融の

枠を超えたプロジェクト自体の信用力に基づく多様な資金調選手段

が必要になると考えられる。

(2)特別目的会社による都市開発プロジェクトの展開

 先に述べたように、地方都市等において行われている都市開発プ

ロジェクトでは、特別目的会社が設立されプロジェクトの事業主体

としての役割を担当するケースが多くなっており、今後とも都市開

発に重要な役割を果たすものと考えられる。これらのケースは、資

金調達の面では、現在のところ企業金融の枠内にあると考えられる

が、形態的には企業金融と資産金融との中間的なものとも考えられ、

事業の大規模化の傾向等も考え併せると今後の新たな資金調達手段

の展開につながることも考えられる。

(3)開発に関わる事業手法の変化

 近時の金融情勢及び地価の上昇等の環境の変化により、従来から

行われてきた不動産の長期保有による都市開発事業の遂行が困難に

なるなどの事態が生じていろ。それに伴い、事業者のビジネスチャ

ンスの捉え方も変化しており、事業受託方式による開発や不動産小

口化商品の利用等による、不動産の保有にこだわらないビジネスへ

の注目度が強くなっている。例えば、オフィスビルの賃貸事業の例

を考えても、土地の取得が困難な上に、地価の高い状況では超長期

の自己資金が低コストで確保できる主体以外では物件の長期保有の

方法では採算ベースに乗りにくくなっているのが現状である。また、

地方中核都市においては割安な賃貸料の割に地価の上昇が著しいた

め採算がー層厳しい状況となっている。

 さらに(1)で述べたようなプロジェクトの巨大化、長期化の進行に

伴い、従来から行われていたような、都市開発事業のノウハウと資

金力を持つ有力な事業者が単独で遂行していた事業のほかに、事業

者が共同して参加する例が増えており、今後は土地所有者やそのほ

か様々な機能をもつ者がプロジェクトの各段階に応じて共同で参加

し、事業のりスクと開発利益を適正に配分する事業の方式が増加す

ることが考えられる。

 このような多数の当事者が関わる事業においては参加者のリスク

や収益の内容が多数の当事者にとってより分り易いものとなること

が望まれる。そのため、リスクや収益性の判断要素が当該プロジェ

クトから発生するものに限られること、事業計画及び契約内容がよ

り詳細なものとなること等の措置により当事者の負うべきリスクも

限定されたものとなり、同時に、開発利益等の期待収益についての

情報がより適切に開示されたものとなることが期待される。

 以上のような、物件の保有主体と経営主体の分離した事業形態や

共同で行う事業形態の進展等開発に関わる事業手法の変化に応じて、

今後都市開発事業の資金調達の在り方にも変化が生じることが予想

される。

 

 

3.都市開発事業における不動産の証券化

 中間報告で示したように、不動産の証券化による資金調達手法は、

都市開発事業の促進という観点からはー般に

@ 事業の長期性への対応(長期資金)

A 大規模事業の円滑な資金確保(資本市場からの直接の資金調達)

B プロジェクトの良否による資金調達(プロジェクトに着目した

 資金調達)

C 事業リスクへの対応(多様な資金運用ニーズを持つ投資家に直

 接アクセス)

D 資金調達・資金回収の弾力化(都市開発プロジェクト実施のた

 めの資金還流を促進、不動産の所有と開発・経営体の分離)

E 金融機関による資金供給の弾力化(金融機関の保有資産の流動化

といった点に意義があると考えられる。

 さらに、前述2.で述べたように、事業規模と必要資金の巨大化、

事業者の事業手法の多様化の進展等の都市開発事業の新たな展開は、

プロジェクトに着目した資金調達、所有と経営の分離等の傾向を強

めることが考えられ、これらの傾向に応じた都市開発事業における

新たなファイナンス・システムの確立が求められている。不動産の

証券化は、このような傾向に対して都市開発事業を促進するための

極めて有効な方策として、特に以下のような点から注目すべきであ

ると考えられる。

@ 事業規模の巨大化と事業の長期化にともない、事業の初期投資

 に要する費用も多額となり、事業着手から完成、資金回収にいた

 るまでに長期間を要することとなる。不動産の証券化は、このよ

 うな都市開発プロジェクトに、その特性に適合した長期・固定金

 利の資金、或いは収益に即した調達コストの支払を可能とする資

 金を供給する途を開くものである。

A 都市開発プロジェクトは、その事業ごとに事業内容、採算性、

 リスク等が異なり、極めて個別性の強いものである。しかし、企

 業金融の方式では、資金調達者の信用力に依存して資金供給がな

 される結果、単独の企業としての信用力が必ずしも十分でない場

 合には、たとえプロジェクト自体が良質なものであっても、十分

 な資金が確保されにくい傾向がある。不動産の証券化は、プロ

 ジェクトに着目した資金調達手法であり、また、資金調達者は、

 証券化する対象となる事業の方法、資金調達の仕組み方如何に

 よって、必製な資金を適切な条件で調達することができる。

B 従来の単独の事業者による物件長期保有による開発手法のみで

 なく、不動産の保有にこだわらないビジネスが重視されるにとも

 なって、開発事業主体の都市開発プロジェクトの運営能力が重要

 となることが考えられる。不動産の証券化は、より弾力的な資金

 調達・資金回収を可能とすることによって、不動産の所有と開発

 ・経営の主体の分離を通じ、開発事業主体にそのプロジェクト運

 営能力によって都市開発プロジェクトへの参画を可能とするとと

 もに、事業の過程を通して複数の地権者を統合する手段となる可

 能性も有している。

 

 

 

第2章 不動産の証券化の活用法策

 

 

 第1章で述べたように、不動産の証券化は都市開発事業を推進す

るための方策として極めて有効であると考えられろ。本章ではこの

様な観点から、不動産の証券化の具体的な活用方策について検討を

行うこととする。

 不動産の証券化の具体的な手法を検討するに際しては、事業者側

にとっては、@多数の当事者が参加しやすい方法であること、A資

金調達コスト(利息、手数料等)が、特に初期段階において低いこ

と、B資金の長期的な安定性が図れること(固定金利か変動金利か

など)、C資金調達が容易であること(大量資金が一度に得られる

か、そのための小口化など)といったが問題となる。一方、実効性

あるものとなるために投資家側にとっては、@収益性、A購入のし

やすさ、B税制上のメリット、C安全性の付与といった点が問題と

なると考えられる。

 このため、以下の検討に当たっては、このような問題に留意しつ

つ、新たなファイナンス・システムの確立に向けていくつかの不動

産の証券化の形態について取り上げることとする。

 

l.デット形態

 デット形態の手法は金融機関の債権流動化の要請等により米国で

最も発達している形態であり、我が国においても抵当証券などによ

り一部で実現している。資金調達者にとってはデット形態の手法の

普及により長期安定資金の確保が可能となる。また、証券が化体す

る権利が金融機関の債権であるため、保証制度の充実等の資金供給

者保護が整えば小口化・流動化を実現することも比較的容易である

と思われる。

 デット型証券を大量に販売するには定型的な債権の大量なプール

が必要であるため、米国の例に見られるように、我が国においても

元となる債権は標準化しており、保証制度の付きやすい住宅ローン

債権となることが考えられ、すでに住宅ローン債権信託は実施され

ている。

 しかし、都市開発事業に係る債権はー件ごとの個別性の強い債権

であり、このため、投資家側から見ればリスク分散の制約等の課題

が生じると考えられるが、二次的な債権の保証制度の確立等の条件

が整えば、プロジェクトごとの特徴が反映されたデット型証券を開

発することも可能であると考えられる。

 また、抵当証券についても、今後抵当証券発行特約付きの融資に

プロジェクト・ファイナンスの方式を導入すること等によって都市

開発推進のために活用する方策を検討する必要がある。

 

2.エクイティ形態

(1)不動産小口化商品

 不動産小口化商品は、近年、我が国においても各種のものが開発

され、供給実績が伸びた商品である。現在の不動産小口化商品には

その共有持分権を、@各投資家が信託銀行に信託する信託型、A各

投資家が現物出資し組合を結成する組合型の2種類がある。いずれ

の場合も、当初分譲を行った不動産会社がプロジェクトの経営を引

き受けており、不動産の所有と経営を分離する手法となっている。

この手法により、複数の地権者や多数の投資家等の当事者をーつの

事業に参加させることが可能となり、また、事業主体にとっては、

有効な資金調達手段のーつとなっており、オフィスビルや住宅等の

供給実績をあげている。この商品は不動産共有持分権の売買である

ため宅地建物取引業法によって規制されている。このため、その売

売については免許制がしかれており、一定の消費者保護措置が行わ

れていると言える。

 信託型の不動産小口化商品で用いられている信託は税務上「導管

体」であることを原則としている。信託型の方式は、税務上、@委

託者と受益者が同一人であること(自益信託)、A受益権が分割さ

れないこと等の条件(昭和61年7月国税庁通達)を満たす場合に

ついてのみ規定しているが、この条件を満たさない場合の税務取扱

いについて明らかにされていないため、この通達に該当しないもの

は実務上扱われていない。なお、この通達の条件とは別に、実務上、

@販売単位が概ね1ロ1億円以上、A受益権は原則として譲渡禁止

とされる等の制限的な取扱いがなされている。

 また、我が国でも非信託型の不動産小口化商品において、民法上

の「任意組合」(民法第667条)を活用しているが、@法律上組

合員全員が無限責任を食う、A組合員の地位の譲渡が制限されてい

る等の制約がある。

 これらの点から、郡市開発事業の推進に不動産小口化商品を活用

していくためには、信託、組合それぞれの「導管性」及び譲渡性を

明確化するとともにその要件についても拡大する方向で検討してい

くことが必要である。

(2)土地信託方式

 土地信託は近年盛んに利用されており、国鉄清算事業団における

土地の活用に用いられているほか、国有財産の有効利用を行う方法

としても利用が積極的に検討されている。国鉄清算事業団による土

地信託方式は委託者の持つ信託受益権を第三者に売却して資金調達

を図るものであるため多数の当事者の参加が可能でありその点につ

いて不動産の証券化を考える参考となる。土地信託の機能を十分に

発揮させ、今後大規模な都市開発事業の推進に資する手法とするた

め、信託受益権の小口化・流動化の促進、収益受益権と元本受益権

への分離等について検討すべきである。

 また、これと併せ、その活用策についても検討する必要がある。

例えば、土地信託による事業資金の調達は、信託勘定の借入による

のがー般的であるが、土地をべースに相当規模の開発を行う場合に

は、借入額も多額となることから、初期の金利負担の軽減等に資す

るため、土地所有者と投資家がそれぞれ土地と資金とを共同して信

託する等の方式の活用を検討すべきである。この場合、資金調達の

円滑化を図るためには、信託受益権の流通性如何は大きな要素であ

る。

(3) 不動産投資信託

 不動産投資信託は、中間報告においても、広く投資家から資金調

達し、複数のプロジェクト又は不動産に長期・安定的な資金を供給

する新たなファイナンス・システムとして、積極的に導入を検討す

べきであるとしたものであり、資金を集めた信託や会社が利益処分

方法や資産保有状況についてー定の条件を満たせば、当該資金調達

者を導管体として非課税とする制度である。

 この手法は、一つの不動産投資信託が複数の都市開発事業に対し

て投資を行い得るために投資家にとってはリスクの分散が可能とな

るほか、都市開発を行う事業者にとっても不動産投資信託という不

動産投資の専門家による資金調達源が得られ、長期安定資金の確保

が可能になる等の利点を有しており、都市開発事業の推進の観点か

ら、今後具体的な導入の方策について検討する必要がある。特にそ

の際には、投資家保護の観点から、不動産に係る投資契約に関する

規制についての措置について検討することを要すると考えられろ。

 また、米国においては、特に不動産投資信託の投資対象不動産に

限定がないが、都市開発を推進するためには不動産への投機的投資

を防止するためにも、投資物件の制限を行うこと等について検討を

行う必要があり、単なる土地の転売等に資金供給を促進し地価の高

騰を招くことのないよう措置することには特に留意する必要がある。

このため、投資対象を新規供給に係る不動産、優良な都市開発事業

に限定したり、不動産投資信託の設立・運営等をチェックするため

の制度を用意する等の方策についても検討する必要がある。

(4)都市開発事業組合制度

 この制度は、米国のリミテッド・パートナーシップ(LP)に発想

の契機を得たものであり、本研究会の中間報告においてもその導入

について積極的に検討すべきであるとされている。本制度は都市開

発を行う際に中心となるコーディネーターが、株式発行等によって

資金調達を行うことに代えて、都市開発事業組合の無限責任組合員

となり組合を組織し、事業に関する情報を公開し、組合への出資者

を広く募り資金調達を行おうとするものである。

 具体的には、都市開発事業組合の無限責任組合員は当該都市開発

事業の中心となり事業の運営全体に対して責任を負うこととなる者

であり、都市開発事業に対するノウハウ・企画力・経営能力のある

ものが担当する。一方、組合への出資者は当該都市開発事業に関す

る情報を取得し、株式保有者と同様に、自らの出資した資金の額の

限度において責任を負うものであり、無限責任を負うコーディネー

ターとは責任範囲が異なるものである。組合への出資は、広範な者

の事業への参加を可能とするため、資金、資産等によることが考え

られるが、それによって形成された都市開発事業組合は、株式会社

等と違い、事業主体の段階においては課税の対象とならない「導管

体」とする。

 都市開発事業組合は民法上の任意組合と異なり資金供給者の有限

責任を明確にする必要があり、また、商法上の匿名組合と異なって

資金供給者の税制上の地位をより明確にする必要がある。このよう

に都市開発事業組合制度の検討に当たっては事業主体の法人として

の独立した地位を明確にする方向で制度の具体化を検討する必要が

ある。

 このような都市開発事業組合制度の導入は、資金調達の仕組みと

してばかりでなく、例えば、リゾート開発などで開発事業者が中心

となり地元の関係機関が協力して事業を実施する場合、土地所有者

から土地の提供を受けて事業者が都市再開発を実施する場合等にお

いても有効な手法となることが予想され、その活用形態に即しつつ、

制度の具体化を検討していく必要がある。

 

3.ハイブリッド形態

 将来債権がエクィティに変換する手法のーつである不動産変換

ローン方式は、国鉄清算事業団により実施されている手法であり、

平成2年12月には第一回の入札も行われた。それにより国鉄清算事

業団は低利で多額の資金を調達しており、大規模な都市開発事業に

不動産の証券化手法を導入した初めてのケースであると考えられる。

ただ、本件の例によると一ロ当たりの金額は400億円弱であり資金

供給者は大量の長期安定資金を保有する企業に限られてくることと

なる。また、実際上、債権の流動性が無いこと、期限到来時におい

て不動産所有権を得るか債権の元金を取得するかの選択権が明確に

は認められていないことなど、本件第一回の不動産変換ローン方式

には商品として改善が望まれる部分があり、今後本方式が利用され

る際の具体的手法に注目したい。

 株式変換借入方式についても、国鉄清算事業団において、株式変

換権付事業団債方式として極めて資産価値のある物件について検討

されている手法である。この方式は、基本的にはー般に用いられて

いる転換社債と同じく、将来の株式転換椎付きの債権を資金供給者

が取得する方法であるが、国鉄清算事業団が債権発行時には上場さ

れていない別会社の株式への変換権を付与したものである点に特徴

がある。

 これらの方式は、国鉄清算事業団の多額の債務の償還の必要性と、

地価を顕在化させない土地処分方式創設の必要性から生まれた手法

であるが、不動産変換ローン方式については、現行法制上一般の都

市開発事業者がこの手法を利用することができないため、今後債権

者保護等について十分な配慮を行うことによりその可能性について

検討する必要がある。また、株式変換借入方式についても、一般の

都市開発事業者についてこのような手法が利用できることとなるた

めには、情報開示等の債権者保護措置をより十分に行うなどの措置

が必要になると思われる。

 

 

第3尊 今後の検討に当たって課題

 

前章で述べた具体的な検討を行うに当たっては、以下のような検

討課題に留意しつつ進める必要がある。

(1)優良な都市開発事業への資金誘導

 都市開発事業の中でも「優良な都市開発事業」とは、周辺の都市

居住者とそこで働く人々などの利便性・快適性の増進、地域活性化

により大きく寄与するようなもの、すなわち、都市における居住そ

の他生活の場、商業・業務の場としての機能、交通機能等の都市機

能がより良好な状態に保たれるとともに、それをより発展させろよ

うな事業をいう。このような事業は、緑地、広場等多くの人々が利

用可能な公共的施設を備えるなど、国や地方公共団体等が行う公共

事業とともに郁市における良好なストック形成を担っており、近年

大きな課題となっている真に豊かさを実感できる国民生活の実現に

資する事業であるといえる。

 しかし、このような事業の遂行は本来的に初期負担の大きな都市

開発事業の収益性をより困難とするため、民間資金を誘導すること

が難しい。従って、このような事業を推進するためには各種の政策

的な支援措置を講ずる必要があり、不動産の証券化もこのような施

設のー環として、優良な都市開発事業における不動産の証券化につ

いて特段の優遇措置を講ずる等その推進に資するような方向で制度

化を検討する必要がある。

(2) 開発段階からの証券化

 都市開発事業において不動産の証券化を導入する場合、開発段階

から不動産の証券化により資金調達を行う方法と保有段階での資金

回収に用いる方法が考えられろ。米国における不動産の証券化の利

用のほとんどが既存物件の買収に係るものらなっているように、リ

スク・収益の予想可能性等のことを考慮すると、保有段階の証券化

の実現性が高いものと考えられる。

 しかし、優良な都市開発事業の推進という観点からは開発段階で

の証券化も重要でありこのための方策について検討する必変がある。

この場合、計画策定、用地取得、建設、経営といった都市開発事業

における各段階においてどのようなりスクや問題点が存在するか等

について詳しい検討を加え、郁市開発事業に関する評価のノウハワ

の向上、保険・保証機能によるリスクの限定化・極小化等を図るこ

と、開発段階と保有段階の複数の物件を証券化した商品を検討する

ことなどが必要である。

(3)情報の開示と情報サービスの充実

 広くー般に対し証券を発行し、資金調達する上で、当該証券が化

体する権利即ち当該証券の基礎となる不動産の内容について正確な

情報を開示することは、投資家の的確な投資判断に資するとともに、

自己責任の原則を基礎とする投資家保護を図るために必要不可欠で

ある。

 不動産の証券化は、証券化の対象となる不動産の内容が多種多様

であり証券化の仕組み自体も複雑であることから、証券の化体する

権利の内容、証券の発行・流通の形態に即して、経営の主体やその

方法といった開示させる情報の内容、一定期間ごとに不動産の経営

状況について情報を提供するといった開示の仕組み・方法について

具体的に検討していくことが必要である。

 また、一般の投資家にとって、証券の安全性、収益性等を十分比

較検討するためには、資金調達者による情報の開示のみではなく、

第三者による評価制度の充実が望まれる。従来より、社債等のデッ

ト型証券については、格付制度が証券の安全性を評価する仕組みと

して機能しているが、不動産の証券化についてはエクイティ型のも

のについても、格付制度に相当するような、不動産に係る市場動向、

類似の都市開発事業の事例、事業者の事業実績等、投資家の投資判

断に資する情報を広く収集、提供するサービス・システムを充実し

ていくことが必要である。

(4) 地価との関係

 不動産の証券化に関する意見として、我が国では事業の初期段階

において高い収益を求めることが困難であるため土地の値上りを求

めることとならざるを得なくなるが、地価を下落させるべき状況の

なかでそのような制度を容認すべきでないという見解がある。しか

し問題は、現在の地価が高すぎて、本来の土地の収益性等の経済的

価値とは掛け離れているという状況が存在することと、投機的な取

り引きによって生じる本来的な経済的価値とは無緑な土地の価格の

上昇が発生することである。

 不動産の証券化による都市開発事業の推進は、当該都市開発事業

全体の経済的価値を評価し、それに対して投資を行うということで

あり、一定の開発が行われることを前提としてプロジェクト自体に

投資が行われるという点で土地そのものに対して投機が行われるこ

ととは根本的に異なるものである。さらに、不動産の証券化により、

優良な都市開発事業に対する資金誘導が継続的に行われることとな

れば、事務所床等の供給がー層促進され、床需給のアンバランスの

緩和にも資することになる。

 従って、不動産の証券化を単なる土地の転売や投機的取引に資金

供給するものとしてではなく、これによって調達した資金を優良な

都市開発事業に適切に誘導していくためのシステムとして導入して

いくことが必要である。