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平成12年4月
建設省都市局下水道部
平成11年度 下水道における内分泌攪乱化学物質に関する調査報告について
【 概 要 】


1.調査の目的

 本調査は、内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)の下水処理場内における挙動を把握し、 今後の対策検討に資することを目的としており、平成10年度より実施しています。
 本調査における全体の目的は、次のとおりです。

  1) 下水の特性を考慮した分析手法の開発・検討
  2) 下水処理場における流入実態および放流実態の把握
  3) 下水処理場内の処理工程(流入〜放流)における挙動把握
  4) 今後の対策手法の検討

<平成10年度調査>
 平成10年度に実施した、27処理場の実態調査結果から、 下水道に流入する物質の絞り込みと下水処理による低減効果 および処理工程における実態を概ね把握することができました。
<平成11年度調査>
 平成11年度は平成10年度の結果を受けて、 内分泌攪乱化学物質に関して課題である以下の事項について、38処理場の実態調査をさらに進めました。
      ・ 下水の分析手法の開発・検討
      ・ 下水処理場における流入実態および放流実態の把握
      ・ 水処理工程、汚泥処理工程における実態把握
      ・ 高度処理工程における実態把握




2.調査概要

 本調査のスケジュールは図−1に示すとおりです。

 分析方法については、平成10年度および平成11年度において検討を行い、 これらを「下水道における内分泌攪乱化学物質調査マニュアル(案)(平成12年4月)」としてとりまとめ、 実態調査における分析は、本マニュアルに従って行いました。
 平成11年度実態調査は、平成10年度調査結果を受け、環境庁の「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」において 内分泌攪乱作用が疑われている11化学物質と その関連物質(ノニルフェノールエトキシレートおよび17β-エストラジオール)を調査対象物質 (表−1参照)としました。





3.調査結果

 平成11年度に38処理場で実施した実態調査より、以下の知見が得られました。

(1) 流入下水および処理水における実態

図−1 調査スケジュール

図−1 調査スケジュール

  1. 調査を行った11化学物質のうち、定量下限値以上の濃度が少なくとも1検体以上で確認されたものは、 流入下水では11物質、処理水では8物質でした。
  2. ノニルフェノールの原因物質であるノニルフェノールエトキシレート および人畜由来ホルモンの17β-エストラジオールは、流入下水、処理水とも定量下限値以上の濃度で確認されています。
  3. 平成10年度調査の結果と同様な傾向となっており、 2年間の調査で流入下水と処理水の実態が概ね把握出来たといえます。
表−1 調査対象物質が定量下限値以上の濃度で確認された割合 =平成11年度=

(定量下限値以上の検体数/調査検体数)   

調査対象物質名 定量下限値
(μg/L)
流入下水 処理水1)  備考 
1 4-t-オクチルフェノール 0.3 15/41 1/44  
2 ノニルフェノール 0.3 69/69 18/74  
3 ビスフェノールA 0.03 69/69 31/74  
4 2,4-ジクロフェノール 0.06 15/25 1/29  
5 フタル酸ジエチル(DEP) 0.6 25/25 0/28  
6 フタル酸ジ-n-ブチル(DBP) 0.6 41/41 1/44  
7 フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP) 0.6 68/68 19/74  
8 フタル酸ブチルベンジル(BBP) 0.6 7/41 0/44  
9 アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル 0.03 63/69 8/74  
10 ベンゾフェノン 0.03 55/55 41/57  
11 スチレンの3量体 0.03 1/24 0/28 注2)  
12 ノニルフェノールエトキシレート(n=1〜4)

                  (n≧5)

0.6 67/67 39/69 注3) 
0.6 66/67 25/69
13 17β-エストラジオール 0.0006 69/69 68/74  
    網掛・太字:定量下限値以上の存在が、1検体以上から確認されたもの
    注1)放流水または終沈流出水を「処理水」として位置付けている
    注2)スチレン3量体は、2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセンのみ検出されている
    注3)・「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル」あるいは
       「ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル」などともいう
       ・側鎖であるエチレンオキサイド(EO)の付加モル数(n)のが、n=1〜4、n≧5の2区分で測定

 表−1の調査対象物質のうち、流入下水における定量下限値以上の濃度で確認された割合が50%以上、 すなわち中央値が定量下限値以上の物質について、 中央値による流入下水と処理水の比較を行った結果を図−2に示しました。
 調査対象物質の処理場における減少率は、殆どの物質で90%以上であることが確認され、 下水処理場は流入下水中の調査対象物質に対して、概ね高い低減効果を有していると考えられます。


図−2 主な調査対象物質の流入下水と処理水における濃度比較

図−2 主な調査対象物質の流入下水と処理水における濃度比較




(2) 下水処理場の処理工程における挙動

 下水処理場における処理工程の一例を図−3に示しています。 このような工程を経て、処理水が放流されます。

図−3 下水処理場の処理工程の一例

図−3 下水処理場の処理工程の一例



1)水処理工程における挙動

 下水処理場内の水処理工程における調査対象物質の挙動について、図−4に示しました。 また、調査対象物質が各処理工程においてどのように減少しているかを、 流入下水を100として示したものが表−2です。 物質によって減少の傾向は異なっていますが、 最初沈殿池工程および生物反応槽から最終沈殿池の工程の両方で低減効果が見られます。 特に、生物反応槽から最終沈殿池の工程において、 調査対象物質の大きな低減効果が認められています。 中央値でみると生物反応槽から最終沈殿池の工程における減少は平成10年度調査と同様な傾向を示しています。

表−2 水処理工程における挙動(中央値)=平成11年度=   

調査対象物質名 流入下水 初沈流入水 初沈流出水  処理水 
ノニルフェノール 100 90 74 (-)
ビスフェノールA 100 140 86 (-)
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 100 94 57 (-)
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル 100 74 52 (-)
ベンゾフェノン 100 97 91 36
ノニルフェノールエトキシレート(n=1〜4)

                  (n≧5)

100 100 73 2
100 80 38 1
17β-エストラジオール 100 95 99 26
・流入下水を100としたときの各工程の水質
・処理工程について調査を実施した20検体(コンポジット採水)における中央値で算出したもの
 (集計に用いた20検体の流入下水の中央値が定量下限値以上の物質について表示)
 (但し、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-n-ブチルは、初沈流入水、初沈流出水を測定していないため表示せず)
・(−)は、当該工程水の中央値が、定量下限値未満であるもの
・処理水は、終沈流出水または放流水

図−4  水処理工程における挙動 =平成11年度=

図−4  水処理工程における挙動 =平成11年度=



2) 汚泥処理工程における挙動

 汚泥処理工程における汚泥中の乾燥重量当たりの固形物中に含まれる調査対象物質の濃度、 すなわち含有量の挙動を図−5に示しました。

  1. 生物反応槽より発生する余剰汚泥中の含有量は、一部を除いて初沈汚泥中の含有量よりも低い傾向を示しています。
  2. 脱水汚泥中の含有量に比較して、 焼却灰中の含有量は低く殆どの試料で調査対象物質の濃度が検出下限値未満となっています。
図−5 汚泥処理工程における挙動 =平成11年度=

図−5 汚泥処理工程における挙動 =平成11年度=



(3) 高度処理による低減効果

 公共用水域の水質保全や、下水処理水の再利用等を目的として、 窒素・リンを除去するための生物学的な高度処理や、生物処理工程の後段に付加する急速砂ろ過法(砂ろ過)、 オゾン処理法(オゾン)、活性炭吸着法(活性炭)、逆浸透膜ろ過法(RO膜)等の 物理化学的な高度処理が一部の処理場で採用されています。
 これらの物理化学的な高度処理によって調査対象物質がどの程度低減されているかについて調査を行いました。 前述のように終沈流出水において殆どの物質が定量下限値付近まで低減されていましたが、 いずれの高度処理方式とも殆どの物質において低減効果が認められ、 特にオゾン、活性炭、RO膜において効果が大きいことがわかりました。
 生物処理工程での減少率が他の物質に比較して低かったベンゾフェノンや 人畜由来ホルモンの17β-エストラジオールの2物質に着目して、 砂ろ過、オゾン、活性炭、RO膜等の組み合わせによる濃度の挙動を図−6に示しました。 データ数が少ないものの、砂ろ過、オゾン、活性炭、 RO膜等の処理を組み合わせることで大きな低減効果が認められました。

図−6 ベンゾフェノンおよび17β-エストラジオールの高度処理における挙動

(終沈流出水が定量下限値以上の測定値を示す)

図−6 ベンゾフェノンおよび17β-エストラジオールの高度処理における挙動

4.今後の課題

 平成10年度および平成11年度の2年間にわたる「下水道における内分泌撹乱化学物質に関する調査」の結果、 下水処理場における調査対象物質の挙動については、概ね把握できました。
 しかしながら、人畜由来ホルモンの分析方法やノニルフェノール等の分解過程で生じる物質の 全ては調査していないこと等の課題も残されています。 さらに、内分泌攪乱化学物質が、環境中においてどの程度の濃度あるいは曝露で生物に影響を与えるのかについては、 現時点では明らかとなっていません。 このため、下水処理場からの放流水に残存する物質が生物に影響を及ぼしているか否かについては現時点では不明です。
 これらの課題に対しては、関係省庁や各研究機関等の関連分野との強力な連携のもとに取り組んでいく必要があります。 特に、下水処理場や水環境中への内分泌攪乱化学物質の流入経路に関する検討、 あるいは環境中におけるその形態変化等については、関係機関全体で取り組むべき課題であると思われます。


 以上の背景を踏まえ、本調査において、平成12年度以降に取り組むべき課題を整理すると以下のとおりです。

(1)処理工程における挙動の検討
 平成10年度および平成11年度の実態調査に引き続き、 処理方式による低減傾向の特徴、消毒工程・高度処理工程・汚泥処理工程における挙動の把握、 活性汚泥による分解性の確認などの検討
(2)運転管理による低減手法検討
 実態調査結果を踏まえ、下水処理場において内分泌攪乱化学物質の低減が必要となった場合の対策等についての検討
(3)新たな知見の整理と補足調査の検討
 関係機関や海外等における内分泌撹乱化学物質に関する新しい研究成果等の整理と、 必要に応じて補足調査の実施検討
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