都市再構築へのシナリオ

              (都市計画中央審議会基本政策部会報告案のポイント)

 平成9年6月9日、都市計画中央審議会基本政策部会は、今後の都市政策の基本的方向を明らかにする「都市政策ビジョン」(中間取りまとめ)を発表し、その中で「都市の再構築」を推進することを提唱した。その後、中心市街地の活性化や、不良債権問題に絡む土地の流動化などの問題が各方面で議論されるとともに、先般策定された新・全国総合開発計画においては「大都市のリノベーション」が主要戦略のひとつとされているなど、我が国の「都市の再構築」に関わる都市づくりをめぐる気運が高まっているところである。また、都市づくりへの投資は、内需主導型の経済運営を図るうえでもその有効性が期待されている。さらに、中央省庁の再編もにらみつつ、既存の行政のあり方を見直すとともに、都市づくりに関係する各行政分野間の連携を一層進めていくことが求められている。こうした状況下で「都市政策ビジョン」を実体的な都市づくりにつなげるために国の役割及び施策の方向等を明らかにする「都市再構築へのシナリオ」を提言するものである。この場合、平成10年1月13日都市計画中央審議会「今後の都市政策は、いかにあるべきか」(第一次答申)で明らかにした地方分権を前提とし、換言すれば地方分権時代における国の役割を明らかにする。

 なお、この内容については、引き続き当部会において検討を深めていくこととしたい。

  都市政策の基本方向  

環境・快適・安全・利便などの機能のレベルアップに向けた大胆な取組み

大都市のリノベーション(新・全総の4大戦略の1つ)、中心市街地の活性化
  など戦略性の高い課題への重点的取組み

整備追求型から課題解決型への転換(「作る時代」から「使う時代」へ)
 

・従来の都市づくりは器としての施設整備を重視し、器の中味である機能や器を囲む環境の視点が不明確であった。今後は、機能や環境のレベルアップを重視し、環境・景観・防災・賑わい・交流などに配慮した都市づくりを行う。

・新・全国総合開発計画において、「大都市のリノベーション」は、4つの主要戦略のひとつとされている。また、地方都市をはじめとする中心市街地の活性化も戦略性の高い課題である。

・従来は、都市化が急速に進む中で道路、公園、下水道等の都市基盤の整備水準が非常に低く、その全体的な引上げに努力を傾注してきた。現在は、個々の施設整備水準を引き上げる努力も必要な一方で、多様な政策課題が浮かび上がってきており、今後は課題解決に向けて必要な施策を集中する姿勢へ転換する。言い換えれば、施設を作ることを重視した時代から、施設を使うことや施設の置かれる環境を重視し、政策課題の解決に向けて都市の機能をレベルアップする時代への転換すべきである。

 

  国の役割  
都市づくりは産業経済・国民福祉双方の観点から重要であり国へも大きな期待

都市づくりへの投資は、内需拡大、雇用確保のためにも有効

課題の重要性・緊急性に応じ、様々の政策手段により、国の責任と役割を積極
  的に果たす
 

・我が国の都市には人口の大部分が居住するとともに、経済の太宗が営まれている。都市づくりは種々様々な課題を抱え、その解決は産業経済の安定的な維持・発展や国民生活の質の改善に深く関わっており、様々な問題を克服し我が国全体としてバランスのとれた都市づくりをスムーズに進める上で、国に期待される役割は大きい。

・また、都市づくりへの投資は、経済構造の改革が求められている中で、内需を拡大し雇用を確保するうえでその有効性が期待される。

・このような国の役割に対応して、具体的に国としてどのような政策が妥当かは、課題の重要性・緊急性に応じて決められるべきである。例えば「大都市のリノベーション」については、強力かつ直接的な国の取組みが必要である。

 


   国の役割を果たすには以下のような視点に立って政策を再構成すべき
 

 


 市民の視点に立った機能重視の手法の確立
 

・都市づくりは、居住、文化、健康、安全、移動、生産、流通、消費など多様な分野に 関連する総合的なものである。

・従来の都市行政は施設整備を重視してきたが、施設を利用する市民の視点に立って機 能をレベルアップし、良好な環境を作り出す観点からソフトな手法も組み合わせ、都 市の多様な側面に対応できる計画・事業の手法を構築すべきである。これは、既成市 街地での再開発に取り組む場合特に重要である。

 


 人材・資金の大量・集中的投入システムの構築
 

・都市づくりは、特に既成市街地において、手間と時間と資金のかかる仕事である。我 が国に余力のある間に本格的な都市をつくりあげるためには、重要課題に大量の人材 ・資金を集中できる仕組みが必要である。

・投入に当たっては、投入の対象、方法等について様々な仕組みが考えられる。課題に 応じ適切な仕組みを選択していくべきである。

・幅広い都市づくりの観点から様々な財源を活用できる仕組みにすることも検討する必 要がある。

   


 多様な主体の参加と連携を促進する仕組みの整備
 

・都市づくりは、国、地方公共団体、市民、民間事業者さらには専門家あるいはその集 団などがそれぞれの立場で一体となり協同して取り組んで初めて成功するものである。

・これらの主体が都市づくりに参加し、相互に連携しやすい仕組みを整備する。

 


 国の一貫した方針の下で都市づくりを推進するための枠組みの構築
 

・大都市は、極めて広域に市街地が連なり、質・量とも高いレベルで経済活動が行われるなど、我が国の経済社会の中枢をなす。また、地方都市は、周辺農山漁村と相互に 依存しつつ、地域の拠点として発展・衰退の鍵を握る。このように、都市は単に国土の一部である以上に、我が国全体を支えるものである。

・したがって、国の一貫した方針の下で都市づくりに取組むことが必要である。

・このことは、都市づくりに関する各主体の役割と責任を明確にする上で有効である。

・その際、行政区域にとらわれず、都市圏として一体的・広域的に捉えて取り組む視点 が重要である。

 




 

 このような国の役割は、地方分権を前提としたものであり、国と地方公共団体が協調して、ここで述べる施策の積極的な展開を図ることが大切である。
 

 

8つの具体的方策

 交通、産業関連、生活関連などの分野を幅広く取り込む手法の充実













 

・鉄道など各種手段を総合化した都市交通体系の確立や、港湾を含めた面的な整備の一
 元化に向けた取組みを重視すべきである。
・産業政策などとも協調しながら、建築物や都市施設の詳細な機能を確保し、位置づけ
 る仕組みが必要である。
・都市計画において、道路、公園、下水道以外の都市施設、例えば福祉施設や廃棄物処
 理施設などについて、適正な配置を図るため、これらを積極的に取り込み、位置づけ
 ることが必要である。
・市街地やその縁辺部に限らず都市周辺の農山漁村を含む都市圏全体を計画の対象とす
 るとともに、さらに国土全体を通じ都市的サービスの充実を図り、質の高い生活環境
 を実現する方向を目指す必要がある。
・こうした総合的な都市政策の推進を通じて環境問題に対応する視点も重要である。
 

 分りやすく使いやすい都市計画・事業制度の整備















 

・都市づくりには市民の積極的な参加が必要であり、その制度は分かりやすく使いやす
 いものであることが重要である。マスタープランの充実、都市構造再編プログラムの
 公表、地区計画の総合化など都市計画制度の再編成等により分かりやすい制度とする
 方向で見直しが必要である。
・地区の整備方針の実現力を高めるため、機動的な土地利用規制と連動した再開発等の
 事業手法の枠組みが必要である。
・一定のまとまりのある優良プロジェクトについては、それ以外の個別建築と区別し、
 個々のプロジェクトの市街地整備への貢献度を評価して柔軟な規制を行う仕組みの充
 実が必要である。
・主として民間サイドが活用する事業手法についても、相応な強制力を有する一方でよ
 り簡易な使いやすい仕組みが求められている。
・新都市計画法施行後約30年を経て、中期的には、抜本改正も視野に入れた検討が必要
 となっている。
 

 補助金制度・運用の本格的見直し









 

・類似事業をできるだけ幅広く総合化した補助金制度として合理化するとともに、重要
 な政策目的を有するプロジェクトを強力に推進するため、プロジェクトに着目した補
 助金の運用や制度の確立が必要である。
・さらに、地方の自主性を尊重しつつ、国と地方公共団体が共有する政策課題が的確に
 実現されるような方策の検討が必要である。
・また、補助金について、時々の政策課題の実現に効果的に寄与しているかどうか、一
 定期間ごとにその効果把握を行うシステムを確立すべきである。
 

 都市づくり専門機関の確立











 

・国全体の見地から要請される政策課題については、その解決に向けて、一定の地域内
 の行政を担うことを本来的使命とする地方公共団体との適切な役割分担の下に、事業
 実施レベルにおいても国が相応の役割を果たすことが必要である。
・総合的・効率的な都市づくりのためには、様々な基盤を一括して効率的に整備しなが
 ら、民間とうまく連携して建築物整備も一体的に実施する手法が効果的である。こう
 した事業手法を担わせるには、専門能力とともにコスト負担能力も高い公的な機関が
 必要となる。
・こうした機関の確立・整備に向けて国が積極的な役割を果たすべきであり、行政改革
 の趣旨に沿って、既存の機関について、能力を高めつつ適切に活用すべきである。
 

都市づくり産業への幅広い支援












 

・民間のプロジェクトに対して融資、税制など支援手法の充実を図るとともに、プロジ
 ェクト経営の安定化のため、出資、債務保証といった手法の多様化を図るべきである
・特に、都市づくりに要する資金の調達の円滑化を図るため、証券化を推進するための
 方策の充実を図るべきである。
・単に民間事業者だけでなく、地権者等が構成してまちづくりをコーディネートする株
 式会社等への支援を充実も求められている。
・都市づくりは官民の共同作業であることから、公的セクターの立場だけでなく民間事
 業者の立場も考慮して支援の内容を決める仕組みも必要である。
・PFI事業の考え方にみられるように、プロジェクトごとの公的支援の程度や官民の
 役割・リスク等の分担について協定等の形で定める柔軟な仕組みも導入すべきである
 

民間レベルのプランナーの制度的位置づけの明確化






 

・NPOや市民がより主体的に都市づくりに参加するためにも、専門家を適切に位置づ
 け、市民の立場で考えて行政との橋渡しができる人材を増やしていくべきである。
・都市計画の立案過程で住民の考えの取りまとめを支援する民間レベルの都市計画プラ
 ンナーを制度的に位置づけるなど積極的な活用の促進が必要である。
 

 市民と自治体の主体的力量の向上に向けた支援









 

・まちづくり情報センターの整備・充実など市民と行政との情報の交流と共有を強化す
 ることを通じ、都市づくりに取り組む市民への支援が必要である。
・まちづくりのため市民で構成するNPOや協議会組織への支援を通じ、市民のまちづ
 くり活動を促進することも求められている。
・地方公共団体の職員について、研修の実施や、都市計画に関する専門職員の位置づけ
 による地位向上、地方公共団体間の人材の相互融通、都市計画プランナーの活用等に
 より、専門的能力の向上を図るための支援を行う必要がある。
 

 全国を視野に入れた都市整備に関する国の方針の確立










 

・都市整備に関する国の現状認識、整備の目標、政策課題等を整理した全国レベルの方
 針として、例えば「全国都市整備戦略(UDS)」(仮称)を策定し、地方公共団体
 を始めとして広く対外的に公表すべきである。その内容は社会経済情勢の変化に応じ
 3〜5年ごとに見直す。
・中期的には首都圏整備計画など広域的な計画との関係についても整理することが必要
 である。
・また、全国的な見地からの配置が必要な施設の計画上の位置付けについて、国が積極
 的な役割を果たす観点からの検討が必要である。