都市交通・市街地整備部会報告(表紙)に戻る

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U.目指すべき都市のあり方

 1.都市に求められる機能

 都市は、その履歴・地形・生活様式等極めて多様であり、また、時代のニーズに合わせてその姿・内容を改善していくべきものであるが、その基本となる機能は共通に備えるべきものであると考えられる。その機能を性能面から分類し、実現にあたっての取り組みを整理したものを以下に示す。

1)安全な生活空間

地震、火災、水害等の災害に対して住民や財産の安全を守り、都市全体の機能不全を防止するため、都市機能の分散配置、それらを結ぶ交通・情報の多重的ネットワーク、市街地延焼を最小限で留める延焼遮断帯、避難地・避難路となる公園や道路等のオープンスペースの備わった防災性の高い都市構造を構築するとともに、土地区画整理事業等の面的整備による基盤施設の整備、倒壊や延焼の危険性の高い木造建築物の不燃化等により都市の安全性を向上させることが必要である。
また、災害時の地域の避難・救援活動が円滑に進められるよう、オープンスペースに併せて、福祉・医療・行政・避難・備蓄・エネルギー供給等の機能を集約的に配置する防災拠点、物資・人員を確保する緊急輸送道路や各種活動を連携よく進めるための仕組みの構築が必要である。
さらに、依然として1万人にも上る交通事故死者の約4割が歩行者・自転車利用者に集中している現状から、住宅地や都心部の交通安全性を向上させることが必要である。この時、住宅地の歩行空間における賑わいの演出等による防犯性の向上にも配慮することが望まれる。

2)環境と調和した空間

 地球環境問題に対応して、省エネルギー型で環境負荷の少ない都市を形成するため、交通の発生や移動の需要が少ない都市構造への誘導や、公共交通への転換、放射・環状道路の整備による交通流の円滑化等により交通体系の合理化を進めることが必要である。また、電気、ガス等のエネルギーと水資源の効率的利用や廃棄物の円滑な処理を自己完結的に行う市街地の形成を図ることも重要である。
 また、道路交通の沿道環境問題など、都市活動に伴う生活環境への影響を極力抑制するために、都市環境改善のための施策の展開が求められている。
 また、うるおいのある環境を形成するため、ネットワークとして、水や緑の空間を組み込んだ市街地を整備することや、生態系が維持された豊かな自然、農地等の農業環境等を取り込んで、ゆとりのある生活環境を形成することも必要である。

3)都市活力を創出する空間

 経済競争の国際化等により、これまで雇用を支えてきた産業が空洞化する事例も生じている。こうした中で、都市の維持・発展を図るためには、商業・業務、工業、サービス業等の各種の新しい産業活動を創出していくことが必要である。このため、空港、港湾、高速道路等と連携した新しい産業活動、大学、研究所等の学術研究機能、情報、エンターテイメント、文化、コンベンション等の多様な機能の複合的立地を可能とするような新しい拠点市街地の形成が求められている。
 さらに、都市の中心として機能してきた中心市街地については、都心居住の推進、商業機能の再編、生活・交流機能の導入等により、全国や他の都市圏からの来街者を含めた新たな生活・交流の場として賑わい・活力を取り戻すことが必要である。

4)個性的で魅力のある空間

 都市の自立を進めるためには、地域の歴史や文化的な資産等を活用しつつ、住民にとって自らの誇りと感じ、来街者にとって何度も訪問したくなるような魅力ある市街地を形成することが重要である。
 このため、都市そのものが歴史・文化を継承する場であることを認識し、地域の歴史的な文化財、遺跡、街並み等を地域の個性を発信する拠点として、都市整備において積極的に保全、活用することが必要である。さらに、地域の祭りなどの地域文化は市民の郷土意識の醸成に重要であり、都市の要所に祭りの場となり得るような空間を確保することも必要である。
 また、過去の資産の活用だけでなく、今後歴史的な資産となり得るような良質な街並みや空間を形成するため、電線類、広告物、過剰な音や光等の阻害要因を無くしていくとともに、建築物の形態、様式の調和を図ることや、道路、公園等の公共空間と宅地内の私的空間を一体的に計画・整備し、総合的な景観形成を図ることが重要である。
 さらに、今後の住まい方や文化を創造し継承する市街地の形成を図ることも重要であり、新しいエンターテイメント、芸術、学問等が生み出される場を確保したり、公共空間や公共建造物により都市のシンボルを形成することも求められている。

5)多世代が安心して便利に暮らせるコミュニティ空間

 高齢者の社会参加や生活者相互の交流の機会を確保するため、多様な移動手段を提供するとともに、都市の要所に広場、公園等の公共空間や教育、文化、福祉等の各種生活サービス施設の確保することが必要である。
 コミュニティ圏毎に、まとまったコミュニティを形成しやすくなるよう、これら施設は可能な限り集約立地することが望まれる。
 また、中心市街地は、都市全体の交流の場として、これら施設のセンター機能が立地することが望まれるが、特に、福祉・保健施設等の中心市街地への立地は、公共交通のアクセス確保、市街地のバリアフリー化や高齢者向け住宅の供給と相まって、福祉社会の中心的拠点の形成に資するものとして重要である。
 さらに、少子化のなかで、安心して子供を産める環境づくりのため、公園等の遊び場、保育所等の児童施設を身近に確保することや、若者や高齢者の単身世帯、ファミリー世帯、三世代世帯等の多様な家族形態に対応した住宅の供給が必要である。

6)人や情報が交流する空間

 高度情報化社会の到来を迎え、人々が集い語らうことや、都市生活や都市活動に必要な情報が双方向あるいはネットワークとして行き来する空間が必要である。
 このため、人々の交流の場となり、イベントが催される場ともなる公共的な広場や空間が必要である。さらに、情報提供等を行う場となる情報センター、情報ボックスや下水道管中の光ファイバーを中心とした情報ネットワーク、街なかでの情報の拠点となる情報ターミナル等の情報基盤が必要である。
 また、都市や周辺地域に関する情報を収集し、加工し、提供するシステムも併せて重要である。

 2.都市の将来像

 これからの国土構造を、大都市を含めた水平的ネットワークとして構築するため、拠点都市圏として地方中枢・中核都市圏を育成・発展させることが必要である。また、地方中小都市は、この拠点都市圏の周辺にそれぞれの地域の核として存在し、相互に連携・交流する構造を構築することが必要である。大都市圏は、安全性や環境の改善を進めつつ多核型の都市構造に変革することが必要である。
 これらの実現にあたって、それぞれの都市や都市圏は将来像や整備の方針を自ら策定して整備に取り組み、国は、それら地域の取り組みを望まれる方向を踏まえて支援することを役割とすべきである。
 ここでは、支援施策を含めた今後の市街地整備と都市交通の施策を検討するに当たって、全国で比較的共通すると考えられる都市の将来像を、望まれる方向性に留意しつつ想定した。
 なお、このことは、各都市が全国一律の将来像を持つべきことを想定しているものではなく、それぞれの都市が、例えば歴史的街並みの保全等その地域の特性や個性にふさわしい将来像を自らもつべきことは言うまでもない。

 (1)大都市圏

 大都市圏では、人口や諸機能の集中に変化の兆しが見え始め、郊外都市間の関係が深まる傾向にある。また、大都市においては、通勤時間帯の混雑緩和や職住の近接により、生活にゆとりを持ち高次な都市機能を享受できる都市的生活が望まれている。
 このため、多核型の都市圏の形成を進めることを基本とすべきである。大都市圏は世界の都市間競争に対応し24時間の経済活動を支える重要な都市圏であることから、戦略的な市街地整備により、土地の有効高度利用及び情報・国際交流機能の整備を推進し、高次の都心を育成することが必要である。一方、快適で機能的な都市生活を実現するため、業務核都市やその他生活の核となる都市等の連携による拠点的な都市連合を育成し、都市間双方向の連携・交流によるネットワーク構造の構築が必要である。
 さらに、効率的な都市活動を支えるため、鉄道や都市高速道路を始めとする幹線道路のネットワークが放射・環状型に配置され、郊外部の鉄道駅へのアクセスも確保された交通体系を形成することが必要である。このとき、新たな市街地の形成は、鉄道駅を核とした極力コンパクトなものとし、無秩序な拡大につながらないような配慮が必要である。
 なお、空間制約への対応や良好な環境の形成といった観点から、都心部での積極的な地下利用や交通需要管理施策(TDM施策)等の自動車交通の適正化施策の導入検討を進める必要がある。
(注)
TDM施策(Transportation Demand Management):自動車利用者の交通行動の変更を促すことにより、都市または地域レベルの道路交通混雑を緩和する手法。

 (2)地方都市圏

 地域連携による都市活動の広域的有機的な役割分担を実現し、自立的経済圏の形成を支える都市機能と交通環境の向上が課題となっている。また、快適で豊かな都市生活を実現するため、自然的環境と都市的利便性を同時に享受できることが重要である。
 このため、既成市街地の改善と地域連携を支える情報や交通の基盤となる施設の整備に加え、郊外部の多自然型居住地域の都市サービスの確保が必要である。

1)地方中枢都市及び地方中核都市

 地方中枢都市と地方中核都市の一部は、今後の人口や諸機能の一層の集中が予想される都市であり、地域連携の核となる都市として、高次な都市機能の集積・強化が急がれる。また、都市のゆるやかな拡大が想定され、周辺部に各種機能が立地する傾向もあるが、これまでの大都市の経験を生かし、エネルギー効率が高く福祉を始めとする生活サービスを受けやすい都市とするため、極力市街地の拡大を抑え、中心部に機能集積する形の都市構造とすることが望まれる。
 このために、地域の人々の交流の場の中心として、都市機能が立地する都心部や拠点市街地の形成、都心居住の推進や公共公益施設の立地誘導、魅力創出のための公共空間の充実等による都心構造の強化と合わせ、都心へのアクセス改善のための交通体系の整備が必要である。
 また、都市機能の効率的な充実と豊かな都市生活を実現するため、都市活動の柱となる幹線道路網や通勤交通に対応した公共交通の確保が求められる。特に、需要の高い区間において、中量軌道系の公共交通機関を導入することが望まれる。この際、土地の高度利用が進んでいる都心部や、街並みと調和した整備が望まれる地区においては、地下空間の活用にも留意する必要がある。

2)地方中小都市

 地方中小都市は、周辺の地域に都市的サービスを提供する拠点として機能することが期待されているが、その商店街等の中心市街地の多くは、自動車利用の進展に十分に対応できなかったことから、各種施設の郊外立地や移転等によって都市機能の存続が危機的な状況にある。この規模の都市は、今後、いくつかの政策の選択肢が想定される。すなわち、
イ)大規模店舗の郊外立地や都市機能の近隣都市への依存が一層進んでいく選択肢
ロ)住宅政策による夜間人口の回復とそれを支える都市基盤の整備により、身近な近隣商業機能の回復を図ろうとする選択肢
ハ)抜本的な既成市街地の再生・再構築により、都心居住の推進、生活関連の公共公益施設の立地促進、魅力ある公共空間の充実等を進め、周辺地域へのサービスを含めた中心性を高めようとする選択肢
ニ)既存の中心市街地の隣接地区に、既存商業機能の展開の受け皿となる新しい商業・住宅等の市街地を整備するとともに、既存の中心市街地を段階的・漸進的に再生を図ろうとする選択肢
 どのような将来像を目指すかは、それぞれの都市の選択に委ねられるが、中心市街地の再生は、都市活性化の切り札になり得ること、今を逃しては成立し得ないことに留意し、都市整備を進める必要がある。
同時に、地方中小都市は、自動車による交通サービスが中心であり、広域交通体系と整合した幹線道路網の形成に努める必要がある。