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V.市街地整備のあり方及び推進方策

 第二次世界大戦以降の高度経済成長期を通じて、都市への人口や経済の集中による急激な市街化の圧力に対応して、新市街地での住宅宅地供給やスプロール市街地の環境改善を図る土地区画整理事業、及び都心部や駅前での土地の高度利用を図る市街地再開発事業等が進められてきた。
 経済が安定成長に移行し大都市圏への人口移動も終息しつつあり、全国の人口増加も21世紀初頭に頭打ちになる見通しの中で、今後は、都市での生活のあり方や住まい方に対応した市街地整備を図る必要がある。

  1.総合的な市街地整備のあり方

 社会経済の安定成長が基調となる今後は、国民の生活充実への志向や事業の効率的実施への要請に対応し、市街地整備を通じた土地の有効高度利用や適切な土地利用の実現を図るため、市街地整備の重点を、新市街地の整備等から既成市街地の再生・再構築に移すことが必要である。特に、地方都市の中心市街地の再構築、密集市街地の整備及び大都市の中心市街地の再整備を推進することが重要である。
 また、新市街地の整備についても、大都市等の住宅宅地供給は鉄道新線沿線等の交通体系と一体的な事業に重点を絞っていくとともに、都市構造の再編や地域の活性化を図るための大規模遊休地等において民間活力を活用した拠点市街地の形成、田園地域における土地利用の整序や多様な居住環境を備えた住宅市街地の供給等に重点を移行していくことが必要である。

 (1)既成市街地の再生・再構築

 大都市、地方都市を問わず既成市街地においては、中心市街地における空洞化や低未利用地の散在、密集市街地における建物の老朽化、高齢化と相まった都市災害に対する危険性の増大等の問題を抱えている。21世紀を目前にして、真に豊かな生活環境の実現を図るため、中心市街地をはじめとする既成市街地を、今までに蓄積した社会資本ストックを活用しつつ土地の有効高度利用と都市機能の集積を進め、多世代が安心して住め豊かな都市生活を実現する場として、また地域交流や地域経済を支える空間として、新たなビジョンのもとに再構築することは、市街地整備上の緊急の課題である。

1)地方都市の中心市街地の再構築

 地方都市の中心市街地は、魅力の低い市街地環境、駐車場・アクセス道路の不備等により、郊外への大規模商業施設の立地や官公庁施設や文化施設の流出があいまって、人通りの減少と商業活力の低下が進行している。この結果、空き地・空き店舗の発生、夜間人口の減少と高齢化率の上昇が進んでおり、まちの顔となる中心市街地が危機的な状況で、ひいては都市の存続自体が危うくなることが懸念される。一方では、住民が個々の生活設計に応じて土地利用に関する多様な意向を有している。
 このような中心市街地について、住宅の整備による夜間人口の回復、都心環状・アクセス道路、駐車場や公共交通の整備による都心アクセスの改善と都心部の各種施設を結ぶ歩行空間の整備、広場、交流施設、生活関連公益施設又は都市型観光を支援する施設等人の集まる仕組みの整備により、生活交流都心として再構築する必要がある。また、地域の連携の核となる中心市街地においては、高次の業務、商業・サービス、文化等の機能を導入することも必要である。
 中心市街地に関する行政、市民、商業者が将来像を共有し、一丸となってその改造に取り組むことが必要であり、生活設計を生かした柔軟な市街地整備手法や、社会福祉、教育、文化、都市型観光、商業、工業等の関連施策との連携と、住宅、公益施設、交通体系整備事業の重層的実施が必要である。
 整備のあり方としては、@中心市街地の街区の抜本的な再構築と合わせて生活・交流等の施設の立地を図る再構築型の土地区画整理事業、A中心市街地に隣接して受け皿となる市街地を整備し既存商店の新規展開と商業・生活・交流等の新規立地を図る展開型の土地区画整理事業、B中心市街地で計画的に適正規模の事業を段階的に推進する段階整備型の市街地再開発事業などを、地区の課題と住民の意向に応じて適用していく必要がある。

2)密集市街地の整備

 大都市や地方中枢都市等においては、戦後の高度経済成長期等に形成された密集市街地が広範囲に存在している。これらの密集市街地は、木造建築物が高密度に立ち並び、道路も多くは4m未満と狭隘で、さらに建て替えが困難なため老朽化が進展するなど、火災、地震等の災害で大きな被害が予想される防災上危険な市街地となっている。
 この密集市街地を安全な生活空間として整備するため、広域的な避難路・避難地としての機能を有する都市の骨格を形成する幹線道路、大規模公園等の整備を進めてきたところである。今後は、これら整備と併せて、地区内の避難・延焼防止等の防災機能を担う区画道路、公園等の公共施設の整備と老朽建築物の更新による不燃化、また、地域の防災拠点となる避難、福祉、医療機能等を集約立地した防災安全街区の形成を推進することが必要である。
 これらを実現するためには、災害危険度の判定・公表等により戦略地区を抽出し、その地区の住民の防災まちづくりに対する意識を高揚することにより、公民協同による将来像の策定とその実現が必要である。このため、住民主体のまちづくり活動への支援、柔軟な用地の先行取得、従前居住者への対策、福祉施策等との積極的な連携を図る必要がある。
 整備のあり方としては、@防災拠点形成型の市街地再開発事業、A幹線道路の整備に合わせ沿道の不燃化を誘導する広域避難路整備型の土地区画整理事業、B区画道路、小公園の整備や防災安全街区の形成を図る地区基盤整備型の土地区画整理事業、C道路の隅切り及び敷地の入れ替えと共同化を図る修復型の土地区画整理事業、D細街路、小公園等の階段的整備と民間の建築活動の規制、誘導などを行う防災街区整備地区計画等による誘導型の整備を、地区の課題と住民の意向に応じて組み合わせて適用していく必要がある。
(注)
防災街区整備地区計画:密集市街地において、道路等の公共施設の整備とその沿道における耐火建築物の建築を誘導することにより、防災機能の確保と土地の合理的かつ健全な利用を図るため、地区の防災機能の確保に資する主要な公共施設や建築物の防火上の構造制限等を特別に定める地区計画制度。

3)大都市の中心市街地の再整備

 大都市の中心市街地は、空地等の散在、夜間人口の減少と高齢化の進展が進んでおり、コミュニティの崩壊と生活環境の悪化が進んでいる。生活環境等の再生に向けて、土地の有効高度利用を図りつつ都心居住を推進することが必要であり、これらは遠距離通勤の解消と都市構造の再編にも資するものである。
 このためには、市街地整備事業による土地の集約と街区の再編を図るとともに、住宅整備事業の重層的実施が必要である。
 整備に当たっては、@都市基盤が整備済みで低未利用地が散在する地区では、換地による敷地の集約化と土地の高度利用を主眼とする敷地整序型土地区画整理事業、A幹線道路は整備済みだが細街路が多く、低未利用地が混在している地区では、区画道路の統廃合・小規模に分割されている街区の再編と敷地の集約化を行う街区再編型土地区画整理事業、B細街路で中・小規模に街区が分割されている地区について、幹線道路の整備と大街区の都心居住市街地等を形成する大街区形成型土地区画整理事業などを、地区の特性に応じて適用する。
 また、土地の有効高度利用を進めるため、地下空間を活用した公共公益施設の整備を推進するとともに、公共施設の整備に併せて市街地再開発事業や幹線道路沿道の一体的整備を推進する必要がある。
(注)
換地:土地区画整理事業において、施行主体が、個々の地権者の所有又は借地する事業前の土地に換えて事業後の土地を交付すること。

 (2)拠点市街地の整備

 大都市の拠点市街地については、多核多心型の都市構造の核として、大規模遊休地等を活用し、中枢管理、情報、国際交流等の高次都市機能や業務、商業、文化の諸機能を複合的に併せ持つ総合的な拠点市街地を整備するとともに、多心型の都市構造を支える2次的拠点として、鉄道駅等の交通結節点周辺に、文化、教育、福祉等の生活支援機能を柱とする生活拠点市街地を整備することが必要となっている。また、併せて、これらの拠点市街地やその周辺地域に住宅機能を立地させることにより、拠点市街地の成立と成熟を支援することが必要である。
 さらに、地方都市の拠点市街地については、地方拠点都市法に基づく拠点地区をはじめとする各都市の整備・活性化計画に基づいて、新しい産業の振興、文化の創出や交流の促進を図る。このため、高速道路のインターチェンジや整備新幹線新駅等の高速交通体系整備のインパクトを活用するとともに、鉄道駅周辺の遊休地の有効利用を図りつつ、情報、交流等の高次都市機能と業務、商業、文化の機能を有する複合機能拠点市街地を整備することが必要となっている。
 これら拠点市街地の整備に当たっては、大規模な遊休地の土地利用転換を推進するため、土地利用計画との連携、連動を推進するとともに、産業、文化等の関連施策との連携による拠点機能の立地・誘導を図る。この際、既成市街地との連携や既成市街地の再生・再構築への貢献等に配慮する必要がある。
(注)
地方拠点都市法:「地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律」(平成4年6月公布)の略称。地域の都市機能の増進、居住環境の向上、産業業務施設の再配置を促進し、地方の自立的成長と国土の均衡ある発展を図るもの。

 (3)田園市街地の整備

 市街化調整区域において、田園地域での都市的土地利用と農業的土地利用の混在が進むとともに、幹線道路の沿道地域への日用品店舗やドライブイン等の無秩序な立地が進展しており、土地利用の整序を図ることが必要となっている。また、農山村地域の活性化、自然や農業活動を享受できる多様な居住環境の創出等、田園地域における新たな都市的土地利用のニーズへの対応も必要となっている。
 田園地域での土地利用を整序するため、集落整備法による事業の実施要件の緩和、支援の充実を図るとともに、土地改良事業等により創出される非農用地の秩序ある利用促進のため、土地区画整理事業と合併して事業を実施する方策の確立を図る必要がある。また、市街化調整区域の幹線道路の沿道地域において、土地利用の整序を図るための土地区画整理事業を推進することが望まれる。
 さらに、農山村地域の活性化、多様な居住環境を備えた住宅市街地の供給を図るための田園地域における新たな整備手法を検討する必要がある。
(注)
集落整備法:「集落地域整備法」(昭和62年6月公布)の略称。集落地域について、農業と都市の土地利用の整序と基盤施設を整備することにより、農業の生産条件と都市環境との調和のとれた地域の整備を図るもの。

  2.市街地整備推進の基本的視点

1)公民の合意プロセスの重視

 市街地整備に際しては、都市計画や個々の事業の実施の手続きにおいて、これまでも住民意見の聴取や反映を行ってきたところである。しかしながら、それぞれの市街地が様々な課題を有する一方、身近な環境に対する関心が高まっている中で、住民もまちづくりに対して様々な考え方を有するようになっており、これまで以上に合意形成のプロセスを重視する必要がある。

2)市街地整備に関するルールの確立

 市街地整備の実施に際して、行政と住民や整備主体としての民間企業との間において、事業の主体や負担等のルールが明確でなく共通の理解がないことから、市街地整備の方向性が合意されていても、具体的な事業内容に検討が移った段階で相互の調整がまとまらず、事業の実施が遅れたり困難になる場合がある。
 例えば、広域的な幹線道路は公共が負担することが明確になっているが、地区内の道路は負担のルールが不明確であるため、市街地整備の実施段階で争点となる場合が多い。これらのうち、宅地回りの区画道路等のように住民が負担と義務を負うことをルールとして確立すべきものがある。
 このため、公民協同の取り組みにより市街地整備を円滑、公平に推進するには、整備や管理にあたっての主体や負担のあり方等に関するルールを明確にした上で広範な理解を得ることが必要である。
 また、我が国においては合意形成に関するルールが確立していないため、住民の大多数が合意していながら事業着手に至らないことがある。このため、市街地整備の実施にあたって、どの段階で住民合意と見なすかというようなルールをあらかじめ決めた上で調整・協議を進めることが必要である。

3)整備手法の充実と改善

 土地区画整理事業においては、地震や戦災からの復興事業、戦後の急激な都市化に対応した住宅宅地の供給など、市街地再開発事業においては、土地の高度利用による中心市街地での機能更新と既成市街地の防災性の向上など、これまで、その時代の市街地整備のニーズに的確に対応するため、法改正や事業制度の充実等を実施してきた。
 今後、既成市街地の再生・再構築等に重点を移していく中で、様々な課題や住民の意向に柔軟に対応することがより重要となってくる。また、公民協同のまちづくりを進めるにあたっては、行政と住民や民間企業との意見交換の中から十分な調整を図り、整備手法を決めていくことが必要である。
 このため、多様な整備が可能となるよう、整備手法の多様化・柔軟化や基準の弾力的な運用が必要となっている。

4)関連事業の重層的実施、施策連携

 @建物整備施策との連携
 既成市街地の再生・再構築においては、道路、公園、下水道等の公共施設の整備にあわせ、地域の将来像に合致し土地利用が一体的に進められることが望ましい。特に、地方都市や大都市の中心市街地及び新しい拠点市街地においては、大規模遊休地や散在する低未利用地を有効活用することが必要である。また、密集市街地においては、住民の生活再建が同時に進められる必要がある。
 これらをより着実に実現していくためには、建物整備のための各種施策及び事業を連携して実施することにより、基盤整備と建物整備が一体となった総合的なまちづくりを推進することが一層重要である。
 例えば、既成市街地においては都市型住宅等の居住者のニーズに合った住宅を供給することが求められており、また、密集市街地対策においても、建築物の規制・誘導施策と併せて各種建物整備施策や住宅整備事業等を活用することが必要である。
 A公益施設整備施策との連携
 これまで市街地整備は、道路、公園、下水道等の公共施設と小学校等の義務教育施設の整備・立地を基本として進められてきた。一方で、社会福祉施設、文化教育施設等の生活関連の諸施設は、市街地整備の計画と連携なく、郊外部等に無秩序に立地することが多くなっている。
 このため、市街地整備施策と、社会福祉、教育・文化、観光等の生活関連施策との連携によるまちづくりシステムを確立し、総合的なまちづくりを推進することが求められている。

5)広域レベルと地区レベルの調和

 我が国の都市の多くは市街地の骨格となる幹線道路等の基盤が未だ不十分であり、都市レベル及び広域レベルで必要となる施設の整備を進めることが重要である。また、都市間や地域間の競争と連携・交流の時代を迎えて、広域的な影響を有する交通結節点や拠点市街地等のように、地域全体のために行われるべき市街地整備もある。
 一方では、地区レベルのきめ細かなまちづくりに対する住民の関心が高まってきており、身近な生活環境の整備改善も重要となっている。
 このため、これからの市街地整備においては、こうした広域レベルの都市整備と地区レベルのまちづくりについて、計画段階から事業段階まで十分に調整を図り、両者の調和のとれた市街地整備を進めることが必要である。

6)地域のマスタープランの充実

 既成市街地の再生・再構築をはじめとする市街地整備を推進するため、行政と市民・住民との間で、問題意識の共有と市街地の将来像に関する共通の理解を図るとともに、地区別の整備手法についても十分な調整を図ることが求められている。このためには、市街地の将来像及び整備手法を内容とする地域のマスタープランの策定を推進することが重要であり、この観点から市町村マスタープランを充実・強化することが必要である。
 地域のマスタープランの策定とこれに基づく市街地整備や都市基盤施設整備について、地域住民等の理解と協力を得て効率的に進めるためには、市民・住民から見てわかりやすい形で、市街地の有する課題や望まれる将来像を評価する手法や表現する方法の開発が必要である。
 具体的には、都市内道路等の生活環境に関連する都市基盤施設の水準により市街地の空間を評価する整備指標を確立し、これを活用して地域の課題や事業実施の効果をわかりやすく示すことにより、都市内道路整備や市街地整備について市民・住民との円滑な意見交換、調整を図ることが望まれる。また、マルチメディア等を活用して、市街地の現状や将来像を理解しやすい形で表現するとともに、将来像の一部を変更した場合の意味合いがイメージできるような技術の開発が必要である。
 さらに、周辺の地域に大きな影響を及ぼす大規模な土地利用の変更が計画、実施される際には、交通面での影響についても評価し地域のマスタープランに適切に反映することが必要である。

  3.具体的施策と推進方策

 (1)公民協同のまちづくりシステムの確立

 公民協同のまちづくりを推進するため、情報の提供、意見交換の機会等を充実して、行政と住民との間で問題意識の共有を図ることが重要である。また、この意見交換等を通じて、行政と住民が市街地の将来像について共通の理解を有するようになるとともに、整備手法についても十分な調整を図ることが必要である。
 このため、木造密集市街地における災害危険度の判定と公表など市街地の現状と課題を公表し、行政と住民との対話の契機とする。また、住民提案型の市街地整備を進めるため、協議会方式のまちづくりを推進することとし、地方公共団体の都市整備公社・まちづくりセンターを設立・充実して協議会への支援を強化することが必要である。さらに、NPO等専門家の集団や地域のまちづくり活動主体などの自主的なまちづくり支援の取り組みとの連携を図ることも重要である。
 これらの取り組みにより、行政と住民との意見交換及び共通の理解の形成等を推進するとともに、地域の将来像の実現と住民の生活設計が連動したまちづくりを推進する必要がある。
(注)
都市整備公社・まちづくりセンター:建物の規制誘導や土地区画整理事業、市街地再開発事業等による都市整備について、住民に対するPRや相談への対応、事業に係る生活再建、計画や事業に係る調整等を行う組織。

 (2)市街地整備主体の充実

 地方都市の中心市街地の再生、密集市街地の整備、大都市の中心市街地の再整備、鉄道新線沿線での新市街地の整備など多様な市街地整備を推進する必要があり、その中心的な担い手である地方公共団体と、国、民間企業、住民が、それぞれの役割に応じて、市街地整備を推進することが必要である。
 このため、都市整備を進める上で、まちづくりのノウハウと都市経営的な発想を充実・強化していくことが必要であり、地方公共団体における人材の育成、民間企業の都市開発・再開発に対する意欲やノウハウの誘導・活用を図るとともに、都市整備に専門的知識や経験を有する住民が自らのまちの整備に参画する機会を増やすことが重要である。また、土地区画整理事業や市街地再開発事業等において、住民が共同で行う個人施行や組合施行の事業を推進するとともに、既成市街地等において、住民が共同でまちづくりを行う組織や都市整備に関連する民間企業の活用を図る必要がある。
 さらに、国土政策、地域政策の実施の柱となる大都市圏の構造改編や地方都市の活性化対策等に係わる市街地整備について、まちづくりの経験が豊富でノウハウや人的資源を有する住宅・都市整備公団、地域振興整備公団等を積極的に有効活用していくことが必要である。

 (3)市街地整備手法の多様化・柔軟化

 既成市街地の再構築をはじめとする地域の特性、課題に対応して、計画、設計、事業の進め方等について柔軟かつ多様な取り組みが必要である。
 このため、土地区画整理事業において、歴史的地区等の除外・穴抜き等の柔軟な事業区域の設定、合意形成に基づく柔軟な換地による敷地の入れ替えや集約化の推進、敷地の集約化と合わせて道路の角切り等の公共施設整備を行う事業の実施、地域の実状に応じた設計標準の確立と運用の弾力化を推進することが必要である。
 また、良質かつ低廉な共同住宅等の供給を促進するため、土地区画整理事業区域への定期借地権の導入を図るほか、定期借地権を活用した公共的施設整備についても検討を進める必要がある。
 さらに、市街地再開発事業において、近年の経済情勢に伴う商業やオフィス床需要の減少などの変化に対応するため、地域の床需要の実状に応じ、比較的小規模な再開発を段階的に行う事業や住宅、公益施設を中心とした事業を推進する必要がある。

 (4)関連施策との連携による総合的なまちづくりシステムの確立

1)土地利用計画との連携・連動方策の確立

 市街地整備に当たり、住民のまちづくりへの参加に加え、民間開発者のノウハウ、開発意欲を活用することが望まれる。特に、民間開発者が事業参画を判断する際に、土地利用計画を中心とする都市計画の決定、変更の可能性がポイントの一つとなっており、事前明示性の向上が求められる。
 これらの場合、原則として市街地整備事業等により市街地の質が向上することを前提として、土地利用転換を誘導するインセンティブゾーニングを連動して活用することが有効である。
 このため、土地区画整理事業と地区計画など土地利用計画との連携、連動方策の確立について検討を進める必要がある。
(注)
インセンティブゾーニング:土地利用転換や基盤整備等の状況に応じて、用途容積制限を緩和することにより、特定の施策目的を誘導すること。

2)福祉・教育等生活関連施策との連携

 市街地整備事業の実施に併せ、福祉、文化等の各種の公益施設整備施策等と連携・共同して、総合的なまちづくりを推進するため、地方公共団体の市街地整備担当部局と関連部局間で、協議会等の場を確立し計画段階から十分な連絡調整を図るシステムを確立することが望まれる。また、国レベルにおいても、地方公共団体の総合的まちづくりシステムの確立を支援するため、調査から事業推進にいたるまで連携の強化を図るとともに、新規施策立案についても連携を強化する必要がある。

3)整備プログラムに基づく実施

 広範囲に拡がっている密集市街地等の整備をより効率的、効果的に推進するためには、地域の様々な実状に応じて、住民の合意形成を図りつつ、様々な手法を組み合わせ、重層的、段階的に実施していくことが必要である。すなわち、都市基盤施設の整備や、土地区画整理事業、市街地再開発事業等を手法の多様化、柔軟化を図りつつ推進するとともに、小公園等の小規模な公共施設の段階的整備やこれと併せた民間の建築活動の規制・誘導施策などの手法を活用し計画的に実施することが必要となる。
 また、大都市の中心市街地の整備、地方都市の中心市街地の再構築にあたっても、公共、住民、民間企業等のそれぞれが行う事業等を調整し組み合わせて、計画的に実施することが重要である。
このため、各種事業等の整備プログラムを公民協同の取り組みで策定し、これに基づき計画的に事業を推進する必要がある。

 (5)新たなニーズへの対応

1)アーバンデザイン手法の導入

 土地区画整理事業は、総合的な都市基盤整備の推進により、健全な市街地の整備に多大な貢献してきたが、一方、設計が画一的で、個性のない単調な街並みになるという指摘もなされている。これまでも、デザインに配慮したまちづくりに取り組んできたが、ストリートファニチャー、植樹等の表面的なデザインが中心であり、今後は、まちづくりの骨格を決める街区設計及び統一的なまちなみの整備をはじめとして、総合的にデザインすることが必要となっている。
 このため、アーバンデザイン手法をより一層導入することとし、街区設計に関する区画整理の設計標準等を見直して多様化を図るなどの取り組みを推進する必要がある。
(注)
ストリートファニチャー:道路空間に置かれる「家具」のような街灯、ベンチ、彫刻など。
アーバンデザイン:都市空間の総合的なデザイン。道路等の公共空間及び建物等の民地空間対象とし、配置・構成等の計画段階から舗装材や植栽等の仕上げまで幅広くデザインすること。

2)環境・エネルギー対策等の新しい技術を組み込んだ市街地整備の推進

 地球環境・エネルギー問題、廃棄物処理問題、防災性の向上、情報化等の課題に対応するための個別技術開発が進められているが、これらの成果を現実の市街地に導入し、定着を図ることが必要である。
 このため、環境・エネルギー対策、廃棄物等の輸送、情報ネットワーク、地下空間を利用した物流ネットワークシステム等の最新の先端技術を複合・統合化し新たな都市システムとして確立するとともに、パイロット事業として具体の市街地整備に導入することにより、これらの技術成果の定着した次世代市街地の開発・整備を図る必要がある。
 また、下水・河川水・海水等の未利用エネルギーを有効活用するため、地域全体の省エネルギー、省資源を図る地域冷暖房をシステムの改善を図りつつ導入促進することが必要である。