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W.都市交通のあり方及び整備推進方策

 都市化の進展や自動車利用の増大に伴い都市交通需要は急激に拡大し、施設整備はその対応に追われてきた。都市型社会を迎え、新たな都市のあり方に対応した都市交通の再構築が必要である。

 1.都市交通施策の基本的方向性

1)利用者からの発想(モビリティの確保)と生活者からの発想(良好な環境の形成)

 国民の価値観・行動の変化などに伴い、都市交通の面でもニーズの高度化・多様化が顕著になってきており、人及び物の観点から都市交通を捉え直すことが重要となってきている。すなわち、多種多様な需要に的確に応えるようモビリティを確保することが必要であり、特に、高齢者や交通弱者が自立して行動できるような移動手段の提供は、その社会参加を支え、活力ある社会を実現・維持するためにも重要である。
 一方、利便性の追求の結果生じている過度の自動車利用や少量多頻度輸送、路上駐車や放置自転車等は、地球環境の保全や良好な生活環境の形成といった生活の向上にとって大きな課題となっている。このため、利用者の論理だけで都市交通施策を決定するのではなく、このような影響を的確に評価して、生活者の視点からも考える必要がある。

2)都市交通のサービス水準と負担の関係の明確化

 都市交通サービスの提供はコストを伴うものである。都市交通サービスの高度化のための施策、例えば自動車交通に対して円滑なサービスを提供するための自動車専用道路等の幹線道路の整備、高度な都市交通サービスを提供するためのミニバスやライナー列車の運行等は、施設の充実や管理水準の高度化等の直接的なコストはもちろんのこと、空間の確保や環境の保全のための社会的費用も増大する場合がある。
 このようなコストの増加に対し、受益と負担を一致させ公平な社会を実現するという観点から、誰がどのように負担するかが大きな課題である。
 以上のことから、都市交通が提供するサービス水準と社会的コストも含めた負担の関係を広く国民に明らかにすることが必要である。このことを通じ、利用者の負担や交通行動の規制等を含めて、都市交通のあり方についての社会的合意を形成していく必要がある。
(注)
ミニバス:小型のバスを使用し、路線延長やバス停間隔を短くしたり、多頻度運行すること等に より、一般の路線バスに比べてサービスを向上させたバス。
ライナー列車:朝夕の通勤時間帯において、着席を保証する乗車券(通称「ライナー券」)を有 する客が乗車できる列車。

3)施策の総合的な展開

 利用者及び生活者の発想を両立させるためには、多様な交通手段が適正に選択され、また組み合わせることが不可欠であり、投資の効率性の観点からも、施策の適切な選択を行うことが重要である。
 例えば、交通圏毎に都市交通の目標を明確にし、自動車と公共交通の共存のもとに、既存ストックの有効活用の観点から様々な都市交通施策を総合的に展開することが必要である。また、高度化・多様化した都市交通ニーズに応えながら、効率良く需要を満たすためには、ハード施策(施設整備)とソフト施策(適正運用)の連動による都市交通体系の形成が必要である。すなわち、単に需要に応じて施設整備を進めるのではなく、オフピーク通勤や自家用車の相乗り促進等のTDM施策による都市交通需要の適正化や土地利用施策との連携を進めることが重要である。

4)広域レベルと都市・地区レベルの調和

 都市や地域は自然的・地形的条件、歴史・文化、都市圏や交通圏の中に占める位置付け等、様々な要素が組み合わさって形成されているため、求められるあるいは実現すべき都市交通サービスや態様は、その都市や地区に応じて異なるものである。
 一方、都市や地域の将来像の実現にあたっては、複数の道筋の中からの選択が可能となることが望まれており、都市交通施策も例外ではない。このため、地域自らが具体的施策を選択し、国が国家的見地から制度的・財政的な面で支援する、という観点で都市交通施策を展開していく仕組みを構築すべきである。
 さらに、日常的な都市交通が行政界を超えて展開していることから、都市交通施策は広域的な交通圏として整合の取れたものとする必要があり、各都市や地区レベルの交通計画は、広域レベルの交通計画との調和を求められることに注意することが重要である。

 2.総合的な都市交通のあり方

 都市交通には、徒歩、自転車、自動車、公共交通機関等の様々な手段があり、出発地から目的地までの移動は、これらの手段が連続的につなぎ合わさって行われている。このことから、都市交通施策を実施するにあたり、これら手段がそれぞれに充実したものとなると同時に、都市レベルや地区レベルで適切に組み合わされ、総合的なシステムとなることが重要である。
 このため、以下では、交通手段毎にそのあり方や主要なポイントについて整理した上で、総合的な都市交通のあり方について、地区の特性や都市の規模等に応じて整理する。

 (1)歩行者・自転車交通のネットワーク形成

 移動の基本である歩行は、高齢者等のモビリティを確保するうえでも重要であり、また、自転車交通は、通勤・通学の際の駅へのアクセスや買い物等近距離の移動における重要な交通手段である。我が国においては、ともすると短距離の移動でも自動車を利用する傾向が見られるが、今後、これらを省エネルギーや健康志向の交通手段として一層の利用促進を図る必要がある。一方、歩行者・自転車は、交通事故死者数の約4割を占めており、安全確保が緊急の課題である。
 このため、歩行者・自転車のネットワークを極力広幅員で連続的に確保することにより、安全性、快適性を向上させることが必要である。特に、高齢者や障害者にとって、移動の制約のない連続した歩行空間を提供するため、歩行者・自転車動線において幅の広い歩道等の整備によりバリアフリー化に努める必要がある。この際、歩道部では、車道との高低差を小さくすることや、歩道面の傾斜・勾配を緩やかにすること等により平坦な動線を確保する。
 また、多様な利用者に安全で快適な空間を確保するため、特に、以下の点に留意し整備を進める必要がある。
イ)歩行者動線の節となる箇所にたまり空間の整備を、自転車が集中する区間では歩行者空間と自転車空間の積極的分離を進める。特に、都心部や駅周辺などの歩行者・自転車の集中する地区においては、民地や建物を立体的に活用することなどにより、公共的空間を生み出し、効果的にネットワークを整備する。
ロ)地方都市においては、地域の活性化の観点から、都心部に快適な歩行者空間を創出する。特に、公共交通サービスと歩行者空間を共有することが適当な場合には、沿道への自動車のアクセス性を確保するための裏道や駐車場整備等の措置と合わせてトランジットモールの整備を図る。
ハ)駅前や商店街等の歩行者が集中する地区において、利便性、快適性の向上を図るため、動く歩道等の短距離交通システムの導入、交通情報や都市情報等の提供システムの整備を推進する。
ニ)放置自転車対策と自転車の利便性向上のため、放置自転車の規制と相まった自転車駐車場の整備を進めるとともに、都市型レンタサイクルなどを活用した、自転車の新たな利用システムを推進する。
(注)
トランジットモール:自動車を排除して、歩行者専用空間としたショッピングモールに、路面電 車、バス、あるいはトローリーバス等路面を走行する公共交通機関を導入した空間。

 (2)公共交通の「都市の装置」としての整備

 公共交通は、一定の需要がある地域や区間では、一般に通勤・通学等の大量の交通を処理できる、定時性に優れた輸送効率の高い交通システムであると同時に、交通弱者にとっても不可欠の移動手段である。また、限りある都市空間を有効に活用し、都市環境の改善を進めるために、公共交通の利用を促進し、自動車利用を適正化することが重要である。
 今後は公共交通を高齢者への対応や環境問題、都市活力の再生などの社会的要請も踏まえ、都市において生活と一体化し、欠かすことのできない「都市の装置」として位置づけ、公共交通のネットワークを充実させることが必要である。
 公共交通のあり方は、都市規模や形態によって異なるため、以下に示すようにシステムの多様化と充実を図り、この中から各都市が適切なものを選択できることが必要である。
イ)バスは、都市規模にかかわらず全国で導入されているが、路線は縮小傾向にあり、緊急に対策が必要である。このため、その走行路となる道路の整備を推進することが必要である。特に、自動車利用に対する優位性を確保することが必要な路線においては、専用空間の確保にも留意しなければならない。
ロ)路面電車は、我が国においては、最盛期に全国55都市で運行されていたが、道路交通混雑により表定速度が低下し利用者が減少する傾向の中で衰退を続け、現在では19都市20路線まで減少している。これらの路線においても、乗客数は横這い若しくは減少傾向にあり、設備投資も困難であるなど危機的状況にある。一方、欧米においては、国レベルの公共交通推進施策により、LRT(軽量軌道公共交通機関)として軌道の専用空間化や路線網の新設・拡充、車両の近代化が積極的に進められている。我が国においても、建設費が低廉で、地下鉄ほどの需要のない区間において活用可能な軌道系公共交通機関であり、路面から直接乗降できる身近な公共交通機関である特性を活かし、地方中核都市での基幹的公共交通として、また、地方中枢都市以上の都市における補完的公共交通として、路線の延伸・再生・新設を推進する。さらに、低床車輌の導入や路線の交差点立体化等を進める。
ハ)都市モノレールや新交通システムは、大都市の臨海部や地方中枢都市を中心に導入が進められている。今後も地下鉄とバスの中間的な輸送力を持ち、地下鉄よりも建設費が低廉であり、適切な需要のある場合には、省エネルギー型の公共交通機関である特性を生かし、大都市圏の郊外部や臨海部での交通機関として、また地方中枢・中核都市の基幹交通手段として整備を推進する。このため、地下を含む導入空間の確保やコスト削減を推進する。多くの需要を見込めない場合への対応として、ガイドウェイバスをはじめとする簡易なシステムの開発・導入が不可欠である。
(注)
LRT(Light Rail Transit):従来の路面電車の走行環境、車両等をグレードアップさせた、人 や環境に優しく経済性に優れた公共交通システム。
ガイドウェイバス:通常のバスに案内装置を付加することにより、専用走行路(ガイドウェイ) と一般道路の両方を走行できるバス。

 (3)自動車交通の円滑性確保と適正化

 生活ニーズの高度化・多様化と高齢化の進展に伴い、自動車が身近な日常の交通手段となっており、都市におけるモビリティを確保する上で基本となる交通手段として捉える必要がある。
 一方、都市における空間確保や環境保全のニーズが自動車利用の制約要因となってきており、今後は、道路や駐車場の整備を進めると同時に、公共交通との役割分担も含め自動車利用の適正化を考えることが必要である。

1)幹線道路網の形成

 都市内の幹線道路網は、土地利用や市街地の骨格形成、自動車交通の適正な処理、避難路の確保等の観点から、都市高速道路、主要幹線道路、幹線道路、補助幹線道路といった機能構成を明確にした上で、適切に配置されることが必要であり、早期にその形成を図ることが必要である。
 都市内の幹線道路網は、主に自動車交通を円滑に処理するためネットワークとして機能するもので、都市の形状や規模によって異なるが、放射・環状を基本的なパターンとする。
環状道路は、通過交通の迂回と流入交通の分散導入をその役割としており、都市や市街地との位置関係から外環状、中環状、都心環状の3環状を基本とするが、具体の網構成はそれぞれの都市の規模や市街地形態に応じ適切な組合せで形成されることが望ましい。環状道路は全国的に見て、その整備が放射道路と比べて遅れており、通過交通が市街地に入り込むことにより、交通混雑や環境問題を引き起こしているため、今後、都市内の幹線道路網の中でも特にその整備を促進する必要がある。

2)円滑な交通確保のための道路構造対策

 広域的な交通を処理し、都市の骨格を構成する主要幹線道路の構造については、交通機能を高め、環境対策も容易となるよう、出入り制限や主要な交差点を立体化した規格の高い道路として整備する必要がある。環状道路、特に都心環状道路については、環状道路としての認知性を高めるとともに、環状方向の通行を優先した交差点の立体化等により交通を誘導することが必要である。
 また、渋滞が著しい幹線道路については、交差点の改良(右左折レーン設置等)や立体交差化等による交通流の円滑化を推進する。この際、側道や裏道の整備、沿道への出入りの集約といった措置と合わせて駐停車禁止等の交通規制の導入等、施策の総合化を行う必要がある。

3)自動車交通の適正化

 都市における空間的な制約や騒音問題、二酸化炭素や窒素酸化物の削減など環境面からの制約が高まる中、公共交通への支援による自動車利用から公共交通利用への転換に加え、核都市の育成や都心居住の推進等による都市構造の再編や土地利用誘導により交通負荷の軽減を図ることが重要である。
 さらに、電気自動車等の低公害車の普及促進を進めるとともに、乗用車の相乗りの促進、ロードプライシングなど需要に働きかける方策やフレックスタイムの導入によるピークカット等TDM施策による自動車交通の適正化策も選択肢として考える必要がある。これらの施策の中には、規制的な性格が強く本来必要である基盤施設が不十分な状況下における過渡的な対策として捉えるべきものがあり、その社会的影響や効果を十分に把握しつつ、慎重に行うことが必要である。
併せて、ITSのような道路のインテリジェント化による渋滞の緩和や安全性の向上を図ることが重要である。
(注)
ロードプライシング:混雑地域や混雑時間帯の道路利用に対して課金して、需要の平準化や公共 交通機関の利用促進を図る手法。
ITS(Inteliigent Transportation System):渋滞・交通事故の低減や利用者の快適性の向上 を目的に、先進の情報通信技術を活用した高度道路交通システム。

4)駐車場整備の推進

 駐車場の整備については、民間と公共の役割分担も念頭に置きつつ、都市交通施策の一環として積極的に推進する。行政は、駐車場法に基づく駐車場整備計画等により駐車場整備の目標と整備方針、公民の役割を明らかにすること、及び都市交通政策上重要な駐車場の整備等について積極的に取り組むことが必要である。また、民間は、大規模店舗の例のように駐車需要を発生させる原因者として責任をもって駐車場を整備すること、及び事業ベースで一時預かり駐車場や月極駐車場を整備・経営することを役割とすべきである。
 この際、駐車場整備計画の実現に向けて、駐車場の一層の整備を促進するため、支援策を強化する必要がある。併せて、効率的な駐車場利用を実現し、駐車場探しの交通や待ち行列を削減するため、駐車場案内システムの導入を推進するとともに、都市情報システムとの連携など機能の拡充が重要である。
 さらに、中心市街地の交通体系の再構築を進めるに際しては、駐車場が自動車交通の発生集中量や流れに大きな影響を与えることに留意し、規模や配置に関する定量的な計画指針の策定に取り組むとともに、公共的駐車場に係る技術的基準の弾力化、附置義務駐車場の集約化、政策的な駐車場料金の導入等の駐車場施策のあり方を検討することが必要である。
(注)
駐車場案内システム:既存の駐車場ストックの有効活用を促進し、路上駐車、及び駐車場探しの うろつき交通の解消、利用者の利便性向上等を図るため、駐車場の位置、満空状況等の情報を 提供するシステム。
附置義務駐車場:地方公共団体が商業地域内等において、一定規模以上の延床面積を持つ建築物 を新・増築するものに対して、条例でその建築物又は敷地内に設けることを義務づけた駐車場。

 (4)物流交通の整序

 我が国の物流においては、情報化・国際化の進展に加え、流通コストや流通システムに対する需要者の意識の高揚、ジャストインタイム等の物流に対するニーズの高度化・多様化等が進展している。これらを背景とした貨物自動車輸送における多頻度小口化や積載効率の低下による貨物自動車交通量の増加等が、乗用車の増加と相まって都市内の道路交通混雑や都市環境の悪化等の問題を招いている。
 これらの問題に対処するためには、物流に関連する社会資本の整備促進、その効率的な利用を図るとともに、トラックの積載率の向上や情報化の進展を踏まえた物流システムの高度化等について、物流に関連する様々な主体の間で協調して取り組みを行うことが必要である。
 具体的には、既成市街地内への大型貨物自動車の流入を規制するなどの適正化策を長期的に展望しながら、環状道路等の幹線道路の整備、物流交通の整序のための物流拠点の整備、情報化の進展をふまえた共同集配や荷捌きの円滑化、物流施設の配置の合理化、配車計画と経路管理等システムの効率化・高度化、関連技術開発等を進める必要がある。
 特に物流拠点は、都市内物流と地域間物流の結節点として、都市内交通の整序や地域間物流の効率化に資するものであり、経済社会や物流ニーズの変化に対応しつつ、整備の促進を図る必要がある。
(注)
ジャストインタイム:必要な物を「必要な量」だけ「必要な時」に合わせて必要な所へ届ける仕 組み。

 (5)地区交通の再構築

 戦前又は戦後の高度経済成長期に個別開発等により形成された既成市街地においては、幹線道路の整備が遅れ住宅地に通過交通が侵入している。さらに、地区内の道路網の整備がそれ以上に遅れている結果、地区内において、交通面や防災面での安全性の欠如、良質な都市空間の不足、土地の有効利用の制約等の問題が生じている。
 このため、地区の課題と特性に対応した将来像に基づき、地区内道路網の整備と既存の道路空間ストックの活用を進め、地区交通を再構築していく必要がある。この際、地域の住民や企業の参加を得つつ、まちづくりの中で計画・整備・管理を進めることが重要である。
@住宅市街地
 自然発生的に形成された多くの住宅市街地においては、建築に必要な4m道路に面していない住宅が多数存在しているなど地区内における生活に必要な道路(補助幹線道路、主要区画道路、区画道路)の整備が遅れている。
 このため、幹線道路の整備によって通過交通を排除した上で、地区レベルの交通、防災、環境の機能を有する地区内の道路網を体系的に整備することにより、安全で安心できる生活環境や良質な都市空間の形成を進める必要がある。
A中心市街地
 中心市街地においては、幹線道路が不十分なまま自動車交通が集中し、歩行者空間も不足していることが、その魅力を大きく損ねる要因となっている。
 このため、都心環状道路の整備とこれに沿った駐車場の配置により自動車交通を受け止め、環状道路内の地区を歩行者と公共交通優先の空間に再構築し、地域や都市の交流の場として住民や来街者に快適な交通環境を提供することが必要である。
 また、都市や地区の特性に応じて、バリアフリー化や短距離交通システムの導入により歩行環境を改善すること、公共交通を歩行者専用道路に導入してトランジットモールとすること、鉄道の連続立体交差化により市街地を一体化すること、都心縦貫道路により都心への直結型のアクセス性を高めることなどの施策を検討・実施することが望まれる。

 (6)道路と沿道の一体的整備

1)幹線道路と沿道市街地の調和

 沿道利用に伴う出入り交通や駐停車車両が、幹線道路の交通機能を阻害することもある一方、幹線道路の重交通が沿道に騒音、大気汚染の環境問題を引き起こすこともあるなど、幹線道路と沿道市街地は相互に影響を及ぼしている。また、道路と沿道の耐火建築物とが合わさって防災機能を果たすことや、道路網が整備された街区の形成と沿道地域における低未利用地の集約・活用により都心部の土地の有効利用を進めることが課題となっている。
 また、都市内道路整備を円滑に進めるには、いかに道路用地を確保できるかが大きな課題であり、代替地要求や現地残留希望といった住民の要望に的確に対応することが不可欠である。
 このため、都市内道路の整備にあたっては、沿道街区の現況・動向の把握、関係住民の意向、地域の将来像を踏まえ、幹線道路と沿道市街地の一体的整備を推進することが重要である。
 なお、郊外部の幹線道路の沿道地域においては、自動車専用道路タイプの場合は沿道環境対策の観点から、沿道に極力緑地を配置し道路と市街地の離隔を確保すること、一般道路の場合は土地利用の整序化を図るため、副道の設置など道路構造上の工夫を行うとともに極力沿道との一体的整備を進めることが望まれる。

2)沿道を含めた道路景観の改善

 良好な都市景観の形成には、街並みや道路景観の改善が重要であることから、道路空間を構成する道路施設と標識類が全体として景観に配慮された形・色に改善されることが重要である。この場合、地区の特性によっては、全国統一の基準を適用しないことを許容することも必要である。
 また、この上で、屋外広告物や沿道建築物についても、良好な景観の形成に貢献するという目的意識のもとで、自己規制を含めた努力が求められる。なお、地域の中で合意が形成される場合には、統一的な景観計画の策定と遵守、規制の上乗せ等により、高水準の景観形成が進むことが望ましい。

 (7)都市の規模・特性に応じた都市交通体系の形成

 都市交通の整備水準は、それぞれの都市の成り立ちやこれまでの施設整備の経緯により、都市毎にその様相を異にしている。また、都市の機能として提供できる都市交通サービスのレベルは、主に都市圏人口に左右され、特に、公共交通や高速交通はその需要密度によって成立が決定される。
 このため、都市交通施策は、都市の規模や特性に応じてそのあり方を検討することが重要である。

1)三大都市圏中心部

 幹線道路、鉄道等の交通混雑は極めて厳しく、また、大気汚染や騒音など自動車交通に伴う沿道環境が悪化している状況である。また、公共交通のサービスレベルが比較的高く、利用率が高くなっている。しかしながら、都市交通施設の絶対量が不足しているにも係わらず、空間や財源の制約から、新たな施設整備は多くを望めない状況にあり、効率的・効果的な施設整備やストックの有効活用が最も必要な地域である。一方、高度化するニーズに対応するとともに、高次都市機能の立地を生かすための高レベルの交通サービスの提供も必要である。
 このため、都市高速道路や多車線道路等の広域道路網の形成、未だ存在する踏切の除却のための鉄道の連続立体交差化、外縁部における環状道路、物流交通の整序のための広域物流拠点の整備等広域交通網の形成が必要である。併せて、環境や空間制約に対応し、自動車利用の適正化や需要の平準化等を実現するため、TDM施策も選択肢として検討することが必要である。さらに、都心部の歩行環境の改善、住宅市街地の地区内道路網の整備やミニバス、ライナー列車等の高負担・高サービスの公共交通の導入も重要である。
 特に、環境問題の大きな要因である大型貨物車について、将来的には都心部への流入規制を展望した物流拠点の整備や都市内物流の共同化を進めることが必要である。

2)三大都市圏郊外部

 都市化の進展に伴い、交通量が急激に拡大した地域であり、鉄道網が脆弱なために、道路の負荷が拡大している。また、核都市の成長等によって環状方向の交通需要が拡大しているにもかかわらず、施設整備が立ち遅れている。
 このため、高規格道路等へのアクセス道路及び核都市等周辺都市を連絡するネットワークの整備を重点的に進めるとともに、放射方向の鉄道のフィーダーサービス及び環状方向の公共交通機関として、都市モノレール等の導入が必要である。また、引き続き行われる都市開発と公共交通機関の一体的整備を推進することにより、両者の投資効果を向上させるとともに、自動車交通の増大を抑制することも重要である。
(注)
フィーダーサービス:出発地から鉄道駅まで、あるいは鉄道駅から目的地までの端末部分につい ての交通サービス。

3)地方中枢都市圏

 都市化が一層進展し、交通量が急激に拡大している。特に、公共交通のサービスレベルの低い郊外部での都市化が著しく、自動車交通需要として顕在化しており、公共交通のサービス向上を図り、バランスのとれた都市交通を実現することが重要である。
 このため、需要密度が高い中心市街地においては都市高速道路、鉄道の連続立体交差化や鉄軌道の整備を進めるとともに、郊外部においては公共交通機関へのアクセス向上のためのバス対策や駅前広場の整備、放射・環状道路の整備等が必要である。併せて、道路交通混雑を緩和するとともに、ストックの有効利用を実現するため、TDM施策の導入の検討が必要である。
 さらに、国際都市の基盤となる空港、港湾とそのアクセスの整備を急ぐ必要がある。

4)地方中核都市圏

 公共交通が脆弱なため、自動車交通が拡大している。公共交通としてはバスが中心であり、一部の都市で路面電車が存続している。このようにほとんどの交通手段が道路に依存していることから、朝夕の通勤時間帯に特定の路線に交通が集中し、厳しい交通混雑が発生している。また、自動車利用の拡大に十分対応できていない中心市街地の商店街等が衰退している。
 このため、都心部において抜本的な交通環境の改善と活性化を図るため、幹線道路の整備と鉄道の連続立体交差化を進めるとともに、可能な限りの公共交通の存続を模索しながら、都市の状況により公共交通の活用について選択が必要である。具体的には、既存の公共交通のサービスレベル向上、路面電車の再生、新たな中量軌道系の導入、バスのサービス改善など様々な公共交通対策が考えられる。また、中心市街地活性化のためには、都心環状・縦貫道路の整備、トランジットモールの導入など都心交通施策の実施が不可欠である。
 なお、環状道路は、地方中核都市以上では、外郭環状道路と都心環状道路の組み合わせとして整備することが、市街地からの通過交通の排除、副都心の育成、都心空間の形成等の観点からは適当である。
 さらに、都市の特性に応じ、自動車交通の適正化を図るためのパーク・アンド・ライドをはじめとしたTDM施策の導入が望まれる。
(注)
パーク・アンド・ライド:都心部等での道路交通混雑を避けるために都市の郊外部において自動 車を駐車し、鉄道、バス等の公共交通機関へ乗り換える手法。バスの場合は、パーク・アンド ・バスライドとも言う。

5)地方中小都市圏

 鉄道の利便性が極めて低く、自動車への依存が進展している。唯一の公共交通手段として機能しているバスについても、利用者が減少し、サービスレベルが低下する悪循環の渦中にある。また、中核都市と同様に中心市街地が衰退している。基本的に自動車利用を前提とした交通施策を推進することが適切であるが、この際、交通弱者対策を考えることが必要である。
 具体的には、バイパス・環状道路の整備と既存道路の空間再構築を進めるとともに、バスを中心とする公共交通サービスの改善を実施することが必要である。また、中心市街地活性化のためには都心環状・縦貫道路の整備、トランジットモールの導入など都心交通施策の実施が重要である。

 3.総合都市交通計画の充実

 都市内の交通は、単一の交通機関のみで完結するものではなく、交通機関間の乗り継ぎや端末のアクセスを含めた一連の移動の総体である。このため、徒歩、公共交通、自動車交通等多様な交通手段の適切な組み合わせ、交通結節点の整備等を含め、利用者の視点に立ったわかりやすく総合的な都市交通の体系を構築することが必要であり、都市交通に関係する多くの主体の意向を反映し、同時に良好な生活環境の形成に配慮した総合的な観点からの検討が不可欠である。また、通勤や業務といった日常の移動は市町村界や都府県界を越えて広域化しており、市町村や都府県の範囲にとらわれない広域的な視点も必要である。
 交通計画の策定においては、交通需要を与件とした施設整備を検討する他、既存ストックを活用する施策や、都市機能の再配置や都市構造の再構築を行うことにより交通の発生形態そのものを改変し、そこで生じる交通需要と施設供給のバランスを確保すること、あるいは都市機能配置と交通施設の関連性に十分配慮した都市開発を行うことにより交通の円滑性を確保することを進め、交通負荷の小さい都市づくりを目指すことが望まれる。
 さらに、交通計画を構成する個別事業の効果的な組み合わせとそれらの実施プログラムを明らかにすることで、交通計画の実現性の向上を図るべきである。
@都市圏レベルの都市交通計画
 広域の都市交通計画の策定の際には、概ね日常の交通が完結する都市圏毎に、都市圏の状況に応じて、関係行政機関や交通事業者からなる常設の協議機関を設置し、都市圏や都市交通の目標像を明らかにした上で骨格となる交通体系とその実現方策及び実施効果を明らかにすることが必要である。なお、このように策定された都市交通計画については、継続的に見直しを行うとともに、計画策定プロセスの公開等により都市交通計画策定過程の透明化を図ることが必要である。このためには、策定に先立って策定過程を公表する等の他、都市圏の規模等に応じて適切な住民意見聴取のプロセスを用いることが重要である。
A地区レベルの都市交通計画
 地区交通計画は、住宅地、商業地あるいは都心部といった地区を対象とし、地区内の安全性や利便性、快適性の確保を目的として、局地的な都市活動を支える交通ネットワークを明らかにするものであり、地方公共団体が策定を進める際には地区内住民等地区に関係の深い各種主体の意向を十分に反映する必要がある。
B大規模開発に関連する都市交通計画
 都市圏交通計画と地区交通計画に加えて、新たな大規模都市開発等の市街地整備を計画する際には、整備事業の実施主体が中心となって市街地整備がもたらす公共交通や自動車交通への影響を予測するとともに、過度の影響が生じる場合には必要な都市基盤施設の追加もしくは市街地整備の計画の見直しを行う仕組みの定着を図る必要がある。なお、新たな大規模都市開発等が集中する地域においてマスタープランを策定する場合には、あわせて既定の都市圏交通計画の部分的な再検討、見直しを的確に行う必要がある。

 4.具体的施策と推進方策

  (1)歩行者空間の立体的整備の推進

1)交通結節点の立体的整備

 公共交通の利便性の向上を図るためには、鉄道交通相互あるいは他の交通手段をつなぐ交通結節点、特に駅前広場の整備を積極的に推進する必要がある。
その整備に当たっては、利用者の分かりやすさ、空間のシンボル性、防災機能等の観点から上空までの空間を確保することが基本であるが、既に土地が高度に利用されている駅前などでは、広場として確保することが困難な場合もあり、その機能を建築物の一部として整備することも必要である。また、賑わいの確保や、都市空間の魅力を高め都心機能の維持増進を図るために、むしろ積極的に建物との一体化を進めることが必要となることも多い。
 このため、上空まで空間をできるだけ大きく確保した上で、不足する機能を建築物の一部空間と一体的に計画し整備する手法について、以下のような事項を中心に検討する必要がある。
イ)交通結節点としての空間を「平面の広場」と「建築物の一部空間」の組み合わ せとして計画・整備する仕組みを充実する。
ロ)「平面の広場」と「建築物の一部空間」を一体として適切に管理するための組 織と管理方策等を確立する。

2)歩行者動線の立体的整備

  @建築物と一体となった立体的歩行者空間
 駅前や中心市街地等、特に自動車交通が輻輳している地域においては、歩行者交通を自動車交通と立体的に分離させ、その安全、快適な移動を確保することがますます重要になってきている。この場合、歩行者の視点に立って、歩行経路の短縮と魅力ある歩行環境を創出するため、建築物を貫通した歩行者専用通路を整備するなど、建築物との一体的整備を進めることも必要である。
 このため、その計画、整備、管理の枠組みを構築するとともに、以下のような事項を中心に立体道路制度の歩行者系道路への適用を検討する必要がある。
イ)立体的歩行者空間を都市計画に位置づけるとともに、建築物と一体的な整備 を推進する。
ロ)立体的歩行者空間の管理を適切に行うための管理方策を確立する。
  A幹線道路沿道における歩行者空間
 歩行者の多い商店街等においては、快適な通行の確保、ウインドウショッピングやたまり等の空間の確保、商店街の魅力づくりのために、道路の歩道に加えて、歩行者空間を沿道の建築敷地や建築空間においても連続的に確保することが望ましい。さらに、一度拡幅された道路等で、幅員が不十分であるが、沿道の建築物の立地状況等から再拡幅が困難な場合等、道路の再整備に当たって、歩行者空間を沿道側で確保することが求められる場合もある。
 このため、沿道の歩行者空間を、連続的、計画的に確保していくための以下のような方策を確立する必要がある。
イ)歩行者空間ネットワークの整備方針を策定し、これに基づき、沿道に確保す べき歩行者空間を都市計画施設として位置づけること等により、連続性を担保 する仕組みを確立する。
ロ)公共側が空間確保の永続性を担保するため必要な権利を取得し、沿道の歩行 者空間を整備するとともに、沿道権利者との適切な役割分担により管理を行う 手法を確立する。

(2)公共交通の成立基盤整備の推進

 公共交通を都市に欠かすことのできない「都市の装置」として位置づけ、市民の足として必要な路線や、自動車利用の適正化策として必要な箇所に積極的に導入・維持する。公共交通は、導入空間の確保と採算性の制約で望ましいサービスを必ずしも確保できない場合があることから、その企業性・競争性を確保しつつ、関係各省庁の連携により公的支援を拡充することが必要である。
 例えば、バスに対しては、その魅力を高めるために自動車と比較して優位となる表定速度の向上をはじめとする利便性の向上をめざし、次のような支援策を講じることが考えられる。
イ)低床バス、連接バス及びミニバスの走行を可能とするよう、これらの車両の形状、 性能に対応して、走行する道路の構造やバス停施設の改善・整備を行う。
ロ)バス専用レーンの設置を目的とした道路拡幅やバス専用道路の整備を行う。
ハ)中心市街地における定時性とバスネットワークの持つサービスのきめ細かさを併 せ持つ等、バスサービスを高度化したシステムとしてガイドウェイバスの導入促進 を図る。
 また、軌道系の公共交通に対しては、大都市における臨海部や郊外駅へのフィーダー交通、地方都市の中心部へのアクセス交通といった、中量需要に対応する地域を中心に、走行基盤施設について次のような支援策を講じることが考えられる。特に、地方中核都市においては、人口規模から地下鉄ほどの大量輸送の公共交通機関が成立しにくい状況にある一方、中心部に一定の都市機能が集積しており、高齢者等の交通弱者が都市サービスを受けるための基盤として、軌道系交通体系の導入を図ることをめざす必要がある。
イ)基盤施設(社会資本に近い部分)の概念を明確にした上で公共が設置する。
ロ)特に、地方中核都市中心部等のように、市街地が中密度に利用され、広幅員の都 市内道路も十分でない地域においては、地下に導入空間を確保することが可能とな るような制度を構築する。
ハ)また、高度に土地利用されている地域においては、建物との一体的整備にも配慮 する。
 さらに、福祉的観点も加え、サービス水準の向上及び採算性の改善のため、基盤施設以外の設備や運行費についても、助成策を拡充するべく、関係省庁との連携を図ることが望まれる。
 以上の施策を円滑に遂行するため、都市圏毎に公共交通に関する協議組織の設置を図り、計画、整備、試行、運営等の調整・実施を行うことが必要である。

 (3)幹線道路の計画的整備と沿道一体整備の推進

1)都市計画道路整備プログラムの策定

 都市内道路の整備は、都市構造や広域交通と関連付けて、道路網全体の効率的利用に寄与するものから効果的・効率的に整備するとともに、事業計画についての透明性、公平性を確保する必要がある。しかし、都市計画道路の整備率は全国平均で約5割にとどまっており、都市内幹線道路のさらなる整備推進のために効率的なネットワークの形成が求められている。
 このため、既に東京都をはじめいくつかの自治体で進められているように、「都市計画道路整備プログラム」を策定し、公表するとともに、これに基づいて都市内幹線道路の整備を重点的・効率的に進めることが必要である。
都市計画道路整備プログラムは、整備着手時期等が明らかになることから、以下のような効果が期待できる。
イ)重点的な投資が可能となり、効率的なネットワークが形成されるとともに、関 連プロジェクトと道路との一体的な整備が行われ計画的な市街地整備が実現する。
ロ)行政の透明性・公平性が確保され、都市内道路整備に対する住民の理解と信頼 を得ることができ、事業実施時の用地買収や買い取り要望等への対応が容易とな るなど事業の円滑化が図れる。
ハ)沿道の建て替え、共同ビル化など住民の計画的な行動が可能となり、生活再建 がしやすくなり、効率的なまちづくりが促進される。
 さらに、公表された事業化計画において早期に着手すべき路線については、
イ)沿道一体的整備手法を含め、住民の意向を十分に把握できる事業手法の検討す る。
ロ)買い取り要望対応、代替地確保等を推進するため、土地先行取得制度等の施策 を充実する。
ハ)誘導容積型地区計画の活用などにより、都市計画道路用地からのセットバック を誘導する。
 などの関連施策を進めていくことも重要である。
(注)
誘導容積型地区計画:地区計画で、公共施設が未整備の区域において暫定容積率と目標容積率の 2つの容積率を定め、公共施設が不十分な段階では低い方の暫定容積率を適用し、公共施設の 整備に伴い高い方の目標容積率を適用することによって、公共施設整備を伴った土地の有効利 用を誘導する制度。

2)都市内道路と沿道地域の一体的整備の推進

 都市内道路整備の円滑な推進にあたっては、都市計画道路の直接買収方式による整備だけでは解決できない問題も多く、これまでにも都市内道路と沿道地域との一体的整備手法の検討され、沿道区画整理型街路事業、沿道再開発型街路事業などが制度化されている。しかしながら、さらに都市内道路が良好な沿道市街地形成を誘導しつつ、早期に整備が図られるためには、直接買収方式を基本とする従来の進め方から、できるだけ沿道との一体的整備を進めることを基本とする進め方に転換するとともに、都市内道路と沿道地域との一体的整備についての手法を拡充することが必要である。 このため、今後の都市内道路の整備にあたっては、以下のような視点で整備手法を幅広く検討する中から事業手法を決定していくことが必要である。
イ)面的に市街地整備が必要な区域においては、土地区画整理事業、市街地再開発 事業により整備を行う。
ロ)個別の都市施設整備を進める区域においては、沿道地域の状況及び都市計画道 路に係る住民の意向を把握した上で、整備手法を検討する。
ハ)この際、地域を全体として整備する方向でまとまれば、沿道の帯状市街地を区 域とする土地区画整理事業や市街地再開発事業等により整備を行い、直接買収方 式で可能な場合には、従来通りの街路事業で整備を行う。
 この際、住民の一部に残留希望や代替地希望があり、直接買収方式で行うことが難しい場合、あるいは沿道市街地の一体的整備が必要で直接買収方式が不適当な場合には、沿道街区を含む新たな整備手法の検討が必要である。具体的には、沿道街区との一体的整備を行う区間において、沿道街区内の土地を先行取得し、残留希望者等との間で区画整理的な手法を活用した玉突き換地を行って、道路用地の確保と沿道市街地の整序を行う、といった手法が考えられる。
 さらに、幹線道路の整備促進に資する地権者の協力や、沿道との一体整備による道路交通機能の向上及び沿道環境の改善等に対してインセンティブを与えるなど、以下のように土地利用制度と連携する方策の充実に向けた検討も必要である。
イ)都市計画道路用地からのセットバックの誘導(誘導容積型地区計画の活用等)
ロ)用地提供者の残地での建て替え支援
ハ)沿道との一体的整備に合わせた高度利用の推進
(注)
沿道区画整理型街路事業・沿道再開発型街路事業:土地区画整理手法及び市街地再開発手法を活 用して、沿道の市街地と街路を一体的に整備する事業。

 (4)都市内物流システムの改善

@物流拠点整備の推進
 都市内への大型貨物車の流入を規制するためには、物流施設の適正な立地誘導を図る物流拠点の整備が必要である。
 物流拠点については、輸入貨物の増加等の物流ニーズの変化に対応しつつ、空港、港湾、鉄道貨物駅等の連携や広域物流と都市内物流の機能分担等に配慮した適正な規模・配置による整備が重要である。
 また、広域的な道路網の要衝等において、流通業務機能を核とし商業・業務機能等を併せ持つ複合機能型広域物流拠点など、物流効率化と併せて地域振興を目的とした物流拠点が求められている。
 さらに、迷惑施設として捉えられがちな物流施設について、周辺地域と調和のとれた物流拠点の整備が求められており、緑地、広場等の環境の保全に寄与する施設や展示場、会議場等の地域への開放が可能な施設の導入、適正量の駐車場の整備、交通規制等の総合的な対策を講じた地域調和型物流拠点の整備を促進することが必要である。
 このため、流通業務市街地の整備に関する法律のほか、特別業務地区、土地区画整理事業等の活用を含めた計画手法・整備手法の充実化を図るとともに、関係省庁の諸施策との連携のもと、地域特性に応じた多様な整備手法により物流拠点の整備を促進する必要がある。
 また、港湾の後背地等における輸送機関間の結節機能を強化した物流拠点や早期実現が必要とされている物流拠点等の整備を推進する必要がある。
A都市内物流効率化の推進
 都心部等の物流需要の高い地区においては、多頻度小口化輸送等により積載効率の低い貨物自動車が市街地へ流入し、荷捌きに伴う駐停車による道路交通混雑が著しくなっている。都市内物流の効率化を図るためには、物流事業者の共同化を促進し、積載効率の向上を図ることにより、市街地へ流入する貨物自動車交通量を削減することが有効であり、共同集配を実施するための都市内集配拠点の整備が必要である。
 このため、情報化の推進を含む共同集配システムの整備を図るとともに、共同集配のために設置される都市内集配拠点への公的支援の意義を明確化し、整備を促進する必要がある。
 また、付置義務等による民間建築物における荷捌き空間の確保、公共による荷捌き施設の整備、交通規制等の総合的対策を関係機関との連携を図り推進する必要がある。

 (5)身近な地区交通施設の計画・整備・管理システムの確立

1)地区内道路の計画と整備
 地区内の道路は、補助幹線道路、主要区画道路、区画道路に区分される。補助幹線道路は、緊急車両進入の主動線と避難路及び延焼防止等の防災機能、幹線道路から地区への主たる出入り口や動線としての交通機能を担うものである。主要区画道路は、各宅地までの緊急車両の進入と避難通路としての防災機能、各街区と補助幹線道路を接続する交通機能を担うものである。また、補助幹線道路と主要区画道路は、地区内の通勤・通学、買い物、散策等のための安全で快適な歩行者・自転車動線としての機能も担うものである。
 地区内道路については、地区の現状や課題に適切に対応して計画・整備を行う必要があるが、既成市街地においては弾力的な対応が望まれる。特に、歴史的な街並みや文化財が残る地区においては、それらの保全、活用が可能となるよう、道路の幅員、線形等を計画するべきである。
 補助幹線道路は、公共側が概括線を市町村マスタープラン等で提示し、具体の位置等は事業時に住民と調整の上決定するとともに、公共側が整備し管理する。
 主要区画道路は、住民が主体的に計画し整備するものであるが、既成市街地の防災等特定の施策目的がある場合は、公共側が住民の意向を把握しつつ計画するとともに、整備に際しても公共が支援する。
 また、区画道路は、住民が計画し整備を行う。なお、公共によるまちづくりの計画が進んでいる場合に、区画道路の計画を極力取り込むことや、公共が何らかの工事を行う近傍で区画道路の工事が予定される場合に、公共が住民の委託を受けて一体的に工事を実施する等、きめ細かい支援が望まれる。さらに、定期借地権の活用等用地確保のための多様な方策についても検討が必要である。
 なお、地区内道路は、既成市街地において単独に整備することは困難な場合が多いが、交通処理、生活環境、防災性等の向上を図る市街地整備の機会を捉えて、計画、整備を促進する必要がある。特に、個別の開発の動きがある場合には、公共側があらかじめ道路網に関する基本構想を策定し、主要区画道路や区画道路の計画について開発計画との調整を図ることにより、全体として整合のとれた整備を行うことが必要である。
2)地区レベルの公共的施設の整備と管理
 近年の都市開発においては、人々が集い、語らい、イベントの場ともなる多目的広場、人工地盤、アトリウム、公開通路等様々な公共的施設が整備されてきている。これらの施設は、整備の目的、整備主体、整備の財源、管理の方式は様々であるが、それぞれに工夫が見られ、個性と魅力ある都市空間の形成に寄与している。しかしながら、現在は、先進的自治体の個別事例として整備が進められている状況であり、都市整備のツールの一つとして、広く活用されているとは言えない状況にある。  このため、これらの施設を、地区に安全性、快適性、利便性を付与する施設として積極的に都市計画に位置づけ、都市整備の一般的ツールとして広く定着させることが求められている。また、施設をイベントや種々の活動に柔軟に利用するニーズが高まっていること、公共と民間とが相乗りで整備する場合があることに対応する必要から、従来の公共施設の管理法と異なる柔軟な整備及び管理の手法が求められている一方、不法占用の排除、事故の際の対応、管理瑕疵等の観点で、施設の管理責任の所在を明確にすること等、適正な管理を行うための仕組みも必要である。
  以上を踏まえ、地区レベルの公共的施設の計画手法を体系化するとともに、交通、防災、環境等の機能を確保する観点から、最低水準を定める等の指針を示すことが望まれる。
 また、整備に当たっては、公共と民間の連携を推進することが重要であり、具体的には、民間による整備を基本とする民地内の施設のうち公共性の高いものについては、支援の拡充を図る必要がある。さらに、管理については、利用の柔軟性を確保した上で適切な管理を実現するため、管理面における公民の連携の推進と制度の整備が望まれる。特に、拠点地区等については、施設の一体的管理及び各種サービスの提供を円滑に行うため、地区管理センターの整備に対する支援策の拡充が求められる。
(注)
アトリウム:屋根の架かった前庭や中庭のこと。特にガラス屋根などにより十分な自然採光を確 保した広場状の空間。

(6)都市交通施設整備の進め方の改革

1)パッケージアプローチの導入

 複合化する都市問題、高度化・多様化する住民のニーズに応えるため、総合的な都市交通施策の展開にあたっては、個別施策の着実な実施に加え、施策の複合的な組み合わせによるプロジェクト型の事業展開により事業の円滑な実施と相乗的な整備効果の発現を図ることが重要である。特に、実施プログラムを明示し相互に実施に責任を持ち合う「パッケージアプローチ」を導入し、いくつかの事業主体に分かれた事業を効率的、重点的に組み合わせ、都市交通計画の実現性の向上を図る必要がある。
 パッケージアプローチの導入が期待される代表例としては、都心環状・縦貫道路の整備による自動車交通の負荷軽減と既存道路のトランジットモール化等を一体化した都心交通改善プロジェクトがあげられる。
(注)パッケージアプローチ:都市交通の目標達成のために必要となる複数の施策を組み合わせて、パ ッケージとして同時に実施する手法。

2)交通実験・試行の導入

 交通需要の質的な変化、多様化に対応した既存施設ストックの再整備、活用のためには大胆な運用の変更が場合が多い。しかしながら、交通施設の関係者は、利用者、周辺住民、管理者、交通事業者等多岐にわたり、新しい施設整備や大きな運用改善には困難が伴う。例えば、欧米で都心部活性化のために導入され有効に機能しているトランジットモールについては、国内に実施事例がなく、地元商業者や関係機関等との調整が実現を阻んでいる。このような施策の実施に際しては、関係者の意向の反映や施策内容の改善の検討を、効果的・効率的に行うことが不可欠である。
 このようなことから、本格的な交通施設の整備や運用の改善に先立ち、施策の導入効果の把握、関係者間のコンセンサスの形成等を図るため、施策の有効性の一般的な検証やPR、デモンストレーションを目的とする「交通実験」、及び施策の実施を予定している箇所で住民、利用者等の意向の反映やよりよい施設整備、運用の検討を行うために実施する施策の「試行」の導入を推進する必要がある。