『都市計画制度の見直しに当たって』
現行都市計画法は、昭和30年代後半から40年代にかけての高度経済成長の過程で、都市への急速な人口や諸機能の集中が進み(ピーク時には三大都市圏に毎年70万人近い人口が流入した。)、必要な公共施設整備を伴わないまま、市街地の無秩序な外延化が進む等都市問題が深刻化し、緊急に対応が求められていた経済社会情勢を背景として、昭和43年に制定・施行された。この緊急課題に対応するため、現行制度は、一体の都市として総合的に整備、開発、保全すべき区域を都市計画区域として指定し、当該区域の無秩序な市街化の防止と計画的な市街化を図るため、市街化区域と市街化調整区域とに新たに区分(線引き)することとした。これは、限られた都市整備財源を市街化区域内に集中的に投資し、市街地を計画的に整備・改善する一方、市街化調整区域において開発・建築行為を抑制することにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを主眼としたものである。法制定後、時々の政策課題に対応して地区計画制度の創設をはじめとして制度を追加拡充したものの、制度の基本的な枠組みは今日まで維持しているところである。
しかしながら、法制定後30年を経過して、都市的生活と都市的活動をめぐる経済社会環境は様相を一変してきている。まず、人口動態については、線引き制度をはじめ、現行都市計画制度は右肩上がりの人口増加を前提としているが、近年、少子高齢化が急速に進行する中で、都市への人口集中は沈静化している。都市機能を支える各種の産業の立地については、交通・通信網の整備とモータリゼーションの進展等に伴い、都市計画区域外も含め、立地上の制約要因はなくなりつつある。また、所得水準の上昇等により、様々な形での質の高い住まい方を望む国民意識が高まっている。加えて、身近なまちづくりについて、住民自らが主体的に参画しようとする動きも広がってきている。
いわば、我が国は、急速な都市化の時代を経て、安定・成熟した都市型社会の時代を迎えつつあり、今こそ都道府県や市町村が、地域住民と一体になって、地域特性に応じた個性豊かな都市の整備に、本格的に取り組む環境が整ってきているものと言える。
こうした観点から、都市計画制度についても全般的に見直し、新たな時代に対応した柔軟で実効性ある制度として、また、住民にとって分かりやすい制度として、再構成する必要がある。また、新たな制度は、コンパクトで快適な中心市街地の再整備を積極的に進めるとともに、郊外部に残された貴重な緑地等については極力これを保全し、全体として質の高い都市空間を提供するものである必要がある。
具体的には、目指すべき都市像を地域社会の合意(まちづくりのルール)として明確化するとともに、その都市像を実現するために具体の都市計画を定めるという分かりやすい体系にするため、都市計画のマスタープランの充実を図る必要がある。また、都市計画区域制度のあり方や、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に二分する線引き制度、それを支える開発許可制度についても、都市型社会に即応するものに見直すことが必要である。さらに、都市型社会においては、新たな市街地の開発よりも、既に一定の公共施設整備がなされ、都市機能が集積する既成市街地を核として都市を再生し、戦略的に整備を進めることが重要な課題になることから、既成市街地の再整備を進めるための制度や、質の高い都市環境を総合的に整備するための制度の拡充強化を図ることが必要である。また、都市計画の決定の手続についても、地域住民や民間事業者など、まちづくりに携わる関係者の意思と創意工夫を十分に活かしつつ、地方公共団体が必要に応じて柔軟に都市計画決定が行えるよう、見直しを行うべきである。加えて、コンパクトで快適な中心市街地等望ましい都市像の実現のためには、都市計画法に規定する規制や事業のみならず、補助、融資、税制など総合的な取り組みが必要となることは言うまでもない。
なお、見直しに当たっては、それぞれの地域における必要性に応え、保全すべきものは確実に保全し得るよう、また、規制を緩和する合理性がある場合には柔軟に緩和し得るよう、都市計画上の規制の内容を見直し、全体として調和ある運用を図ることが可能となるような制度構成とすることが必要であると考える。
個別の項目についての見直しに当たっての基本的考え方及び新たな制度構成の考え方については、以下のとおりである。
A都市計画区域外における開発行為及び建築行為についての考え方