参考:特色のある暫定利用事例
事例1:サンストリート
【エリア】 城東
【所在地】 東京都江東区亀戸6
【面 積】 約24,500平方メートル
【事業者】 セイコーインスツルメンツ(株)、タイムクリエイト(株)(=開発管理運営子会社)
【所有者】 セイコーインスツルメンツ(株)
【事業費】 約50億円
【土地利用(立地施設)の概要】
- 2層の店舗棟群(物販・飲食・サービス等全55店)。核テナントはトイザらス、キムラヤ、無印良品等。
- 5層の駐車場棟(駐車場・インドアテニスコート等)。
- 施設の中央に約900・の中央広場を配置。広場をなぞって逆S字を描くメーンストリートを通し、ぶらぶら歩き(ランブリング)を楽しめるように工夫。
【位置および広域的な立地条件】
- 東京都心部の東側、いわゆる下町地区に位置する。東京駅からの直線距離で約6km。
- 交通条件としては、京葉道路(国道14号)に面しているほか、明治通り・丸八通りにも近接。首都高速7号小松川線・錦糸町ランプへ約1.5km。また、JR総武線・亀戸駅の直近(ほぼ真向かい)。
【都市計画等の状況】
- 地区には準工業地域(容積率300%)が指定。全面道路沿いの一部には商業地域(同600%)が指定。
- 地区の周辺は、広範に準工業地域が指定。
- 京葉道路に沿って東西方向に帯状に商業地域が指定。
- 公団住宅等、スポット的に第2種中高層住居専用地域や第1種住居地域等が指定。
【経緯】
1982年
東京都長期計画で錦糸町・亀戸の副都心への育成が示される。
1986年
第二次東京都長期計画で本地区を含む錦糸町・亀戸地区が7つの副都心の1つに位置づけられる。
1988年
セイコー電子工業(現セイコーインスツルメンツ)本社の亀戸から幕張への移転を見越して、工場跡地の再開発計画に着手。官民で土地利用のあり方が検討され、江東区は「亀戸駅整備構想調査」をとりまとめる。
1989年
江東区、「亀戸六丁目地区再開発整備基本方針策定調査」を実施、地区の整備方針を示す(下図参照)。
それを受ける形でセイコー側も再開発構想をとりまとめる。オフィスと商業施設からなる36階建てのツインタワービル案。
1993年
本社幕張へ移転。
経済状況の先行きが不透明なこと等から高層ビル案が凍結される。
1994年
「土地は売却しない。15年間の中期利用計画を前提に再検討する。」という方針が打ち出される。
1997年
ランブリングマーケット「サンストリート」オープン。1年目の年間来場者数は約1,000万人、売り上げは約180億円に達した。
【事業の特色】
- 事業用借地方式ではない15年間の期間限定利用を前提としたプロジェクトである。事業者自ら、取り壊し予定建物の賃貸借要綱を使って期間限定利用の仕組みをつくり、開発運営に当たっている。
- 定期借地権方式ではないため、期間満了時に契約問題でテナントともめない保証はない。ただし、逆に建物の存続期間延長(契約更新)に応じる含みも残している。期間を限定してはいるが、15年間で必ずやめるということではなく、見直すというスタンスでいる。うまく亀戸が活性化してくれば、15年先にも現在の発展形で考えていくことは十分あり得る。
- 期間を限定したのは、バブル経済崩壊後の不動産市況の先行きが不透明な時期に、恒久的な不動産投資は避けた方がよいという判断があったためである。(ちなみに、当初構想されていたツインタワー案は、事業費1,000億円級のプロジェクトであった。)
- 15年間という期間設定は、商業施設のテナントの事業収支を考慮した最短期間という考え方に基づくものである。(プロデュースサイドによれば、15年では短いので20年間を希望するテナントもあるが、一方で、15年以上にわたり集客力を持ち続けてきたショッピングセンター例はまだ数少なく(つかしん、ららぽーと等)、実際問題として20年間を見据えた事業判断はほぼ不可能(15年間でも読み切れない)と言う。)
- 「商業的」に事業が読み切れない中で、集客力を維持するものとして「環境インフラ」の整備に着目し、約900平方メートルの中央広場やぶらぶら歩くためのメインストリートといった空間を確保している。
- 設備機器は15年間保たせ、抜本的な更新はないものと想定している。また、改修・設備投資費として3年毎に1億円程度を見込んでいる。15年後に建築物を除却した場合、減価償却残が発生するが、償却残や解体費も見込んだ上で、15年間で止める場合でも利益を出せるようにしている。
- 準工業地域であるため、工場からの機能転換に際して特段の不自由はなかった。ただし、小学校と近接していることから、ゲームセンター等の娯楽施設の導入に対する制約があった。
- 暫定利用ということもあり、立地条件のよさにも関わらず容積率消化の少ない(約1/3)建物となっている。
- 予想を超える集客があったため、それに伴う警備や清掃等の一般管理費が上昇している。
【備考】
参考:日経アーキテクチュア(1997.12.29号・2000.01.10号)、店舗システム協会HP
事例2:スーパードキドキ
【エリア】 埼玉県南中央
【所在地】 埼玉県浦和市沼影1
【面 積】 約1,000平方メートル(店舗面積)
【事業者】 (株)ボックスグループ
【所有者】 A社
【事業費】 約6,000万円(内装工事費)
【土地利用(立地施設)の概要】
- 既存遊休倉庫をそのまま活用した店舗。階高が高いため、一部を2層に改装している。
- 取扱品は、1階はパソコン・ゲーム関連の書籍・雑誌、ゲームソフト、パソコンソフト、パソコンハード、周辺機器等、2階はスポーツウェア・スノーボード等のスポーツ用品、雑貨等。
- 駐車場・駐輪場を備えている。
【位置および広域的な立地条件】
- 埼玉県の南部中央、浦和都心の南方約2kmに位置している。
- 交通条件としては、国道17号(中山道)へ約1km、東京外環自動車道・戸田東IC、首都高速・埼玉大宮線浦和南ランプへそれぞれ約2km。また、JR埼京線・武蔵浦和駅へ約1km。
【都市計画等の状況】
- 地区は準工業地域(容積率200%)が指定。
- 地区周辺からJR武蔵野線にかけて準工業地域、その周囲を第1種住居地域が取り囲んでいる。JR武蔵浦和駅周辺には第2種住居地域が指定。
【経緯】
19 年
武蔵浦和駅周辺地区市街地再開発事業が決定。
1986年
事業者であるボックスグループが、ビデオレンタル業として設立される。
1988年
ボックスグループ、中古ファミコンソフト・リサイクルショップ「ドキドキ冒険島」のフランチャイズチェーン展開を開始する。
1994年
武蔵浦和駅第2街区第一種市街地再開発事業(リーディングプロジェクト)が着工される。
スーパードキドキ開店。
1996年
武蔵浦和駅第6街区第一種市街地再開発事業が着工される。
1998年
武蔵浦和駅第2街区第一種市街地再開発事業が完了(LAMZA)。
1999年
スーパードキドキ閉店(その後、取扱品をCD・ビデオ・ゲーム等のレンタルや中古ソフト販売にシフトした「スーパーソフトボックス」としてリニューアル・オープン)。
【事業の特色】
- 市街地再開発事業が予定されている区域(武蔵浦和駅周辺地区)内の遊休倉庫を5年間限定の賃貸借により店舗への転換利用を行ったものである。
- 事業者のボックスグループは、埼玉県を中心にビデオレンタルや中古ファミコンソフト・ビデオソフトの販売等を手がけてきた。中古ソフトのリサイクル店舗である「ドキドキ冒険島」の標準規模は約25坪だったが、他社との競合を考えると狭いとの判断から、4倍の100坪以上の店舗展開を図り、中古ソフトに限らず書籍・雑誌やパソコンハードやソフトも取り扱う「マルチメディアパークショップ」に取り組むこととした。その1号店が「スーパードキドキ武蔵浦和店」(本事例)であった。
- 建物は遊休倉庫を転用したものである。主な改造としては、天井が高いため一部を2層としたことと、入口に風除室を設けた程度である。内装としては、天井に照明をつけ床を張り替えている程度、外装も、外壁塗装程度であり、ローコスト・ハイパフォーマンスを追求した店舗である。店内に印象的なオブジェを配している。(店舗システム協会主催・第10回ショップシステムコンペティション専門店の部入賞。)
- 準工業地域であるため、物販施設への用途転換に際して特段の不自由はなかった。また、再開発事業区域であるため恒久的な建築物の新設は制限されるが、既存建物を活用しているので、その点も問題はなかった。
- 5年間という短期なので定期借地権は設定できない。通常の賃貸借契約によるしかないため、契約期間満了時にトラブルが発生する余地がある。ただし、本事例の場合、再開発事業が控えているため、期間の有限性が強い(無限更新があり得ない)こと、また建物所有者の自己利用意欲も低いと思われること等から、契約更新を巡るトラブルが発生しにくいと言える(事実、一旦は閉店したもののリニューアルオープンしていることから、更新契約がスムーズになされたものと思われる)。
【備考】
参考:市原実「遊休地の暫定活用実務」同友館(1997年)、店舗システム協会HP、浦和市HP、Acity2001HP
事例3:横浜ベイサイドマリーナ
【エリア】 京浜臨海部
【所在地】 神奈川県横浜市金沢区白帆5
【面 積】 約32,000平方メートル
【事業者】 三井不動産(株)
【所有者】 横浜市
【事業費】 約30億円
【土地利用(立地施設)の概要】
- 1層〜2層の店舗棟群(アウトレットモール(約50店)・レストラン(9店)・スーパーマーケット(1店)等)。
- 営業面積は約16,200平方メートルで、現在国内に展開されているアウトレットモールの中では最大規模である。
- 平面駐車場(約1,200台)。
- マリーナに面してボードウォークが設置されている。
- 周辺にはマリーナ関連施設が立地。また、隣接する第2期地区へは、海洋スポーツ・レジャー関連企業やホテル等の募集が予定されている。
【位置および広域的な立地条件】
- 横浜臨海部(南部)の横浜ベイサイドマリーナ地区に位置し、海(マリーナ)に面している。
- 交通条件としては、国道357号が直近を通っている。横浜横須賀道路・並木ICへ1.5km、首都高速湾岸線・新杉田ランプ(建設中)へ約2km。また、金沢シーサイドライン・鳥浜駅へ約500m。
【都市計画等の状況】
- 地区は準工業地域(容積率200%)が指定。
- 周辺の埋立地は工業地域・工業専用地域が指定。国道357号を挟んで住居系用途地域が指定されている。
- 臨港地区(無分区)が指定されている。
- 開発に合わせて、本地区を含む13.9haを対象に、横浜ベイサイドマリーナ地区地区計画が策定された。
【経緯等】
1987年
横浜港港湾計画において金沢木材港の遊休化した旧貯木水面を利用した「金沢地区マリーナ計画」を決定。
1993年
埋立工事に着手。
第3セクター「横浜ベイサイドマリーナ株式会社」が設立される。
1995年
埋立工事が竣工する。引き続き事業用宅地の基盤整備、マリーナ施設の建設に着手。
1996年
第1期事業用宅地の基盤整備が完了する。
第1期マリーナが開業(1,148隻)。第2期地区の基盤整備に着手。
第1期地区の4つの街区の開発事業者の募集が行われる。
事業者として、三井不動産(株)、ヤマハ発動機(株)、(株)横浜シーサイドピア等が選定される。
開発事業者募集の概要
■地区全体の開発基本方針
・日本最大級のマリーナと一体となった、人々が憩い、くつろぎ、海を楽しむことができるアーバンリゾートの創造
■第1期地区の開発構想
・海洋性レクリエーション拠点形成における先導的な役割を担う開発
・マリーナ地区にふさわしい店舗・レストラン・工房等の導入・集積
・マリーナを中心とした水辺・広場・建築物等が、街の風景として一体となった空間・環境の形成
■開発事業の種別・土地処分方法
・大規模開発事業:地区全体の開発基本方針の実現に向けて中核的な役割を担う3万平方メートル程度の開発(10年間の事業用借地権)
・一般開発事業:第1期地区の開発構想に基づく2,500平方メートル以上の開発
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1998年
先行的に「シーポートレストランツ」がオープン(3月)。
半年後(9月)、「横浜ベイサイドマリーナ・ショップス&レストランツ」グランドオープン。当初4カ月間の来場者数は約249万人、売り上げは約97億円に達した。
2000年
子供服を中心としたアウトレット(KID'S OUTLETS)オープン予定(4月)。
【事業の特色】
- 横浜市の事業者公募に基づく10年間の事業用借地権方式による開発事業である。2008年3月24日に更地にして明け渡すことになっている。
- 4つの事業対象区域(街区)のうち、分譲が条件となっているB街区を除く3つの街区全てを当選者である三井不動産(+RTKLインターナショナル)が一括して借地権契約をし、ディベロッパーとして、トータルコンセプトに基づく開発事業を展開した。これは、横浜市が「A・C・D街区を対象とし、3万・程度の大規模開発で地区全体の開発基本方針の実現に向けて中核的な役割を担う開発事業」と定義づけた「大規模開発事業」(事業種別)に合致するものであった。
- 三井不動産は、1995年に大阪で手がけた「はなぽーとブロッサム」で得たノウハウを生かして、ファクトリーアウトレットモール、特に女性をターゲットとしたファッションブランドを強化したものを開発することにした。
- 敷地の半分がマリーナに面していること、日本人がアメリカに対して憧れを持っていることなどから、アメリカ東海岸の港町のイメージをベースに建物を構成することにし、色彩感覚やディテールに本物を求めるためRTKLインターナショナルに設計協力を依頼した。RTKLは、「ナンタケット島から出航した船長と少年が鯨に導かれて横浜に辿り着く」という「鯨と少年の物語」を考え、この場所に東海岸風の街並みができた由来を設定、建物全体にデザインテーマを持たせた(コンセプトストーリーを設定するのは同社の通常の手法)。
- レストランゾーンの開発に当たっての基本的スタンスは、モールの付帯施設としてのレストランではなく、独自に集客できる、目的性のある来店を促す魅力を備えたものとすることであった。
- レストランのテナントはスティルフーズとセガ・フードワークスの2社。両社は、ディベロッパーのコンセプトに9店中7店舗までを新業態を開発しながら対応している。
- レストランの賃貸条件は、建物はもちろんのこと、内装・厨房設備・調度に至るまでディベロッパーが負担しており、テナントは固定プラス歩合の併用型家賃で入居している(欧米型の契約条件に近い)。
- 平日の集客を考えて、付帯施設にはレストランのほかスーパーマーケットを設けている。
【備考】
参考:日経アーキテクチュア(1998.12.28号)、月間レジャー産業(1999.03号)、横浜市HP、三井不動産HP、横浜ベイサイドマリーナHP、自治タイムス社HP、
事業者ヒアリング(三井不動産)