7. まちのルールづくり


 

◎ 美しい、魅力のある都市空間を形成していくためには、個人の権利の過度の強調と公益の軽視という日本特有の考え方を変えることが必要。そのためには、住民の主体的参画による地区計画、建築協定などを通じたコミュニティ主体のまちづくりを通じて公益に関するコンセンサスを形成していくことが必要。

 日本では憲法第29条第1項のいわゆる財産権の不可侵が非常に強調され、土地であっても要するに自分のものであるから自由に使えるのは当然であるという考え方が国民性ともなっている。したがって、少なくとも今までは法律で都市計画制限をかけられるといったことに対する反発が非常に強いものとなっている。

 日本にも土地収用法のシステムがあり、私有財産であっても正当な補償の下に公共のために用いることができることになっている。ドイツやフランスでは同様のシステムがそれほど抵抗なく用いられているが、日本ではこのシステムの発動に官民ともに相当な抵抗がある。

 都市計画法・建築基準法に基づく建ぺい率や容積率の制限についても、欧米ではごく当然のこととして受け入れられているものが、日本では反発があるばかりでなく、法律違反の事例が見られるところである。

 ことに都市景観については、街並みを是正するという発想とは全く逆で、周囲から目立った方がよいといった考え方がむしろ一般的であるともいえる。こうした事態に、従来は行政指導という形で対応してきたが、これも行政手続法の制定により相手方が任意に従わない限り効力を有しないことが明らかになったため、有効な手段となっていない。また、条例による規制は非常に緩いものであるため、十分な手段とはなっていない。

地区計画により、城下町としての歴史的なまちなみ景観を形成。(滋賀県彦根市)

テキスト ボックス:  地区計画により、城下町としての歴史的なまちなみ景観を形成。(滋賀県彦根市)建築に関する協定により、屋根を等辺切妻の形にそろえている。(北海道美瑛町)

テキスト ボックス:  建築に関する協定により、屋根を等辺切妻の形にそろえている。(北海道美瑛町) こうした状況を打破するための方法としては、ひとつには法律でしっかりと定めてしまうというものがあるが、他方まちづくりについてはそれぞれのコミュニティが主体的に考えるという方法も考えられる。従来は別としても、現在ではまちづくりNPOが育ってきていることや若い人の外国体験が深化していることも考え合わせれば、土地というものは個人が全く自由に使うべきものではなく、住民の主体的な参画による建築協定や地区計画などを活用することによって、まち全体、ひいては住民全体にとって最もよい姿になるように使うという公益に関するコンセンサスを形成していくことが必要である。

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●日本の都市と海外の都市に関するアンケート調査

 建設省は、欧米などに住んだ経験のある日本人女性を対象に実施した現地と日本とを比較・検討するアンケート調査を実施した。その概要は下記の通り。

 (1)調査実施期間

   平成11年(1999年)10月12日に調査票の郵送・送信を開始し、11月30日までに回収が完了したものを集計。

 (2)調査対象

   以下の条件を満たす方

    ・女性(年齢は海外在住時に大学生以上)

    ・在住期間は原則1年以上で、帰国から10年以内

    ・在住国は米国、カナダ、EU加盟国を中心としたヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド

      (米国:42.7%、英国:23.7%、ドイツ:7.6%)

 (3)回収状況

   全体で131件の有効回答(回収率61.5%)

 (4)主な結果

    ・生活全体の印象: 

      「日本より外国」(60.9%) 「外国より日本」(10.2%)

    ・街の中の緑の多さ: 

      「外国」(91.6%) 「同程度」:7.6%  「日本」:0.8%

    ・公園などのオープンスペースや、建物の形・高さ・色などの調和:

スペイン・バルセロナの街角

有名な建物が3つ並んでいる。右から2番目の屋根に十字架があるものがカサ・バトリョ(ガウディ設計)、3番目の三角形の屋根がカサ・アマトリェール(カダファルグ設計)、5番目の屋上の上に塔が見えるのがカサ・リェオ・モレラ(ドメネク設計)。ガウディとドメネクが設計したこの写真とは別の建物は、世界遺産に指定されている。

テキスト ボックス:  スペイン・バルセロナの街角有名な建物が3つ並んでいる。右から2番目の屋根に十字架があるものがカサ・バトリョ(ガウディ設計)、3番目の三角形の屋根がカサ・アマトリェール(カダファルグ設計)、5番目の屋上の上に塔が見えるのがカサ・リェオ・モレラ(ドメネク設計)。ガウディとドメネクが設計したこの写真とは別の建物は、世界遺産に指定されている。      「外国」(93.1%) 「同程度」:2.3%  「日本」:2.3%

    ・高齢者・身体障害者への対応:

      「外国」(78.6%) 「同程度」:3.8%  「日本」:0.8%

韓国・ソウル

テキスト ボックス:  韓国・ソウル