世界的に見ると下水道の起源は、インダス文明の栄えた都市に遡るとされている。
モヘンジョ・ダロの遺跡はB.C.3300〜2700年のものと推定されるが、この遺跡には精巧でよく発達した下水渠があった。
Cedric Websterによれば現在の下水道も学ぶべき点があるほど素晴らしいものであるという。モヘンジョ・ダロでは、どの家の浴場も便所も陶製またはレンガ作りの「下水だめ」を通じ街路にある下水渠に連結されていた。下水渠の大きさも下水量を算定したうえで異なっているほどであった。更に下水渠はレンガ製のフタで覆われており、暗渠化の傾向を示していた。モヘンジョ・ダロの下水道で最も注目すべきことは、下水渠の途中で効果的な沈殿が期待できる沈殿池が設けられていたことで、最初の下水処理設備であると言われている。
メソポタミヤ文明の地バビロンではB.C.2200年頃、アッカド王朝の宮殿で下水溝が作られており、腰掛け式の水洗便所が発見されている。それらの清掃水は宮殿の通路の地下を通って街路に流出していた。下水溝は煉瓦積みで、内径はおよそ1mあったようである。
クレタ文明のクノッソスの王宮では、B.C.1700年頃のものと見られる腰掛け式の水洗便所が発見されている。
古代ローマにはB.C.615年に築造されたローマ最古の下水道遺跡がある。この最古の下水渠はCloaca maximaと呼ばれ、ローマの7つの丘に囲まれたフォーラム谷の排水のためのものであった。ローマの水道橋も有名であるが、これより更に400年以上も古いものである。
中世時代の下水道は、雨水は地下に浸透または蒸発あるいは自然の流れに任せていた。下水は道路上や溝に流していたため、病原菌の温床となりコレラ、ペストなどの伝染病が大流行したこともあった。
フランスのパリでは1370年から下水道が敷設された。ロンドンでは16世紀から下水道の改良が始まり、雨水や汚水は管渠を通じて河川に放流されていた。
しかし、当時の下水道は処理場を有していなかったので河川の水質汚濁は進行し、コレラのような伝染病が大流行した。
処理場を有さなかったのは、当時の下水道の目的が、下水を流すために利用されたことも事実であるが、豪雨の排水や、街を洗い流し清掃するためであったことに起因するものである。
人間の生活によって生ずる廃物を水を利用して運び去るために設計された初めての系統的下水道は、1842年に着工したハンブルグの下水道であろう。
排泄物を下水道に流すことを許可したのはロンドンで1815年、ボストンで1833午、パリで1880年であり、これ以降下水道の意義も大きく転換していくこととなった。人口の都市集中などに伴う居住環境の悪化、衛生状態の悪化に対処するために、西欧諸国では近代的下水道の建設が始められたのである。
西暦 | 元号 | |
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BC5000 | メソポタミアのウル、バビロン、ラガシユ等で下水道築造 | |
BC3000 | モヘンジヨ・ダロ、カーリーバンガン等の都市に下水溝、水洗便所築造 | |
BC2900〜2700 | メソポタミアの都市が発達し、下水道築造 | |
BC2000 | クレク島の宮殿に腰掛式水洗便所がつくられ、配水管に接続される | |
BC2000〜1400 | 中国河南省准陽県平糧台で配水管築造 | |
BC1100 | 中国洛陽近郊の二里類で配水管築造 | |
BC300-200 | 秦の都威陽で五角形の管使われる | |
645 | 大化1 | 難波宮に排水溝築造 |
694 | 持統5 | 藤原京に排水構築造 |
708 | 和銅1 | 平城京に排水溝築造 |
784 | 延暦3 | 長岡京に排水溝築造 |
(平安時代) | 野玄式便所(日本式水洗トイレ)が高野山にできる | |
1347 | 貞和1 | 全ヨーロッパでペスト流行 |
1370 | 建徳1 | パリに最初の円天井の下水道築造 |
1583 | 天正11 | 大阪城の城下町に背割下水ができる(太閤下水) |
1606 | 慶長11 | パリに最初の下水主幹線できる |
1728頃 | 享保13 | ベルサイユ宮殿に最初の水洗トイレを設置 |
1750 | セーヌ川に流入する開きょ式下水道築造 | |
1848 | ロンドンで便所の下水道への接続を義務とする | |
1873 | 明治6 | 東京銀座に下水管布設(側溝を暗きょ化) |
1877 | 明治10 | コレラ流行 |
1881 | 明治14 | 横浜区で下水道築造(石造り馬蹄形管で底部は松坂) |
1884 | 明治17 | 東京府神田下水施工 |
1894 | 明治27 | 大阪市、上下水道改良事業開始 |
1895 | 明治28 | 大阪市、本田袖水所完成 |
(わが国初のポンプ所) | ||
1900 | 明治33 | 下水道法公布 |
1910年代 | 活性汚泥法を開発 | |
1922 | 大正11 | 東京三河島汚水処分工場運転開始 (処理方式は標準散水ろ床法) |
1930 | 昭和5 | 名古屋市掘留熱田処理場運転開始 |
(わが国初の散気式活性汚泥実用化) | ||
1934 | 昭和9 | 岐阜市わが国初の分流式下水道事業 |
1948 | 昭和23 | 福井市で戦後初の公共下水道事業起工 |