第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応
第2節 外航海運政策(国際競争力の強化)
1.自由で公正な国際海運市場の形成に向けて

(1)多国間、二国間協議における取り組み
 我が国外航海運政策は「 海運自由の原則 」を基本としており、我が国の外航海運に係る制度は世界的に見ても最も自由化が進んでいると言える。我が国は、国際交易を支える自由で公正な国際海運市場を形成するべく、世界貿易機関(WTO)・経済協力開発機構(OECD)等の国際機関における活動に積極的に貢献するとともに、必要に応じて二国間協議を行っている。
(i)多国間における取り組み
(A)世界貿易機関(WTO)
 (a) 海運継続交渉
 海運分野の自由化については、ガット・ウルグァイ・ラウンド(1986年〜93年)で合意を形成するに至らず、同ラウンドの結果締結された「 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO協定) 」の枠組みで継続して交渉を行うこととなった。
 しかしながら、同継続交渉においても米国は、自国海運保護のために消極的な交渉姿勢に終始し、主要国の中で唯一 自由化約束 の提出を拒み、さらに、交渉期間中は新たな保護主義的措置は導入しないとのWTO閣僚会議決定に違反して、新たな貨物留保制度となるアラスカ原油輸出禁止解除法を成立させるとの挙に出た。
 世界最大の貿易国であり、かつ、サービス貿易自由化を標榜する米国が、このように海運の自由化交渉を実質的に拒絶するような態度をとったことは、WTO全体の信頼性にもかかわる重大な問題であるとして、我が国を含む各国から強い不満が示されるとともに、交渉の成功に向けての米国の貢献が求められた。しかしながら、2年余り計16回にも及ぶ交渉が行われたにもかかわらず、米国は最後まで自国の自由化約束を提出せず、交渉の打ち切りを主張したことから、海運に係る自由化交渉は1999年末までに開始される次期ラウンドに先送りすることを余儀なくされた。
 この結果を受け、WTOサービス貿易理事会においては、(i)海運に関する交渉を一旦中断し、WTOの次期ラウンド(1999年末までに開始)において再開すること、(ii) サービス貿易に関する一般協定(GATS) 上の最恵国待遇の供与義務は、再開後の交渉が終結するまで適用しないこと、(iii)再開後の交渉が終結するまでの間、各国は新たな保護主義的措置を導入しないこと等が決定された。

 (b) 第2回WTO閣僚会議
 WTO初の 閣僚会議 となった96年のシンガポール閣僚会議に引き続き、98年5月、ジュネーブにおいて第2回閣僚会議が開催された。本会議においては、WTOにおける作業の実施状況と将来の活動案について議論された結果、次期ラウンドの開始に向けて米国で第3回閣僚会議を開く等、99年末までに次期ラウンド交渉を開始するために必要な諸準備を進めることとされた。
 我が国としても、海運継続交渉の成功に向けて、引き続き粘り強く取り組んでいくこととしている。

 (c) 中国WTO加盟交渉
 ある国がWTOへの加盟を認められるためには、閣僚会議において、加盟国の3分の2以上の多数による議決を得ることになっている。加入の条件としては、WTO協定を受諾するとともに、物品についての十分な関税の引き下げ等の約束やサービス貿易についての十分な自由化約束を行うことが必要とされる。
 現在、中国はWTOへの加盟を希望しているが、それを受け入れるに足る十分な関税の引き下げやサービスの自由化約束等を求めて、各国が中国と二国間交渉を行っている段階(日、米、EUと中国との二国間交渉はいずれも未決着)である。我が国としては、物品の貿易に関する交渉については既に中国と実質的合意に達しており、残るサービス貿易分野での交渉を行っているところである。
 サービス貿易の一分野である海運に関しては、中国は現地法人の設立に係る規制に加え、特定の国への優遇措置をとるなど極めて制限的な政策をとっている。
 我が国としては、1999年末までに開始される海運継続交渉に先立って、今回の中国のWTO加盟交渉の機会をとらえて、我が国企業から強い要望のある 独資現地法人 の業務範囲の制限の撤廃等の自由化約束を行うよう求めていくこととしている。

(B)経済協力開発機構(OECD)
 OECDは先進国を中心とする加盟国(29ヶ国)間において、経済政策に関する諸問題を討議する国際機関である。その中に設けられた海運委員会は、先進国間の海運政策についての討議等を通じて、海運自由の原則に基づく、自由で公正な国際海運市場の形成に向けて重要な役割を果たしており、我が国としても従来よりその活動に積極的に参加・貢献している。
 海運委員会においては、海運における競争政策に関し、国によって異なる法制を持っていることから生じる諸問題についての解決策の検討や自由な貿易を妨げる効果を持つ各国の海運助成措置を削減するための方策、さらには安全・環境問題等を中心として議論が行われているほか、旧ソ連・東欧諸国、アジア、中南米諸国など非加盟国との政策対話も積極的に行われており、その一環として97年11月には中国とのワークショップが開催された。また、98年12月にはアジア、中南米諸国など非加盟諸国との政策協調を目的としたワークショップが開催される予定になっている。
 なお、同委員会の議長はこれまで欧州やカナダに独占されてきたが、98年4月に開催された同委員会において、日本から初めて議長が選出された。

(C)アジア太平洋経済協力(APEC)
 APECにおいては、当初海運分野では際だった活動は行われていなかったが、アジア地域の経済・貿易の発展に伴って、より効率的な海上運送システムの構築が必要となる一方、WTO海運継続交渉が中断されて、自由化に対する意識の低下が懸念される中、再開後の交渉成功に貢献するような活動が必要であること等から、我が国としてAPECの活用について検討を進めてきた。
 このため、1996年11月の第10回APEC運輸ワーキング・グループ(WG)において我が国より、APECにおいて海運分野の活動を検討すべき旨の提案を行い、如何なる活動が可能か議論を進めることが合意された。
 その後、97年6月のAPEC運輸大臣会合においては「効率的で安全かつ競争的な海運を実現するための環境整備の促進を目指して、海運問題に積極的に取り組んでいくため、まず ミッション・ステートメント を作成し、第13回運輸WGまでに完成させるよう指示」する旨が共同声明に盛り込まれた。
 これを受け、98年4月の第13回運輸WGにおいてミッション・ステートメントを決定したほか、各国の海運政策の透明性を高めるためのプロジェクト(我が国提案による)に関し、まず各国の海運政策、関連制度等を把握するための調査のあり方の検討がなされた。

(D)アジア海運フォーラム
 近年、世界経済に占めるアジアの地位がますます高まるにつれ、世界の海運におけるアジア地域の役割が重要になったこと等を背景とし、アジア域内で共通する政策課題について意見交換を行う必要性が高まってきた。
 このような中、民間レベルでは1992年よりアジアの6ヶ国及び地域(日本・韓国・中国・台湾・香港・ASEAN・オーストラリア)の船主協会が参加する「アジア船主フォーラム」が存在していたが、政府レベルでは適切な場がなかったことから、95年6月に我が国の呼びかけにより、韓国・中国・香港・インドネシア・マレーシア・シンガポール・タイの海運局長クラスの参加を得て「第1回アジア海運フォーラム」が東京において開催された。会議では各国の海運をめぐる状況や海運政策について活発な意見交換が行われ、年1回各国持ち回りで本会合を継続していくことが合意された。
 その後、96年6月には香港で第2回会合が、97年6月には新たにブルネイ・ベトナムの参加を得て、第3回会合が韓国において開催された。第3回会合では、我が国より、APECにおいて積極的に海運問題に取り組むことの必要性を訴えるとともに、APECにおける活動がアジア諸国にとって有意義なものとなるよう、アジアのイニシアティブを確立することの重要性を強調し、参加者の理解を得た。なお、第4回会合は、98年8月中旬にシンガポールで開催されることになっている。
 このように、アジア各国の海運当局が局長レベルで一堂に会して意見交換を行うことは、相互理解を深め共通の目的を実現していくうえで極めて有意義であり、我が国としては、今後ともこのような枠組みを活用して海運自由の考え方をアジア各国に浸透させていくこととしている。



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