第2章 産業基幹物質の国内輸送を担う内航貨物輸送


第2章 産業基幹物質の国内輸送を担う内航貨物輸送

1.内航海運とは

 日本と外国との間での航海を指す「外航」に対し、国内の港間における航海を「内航」といい、内航によって行われる輸送は、その輸送対象によって内航貨物輸送と内航旅客輸送に区分されるが、このうち内航貨物輸送を一般に「内航海運」と呼んでいる。
 内航海運は、公表された日程表に従って船舶を運航させる定期輸送とそれ以外の不定期輸送に分類される。

 定期輸送においては、主に食料品、工業製品等の雑貨を、コンテナ、トレーラー等により、総トン数500トン〜8,000トン程度のコンテナ船、 RORO船 といった船舶を用いて輸送している。
 また、不定期輸送においては、石油製品、鉄鋼、セメント、石灰石、石炭等の産業基幹物資や自動車、さらには砂利・石材や建設残土などを輸送しており、主として総トン数199トン〜699トンの鋼材専用船やLPG船、タンカー等の専用船、総トン数5,000トン〜10,000トン程度のセメント専用船や石灰石専用船等が用いられている。

 内航海運は、トラック等他の輸送機関のもつ陸上における機動性、利便性に対しては優位性を発揮できない面があるが、一般に 499型 の船舶一隻で10トン積みのトラック160台分の輸送力に相当する約1,600トンの貨物を輸送することができる等大量輸送に特性を有しており、長距離大量輸送に適した輸送モードであるといえる。このような特性から、鉄鋼、石油、セメント等の産業基幹物資についてはその大部分が内航海運により輸送されている。一方、食料品、工業製品等の雑貨については、自動車輸送量との対比において14パーセントと低いものとなっている(図表1-2-1)。これを反映して、内航海運の大半は不定期輸送となっており、定期輸送が国内の主要港湾を結ぶ少数の限定された航路のみであるのに対し、不定期輸送は国内の港間を網の目のように結んだ無数の航路が存在している。


図表1-2-1 輸送機関別品目別輸送量シェア(平成8年度)
2.内航海運の果たす役割

(1)国内物流の大動脈である内航海運
 内航海運は、鉄鋼、石油、セメントなどの産業基幹物資の大半を輸送するなど、トンキロベースで国内貨物輸送の4割強を担っており、我が国の経済成長を支え、経済情勢の変化にも対応しつつ国内物流の大動脈として物資の安定輸送を確保している。
(2)環境への負荷が少ない内航海運
 内航海運は、その大量性という特性から、トラック輸送と比べてエネルギー効率が高く、
温室効果ガス の排出量が少ないため、近年地球温暖化問題がクローズアップされる中で、環境に与える影響が極めて少ないクリーンな輸送機関として注目されている(図表1-2-2)。
図表1-2-2 モーダルシフトの効果
(3)物流効率化を担う内航海運
 近年、国内の景気低迷に加えて、為替レートの変動や近隣諸国等の経済発展による国際競争の激化等を背景として、荷主サイドで物流コストが注目され、その削減に向けた動きが急速に進展しているが、内航海運は、大量性によるスケールメリットを活用できることから、一層の効率化、活性化を通じて物流効率化に寄与していくことが期待されている。


第3章 人々の生活を支える内航旅客輸送
1.内航旅客輸送とは

 内航旅客輸送も、公表された日程表に従って船舶を運航させる定期輸送とそれ以外の不定期輸送に分けられる。

 定期輸送には、旅客を輸送する形態に加え、旅客と自動車を同時に輸送する形態(いわゆるフェリー輸送)がある。
 一般の旅客を対象に定期輸送を行っている航路は全国で556航路となっており、年間約1億2,500万人が利用している。また、このうち236航路がフェリー航路となっており、約2,400万台の乗用車やトラック等が輸送されている。
 最近、これら定期輸送を担う旅客船の大型化・高速化が進んでおり、1万トン以上の船舶で22ノット(時速約40km)以上の速度を有する船舶も少なくない。速度に限定してみると、35ノット(時速約65km)を超える船舶も全国で30隻以上運航されている。
 また、不定期輸送については、日常的な移動手段としてではなく、主にレジャーとしての輸送手段として利用されている。従来からあるいわゆる観光船に加え、近年、国民生活の向上とともに、心のやすらぎを求めて船上における時間を楽しむために旅客船を利用する人も増えており、湾内や湖等を周遊するクルーズ船も多数就航してきている。これらの航路は全国で867航路で、年間約2,200万人が利用している。

2.内航旅客輸送の果たす役割

(1)幹線輸送機関としての旅客船
 フェリーによる輸送は、新幹線や航空路線、高速道路網の整備により、長距離輸送における役割は他モードと比較して大きくないが、本州から北海道、四国及び九州といった長距離路線で活躍している。
(2)生活の足としての旅客船
 我が国には、瀬戸内海や九州を中心に各地に大小様々な島が多数点在しており、また、陸続きでも陸上輸送に頼ることが困難な地域が存在している。
 こうした地域においては、船舶が人々や生活物資を輸送するための交通機関として極めて重要な役割を担っている。
 こうしたいわゆる離島航路は日本全国で345航路あり、年間のべ約5,800万人が利用している。
(3)レジャーの一翼を担う旅客船
 東京湾や大阪湾等の波が平穏な都市近郊の海域を中心に、食事をしながら海上からの景観を楽しんだり、心地よい潮風を肌に感じてのんびり過ごすことが出来るミニクルーズ船等が多数就航しており、各種イベント等にも広く利用されている。
 また、景勝地における周遊のためや水中の魚やサンゴ礁等の観賞のため各地で大小様々な旅客船が運航されており、これらの旅客船もレジャーを楽しむための施設として欠かせない存在となっている。
(4)災害対策にも貢献する旅客船
 旅客船は、災害等で道路や橋等の通行がマヒした場合における人員や物資の緊急輸送に有効であり、平成7年1月の阪神大震災時においても旅客船がそのメリットを生かし、鉄道施設等の被災に伴い寸断された陸上交通の代替輸送機関として多数の旅客を輸送して大きな役割を果たした。また、被災者・救護救援関係者等の臨時宿泊施設等として利用されたことも耳目に新しい。


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