第8節 観光に係る安全確保対策の展開

第8節のポイント
 鉄道、道路交通、航空、海上交通における交通安全対策を推進した。
 宿泊施設等における火災防止対策、食品衛生対策等を推進した。 
 気象、地震等の情報提供体制の整備を推進した。
 遭難救助対策を推進した。
 自然災害等の発生に際して、安全情報の提供、観光需要の喚起に努めた。

1.交通安全対策の推進
(1)鉄道の安全対策
1鉄道事故発生状況
 平成12年中に発生した鉄道運転事故の件数は、936件であり、長期的には減少傾向を示している。死亡者数については309名であり、前年に比較して29名(8.5%)の減少となった。

2 鉄道事故の防止
 鉄道事故の防止を図るため、軌道強化等の線路施設の整備、自動信号化、自動列車停止装置(ATS)の設置・改良、列車集中制御装置(CTC)化、列車無線設備の整備等を強力に推進するとともに、乗務員等の教育訓練の充実、厳正な運行管理を指導した。
 また、12年3月に営団日比谷線中目黒駅構内で発生した列車脱線衝突事故については、事故調査検討会において、原因及び対策に関する調査検討が行われ、その最終報告書を踏まえて、車両の輪重管理等の安全対策を報告した。
 異常気象に起因する輸送障害については、気象情報の的確な把握のための改善や異常時対応マニュアルの見直し、旅客への情報提供の充実等の指導を事業者に対し行った。また、ホームからの転落事故に対する安全対策として、非常停止押しボタン、ホーム下の待避スペースの整備等について指導を行った。さらに、踏切事故の防止については、「踏切道改良促進法」及び8年2月に策定された第6次踏切事故防止総合対策に基づき、踏切道の立体交差化、構造改良、踏切安全設備の整備等を推進している。

2)道路交通の安全対策
1交通事故発生状況
 12年中に発生した交通事故は93万1,934件、死者数は9,066人(前年比60人増、0.7%増)、負傷者数は115万5,697人(前年比10万5,300人増、10.0%増)であった。
 交通事故による死者数は、5年連続して1万人を下回った(図4-8-1)。

図4-8-1 交通事故死者数の推移

2 観光中の交通事故発生状況
 観光中に交通事故で死亡した者は138人(全死者数の1.5%)、負傷者数は1万7,367人(全負傷者数の1.5%)であった。

3交通事故の防止

  ア.道路交通環境の整備
(ア) 交通管制事業
 交通事故が多発している道路等について、交通環境の改善を行い、交通事故の防止と交通の円滑化に資するため、特定交通安全施設等整備事業七箇年計画に基づき、交通安全施設等の整備拡充を図っており、都道府県公安委員会においては、ITS(高度道路交通システム)施策である新交通管理システム(UTMS)の一環として、交通管制センターの高度化、信号機の高度化を推進するとともに、リアルタイムの交通情報を提供するための交通情報板、光ビーコン(交通情報収集提供装置)等の整備拡充を図った。

(イ) 道路管理事業
 道路管理者においては、歩道、立体横断施設等の整備を推進するとともに、交差点改良、道路照明の設置を重点的に推進した。さらに、付加車線(ゆずりあい車線)や簡易パーキングエリアの整備、道路情報を提供するための路側通信システムや道路情報板等の整備、インターネットを活用した道路の災害情報の迅速な提供を推進した。

  イ.道路交通情報の提供
 交通渋滞、旅行時間などの道路交通情報を車載装置を通じてドライバーに提供する道路交通情報通信システム(VICS)について平成12年度末で首都圏など27都道府県の一般道路及び全国の高速道路でサービスを行い、観光地周辺の安全で快適な道路交通環境の確立に努めた。

  ウ.交通規制の推進
 交通事故の防止、良好な生活環境の保全のための対策として、歩行者、自転車利用者の保護等を中心に行う生活ゾーン規制を基盤とした都市総合交通規制の充実強化を図った。
 また、行楽期等には、行楽地に通じる幹線道路や行楽地周辺の道路に車両が過度に集中し交通渋滞が発生することから、事前広報や臨時交通規制を実施するとともに、交通量の変動に対応した信号制御を行ったほか、交通管制センター等による交通情報の提供を積極的に実施して、行楽車両の適切な配分誘導等に努めた。

  エ.交通の安全対策の推進
 交通事故のない安全で快適な観光が行われるよう、春及び秋の全国交通安全運動等の機会をとらえ、シートベルト及びチャイルドシート着用の徹底等に関する広報啓発活動を推進するとともに、交通事故に直結する悪質・危険な交通違反の指導取締りを強化した。
 特に、9月以降、薄暮時における交通事故が多発したことから、関係機関・団体との連携を図り、事故実態に即した広報啓発活動を推進した。
 また、行楽期においては、行楽地等における交通の安全と円滑を確保するため、適切な交通規制や交通整理等を行うとともに、悪質・危険性、迷惑性の高い違反に重点をおいた交通指導取締り等の諸対策を積極的に推進した。
 高速道路では、サービスエリア、パーキングエリア等の場所を活用し、交通事故防止キャンペーン等を推進するとともに、パトロール活動の強化を図ったほか、交通渋滞時における最後尾車両への追突事故防止のため、後尾警戒等の強化に努めた。

  オ.自動車の運行に係る安全確保
 バス、タクシー等の運送事業者に対し、春及び秋の全国交通安全運動、年末年始の輸送等に関する安全総点検等あらゆる機会をとらえ、輸送の安全確保に必要な運行管理及び車両管理、過労運行の防止、安全運行の指導等について徹底を図り、事故防止対策を効果的に実施するよう指導している。
 特に、高速道路等を運行するバスについては、乗員・乗客のシートベルトの着用、道路状況に応じた安全速度の遵守、車間距離の確保等の徹底について事業者を指導した。

3)航空の安全対策
1 航空事故発生状況
 12年の我が国の定期航空運送事業者に係る航空事故は3件であり、これに伴う死亡者は無く、負傷者数は11名であった。
 一方、定期航空運送事業者以外の航空事故は、30件であり、これに伴う死亡者は9名、負傷者は17名であった。

2安全確保
 航空路施設としては、航空路レーダーを全国19か所で運用しているが、秋田県に洋上航空路レーダーを新設するほか、性能向上整備を進めた。
 また、大都市圏における拠点空港の整備等に伴う航空交通量の大幅な増加に対処するため、航空交通流管理センターや、方位・距離情報提供施設として横須賀等15か所の性能向上整備を進めた。
 さらに、航空交通の安全性、効率性及び管制処理能力の向上を図るため、衛星を利用した航空管制等を行うための航空衛星システムの整備を推進した。
 また、大規模自然災害時における航空機の安全運航を確保するため、航空交通管制部等における管制業務の代替機能確保の整備を推進した。
 空港用施設としては、中部国際空港等9か所において空港監視レーダー及び東京国際空港等5か所においてターミナルレーダー情報処理システムの性能向上を進めた。
 また、能登空港等21か所に計器着陸装置、中部国際空港等23か所に方位・距離情報提供施設、東京国際空港等26か所に精密進入用灯火等の新設又は性能向上を進めた。

(4)海上交通の安全対策
1海難発生状況
 12年に我が国周辺海域において、海難に遭遇した船舶(海難船舶)は、2,873隻で、これに伴う死亡・行方不明者は301人であった。
 このうち、旅客船は39隻、プレジャーボート及び遊漁船(以下「プレジャーボート等」という。)は1,142隻で、全海難船舶に占める割合は41%であり、また、これに伴う死亡・行方不明者は29人となっており、全死亡・行方不明者に占める割合は18%となっている。

2安全確保

  ア.海事関係法令の励行等
 海上交通の安全を確保するため、その違反が海難の発生に直接結び付くおそれのある「船舶安全法」、「船舶職員法」、「港則法」等の海事関係法令の励行に重点をおき、船舶への立入検査を行ったほか、あらゆる機会を通じて指導取締りを実施した。
 また、灯台、灯浮標等の航路標識の新設及び既設標識の光力増大等の機能向上や老朽化した航路標識施設、機器の代替更新等改良改修を実施した。
 そのほか、航海用電子海図等の整備を進めるとともに電子水路通報を発行している。
 なお、(財)日本水路協会において、12年度には、紙海図の内容を簡略化した航海用電子参考図(ICメモリーカード)及びパソコン用の航海参考図(CD‐ROM)を発行した。

  イ.旅客船の運航管理の適正化等
 旅客船の安全を確保するため、運航監理官による乗船監査、事業所監査、運航管理者研修等を実施することにより、運航管理規程の遵守、安全意識の高揚等運航管理の一層の適正化を図った。
 外航客船については、5年10月、国際海事機関(IMO)においてISMコード(国際安全管理規則)が採択され、10年7月より同規則が強制化されたのに伴い、同コードの定着と実効ある運用が図られるよう実施体制の強化を行っている。
 また、運航事業者に対しても、旅客船等の運航事業に対し最低限の安全規制を適用する観点から、11年6月の海上運送法の改正により、外航旅客船事業、人の運送をする不定期航路事業等についても、12年10月より運航管理者の選任及び運航管理規程の届出が義務づけられることとなった。
 特に12年7月の「全国海難防止強調運動」の期間中は、安全運航総点検、訪船指導及び官民合同の事故対策訓練を実施した。

  ウ.プレジャーボート等の安全確保
 プレジャーボート等の海難防止については、愛好者自らが必要な知識・技術を習得し、安全意識を十分に持って、基本的なルールやマナーを遵守するよう啓もうしていく必要があることから、海難防止講習会及び海上安全教室の実施等により、気象・海象情報の的確な把握等事故防止指導を行った。また、民間の自主的な安全活動の展開が不可欠であることから、ユーザー等民間有志による安全活動の育成を目的とした海上安全指導員制度を推進した。さらに、小型船安全協会等は、安全教育活動、広報、無線普及事業等を展開しており、これらの活動の充実強化に努めた。
 また、平成12年7月に明石沖で発生したプレジャーボートからの転落事故により、救命胴衣を着用していなかった親子3人が犠牲となったことから、平常時における救命胴衣の着用率を向上させるための方策について検討を行うと同時に、このような悲惨な事故を二度と繰り返さないために、救命胴衣の常時着用、連絡手段の確保(防水パックに入れた携帯電話等の携行)、緊急通報用電話番号「118番」の有効利用を三つの基本とする「自己救命策確保キャンペーン活動」を推進した。
 遊漁船の海難防止については、利用者の安全の確保等を目的とした「遊漁船業の適正化に関する法律」を所管する水産庁や各都道府県の指導の下に、遊漁船業者の組織化及び同法に基づく遊漁船業団体の指定等が進められており、これらの安全対策の徹底を図るため、一定の期間を定めて一斉指導取締りを行うなど、機会あるごとに関係者に対する安全指導を行った。
 そのほか、安全性、利便性の面で質の高いマリーナの普及を図るため、施設のみならず、管理・運営の面でも優れたマリーナを認定する優良マリーナ認定制度を活用して利用者に対する安全対策の充実を図った。

  エ.海難救助体制
 海難が発生した場合に迅速、的確な捜索救助を行うため巡視船艇・航空機によるパトロールを実施したほか、巡視船艇・航空機、情報通信網の整備を行った。また、世界的な枠組みの中で、捜索救助に関して隣接国との協力・連携を強化する一方、日本の船位通報制度の参加促進とその有効な活用、高度な救助技術を要する特殊な海難に対応する特殊救難体制、救急救命体制及び洋上救急体制の充実強化、さらに沿岸部に空白のない救助体制を構築するため民間による救助体制の整備に対して積極的に支援・指導を行った。