(良好な景観をつくるための手法と担い手)

 景観のよいまちは、個性があり、人を引き付け、まちの活性化、経済の活性化につながるソフトパワーを持つため、「総論」としては景観のよいまちづくりは「賛成」される場合が多いであろう。行政としても、良好なまちなみ・景観を形成するための手法としては、都市計画法、建築基準法等の法律や、都道府県・市町村の条例等などにより、まちづくりの基本的な方針や規制誘導策を示している。
 しかし、景観のよいまちづくりのためには、住宅、建物、不動産等の所有者にとっては、建築規制等により自分の財産権の処分に制限が加わり、不自由な思いや、景観保全のための余分な費用が強いられることもある。また、どのような景観のまちを目指すのかを地域全体で考えて合意し、決定するまでのプロセスに時間と労力がかかり、その決定も必ずしも個々所有者の意向に沿わない場合があるなど、良好な景観づくりの「各論」に入ると、各地で「合意形成のプロセスの失敗」と「守るべき資産や景観の喪失」が起こっている。
 総理府の世論調査「住宅・宅地に関する世論調査(平成10年12月)」においても、「あなたは、街なみや景観をより良くするために、行政(国や地方公共団体)はどのようにしたらよいと思いますか」との問いに対し、「個々の建築活動を許可制にするなど、より強い規制を行う」と答えた人は6.1%と少数であるように、規制による良好な景観づくりは望まれていない。むしろ、「個人や会社などの建物の所有者、建築士に対し、街なみや景観に関する普及・啓発活動を行う(21.2%)」「街なみや景観に関する地域活動に対して、その活動費を支援したり、活動がより実効性があがるよう規約づくりなどを行う(27.5%)」「それぞれの住宅建設、住宅の増改築等に対して、低利融資などの支援を行うことにより、街なみや景観が徐々に良くなるようにしていく(32.9%)」など、個人や会社など不動産の所有者が景観に関する意識をもち、自主的に規約を結ぶことで景観を担保する、という方向性が望まれていることが分かった(図表4-1-2)。
 このように、良好な景観を形成するための施策を推進するためには、住民とのコミュニケーションの下で、地域のあるべき姿をビジョンとして分かりやすく定め、住民・行政等がコンセンサスを形成していくプロセスが大切である。この場合、全国一律の手法による景観の形成を目指すのではなく、地元市町村と地元住民が、地域の歴史・風土が生み出す個性や地元のニーズに応じて弾力的な対応ができるよう、公共施設の整備と一体となった景観形成のための事業実施を含め、自主性を発揮できるためのツールが多く備えられていることが必要である。
 総理府の世論調査「住宅・宅地に関する世論調査(平成10年12月)」においても、「あなたは、街なみや景観をより良くするために、誰が責任を負うべきだと思いますか」という問いに対して、最も多い回答は「地方公共団体(37.6%)」と、最も身近な行政主体を挙げている一方で、「個人や会社などの建物の所有者(27.9%)」が責任を負うべき、と、景観を構成する一部分である建物の所有者の役割や、「町内会や自治会、管理組合など(7.7%)」の住民グループに期待が寄せられている(図表4-1-3)。また、「景観の改善や地域の住環境の向上など、住民主体のまちづくり活動などを行うまちづくりNPOに参加してみたいと思いますか」との問いに対して、「ぜひ参加したい(5.2%)」「できれば参加したい(29.6%)」と、前向きな姿勢が見られており、今後、このような住民の活動が景観づくりに積極的に関わってくることが期待される(図表4-1-4)。
 人々が愛着をもち、地域のアイデンティティとなる景観は、他者から押し付けられたものではなく、住民等関係者により生み出され、支えられ育まれるものでなくてはならない。このため、建築協定等住民同士の自主的な取り決めによって景観を守る手法や、NPO活動や直接の資金提供等による住民の自主的な活動を通じて良好な景観が形成されていくことが大切である。また、「僕のおうちも景色の一つ」と言われるように、住民一人一人がまちづくりの主役であり、地域社会の共有財産であるまちの美しさを共同で作る、という意識を育て、共有することが大切である。
 この場合、景観は人々によって生み出されるものであるから、景観問題を見かけ、外見の問題として捉えるのではなく、人々がまちでどのような活動をして、どのようにまちと関わっているのかということが、景観を形成する上で重要な要素となる。住民は受動的ではなく、主体性と責任感をもってまちと関わっているかどうか、住民同士を結ぶコミュニティが生き生きしているかどうか、また、行政の側でも、住民とのパートナーシップを築き、一緒に良好な景観を目指す協働作業を行っているかどうか、というまちづくりと表裏一体の問題として捉えることが大切である。良好な景観を目指す意義は、外見的な美しさが実現することに加えて、そこに住み、働き、遊ぶ人々のふれあいや交流が生まれ、また自らが誇り、アイデンティティを感じられるものをつくるという人間性の原点に立ち戻ることができることにあるといえる。

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