明治初期の美しい日本を訪れた英国人女性旅行家〈イザベラ・バード〉

 イザベラ・バード(1831〜1904)は、1878(明治11)年に日本を訪れ、数ヶ月にわたって東京から日光、新潟、山形、秋田、北海道等を旅行し、その時の印象を「日本奥地紀行」の中で記している。記述をもとに、彼女を魅了した当時の地方都市や農村のまちなみ景観が、1世紀以上経た現代にどのように引き継がれているかについて触れてみたい。

〈新潟県・新潟市〉
 「旧市街は、私が今まで見た町の中で最も整然として清潔であり、最も居心地の良さそうな町である。…このよく掃ききよめられた街路を泥靴で歩くのは気がひけるほどである。」「川水がしだれ柳の間を通り、運河を気持ちよいものにしてくれる。」「この町は、日本にきわめて珍しい美しさをもっている。…運河に沿って並木道があり、…街路は清潔で絵のように美しいので、町は実に魅力的である。」「家屋は…箱庭のような庭園に面している。」
「日本奥地紀行」高梨健吉訳(平凡社)

 バードには情緒溢れる旧市街のまちなみがとりわけ魅力的に映ったようだ。大火や地震などにより、記述にあるような「純日本式の旧市街」「運河(堀)に沿った並木道」等当時の面影を残すものは少なくなったが、歴史・景観を守ろうとする精神は現在まで引き継がれている。

〈山形県・金山町〉
 「険しい尾根を越えて、非常に美しい風変りな盆地に入った。ピラミッド形の丘陵…の山頂までピラミッド形の杉の林で覆われ、…その麓に金山の町がある。ロマンチックな雰囲気の場所である。私は…一日か二日ここに滞在しようと思う。」
「日本奥地紀行」同

 金山町は、山形県の東北部、秋田県との県境に位置する豊かな自然に恵まれた町である。切り妻屋根に白壁の金山型住宅が建ち並ぶ落ち着いたまちなみは、周囲の美しい風景と調和し、彼女が訪れて1世紀過ぎた今もあまり変わらない。町では貴重な財産である景観を後世に引き継いでいくため、地元産の杉を生かした住宅の普及を推進する「金山町地域住宅計画(HOPE計画)」、彼女の記述を前文で引用した「金山町街なみ景観条例」などを制定し、美しい風景とまちなみが調和する美しい町づくりを進めている。

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