欧州諸国における風景保全の取組み

 欧州では、Landscape(英)、Landschaft(独)、Paysage(仏)、Paesaggio(伊)等の言葉をキーワードとし、中世に起源を持つ都市・集落風景を理想像とする「風景(保全)」の概念が確立しているとともに、国によって法体系は異なるため、一概には論じられませんが、国土全域を対象とした一元的かつ厳格な土地利用規則が存在するなど、風景の保全に関する基礎的枠組みが整備されています。また、各国別に以下のような風景保全に関する取組みが進められており、土地利用計画・規制を通じた実践がなされています。

[ドイツ]
 連邦の「自然保護と風景 Landschaft 維持に関する法律」には、国土の全領域を対象とした自然保護と風景維持のための空間計画規定が位置付けられており、これに基づき州レベル、広域地方レベル、市町村レベルでの『風景計画 Landschaftsplanung』が進められています。特に、市町村の行政区域全域を対象として策定されるLプラン Landschaftsplan では、動植物・風景・気候・水系・土地等に関する生態系的調査に基づき、自然・風景の現状とその評価、目指すべき状態、及び保護・育成・発展措置など総合的な自然・風景保全のための計画が策定され、その内容は土地利用マスタープランであるFプラン Flachennutzungsplan に反映・実践される仕組みとなっています。また、地区レベルでは、各州の自然保護法に基づき詳細な緑の保全・整備計画等を定めるGプラン Grunordnungsplan が、建築物の規模、形状、色彩等を含め詳細な土地利用・建築規則を定めるBプラン Bebauungsplan に反映されています。

[フランス]
 フランスでは、1993年の「風景 Paysage の保護と利用及び公開意見調査に関する法規定の改正に関する法律-通称『風景法 Loi Paysage』」が国土全域の風景保全を目的とした法制度の中核として機能しており、風景に関する全国的な政策の基本方針を定めるとともに、風景の保護と利用に関する要綱(単一又は複数の市町村単位)の策定、都市計画法典(Code de l’urbanisme)や農事法典(Code Rural)における風景規定の導入、建築・都市及び風景の遺産を保護する区域(ZPPAUP)の導入など、風景の保護及び実施に関する手法が定められています。また、詳細な土地利用の計画・規制を定める土地占用プラン(POS)では、風景保全が目的化されているとともに、風景保全に資する用途(Zone ND)や地区等(樹林地、特性保全空間、保全地区等)の設定、容積率(COS)、建物の高度制限(建築外枠規制等)、建物の外観(立面の意匠、形態、色彩等)等の規定が位置付けられています。

[イタリア]
 「風景 Paesaggio の保護」を共和国憲法(第9条)に位置付けているイタリアでは、1985年の「環境価値の高い地域の保護のための法律-通称『ガラッソ法 Legge Galasso』」が国土全域の風景保全を目的とした法制度として機能しています。特にガラッソ法では、州に『風景計画 Piano Paesistico』の策定を義務付けたことから、州では土地利用マスタープランである州域調整計画(開発計画)と風景計画(保存計画)という二つの計画が策定されています。なお、ガラッソ法自体は文化環境財省(Ministero per i Beni Culturali e Ambientali)の所管ですが、州の都市計画を担当する部局が州域調整計画と一体的に策定しており、その結果、自然環境的、歴史・文化財保護的な風景要素が、土地利用規制と直結した形で風景計画の中に位置付けられてます。また、県・市町村レベルの土地利用計画についても、州の風景計画の内容を踏まえ、順次改訂が進められています。

[イギリス]
 イギリスには、国土全域の風景保全を目的とした法制度はありませんが、土地利用のマスタープランであるデベロップメントプラン Development Plan、及び原則として全ての開発行為を許可制度によって個別に規制する計画許可制度において、建築物の大きさ(密度)や形状、外観・デザインといった風景を構成する要素が規定され、一般的な都市計画の枠組みの中で風景コントロールが行われています。また、市街地のスプロール化の阻止及び良好な風景の維持を目的とした「グリーンベルト Green Belts」、歴史的価値のある建造物・地区環境を保全する「登録建造物制度」や「保全地区」等の特定の地域・地区を対象とした制度が整備されており、これらの地域・地区もデベロップメントプランに位置付けられ、デベロップメントプランの達成を目標とする計画許可制度において、個々の審査を強化する等の措置が図られています。

(建設省建設政策研究センターPRC Note第125号「景観・環境形成のための国土利用のあり方に関する研究
〜欧州(独・英・仏・伊)の国土計画・土地利用規則と風景保全〜(平成12年6月)」)