第2 国土建設施策の動向

T 良好で活力ある都市環境の創造及び建築行政の推進

T−1 都市
1.都市政策の現状と課題
 我が国は、戦後目覚ましい経済発展をとげ、特に昭和30年代から40年代にかけての高度成長期には、急速に都市化現象が進んだ。
 人口集中地区(DID)の面積は、昭和35年では39万haであったが、平成2年には117万haに拡大した。全人口に対するDID区域内人口の割合も、同じ期間に約4割から約6割に増加し、78百万人の人々が居住するようになっている(平成2年)(表2−1)。
 産業構造が変化する中、サービス業など都市型産業の就業者が増加するなど、来世紀初頭に至るまで、都市化はさらに進行するものと考えられる(表2−2)。
 都市は、こうした多くの人々の多様な生活、経済活動の場であり、高い人口密度の中で、何より安全で、利便性、快適性をも備えた都市環境を実現するためには、道路・公園・下水道などの公共の施設を適切に整備し、土地利用についてルールを定めることなどが、必要不可欠の課題となる。
 また、今日の高度な経済社会では、都市は、単独で成立しているのではなく、国内外の他の都市とも様々に交流し、相互に密接な関係を有している。
 こうした状況において、それぞれの都市が、安全で良好な都市環境を形成し、活力を維持することは、第一に、都市住民の生活の向上を図るために、第二に、国土全体が均衡ある発展を遂げ、災害にも強い国土づくりを実現するために、第三に、地球環境問題や産業の空洞化などにみられる国際的な諸問題の解決のためにも強く求められている。
 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、近代的な大都市がはじめて経験した直下型の大地震であり、不幸にしてその被害は極めて甚大なものとなった。
 都市行政においては、これまでも都市施設の計画的な整備や、土地利用の整序、面的な市街地整備の手法等を通じ、安全性の高い都市づくりをめざしてきたところであるが、今般の地震では、交通ネットワークの強化、ライフライン施設等の機能の確保、公園・緑地等の整備、木造密集地区の防災性の向上など、これまでの取り組みをさらに充実し、より一層推進していく必要性が改めて認識されることとなった。
 今後、今回の地震による都市の被害状況及び原因等を詳細に分析し、得られた教訓を十分に踏まえつつ、より安全で質の高い都市環境の整備を推進することが、都市政策の大きな課題として求められている。 

2.都市政策の新たな課題への対応
 都市政策の新たな課題に対応するために、平成7年度、8年度に新たに講じた施策を中心に記述する。
(1)災害に強いまちづくりに向けて
1)阪神・淡路大震災による被災地の復興対策
 阪神・淡路大震災による被災地域については、一日も早い復興と震災に強いまちづくりを実現するため、土地区画整理事業、市街地再開発事業による市街地整備や住宅・宅地等の供給、関連する街路、下水道等の整備を推進するほか、広域防災拠点及び地域防災拠点となる防災公園の整備を推進する等、各種施策を積極的に実施しているところである。
 また、このような施策の円滑な実施を図るため、被災市街地復興特別措置法に基づく被災市街地復興推進地域における土地区画整理事業に係る一般会計補助制度の創設・拡充及び道路整備特別会計補助制度の拡充、災害復興市街地再開発事業に対する非常災害時補助率の適用期限の延長等、財政上の支援措置も併せて行っている。
2)安全性の高い市街地形成の推進
 イ)安全市街地形成土地区画整理事業の創設等
 既成市街地の安全性向上のための市街地整備を推進するため、三大都市圏等において、外部の都市計画道路が整備済みであるが、地区内の道路・公園等の都市基盤の整備が不足し、防災上危険な木造密集市街地を対象とする安全市街地形成土地区画整理事業を創設するとともに、道路整備特別会計による土地区画整理事業の補助採択要件の緩和を行う。
 ロ)再開発による防災活動拠点の整備
 耐震性貯水槽、ヘリポート、防災広場として機能する広場等、地域の防災活動の拠点となる施設建築物等を計画的に整備する市街地再開発事業を防災活動拠点型プロジェクトと位置づけ、補償費、共用通行部分整備事業費等を補助対象に加えることにより、地域の防災性能の向上に資する。
 ハ)都市住民の安全を確保する街路整備の推進
 平成7年6月に成立した地震災害特別措置法に基づき都道府県が策定する地震防災緊急事業五箇年計画に、避難路・消防活動が困難である区域の解消に資する道路が位置づけられることとなり、今後一層の整備推進を図る必要がある。
 ニ)防災安全街区の整備の推進
 道路、公園等の都市基盤を整備するとともに、医療、福祉、行政、避難、備蓄、エネルギー供給等の機能を有する公共・公益施設を集中整備し、相互の連携により、地域の防災活動拠点となる防災安全街区の整備を土地区画整理事業、街並み・まちづくり総合支援事業等により推進する。
B防災公園の整備の推進
 阪神・淡路大震災において多くの都市公園が、避難地、火災の延焼防止、自衛隊やボランティア等の救済活動拠点、仮設住宅用地として活用されたという教訓を生かし、防災公園の整備を一層推進する。具体的には、一次避難地となる都市公園を新たに防災公園の対象とする等、防災公園の対象を拡大する。また、大震火災時に広域避難地となる防災公園の整備を推進するとともに、防災機能を強化するため、地域防災計画等との連携を図り、災害応急対策施設等を整備する。
C下水道の防災対策
 イ)下水道の地震対策
 重要なライフラインの一つである下水道施設についても、施設の耐震性の向上、高度処理水、雨水等の災害時の消火・生活用水としての確保を実現するほか、これらの施策の中心となる下水処理場を防災拠点として整備する。
 ロ)下水道による総合的な雨水対策の推進
 床上浸水が頻発し甚大な被害が起きている大都市を対象に、河川事業との連携を図りつつ、2000年までに床上浸水解消対策が完了するよう、9地域において雨水渠、雨水ポンプ場、雨水調整池等の整備を行う緊急雨水対策下水道事業を重点的に実施する。このほか、雨水貯留浸透機能を有する公共桝の整備を行う下水道雨水貯留浸透事業を拡充し、雨水貯留浸透機能を有する管渠の整備を推進し、市街地における雨水の流出量を抑制して浸水防除を図る。
 ハ)下水道による渇水対策
 下水処理水を水洗トイレ用水等の雑用水として再生するための処理施設、送水管の整備を行う再生水利用下水道事業を引き続き推進するほか、平成8年度より新規施策として、渇水時に下水処理水を緊急的に利用するために必要な施設を整備する下水道渇水対策施設整備事業を実施する。

(2)都市構造の再編・空洞化対策
1)都心居住を推進するまちづくり
 大都市地域において、都心地域における居住機能の向上により職住近接による豊かな住生活の実現を図るとともに、低未利用地の有効・高度利用による住宅及び住宅地の供給を促進するため、これらに寄与する市街地再開発事業、街区高度利用土地区画整理事業や、市街化区域内農地の計画的宅地化を実現する土地区画整理事業である緑住まちづくり推進事業等を積極的に推進するとともに、大都市法において定められる住宅市街地の開発整備方針に従い、用途別容積型地区計画や街並み誘導型地区計画等の活用を図る。
2)産業跡地・臨海部等の土地利用転換
 地域の発展の核となる都市において、高次都市機能の育成・集積を図る拠点の整備を推進するため、土地区画整理事業等の面的整備事業を活用し、鉄道跡地・工場跡地等において土地利用転換を図り、その地域の都市機能やにぎわいの核となる施設の整備を推進する。
 また、臨海部においても土地利用転換が推進されているところであるが、特に東京臨海部開発については、関係5省庁及び東京都により「東京臨海部開発推進協議会」が設置され、基本方針の策定、関係者の協議が行われている。

(3)生活福祉空間の創造
1)高齢者、障害者等に配慮した公園の整備
 高齢者、障害者等に野外活動の機会を提供するとともに、これらの人と健常者が交流しふれあうことにより、思いやりや助け合いの心を育むことができるよう福祉施設等と一体となった公園の整備を推進する。また、公園のトイレの総点検を実施し、特に利用頻度が高い公園について、高齢者、障害者及び乳幼児連れの母親が安心して使うことができる公園のトイレを「ゆったりトイレ」として緊急に整備する。
2)市街地整備と一体となった福祉施設等の計画的整備
 土地区画整理事業を活用することにより高齢者、障害者等に配慮した幅の広い歩道等の都市基盤施設を面的に整備するとともに、身近に必要な福祉・医療施設の適正な立地を計画的に推進するため、街区高度利用土地区画整理事業の補助対象の拡充等を行う。
 また、保育所、老人福祉センター等の社会福祉施設を一定の条件の下に整備する市街地再開発事業を「福祉空間形成型プロジェクト」と位置づけ、手厚い補助を行い、誰もが利用しやすい中心市街地における社会福祉施設の立地を促進する。
3)快適な歩行者空間の整備
 大都市及び地方都市の中心市街地等の駅前地区のうち、歩行の快適性が著しく損なわれている地区において、高齢者、障害者等にもやさしい歩行環境の整備を、運輸省との連携を図りながら計画的に推進する「駅内外歩行者快適化作戦」を実施する。

(4)環境と共生しうるおいのあるまちづくり
1)沿道法の改正
 道路交通騒音の著しい幹線道路の沿道において、まちづくりと一体となって沿道環境の整備を図り、沿道にふさわしい適正かつ合理的な土地利用を実現するため、平成8年に幹線道路の沿道の整備に関する法律等を一部改正し、沿道整備計画の沿道地区計画への移行、容積の適正配分の導入等による沿道整備計画制度の拡充を図り、さらに沿道地区計画の実現手法である沿道整備権利移転等促進計画制度を創設したところである。
2)環境ふれあい公園の整備の推進
 多様な生物の生育、生息地を確保するとともに、環境学習を通じて、良好な環境を次世代に継承していくため、国営公園や大規模公園等において、野草園、野生生物の生息地となる池、小動物観察のための野鳥観察所等の施設を備えた「環境ふれあい公園」の整備を推進する。
3)水と緑のネットワークの整備
 身近に豊かで親しめる水辺や、多様な生物が生息できる環境を形成するため、小河川やせせらぎなどに、下水処理水を供給して、点在する水辺を結ぶとともに、水辺を緑豊かに整備して、潤いのある快適な都市生活のための環境整備を図る「水と緑のネットワーク整備事業」を推進する。
 この際、下水管渠から一定量の下水を汲み上げて必要なレベルまで浄化する「せせらぎプラント」や、下水処理水又は雨水を都市下水路等の維持用水として活用するとともに、その周辺空間を整備する「水循環・再生下水道モデル事業」を活用することで、効率的な整備を図る。
4)歴史・文化に根ざしたまちづくりの推進
 地域の歴史や文化を継承したまちづくりを実現するため、地域交流センターや集会所等の地域・地区の交流の場となるような建築物の整備にあたって、歴史的建築物等既存建造物等を活用する場合、その購入、移設、改築等に要する費用を街並み・まちづくり総合支援事業の補助対象とする。

(5)地域の活性化と地方定住促進
1)街なか生活・交流都心づくり
 活力低下が問題となっている中心市街地においては、新たな視点によるまちづくりを行い、市民の生活・交流の拠点として再生することが求められている。このため、商業業務系施設のほか、福祉施設や教育・文化施設等や住宅の立地によるバランスのとれた空間や、多目的広場、交通ターミナル等の世代間・都市間市民交流を促進する施設を整備する「街なか生活・交流都心づくり」を土地区画整理事業の活用により推進する。
2)駅内外歩行者快適化作戦
 大都市及び地方都市の歩行の快適性に欠ける駅周辺において、鉄道事業者等と連携して「駅内外歩行者快適化作戦」を策定し、歩道の拡幅やペデストリアンデッキ、エレベータ等、各種施設の整備を重点的に実施し、魅力あふれる歩行空間を形成する。
3)駐車場・駐輪場の充実
 中心市街地の活性化及び快適な交通環境の実現等に寄与するため、共同駐車場整備促進事業、街並み・まちづくり総合支援事業及び日本開発銀行等融資制度を拡充するほか、自転車駐車場及び利用者が快適に利用するための利便施設、アプローチ道路や案内板等を一体的に整備する自転車駐車場整備促進事業を推進する。
4)緊急かつ効率的な下水道整備の推進
 イ)ふるさと活性化下水道緊急整備事業の推進
 下水道事業に着手しているが、未だ供用されていない三大都市圏以外の町村の特定環境保全公共下水道について、2000年までに供用開始できるよう整備を推進する。
 ロ)流域下水汚泥処理事業の創設
 下水道の普及による汚泥発生量の増大に伴い、下水汚泥の安定的処理処分が緊急の課題となっているため、市町村の委託に基づいて、都道府県が流域下水道と一体となった下水汚泥の広域的な処理を実施する「流域下水汚泥処理事業」を創設し、汚泥の減量化、資源化を促進する。
5)拠点都市の整備の推進
 地方拠点都市地域については、平成8年5月末までに、全国で85地域が指定され、そのうち75地域において基本計画が策定されている。また、都道府県知事により承認された基本計画を踏まえ、関係市町村、道府県とともに、主要な建設省所管事業の整備事業を含む地方拠点都市地域整備アクションプログラムが34地域で作成されているところである。今後さらに、基本計画の策定・承認とあわせ、残りの地域についてもアクションプログラムの策定を進め、また、そのフォローアップを行っていくことなどにより、地域の特色に応じた拠点形成の効果が早期に発揮されるよう、重点的な支援を図ることとしている。
(6)都市機能の高度化
1)C・C・BOX整備事業の推進
 都市景観の向上、安全で快適な歩行者空間の確保、情報通信ネットワークの信頼性の向上等の観点から、関係者間の密接な協力の下に、質の高いまちづくりと高度情報化社会の早期実現に寄与する電線類の地中化を進める電線共同溝の整備を推進する。あわせて、モデル地区を設定し、情報ネットワークの総合的な整備に資するとともに、今後の推進のための課題等について検討する。
2)下水道施設の活用
 イ)下水道法の改正
 これまで下水道の暗渠部分については、その管理の困難性等を背景に、下水道法により原則として物件等の設置が禁止されていた。しかし、近年の情報化の進展とともに、下水道施設の有する空間の利用に関する要望が高まってきたため、平成8年の下水道法の改正により、下水道の暗渠部分について下水道の管理上支障を及ぼさない範囲で、第三者による光ファイバー等電線の設置が可能となったところである。
 ロ)下水道管理用光ファイバー等を活用した情報ネットワークの整備
 下水道等の公共施設は各家庭等都市内のすみずみまできめ細かく張り巡らされたネットワーク性を有している。この特徴を踏まえ、下水道管理用光ファイバー等公共施設管理用光ファイバーの活用により、大容量かつ低コストの情報通信ネットワークの形成の促進、地域の情報化に寄与することとする。

(7)地域主導のまちづくりの推進
 地域主導のまちづくりを実現するためには、住民に身近な市町村の役割の充実が必要である。このため、都市計画制度において、市町村マスタープランを創設するとともに(平成4年)、市町村決定の都市計画である地区計画制度を拡充した。また、被災市街地復興特別措置法の被災市街地復興推進地域の区域内において、一定の場合に、地域住民が、計画的な土地利用を促進するために必要な措置を講ずべきことを市町村に対し要請できるものとした(平成7年)。
 一方、地域の主体的な取り組みを推進する事業制度として、市街地整備に関する基幹的な事業の実施とあわせて、さらに質の高い都市空間を形成するための各種施設等の整備を総合的に支援する街並み・まちづくり総合支援事業を推進しているところである。
 さらに、都市計画・都市整備に関する情報の一般市民への提供、住民主体のまちづくり活動に対する専門的な相談業務等を行う「まちづくり情報センター」の設立を促進するため、設立のためのマニュアルを広く配布するとともに、まちづくり情報センター設立にあたり、その内容の調査や施設整備について街並み・まちづくり総合支援事業により支援する。


T−2 建築

1.建築活動の現況
 平成7年度の我が国の建設投資額は約80兆円、このうち建築に対する投資は約43兆円の規模となる見込みである。この建築投資額は、GNPの約 8.7%に相当し、欧米先進国に比して高い水準にある。
 また、建築投資を公共・民間の部門別にみると、平成7年度においては、着工建築物の床面積、工事費予定額とも約9割を民間部門が占めており、我が国の建築活動の大部分は民間において担われている状況にある(表2−3)。

2.建築物に求められる社会的役割
 第一に、地震、火災等に対する基本的な安全性が確保されている必要がある。このために、構造耐力、防火、避難等に関する安全性の確保に不断の努力がなされてきたところである。
 第二に、生活の場として、利便性、快適性が確保されている必要がある。
 第三に、経済活動の場としての建築物の役割がますます重要性を増してきている。
 第四に、良好な市街地環境の形成に対する国民のニーズが高まっている中で、その構成要素としての建築物の役割が一層重視されてきている。
 第五に、建築物は、環境に与える影響が大きなものである。建築物の整備に当たり、環境に対する負荷の軽減を図っていくことは、環境対策に重要な役割を負っている。

3.時代の要請に対応した建築活動への規制、誘導の必要性
 建築物の安全性の確保、高齢者・障害者等の利用にきめ細かく配慮した建築物の整備等多面的な要請に対応した良好な建築ストックの形成等を図っていくためには、特に、建築投資の大部分を占める民間における建築活動を適切に支援していくことが必要不可欠である。このため、将来へ承継する質の高い建築資産の形成に向けて民間建築活動を誘導する様々な施策の実施を図っていく必要がある。



U 良質な住宅・宅地の供給

1.住宅・宅地供給の動向
(1) 新設住宅着工戸数・床面積の推移
 平成7年度の新設住宅着工戸数は、前半は低迷したものの、後半は低金利や経済対策の効果、震災復興の本格化等を背景として高い水準で推移したことから、年度全体では 148.5万戸(前年比 4.9%減)となった。
 利用関係別にみると、持家は55.1万戸(前年比 5.2%減)、貸家は56.4万戸(前年比 1.8%減)、分譲住宅は、34.5万戸(前年比 8.7%減)となった。
 また、1戸当たり平均床面積は、前年比 1.0%減の93.0m2となった。利用関係別にみると、持家が1.0%減の137.4m2、貸家が1.1%減の52.3m2、分譲住宅が1.6%増の90.6m2となっている(図2−1、2)。
(2) 第六期住宅建設五箇年計画の進捗状況
 第六期住宅建設五箇年計画(計画期間 平成3年度〜平成7年度)においては、適正な規模、構造及び性能・設備を備えた住宅の建設戸数を 730万戸と見込み、公営住宅、公団住宅、住宅金融公庫融資住宅等の公的資金による住宅については 370万戸(調整戸数20万戸を含む)としているが、平成3年度(実績)から平成7年度(計画)までの進捗状況は 405万戸(調整戸数を除く 350万戸に対し115.8%)となっている(表2−4)。
(3) 宅地供給の現況
 宅地供給量は、昭和40年代後半をピ−クに、50年代以降漸減傾向にあり、近年は、ほぼ横ばいで推移している。平成6年度の宅地供給量は、全国で10,800haとなっている(図2−3)。

2.住宅政策の課題と展開
(1) 住宅事情の現況と問題点
 平成5年の住宅統計調査によれば、全国の住宅数は、総世帯数 4,097万世帯に対して 4,588万戸となり、一世帯当たりの住宅数は1.12戸に達し、戸数面での充足は進んでいる。
 住宅の質的な面については、一戸当たりの平均床面積が 91.92m2に達し、全体として着実な向上が見られるものの、依然として、標準的な世帯向けの賃貸住宅ストックは極めて少ない状況にある。
 また、世帯と住宅との対応関係を示す居住水準についてみると、全世帯が確保すべき目標である最低居住水準に満たない世帯は、昭和63年の 9.5%から平成5年には 7.8%となり、着実に未満世帯率は減少している。
 わが国の住宅ストックの状況については、ファミリー向け住宅、特に借家が絶対的に不足していること、全住宅数の10%に達している空家のうち、39%(約 153万戸)は劣悪なストックであること、が指摘されている。21世紀に向けて、高齢者世帯を中心に世帯数の増加が続くことから、良質な住宅ストックは量的になお不足している状況にあり、今後とも住宅建設のニーズは引き続き高いといえる。
(2) 今後の住宅政策と第七期住宅建設五箇年計画の推進
 今後の住宅政策のあり方については、平成7年6月の住宅宅地審議会答申において、住宅市場の条件整備、住宅市場の誘導、住宅市場の補強・補完の三つに分類することが提言された。建設省としてはこの趣旨を十分に踏まえた上で、
  1. 国民のニーズに対応した良質な住宅ストックの整備
  2. 安全で快適な都市居住の推進と住環境の整備
  3. いきいきとした長寿社会を実現するための環境整備
  4. 地域活性化に資する住宅・住環境の整備
を基本課題とする第七期住宅建設五箇年計画(平成8〜12年度)を策定した。居住水準等の目標としては、誘導居住水準(4人世帯 共同住宅91m2、一戸建 123m2)については、平成12年度までに全国で半数の世帯が、その後できるだけ早期にすべての都市圏で半数の世帯が確保できることを目標とし、このため、平成12年度において住宅一戸当たりの平均床面積を約 100m2とすることを目標として良質な住宅ストックの形成に努めることとしている。また、最低居住水準(4人世帯 50m2)については、大都市地域の借家居住世帯に重点を置いて水準未満の世帯の解消に努めることとしている。なお、性能及び設備の目標については、本格的長寿社会となる21世紀の住生活に対応するために住宅が備えるべき段差の解消等のバリアフリー性能、遮音や断熱性能、耐久性能等を盛り込む等、所要の拡充を図り、その着実な改善を図ることとしている。
 計画期間中における民間を含めた総住宅建設戸数については、 730万戸を見込み、そのうち、公的資金による住宅建設の量としては 360万戸を見込んでいる。
 なお、公共投資基本計画において、改良投資を促進すること及び大都市圏の都心部における住宅供給戸数の目標が示されたことを踏まえ、第七期住宅建設五箇年計画期間中における住宅建設等の姿を参考資料中に提示している(表2−5、6)。
 また、第七期住宅建設五箇年計画期間における諸施策の推進に当たっては、公的住宅供給を、民間との適切な役割分担の下、住宅市場を補強・補完するものとして推進を図ることととしているが、公営住宅、公団住宅、住宅金融公庫融資の主要制度について、事業の重点化と政策誘導機能の強化を図る方向で所要の見直しを行っている。
(3) 住宅建設コストの低減
 近年、我が国の住宅建設コストが米国に比して高いとの指摘があり、その低減に関する社会的要請が高まっている。また、消費者のコストに対する意識の高まりに伴い、住宅に本来必要な性能、機能等を問直す動きも強まっている。
 住宅建設コストを低減することは、国民の住宅取得の負担軽減に資するだけでなく、住宅規模の拡大や設備の充実といった国民の居住水準の向上意欲に応えるとともに、規模増に伴う家具等の関連需要の喚起など、広い分野での経済効果も期待できるものである。
 このため、建設省においては、住宅の生産性の向上、流通の合理化、市場競争の促進、規制の合理化等住宅建設コスト低減のための施策を確実かつ効率的に実施するための「住宅建設コスト低減に関するアクション・プログラム」を平成6年3月に策定したところであり、「平成12(2000)年度までに、標準的な住宅の建設コストがこれまでの水準の3分の2程度に低減することを目指す」としている。このアクション・プログラムの内容は平成7年12月に閣議決定された「構造改革のための経済社会計画」に位置づけられたところであり、これを受けて、平成8年度に重点的に取り組む事項を中心に「住宅建設コスト低減のための緊急重点計画」を平成8年3月に策定した(図2−4)。

3. 大都市地域における住宅・宅地問題
(1) 大都市地域における住宅・宅地問題の現況
 1) 地価の動向

 国土庁の平成8年地価公示(平成8年1月1日時点。)によると、三大圏における住宅地の地価は、前年比▲4.6%と平成4年以来5年連続の下落となっている(表2−7)。
 2) 住宅の分譲価格
 地価高騰等により、大都市地域を中心に住宅価格は大幅に上昇した。例えば、首都圏の新規民間分譲マンションの平均価格の指数の推移をみると、地価高騰前の昭和58年を 100とした場合、平成2年には 239.5にまで上昇した。その後、地価の沈静下等にともない下落し、平成7年には 162.2となっている。
 3) 住宅立地の状況
 平成6年度に新規供給された宅地分譲と戸建て分譲の合計を、中心地からの距離帯別にみると、首都圏では30km以遠に、近畿圏では20km以遠に、それぞれ7割以上が立地している。それに対し、逆にその他の地域では8割以上が20km圏内において供給されている(表2−8)。
 4) 居住水準
 規模要因に関する達成状況をみると、平成5年時点で、主世帯のうち最低居住水準未満世帯率は全国で 319万世帯( 7.8%)であるが、京浜葉大都市圏で 133万世帯(11.5%)、三大都市圏で 212万世帯(10.3%)存在しており、また、誘導居住水準以上世帯についても、全国で40.5%、三大都市圏で33.9%、京浜葉大都市圏で30.4%となっており、大都市地域における居住水準向上の遅れが目立っている。
(2) 大都市地域における住宅・宅地供給の課題
 住宅供給の動向をみると、昭和62年以降高水準で推移してきた新設住宅着工戸数は、平成3年度に大きく落ち込んだものの、近年は高い水準で推移している。しかし、住宅着工の約半数近くを占める借家については、その相当部分が狭小なものであり、必ずしも良質な住宅ストックの形成が進んでいるとはいえない。
 一方、宅地供給をみると、宅地分譲・戸建住宅による新規供給宅地の平均敷地面積は、若干の上下はあるものの一定規模で推移しており、宅地規模の観点からは質の向上は見られていない。また、住環境の向上に対するニーズの高まりに対応するためには、公共公益施設が適正に整備され、高齢化社会等への対応、緑・景観等の環境面の取り組み、防災性・安全性への配慮等が十分に行われた良好な宅地の供給を推進する必要がある。

4.大都市地域における住宅・宅地問題への対応
 大都市地域における住宅・宅地需要は、一の都府県を超えた範囲にわたるものであるので、これに対応する広域的な観点からの取組みが不可欠である。
 このため、大都市法に基づき、平成3年には、三大都市圏の大都市地域について、国が供給基本方針を、関係各都府県が同方針に即し供給計画を策定した。同方針は平成8年に変更され、平成17年度までの10年間の住宅・宅地供給目標量、住宅・宅地の供給促進施策等が定められた(表2−9)。
 現在、国及び関係公共団体は一体となって、既成市街地の有効利用、市街化区域内農地の計画的宅地化、新市街地の計画的開発、都心の地域その他既成市街地内における住宅供給の促進等を推進し、適正な価格での良質な住宅・宅地の供給を図るとともに、住宅取得能力の向上等の総合的な施策の展開を図っている。
 なお、近年、緑・景観や高齢者等に配慮した住宅地に対する国民のニーズが高まっている状況に的確に対応するため、「大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法」を改定し、認定基準等の見直し等の措置が図られたところである。 



V 「ゆとり社会」の実現に向けた道づくり

1.道路をめぐる現状
(1)道路交通の推移と現状

 戦後の我が国の自動車交通は飛躍的に伸び、現在では、我が国の社会経済に欠くことのできないものであると同時に、国民生活を支える最も重要な社会基盤となっている。自動車利用は年々増加しており、自動車保有台数、自動車走行台キロの伸びはGNPの伸びを大きく上回っている(図2−5)。
(2)日常生活を支え、人流・物流を担う根幹施設
 道路整備の発展により、生活様式・食生活の多様化、物流の高度化、新たな雇用の創設等が見られるなど、道路は、日常生活を支え、人流・物流を担う根幹施設の役割を担っている。道路整備の効果は極めて広範・多岐に至っており、直接効果だけでも平成10年度1年間で約10兆円と推定される。
(3)道路の空間としての機能の重要性
 道路は国土の3%を占める公共空間としても国民の日常生活と大きな関わりをもっている。ライフラインのほとんどが道路空間に敷設されているほか、近年では高度情報通信社会を支える光ファイバーネットワークの収容空間としても重要な役割を期待されている。また、道路は良好な市街地の骨格の形成等の機能、地震・火災等の災害時における避難路や、延焼拡大防止といった防災機能とともに、都市の景観を形成する環境空間としての機能をも有している。
(4)活力ある地域、経済等の基盤となる社会資本
 道路は地域住民の日常生活を支える根幹的な社会資本であると同時に、広域的ネットワークを形成して地域間の多元的・多層型連携の基礎となっている。地方分権を推進するにあたっても、道路の整備を通じて地域の活力を支えることが前提条件である。
(5)安全な社会を支える根幹的な社会資本
 我が国は元来脆弱な国土の上に成り立っているが、昨年から今年はじめにかけても、平成7年1月の兵庫県南部地震における阪神高速道路等に対する被害、7年7月の新潟県上越地方及び長野県北部一帯における梅雨前線がもたらした豪雨による国道 148号線の通行止め、7年12月から8年2月にかけての積雪・吹雪等による全国の高速道路、国道等の通行止め等の災害にみまわれ、道路が安全な社会を支える最も重要かつ根幹的な社会資本としての機能を有することが強く認識された。
(6)道路整備の現状
 道路整備について戦後の歩みを振り返ると、終戦直後は砂利道ばかりで、人や自動車の通行はいたるところで難渋を極めている状態であった。このような中、本格的な道路整備は、昭和29年に策定された「第1次道路整備五箇年計画」から始まり、現在まで11次に及ぶ道路整備五箇年計画の改訂によって着実に進められている。しかしながら高速道路の整備水準は国際水準と比較してまだまだ劣後しており(表2−10)、一般国道についても円滑に走行できる区間(整備済区間)は全体の50%にすぎない(表2−11)。

2.道路整備に対する期待
 「道路に関する世論調査」(総理府)の結果
(1)概要
 今回の調査は新たな道路計画策定の基礎資料とすることを目的として実施し、調査の時点(平成7年11月)で世論の関心が高いテーマ、新たな道路計画をにらみつつ重点的に取り組んでいるテーマを追加した。具体的には、歩行者の立場から道路整備に望むこと、大地震発生の際の道路の安全性、高速道路の料金設定等である。
(2)主要な調査結果について
 大地震発生の際の道路の安全性について、6割を超える方が「不安がある」と答え、不安の内容として「道路が狭いので避難や消防活動などが困難」等を挙げている(図2−6)。これは、阪神・淡路大震災において、沿道建物、電柱等の倒壊に伴う道路の閉鎖が避難活動や消防活動に支障を与えたこと、また、道路が狭いことや道路の渋滞に伴う消防活動の遅れ等に起因する火災の延焼等、地震被害の発生が国民の意識に影響していると考えられる。また、高速道路の料金設定については「全国均一の料金水準とすることが適切である、もしくはやむを得ない」と回答した方が44.2%、「地域別の料金を設定すべき、もしくはやむを得ない」と回答した方が31.1%と、地域毎の料金設定よりも全国画一料金制を支持する割合が上回っており、全国画一料金制が概ね受け入れられていると考えられる(図2−7)。
(3)今回の調査の特徴
 今回の調査の特徴として、大都市地域とそれ以外の地域で異なる傾向が見られる。具体的には、「交通渋滞対策」「歩行者の立場からの道路整備」等の項目について、大都市地域では道路の利用のあり方に関するソフト面の対策を挙げる方が多いのに対し、それ以外の地域では道路そのものの施設整備の一層の充実に対する強い要望が見られる。また、自動的に車が障害物を避けることができる等安全運転の支援を行うシステムに対する要望が大きいことなど、より安全、快適で環境にやさしい道路交通システムに対するニーズが増してきていると言える。
 今回の調査結果を受けて、国民のニーズに的確に対応した道路行政を重点的・集中的に推進していくこととしている。さらに、新たな道路計画の策定に当たっては、広く意見を聞きながら進めていくこととし、道路審議会のもとで策定された「キックオフ・レポート」による活動を行っているところである。

3 道路整備の基本的視点
(1)道路整備の基本的方向

 国土構造の骨格を形成する高規格幹線道路から日常生活の基盤となる生活道路にいたるまでの道路網を、道路空間の適正な利用を確保しつつ、計画的に整備することにより、1)生活者の豊かさを支える道路整備、2)良好な環境創造のための道路整備、3)活力ある地域づくりのための道路整備、を基本方針として今後の道路整備を推進する。
(2)着実な整備のための財源確保の必要性
 道路整備五箇年計画に基づいて、道路の整備を緊急かつ計画的に推進するためには、道路整備特定財源を安定的に確保することが重要である。このため、受益者負担、損傷者負担の考え方に基づく道路特定財源の確保はもとより、さらに一般財源の大幅な投入を図る必要がある。
(3)有料道路制度を活用した道路整備の必要性
 財政上の制約下で、道路の早期整備を推進し、我が国の道路整備水準の向上に有料道路制度は大きく寄与してきた。今後も、高規格幹線道路等の早期整備を図る上で、有料道路制度の活用が重要である。なお、平成7年11月には、料金上昇の抑制を図りつつ、高速自動車国道の円滑な整備を推進する観点から道路審議会の中間答申が高速自動車国道に関して出されたところであり、現在建設省においてその具体化を図るべく検討を進めている。

4 道路整備の課題と展望
(1)地域経済の活性化を促進し、地域の活力回復を支援する道路整備
 我が国の国土・地域構造の骨格を形成し、地域間の多元的・多層型連携の基礎となる高規格幹線道路・地域高規格道路の整備を重点的に進め、21世紀初頭までに、高規格幹線道路14,000kmの概成を目指す。また、地域の活性化の核となる拠点を整備するため、平成8年度より、通商産業省の産業振興施策と連携して建設省所管の各種施策を重点的・計画的に実施する「21世紀活力圏創造事業」、地元の要望する地域振興プロジェクトを支援する道路整備を重点的に行う「地域活性化促進道路事業」を創設し、地域の活性化を図っていることとしている。また、農山村地域の活性化を支援するため、「道の駅」やSA・PAなどにおいて農林水産省と連携し新たな拠点地域の整備を行う「ふるさと交流拠点事業」や、市町村間を連絡する大規模なトンネルや橋梁を整備する「交流ふれあいトンネル・橋梁整備事業」を積極的に進めていく。
(2)新産業の育成を支援する新技術開発等の推進
 高度情報通信社会の進展の中、道路整備においても、新技術開発等の推進を図り、新たな課題への対応と新産業の育成が重要となっている。
 このうち、最先端の情報通信技術を用いて、人と道路と車両とを一体のシステムとして構築し、安全性、輸送効率、快適性の飛躍的向上と新たな市場創出による大きな経済効果をもたらすITS(高度道路交通システム)の研究開発・実用化の積極的推進や、高度情報通信社会の構築に向け、ネットワークインフラとしての電線共同溝の整備等情報通信基盤整備の推進を図る。
(3)快適な環境づくりのための道路整備
 環境を道路行政の内部目的化して道路を整備していく必要があり、この考えに基づき自然環境との調和、生活の美しさや歴史性、文化性などに対する国民の強い要請に対応するため、地球環境、社会環境、自然環境、生活環境などの視点からの長期的かつ総合的な道路環境政策を推進する必要がある。
 特に騒音については、平成7年7月の国道43号訴訟最高裁判決において騒音等による生活妨害が認められたことなどから、一層の対策が必要とされている。このため道路構造の改善、交通流対策、自動車単体対策、沿道整備施策等を含めた総合的な施策を積極的に展開していくこととしている。
(4)安全で安心なくらしづくりを支援する道路整備
1)安全で安心できる国土づくりのための道路整備の推進
 阪神・淡路大震災を踏まえ、地域防災計画と連携しつつ、各種道路事業を推進する。 2)総合的な交通安全対策の推進(第6次特定交通安全施設等整備事業五箇年計画の策定)
 平成8年度を初年度とする「第6次特定交通安全施設等整備事業五箇年計画」を策定し、新規事業として「事故多発地点緊急対策事業」を創設し、交差点改良、歩道等の整備、道路照明の設置等適切な工種を組み合わせた一連の事故削減方策を集中的に実施するほか、地域内のくらしの安全を確保するため、公安委員会との連携による「コミュニティ・ゾーン形成事業」を創設し整備を推進するなど、高齢者や障害者の方々が安心して社会参加できるような道路交通環境づくりを行うこととしている。
 また、高速自動車国道等においても「高速自動車国道等における交通安全対策に関する五箇年間の事業計画(第2次)」に基づき、事業を積極的に実施する。
3)一般国道 229号豊浜トンネル崩落事故
 平成8年2月10日に発生した一般国道 229号豊浜トンネル崩落事故を受け、2月13日付けで各道路管理者を通じて緊急点検を実施した。また、事故の発生原因を明らかにするとともに、各種技術的課題に幅広くとりくむため、3月1日付けで土木学会に「大規模岩盤崩落事故に関する技術的検討委員会」を設置した。さらに、緊急点検結果に基づき、平成8年度は防災対策事業費を大幅に増額し、積極的に対策を推進する。



W 安全で安心できる生活と社会を創造する国土保全と水資源開発

1 安全で安心して生活できる国土の形成
 我が国は、列島を縦断する急峻な山脈、外国と比べ短くて急勾配な河川、国土面積に比べ長大な海岸線を有している。また、環太平洋地震帯、環太平洋火山帯に属しており、世界有数の地震国、火山国であるとともに、地質は脆弱で、断層や破砕帯も数多く分布している。気候はアジアモンスーン型で、年間の降水量が多く、特に梅雨期、台風期に降雨が集中している。このため、我が国は水害、土砂災害等を受けやすく、かつ高潮、津波、風浪にさらされるなど、国土保全上極めて厳しい自然条件下にある。これに加え、狭い国土に人口が多く、国土の約75%が山地等で占められているため、高度な土地利用は洪水時の河川水位より低い沖積平野を中心として行われている。また、宅地開発は背後に山地を控える平地や斜面にも及んでおり、国土の約10%を占めるにすぎない河川氾濫区域内に人口の約1/2、資産の約3/4が集中しているとともに、近年の都市化の進展により、流域の保水・遊水機能が低下しており、洪水時の流出量の増大に伴う災害発生の危険性が増大しているという社会条件下にあり、我が国は水害及び土砂災害等に対して、自然的かつ社会的に脆弱な国土条件下にあるといえる。
 このような自然的、社会的条件の下、我が国では、毎年全国各地域で洪水、土石流、がけ崩れ、高潮、地震等の自然災害が頻発しており(表2−12)、近年においても平成7年1月の阪神・淡路大震災をはじめ、平成2年以来の雲仙・普賢岳の火山噴火による島原災害、平成6年の西日本を中心とする全国的な渇水被害、昨年7月の梅雨前線豪雨災害などの自然災害が多発しており、国民生活や社会経済に大きな影響を及ぼしている。
 このように、我が国の国土が地形、地質、気象、地理的に極めて厳しい条件に置かれていることを考えると、国民の生命、身体及び財産を災害から守るため、安全な国土づくりを行うことは、いつの時代においても最も基礎的な課題である。従って、安全で安心できる生活・社会環境の基盤を形成する治水施設等の整備を積極的に推進していくことが必要になっている。
 また、阪神・淡路大震災の例を挙げるまでもなく、人口、資産、中枢管理機能等の集中が進む大都市地域において、ひとたび大規模な災害が発生すれば、多くの尊い人命や大切な財産が失われるとともに、我が国の経済社会活動全体にも甚大な影響を与えることとなる。このため、計画規模の洪水に対する安全性を早急に確保するとともに、計画規模を超えた洪水による被害を最小限に押さえ、危機的状況を回避するため、越水や長時間の浸透に対しても耐えることができる幅の広い高規格堤防(スーパー堤防)の整備の一層の推進や、破堤しにくい質の高い堤防の整備を推進する。さらに、出水時の警戒、避難に関する情報伝達体制の整備を行うとともに、洪水時の水防活動基地、ヘリポート、避難地として利用する防災拠点としての河川防災ステーション等の整備及び水防活動の強化、また、ハザードマップの作成・公表による情報提供、災害時の救援体制等の整備等のソフト面での対策を推進する。
 また、地震対策として、大地震等により堤防が沈下することによって発生する浸水被害を防止するため、ゼロメートル地帯の河川、海岸堤防の耐震性の向上、耐震基準を満たさない砂防設備等の補強、地震に伴い地盤の緩む危険性の高い地域、土砂災害の危険箇所が集中している都市部及び交通網集中地域など重点地域における土砂災害対策及び防災拠点、消火用水等の確保のための河川等の整備を推進していく。
2 頻発する渇水と水資源開発
 最近の水需給の状況については、首都圏を始めとして水資源開発の遅れ等から、依然として需要が充足されておらず、河川の水が豊富な時にしか取水できない、いわゆる不安定取水に依存せざるを得ない状況にある。また、生活用水の一人一日平均給水量は増加を続けており、また、環境保全、消流雪など新たな需要も発生している。さらに、地形的制約等から局地的に水需給がひっ迫している地域もある。このようなことから、近年においても渇水が頻発しており(表2−13)、平成6年までの18年間をとれば、全ての都道府県で渇水が発生し、その間に渇水に見舞われた年が11回以上あった地域もある。
 渇水に強い社会を構築するには、まず、社会システムの中に水の再利用の推進、節水の促進等有限の水資源を最大限効率的に活用するシステムを組み込むことが不可欠であるが、節水型社会システムの構築を前提としても、生活水準の高度化等により水需要の増加が今後も予想されること、また、現行の水供給安全度が近年の少雨化傾向等により低下していることから、ダム建設等の水資源の確保を積極的に推進することが重要である。
 従って、節水型社会システムの構築と水資源の確保を車の両輪とした総合的な渇水対策が必要となっており、1)節水型社会システムの構築、2)水需要対策及び3)水意識の高揚を柱とした総合的な渇水対策を推進する。
 このうち、水需要対策としては、21世紀初頭までに各地域で生じた過去の主要な渇水にほぼ対応できるよう、渇水被害が頻発している地域において水資源開発を重点的に実施するなど地域の実情に応じたきめ細かい対策を推進する。
3 水と緑豊かな個性ある水辺づくり
 河川、渓流、急傾斜地及び海岸の有する水辺空間等は、水と緑に恵まれた貴重なオープンスペースであり、レクリエーション、スポーツ等の活動の場として住民にやすらぎやうるおいを与える一方、震災時の延焼遮断帯、避難広場等の防災機能や自然環境保全機能を果たすことも期待されている。また、近年における生活水準の向上、ニーズの多様化、余暇時間の増大に伴い、水辺空間に対する国民の要請は、一層高まるとともに多様化していくことが予想される。
 こうした社会の潮流に対応し、河川審議会答申「今後の河川環境のあり方について」(平成7年3月)や「海岸長期ビジョン」(平成7年3月)の趣旨を踏まえて、水辺の持つ多面的な機能を考慮しつつ国民のニーズに的確に応えた水辺空間の整備を積極的に推進していく。
4 健全な水循環系の形成
 全国の一級河川の直轄管理区間における水質環境基準を満足した地点数の割合が平成6年は71%となっている。これを、昭和50年代と比較すれば徐々に水質改善の傾向が見られるようになってきているものの、地域別に見ると、関東や近畿のような大都市地域で水質環境基準の満足状況が低くなっており、都市域の河川の中には依然として水質汚濁の著しいものが多い。このため、健全な水循環系の確保のため、河川審議会の答申を踏まえた様々な取り組みを推進していく必要がある。
 また、近年、水道水については、異臭味の発生、発がん性のおそれが指摘されるトリハロメタンの水道浄水過程における生成などの問題が生じており、水道原水自体の水質保全が強く求められている。このため、水道事業の実態に即しつつ、水道原水水質保全に資する河川事業等を一層推進する。
5 新たな社会・生活環境の変化への対応
 新たな社会・生活環境の変化への対応として、生活福祉空間づくりとしての河川等の整備を行っていくほか、地域づくりや流域内での交流・連携の支援を推進するとともに、投資余力の低下及び維持、管理、更新費の増大を踏まえ、新技術等の導入等による維持管理の効率化を推進する。また、高度情報通信社会に対応した河川等の整備を推進する。
6 平成8年度の主要施策の概要
 現在、所管事業五箇年計画(表2−14,15,16)に基づき、治水施設等の整備等を鋭意行っているところであるが、平成8年度は、1)来るべき21世紀を見据え、国民の生命・財産を守り、国土の均衡ある発展を図るため、最も根幹的な事業である治水事業、海岸事業、急傾斜地崩壊対策等事業を強力に推進するとともに、本格的な高齢社会の到来を間近に控え、国民一人一人が豊かさを実感できる安全で快適な生活環境づくり、人と自然・文化の関わり、人と人との交流を大切にするいきいきとした地域社会の構築を目指し、施策の積極的な展開を図る。特に、平成7年の阪神・淡路大震災、梅雨前線豪雨災害、平成6年の全国的な渇水被害に鑑み、安全で安心できる社会経済基盤を形成するための対策を緊急的かつ強力に推進する。2)頻発する水害・土砂災害等に対し、災害復旧関係事業を推進し、再度災害を防止するとともに、地域の復興を支援する。の2点を基本方針として、
  1. 根幹的な治水対策の推進(大河川の整備、中小河川の整備、土石流対策、がけ崩れ対策及び海岸保全対策の推進)
  2. 安心できる暮らしを実現する生活防災緊急対策の推進(床上浸水対策の推進、高齢者等の災害弱者対策の推進、激甚被災地域の復興を支援する治水施設等の緊急整備)
  3. 地震等防災対策の推進(河川・海岸堤防等の補強、危険度の高い地域における土砂災害対策、防災拠点、消火用水等の確保のための河川等の整備)
  4. 生活用水確保対策の推進
  5. 健康と心の豊かさを増進する水辺環境の保全・創出(良好な水辺空間の形成、豊かでうるおいのある緑の斜面空間を形成する地すべり対策、急傾斜地崩壊対策事業の推進、白砂青松の復元等良好な海岸域の形成、河川等の水環境改善の推進、生物の多様な生息・生育環境の保全・再生・創出)
  6. 住宅・宅地供給や地域づくりを支える治水施設等の整備の推進(良好な住宅・宅地供給を支援する治水事業等の推進、活力ある地域づくりを支援する治水事業等の推進、中山間地域の生活環境の改善等の支援)
  7. 異常災害に備える危機管理施策の展開(超過洪水対策の推進、異常渇水に備える渇水対策ダムの整備の推進、雲仙・普賢岳等の火山対策の推進、情報基盤整備の推進)
  8. 既設構造物の機能確保・改善(河川管理施設等の機能確保の推進、ダムの機能改善の推進)
  9. 災害復旧関係事業の推進
を主要施策として、安全で安心できる生活と社会を創造する治水事業等を推進していく。



X 地域活性化の推進

 建設省においては、多極分散型国土の形成を目指し、地域の個性が活かされた魅力と活力のある定住社会の建設を図るため、基盤となる住宅・社会資本整備を重点的に実施し、地域における定住・交流条件を改善するとともに、地域自らの創意工夫に基づき、地域が主体となって行う特色ある地域づくり、ふるさとづくりを総合的、計画的に支援するため、以下の施策を講じてきたところである。
  1. 地域活性化の基盤づくり
  2. 個性と創意工夫を活かした地域づくり
  3. 地域活性化活動への多様な支援
 地方圏において、円高等による産業の空洞化・雇用の喪失、地方都市の中心市街地の衰退、中山間地域の活力の低下などの深刻な問題が生じ、将来の生活に対する不透明感が醸成されつつある。こうした中、全国どこに住んでいても地域の特性に応じた質の高い快適な生活が享受できることを目指すとともに、従来の圏域を超えた新たな連携・交流の推進により個性的で活力にあふれ、国際化時代にも対応しうる地域づくりを図ることが重要である。
 このような基本認識の下に、建設省においては、平成7年11月に、生活・都市・地域・国土を取り巻く環境の変化、基本理念、施策の基本的方向、施策への取組姿勢と「快適生活」の目標イメージを「新連携時代の快適生活ビジョン」として取りまとめた。今後、本ビジョンで示された基本理念、施策の基本的方向に沿い、多様な連携・交流を可能とするネットワークの整備、地域の特性と役割に応じた機能の形成、豊かな自然等を活かした環境の創出等を通じ、個性的で活力ある地域からなる「いきいき・ふれあい列島」の形成を、関係省庁との連携を図りつつ積極的に推進することとしている。



Y 良質な官庁施設の整備

 戦後50年、官庁施設の整備に当たっては、「親しみやすく、便利で安全であること」を基本として、量的充足を優先課題としてきたが、絶対的に不足していた官庁施設の延べ面積は、昭和30年度の約2,400万m2から平成5年度には約8,408万m2へと約3.5倍に大幅増加し、また、官庁施設の不燃化率は同じく16%から概ね100%へと改善された。
 しかし、業務の多様化による狭あいや、建設後の経年変化による老朽の著しい官庁施設が増加していることにより、依然として、官庁施設に対する需要は根づよいものがある。
 また、一方では、21世紀を間近に控えた今日、社会情勢・国民生活環境(耐震性能、高齢福祉社会対応、環境共生・低負荷等)の変化に伴う行政ニーズの多様化・高度化に的確に対応した、いわば質的充足が新しい課題となっており、建設省の官庁施設づくりにおいても、時代に即応した新施策を展開しようとしている。
 平成7年1月の阪神・淡路大震災においては、官庁施設も被害を受け、災害対策活動に重大な支障が生じたのみならず、本来業務である行政サービスの提供にも支障が生じた。このため、官公庁施設の地震防災機能の在り方について、建築審議会に諮問し、平成8年6月に答申を得た。今後は、この答申で建議された施策のうち、緊急性の高いものから計画的に実施していくこととしている。
 こうした背景のもと、平成8年度、建設省では、次のような施策を講ずることとしている。
  1. 長期営繕計画(10箇年計画)に基づく、計画的な施設整備の推進
  2. 「位置、規模及び構造の基準」に基づく、21世紀を展望した良質な施設整備の推進
  3. 建築審議会答申「官公庁施設の地震防災機能の在り方について」を踏まえた災害に強い施設整備の推進
  4. 環境負荷の少ない施設整備の推進と保全の充実・強化
  5. 高齢者・障害者に配慮した施設整備の推進
  6. 予防保全の観点から効率的・計画的な施設の保全の推進



Z.国土の測量

 近年、高度情報化社会が進展し、地震・火山防災、地球環境問題への関心が高まるなかで、測量・地図作成分野が果たすべき役割は大きく広がっている。こうした社会的要請に応えるべく国土地理院では、国土の実態を明らかにし、環境と調和のとれた国土建設を図るために、平成6年度に策定された「第五次基本測量長期計画」に基づき、国土に関する基本的な測量成果である測地基準点(三角点、水準点等)や基本図等の地理的情報の整備・提供等各種の測量事業を全国的な視野で計画的かつ体系的に実施している。
 測地基準点は、各種公共事業、地図作成、地籍調査等の土地に関するあらゆる事業に必要な位置の基準を与える一方、これを繰り返し測量することにより、地震防災に資する地殻変動の検知に役立っている。近年では人工衛星を利用した測量システム (GPS)による連続観測や超長基線電波干渉計(VLBI)等の新技術を積極的に導入して、日本列島及びその周辺の地殻変動を捉えている。
 基本図は、2万5千分の1地形図に代表される国の基本的な地図で、国土の利用及び保全に関する各種計画・事業実施のための基礎資料や教育、余暇活動等に広く利用されている。また、全国の都市地域においては、さらに詳細な1万分の1地形図を整備している。このほか、防災、環境保全、地域開発等の諸施策に資する地理調査を実施し、主題図を作成するとともに、数値地図の刊行、地球地図の世界的整備ならびに標準利用技術の開発等地球規模の課題について、その解決に向けて積極的に貢献するため取り組んでいる。さらに最近では、高度情報化社会に対応して、地理情報システム(GIS)の基盤情報である空間データ基盤の早急な整備を推進しているところである。



[ 公共用地取得の推進

1 公共用地取得の現状
 公共事業の円滑な執行のためには、その前提となる公共用地を確保しておくことが重要となるが、建設省所管事業に係る用地ストック率は、近年、回復傾向にはあるものの、平成6年度においては1.3年分と、従前の水準(1.4年分程度)と比べればなお低い水準にとどまっている(図2−8)。
 また、用地費及び補償費は、事業費の伸びに応じて増加傾向にあるものの、事業費に占めるその比率(用地補償費比率)は、概ね20%台前半で推移している(平成8年度は当初予算ベースで21.6%)。
 なお、用地先行取得に係る国庫債務負担行為の設定状況は、平成8年度については、面積1,887ha、金額5,183億円となっている。

2 公共用地取得の推進
 公共用地及び代替地の取得は、公共事業の円滑な執行の前提となるだけでなく、土地の有効利用・流動化の促進の観点からも重要な課題となっている(表2−17)。
 このため、公有地の拡大の推進に関する法律に基づく土地の先買い制度、用地先行取得に係る国庫債務負担行為、特定公共用地等先行取得資金融資制度、公共用地等の取得に係る税制、土地収用制度等を総合的に活用するとともに、代替地情報を幅広く収集し活用する体制や用地取得体制の整備、社会経済情勢の変化を踏まえた損失補償基準等のあり方についての総合的な点検を進めることにより、公共用地等の確保を積極的に推進していく必要がある。



\ 建設技術に関する総合的な取り組み
1 建設技術の現状と課題
 平成7年1月17日兵庫県南部地震が起き、大惨事に至ったことは、建設技術に対する信頼を根底から揺さぶる結果となった。今後は、この教訓を生かし、安全で国民が安心して生活できる国土づくり、まちづくりに活かしていくことが建設技術の今直面する第一の大きな課題である。
 また、環境に対する国民の意識の急速な高まり、高齢者や障害者福祉の質の向上、情報化や国際化への対応など、国民の多様なニーズに対して建設技術が取り組むべき課題は多岐にわたっている。
 しかも、このような課題の解決のために費やしうる時間や資金には限りがあり、労働生産人口の減少、メンテナンス費用の増大等、今後の住宅・社会資本の整備をめぐる環境には厳しいものがある。このため、建設事業の効率化・多目的化、建設産業の生産性向上、建設コストの縮減が緊急の課題となっている。

2 21世紀の建設技術の視点
 かつて、施設整備を大目標に据えた時代の技術は、不足する社会基盤施設の整備を早急に行うために、施設整備の経済性や効率性を第一とした技術、いわば「つくる側の技術」であった。国民生活を中心に据え、一人一人が真に豊かさと幸せを実感できる生活を第一に考える時代には、技術の視点を実際に使う人々の側に置き、施設そのもののみでなく、施設周辺地域の環境や生活、歴史、文化などへの影響を含めた総合的な視点が重要になってくる。「つくる側の技術」から「つかう側の技術」へと認識を転換することが求められている。

3 建設省技術五箇年計画等の策定
 平成6年7月、建設技術開発会議より「21世紀を展望した建設技術研究開発のビジョンについて」が建設大臣に提出された。このビジョンに応えて、建設省所管の13分野について「建設技術五箇年計画」を策定した。
 また、13分野の建設技術五箇年計画を横断的に集約しつつ、建設省全体で取り組むべき技術開発に関する基本計画として、平成7年9月25日、「建設省技術五箇年計画」を策定し、計画的な建設技術の研究開発に取り組んでいる。

4 建設技術研究開発の推進方策
 今後の建設技術の研究開発の推進にあたっては、官と民との役割分担を明確化し、技術開発テーマの特性に応じた適切な推進を図っていく。
 建設省主導の技術開発にあたっては、研究開発の目的、性質等に応じて、総合技術開発プロジェクト、官民連帯共同研究、建設技術評価制度などの諸制度を活用する。 開発された新技術については、試験フィールド制度、技術活用パイロット事業等を利用して、その技術の一般的な普及を図る。
 民間技術開発の推進を支援するにあたっては、研究開発の推進は市場原理を十分機能させるような環境整備を進め、開発された新技術を活用・普及していく。このため、建設技術評価制度や技術審査・証明事業の一層の拡充を図るとともに、建設技術情報流通システムの整備や、新技術の導入に対して柔軟な対応を可能とするような技術基準の見直しなどの環境整備を図っていく。

5 建設事業推進のための基盤整備
 建設事業を円滑かつ効率的に実施するために、設計の標準化・自動化、積算のより一層の透明性・客観性の確保及び合理化・簡素化の推進、機械施工の推進等の建設技術の整備や安全施工確保のための施策等を積極的に進めていく必要がある。
 また、建設事業の効率的な執行を図る観点から、海外資材の活用、生産性の向上を踏まえた設計手法の導入等により、建設費の一層の縮減に努めることとしている。



X 情報・通信システムの整備・活用による高度情報化の推進

 現在政府においては、「行政情報化推進基本計画」(平成6年12月25日閣議決定)及び各省庁が共通して実施する事項について定めた「行政情報化推進共通実施計画」(平成7年3月24日行政情報システム各省庁連絡会議了承)に基づいて、行政の情報化を推進している。
 建設省においても、これらの計画を踏まえ「建設省行政情報化推進計画」(平成7年5月30日情報政策推進委員会決定)を策定し、建設行政の情報化を図ってきている。併せて、建設本省、地方建設局及び施設等機関等においても、建設行政の情報化を図るべくすべての部局で「各部局版行政情報化推進計画」を策定したところである。また、「建設省システム環境整備ガイドライン」等を策定し、建設省の情報システムの整備に当たっての環境を整備した。
 特に、先導的な役割を果たす建設本省においては、LAN回線で接続された職員1人1台のパソコン環境を実現した「建設本省LANシステム」及びこれに併せた既存システム等を整備し、行政事務の高度化、効率化を図っているところである。
 平成8年度においては、「建設本省LANシステム」の管理・運営の充実及び機能強化を図るとともに、情報通信ネットワークの高度化の一環として、建設本省と地方建設局等とのLAN及び省庁間ネットワークを構築する霞が関WANとの接続を行う。
 また、行政サービスの高度化の一環として、インターネット、パソコン通信を活用した情報提供の多様化を図るとともに、許認可等申請手続の電子化に係る検討、白書等データベース及びクリアリング(行政情報所在案内)システムの整備の検討を行うこととしている。
 住宅社会資本の整備に伴い、施設の運用、管理の充実を図るためにシステム化、情報化が進められており、通信需要が増大するとともに、多様化している。また、大地震等の大規模災害において、情報の収集、伝達、提供を確保し、都道府県、関係公団等の関係機関との連携を確保するため、情報通信システムの信頼性向上、機能向上が望まれている。
 このような状況に対応するため、建設省は、災害時における情報収集・伝達の機能を強化するとともに、防災情報を広く国民に提供するための総合的な防災情報通信基盤として、建設省、国土庁等の中央防災機関、都道府県、公団の関係機関を結ぶ総合防災情報ネットワークの整備を推進する。また、施設管理の高度化を図るため、施設管理用光ファイバーの敷設を推進するとともに、光ファイバーネットワークの構築に向け、網構成、交換技術、網管理技術の導入を行う。さらに、多重無線通信回線と光ファイバーネットワークを有機的連携により、ネットワーク全体の機能を高めるとともに、河川情報システム、道路交通情報システム等の各種情報通信システムの高度化を推進し、地震観測の全国ネットワークの構築を推進する。



]T 国際建設交流

 アジア太平洋地域のめざましい経済発展が続く中、建設省は同地域のインフラ整備担当の閣僚クラスの初めての会合である「アジア太平洋地域建設担当閣僚会議(トップフォーラム)」を昨年9月に大阪で主催した。同じく11月に大阪で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)とともに、建設省としてアジア太平洋地域との連携に新たな一歩を踏み出したのが平成7年度であった。また、WTO(世界貿易機関)の政府調達協定も本年1月から発効するなどにより、建設市場の国際的な競争性も高まってきている。さらには、日米包括経済協議、日EU協議等の場を通じて、建設分野の規制緩和、基準・適合性に係る相互承認協力等が議論されるなど二国間での国際協議も進んでいる。
 このような状況の中、我が国に経済力に見合った国際貢献が引き続き強く求められ、建設分野においても国際協力と国際協調にさらなる努力が必要となっている。我が国の政府開発援助(ODA)が戦後拡大する中で、建設分野でも様々な協力が行われ、その効果として、例えば近年の東アジア諸国のめざましい経済発展に対して我が国ODAによるインフラ整備が一定の貢献をしたとの評価もある。今後、この国際協力について建設分野での課題としては、1)新たな展開、すなわち民活によるインフラ整備や国境を超える国際インフラへのニーズの高まり、進展する情報化や深刻化する環境問題などへの対応、2)援助対象の地域的多様化や国際貢献手段の多様化への柔軟な対応、3)途上国の人づくりや途上国への技術移転の一層の推進、4)援助に係る的確な調査と技術開発の推進、などがある。
 また、国際協調については、経済社会のグローバル化の進行とともに、建設分野においても全般的な国際化が求められるようになってきている。具体的には、1)前述の建設担当閣僚会議や地球地図構想などにおける多国間によるインフラ整備課題への取組みの積極化、2)建設市場のボーダレス化への積極的な対応として、例えば、我が国建設市場、住宅市場などの対外開放問題のための基準・適合性の相互承認協力や国際的な標準化への的確な貢献、などがあげられる。建設省としては、これらの課題に積極的に対応し、世界の調和ある発展に貢献していくこととしている。



]U 環境施策の展開

 建設省では、「環境基本法」の基本理念を踏まえ、21世紀初頭を視野において、建設省の環境政策の基本的な考え方を明らかにするとともに、豊かさを実感できるような環境の創造を目指して中長期的に展開すべき政策課題と施策の展開の方向等を総合的にとりまとめた「環境政策大綱」を平成6年1月に策定した。環境政策大綱においては、健全で恵み豊かな環境を保全しながら、人と自然の触れ合いが保たれた、ゆとりとうるおいのある美しい環境を創造するとともに、地球環境問題の解決に貢献することが建設行政の本来的使命であると認識すること、すなわち「環境」を内部目的化するものとし、この基本理念のもとに、所要予算の適切な確保や国民の理解の増進等を図りつつ、質の高い環境を備えた国土の実現を図ることとしている。
(ゆとりとうるおいのある美しい環境の創造と継承)
 人と人とが交流し、緑とオープンスペース、清らかで豊かな水による「ゆとりとうるおい」に恵まれた、文化の香り豊かな美しい環境を形成するため、地域の特色や個性を活かした住宅・社会資本の整備を推進する。
(健全で恵み豊かな環境の保全)
 すぐれた自然環境をできる限り保全し、環境への影響を軽減、解消する再自然化その他のミティゲーションを行う。また、環境への影響を軽減するため、沿道環境の整備を推進するとともに、省資源・省エネルギー、リサイクルを推進する。
(地球環境問題への貢献と国際協力の推進)
 被害、影響が国境を越え、地球規模にまで広がる環境問題、または、先進国をも含めた国際的な取組が必要とされる開発途上国の環境問題について、国際協力を含め、積極的な対応を行う。
 また、平成7年6月に閣議決定された「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画(率先実行計画)」に基づき、計画の推進のための体制を整備した。



]V 高齢者・障害者等関連施策の展開

1. 現状と課題
 21世紀初頭の本格的な高齢社会に向けて、いきいきとした福祉社会を構築していくため、特に住宅・社会資本は極めて重要な要素である。
 このため、建設省では、平成6年6月「生活福祉空間づくり大綱」を策定し、福祉社会に的確に対応するための住宅・社会資本整備の理念、中長期的な施策の方向、整備目標等を総合的にとりまとめた。また、平成6年12月、新ゴールドプランの策定の際には、厚生省と協力して「住宅対策・まちづくりの推進」を、エンゼルプランのとりまとめにあたっては住宅及び生活環境の整備に関する施策を、それぞれ盛り込んで施策の推進を行ってきているところである。

2.平成7年度、8年度の主要施策
(1)「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜」の策定

 平成7年12月、障害者対策推進本部は「障害者対策に関する新長期計画」の重点施策実施計画として障害者プランを策定した。建設省関連施策としては、1)新たに整備する全ての公共賃貸住宅は、身体機能の低下に配慮した仕様とする、2)21世紀初頭までに幅の広い歩道(幅員3m以上)が約13万qとなるよう整備する、3)新たに設置する窓口業務を持つ官庁施設等は全てバリアフリーのものとする、4)サービスエリア、パーキングエリア、「道の駅」及び身近な住区単位で整備する公園には全て障害者用トイレ等の施設を整備する、など具体的な目標や施策を盛り込んだところである。

(2)福祉のまちづくり計画策定の手引き、生活福祉空間ガイドラインの策定
 イ「すべての人にやさしいまちづくりを目指して〜福祉のまちづくり計画策定の手引き〜」の策定
 建設省及び厚生省では、平成8年3月、市町村が土木、住宅、福祉等関係部局の相互連携の下、福祉のまちづくりに主体的に取り組むことを支援するため、高齢者・障害者団体等の幅広い意見を反映しつつ、計画策定に当たっての視点、配慮事項等を総合的に盛り込んだ手引きをとりまとめ、両省連名で地方公共団体あて通知したところである。内容面においては、歩行や移動の連続性の確保や福祉施設を含む各種施設の一体的な整備の重要性などを強調している。
 ロ「 生活福祉空間ガイドライン」の策定
 建設省では、ノーマライゼーションの理念を実現することを目標として、都道府県・市町村・デペロッパー、建設事業者等を広くその対象とし、住宅・社会資本に関するバリアフリー化等に係る基準・事例などのとりまとめを行い、施設整備に係る「生活福祉空間ガイドライン」の策定を行うこととしている。

(3)普及啓発活動の推進
 福祉のまちづくりの主体は地方公共団体であり、その積極的な取組が不可欠であるため、意識の啓発や施策の普及を図ることを目的として、平成8年1月、建設省は厚生省・運輸省と連携し、地方公共団体等を主な対象とする「すべての人にやさしい福祉のまちづくりシンポジウム」を開催した。



第3 建設活動の動向、建設産業と不動産業

T 経済情勢と建設活動の状況等
1 平成7年度の我が国経済

 平成7年度の我が国経済は、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災や4月に1ドル=80円を切った円高の影響で、前半は「足踏み状態」で推移したものの、その後、経済対策等の効果による公共投資の増加、史上最低水準の住宅ローン金利が背景となった住宅投資の増加等により、回復の動きがみられるようになった。
2 建設活動の状況
 平成7年度の建設投資の状況をみると、名目で前年度比 3.1%増の80兆 3,500億円、実質(平成2年度価格)で同 2.9%増の76兆 4,900億円となり、名目、実質とも増加となった(図3−1)。
(1)政府建設投資の動向
 平成7年度の公共事業については、当初予算における事業費の確保・拡大に加えて、災害復旧や総額14兆円にも上る経済対策のための補正予算が追加された。この経済対策は、需要拡大に直接繋がる、いわゆる「真水」部分の金額が過去最大といわれており、国内総生産の押し上げ効果が期待されている。
(2)住宅投資の動向
 平成7年度の新設住宅着工戸数は、公庫の融資戸数の追加等の政府の強力な住宅対策が講じられたほか、金利水準の低下や住宅価格の下落等があったものの、前年度の水準が高かったこともあり、持家、貸家、給与住宅、分譲住宅とも減少し、総計でも 1,484,652戸となり、第七期住宅建設五箇年計画の計画水準を上回り好調であったが、前年度の水準は下回った(前年度比 4.9%減)。また、平成7年度の住宅投資は、26兆 2,100億円程度で前年度比 4.4%の減少となった(図3−2)。
(3)民間非住宅建設投資の動向
 平成7年度の民間非住宅建築の動向を民間非居住用建築物着工床面積でみると、前年度比 5.3%増と5年振りの増加となったものの、工事費予定額でみると、前年度比 1.0%減と5年連続の減少となった。民間土木工事は、対前年度比12.0%減と3年連続の減少となった。
3 地域別建設活動
 平成7年度の地域別建設活動を、建設総合統計による建設投資額でみると、阪神・淡路大震災による復興投資の影響で近畿は増加したが、その他の地域では減少した。
4 建設工事費デフレーターの動向
 平成7年度の建設業の常用労働者の労務費は 1.2%増加し、建設工事費デフレーターは、平成7年度平均で前年度比 0.2%増加した。



U 建設産業の動向と施策

1 建設産業を取り巻く環境
 我が国の建設産業は、国内総生産の約2割に相当する約82兆円の建設投資を担うとともに、全産業就業人口の1割を超える663万人の就業者を擁す我が国の基幹産業である。また、住宅・社会資本の整備の主要な担い手として、建設産業に対する国民の期待は大きく、果たすべき役割はますます増大しているところである。
 一方、建設産業を取り巻く環境は、公共工事における入札・契約制度の改革やWTO政府調達協定の発効に伴い今後建設市場の一層の国際化が見込まれるなど「新しい競争の時代」を迎えている。
 建設産業が、このような「新しい競争の時代」を乗り切り国民の期待に応えていくためには、各企業が、技術力の向上や企業体質の強化、経営基盤の強化を図ることが必要不可欠となっている。

2 建設産業の現状
 建設業許可業者数については、平成7年3月末現在で約55万者であり、過去最高となっている。
 建設業者の経営状況については、売上高経常利益率を見ると、平成2年度は3.4%であったが、平成3年度以降は、低下傾向にあり、平成6年度は2.3%にまで低下している。
 平成7年における建設業の倒産は、件数で3,786件(対前年比118.1%)、負債総額で7,674億円(対前年比97.2%)となっている(負債総額1,000万円以上の倒産を対象。(株)帝国データバンク調べ)。

3 建設労働の動向
 総務庁「労働力調査」によると、平成7年平均の建設業就業者数は663万人で前年より8万人増加し、年平均で過去最高となった。
 また、建設技能者の不足率は、建設省「建設労働需給調査」によると、平成7年平均の調査対象6職種(型枠工(土木・建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木・建築))計の不足率は全国で0.8%(前年比同ポイント)、8職種(6職種に電工、配管工を加えたもの)計の不足率は0.6%(前年比同ポイント)であり、安定した状態が続いている。

4 建設資材の動向
 主要建設資材の需要量は、平成3年度以降減少を続けてきたが、平成7年度においては補正予算等において公共事業が大幅に拡大されたことの効果などにより、平成6年度に引き続きセメント、生コンクリート、普通鋼鋼材等で前年度の需要量を上回るなど、総じて持ち直し傾向が明らかになっている。
 また、価格についても、平成3年度以降減少傾向にあったが、平成7年度においては、総じて横ばい傾向で推移している。

5 建設市場の国際化
 我が国の建設市場に係る制度は、従来より内外無差別の原則により運用されており、平成8年3月末日現在、78社の外国企業及び外資系日本法人が建設業の許可を取得し、日本で営業活動を行っている。
 また、建設市場の国際化は世界的に大きな流れとなっており、我が国においては、平成6年1月、「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(閣議了解)が策定され、外国企業に対して十分に内外無差別かつ開放的となった。
 また、平成8年1月には、日本をはじめ米国、EU,カナダ等22カ国が締約する新たな政府調達協定が発効した。協定は、物品と建設、設計・コンサルティング業務等のサービスを対象とし、国、政府関係機関及び「行動計画」では勧奨の対象であった47の都道府県と12の政令指定都市が適用を受ける。

6 建設機械の現状
 建設機械動向調査によると、国内における主要な建設機械の年間購入台数は、平成2年度から平成5年度まで減少傾向にあったが平成6年度は増加に転じ、約161千台となった。また、平成6年度末における国内の主要な建設機械の推定保有台数は、約1,054千台となっており、前年度に引き続き百万台を超えている。



V 不動産業の動向と施策

1.不動産業の国民経済に占める位置
 我が国の不動産(土地・建物等)は、その評価額が 2,359兆円であり、国民総資産の33%を占める重要な資産である(経済企画庁「国民経済計算年報」)。
 不動産業の売上高(法人のみ)は、平成6年度において32.9兆円であり、全産業の売上高(法人のみ)の 2.3%(鉄鋼業 1.1%)に相当する。また、不動産業の法人数は、25.4万(全産業の10.6%、平成6年度)、従業者数は、92.4万人(全産業の 1.5%、平成3年)である(表3−1)。
 不動産業を他産業と比較すると、a)自己資本比率が低い、b)中小零細性が著しい、c)参入退出率が高い、d)従業員1人当たりの付加価値額が極めて高い等の特性を有しており、また、その業態は開発・分譲、流通、賃貸及び管理の大きく4つに分類され、その業務も極めて多岐にわたっている。

2.不動産業を取り巻く状況の変化
 不動産市場については、住宅市場においては価格調整が進展しているものの、依然低価格帯の新築分譲マンションを中心とした市場となっているほか、商業・業務用地市場については、オフィスビル空室率は減少傾向に転じたものの未だに不透明感が拭いきれない状況にある。
 不動産市場の低迷の影響等で、もともと自己資本比率が低く、借入金依存度の高かった不動産業界では平成2年度後半から倒産が急増、負債総額も大型化(平成3年、4年と2年連続して倒産件数、負債総額とも過去最高を更新)したが、平成5年以降減少傾向にある。

3.宅地建物取引業者の状況
 不動産業の4つの業態のうち、開発・分譲及び流通の分野については、宅地建物取引業法に基づく規制の下にあり、免許を受けた宅地建物取引業者数は、平成8年3月末現在 141,816(大臣免許業者 2,254、知事免許業者 139,562)である。