第2章 新しい世紀へ向けた国土の再構築

−豊かなポテンシャルを活かすために−

 我が国経済社会の各分野で構造改革の必要性が叫ばれる背景には、国際的には大競争時代を迎え、国内的にはバブル崩壊の影響の中で、日本の持つ経済社会のポテンシャルが十分発揮されないまま、本格的な少子高齢社会に突入しつつあるという焦燥感があると思われる。日本人はこれまでも戦後の復興やオイルショック、公害問題など、幾多の困難を見事に乗り越えてきた。本章では、我が国の持つ経済社会のポテンシャルを検証し、それを活かすために住宅・社会資本整備が果たすべき役割を提示するとともに、活力と風格のある社会の建設に向けての取り組みを紹介する。

第1節 安全な生活空間の形成


 経済・社会のポテンシャルを発揮するためには、安全な生活空間の形成が必須の前提条件である。以下では、不可避の災害等に対する対応、備えの重要性を改めて紹介する。

1 震災への備え
(阪神・淡路大震災からの復興の動き)

 平成7年1月17日に起きた阪神・淡路大震災から2年半が経過した。この間、被災地の住民の方々をはじめとして地元地方公共団体、国その他の関係者が一体となった努力のもと、復旧への努力が続けられてきた。
 建設省では、平成7年に「被災市街地復興対策特別措置法」を制定し、被災市街地復興推進地域等における市街地の計画的な整備改善や市街地の復興に必要な住宅の供給により、被災地の緊急かつ健全な復興を図ってきた。被災地は今なお復興の途上にはあるものの、昨年9月に阪神高速3号神戸線が全線開通するなど、主要なインフラ整備については着実な進展を見ている。以下に平成9年4月1日までの時点での復興への取り組み状況を述べる。
 まず、道路については、高速自動車国道、阪神高速道路、一般国道で27路線36区間あった通行止め区間について、逐次開放を行い、平成8年9月30日の阪神高速3号神戸線の一部区間(深江〜武庫川)の供用をもって全て復旧を完了した。河川については、大きな被害を受けた中島川、新湊川、高羽川、千森川の4河川で、改修計画上必要な河積の拡大等を行うこととし、災害復旧費に改良費を加えて復旧を行う災害復旧助成事業を実施中である。その他の河川についても約390箇所のうち約370箇所で復旧を完了し、残りの箇所について復旧事業を鋭意実施中である。
 土砂災害対策については、六甲山系全体において復旧工事が必要である436箇所の山腹崩壊箇所のうち389箇所の復旧を完了し、残りの箇所についても復旧事業を進め、平成9年度末に、砂防工事については概成、地すべり、がけ崩れ工事等は完了させるとともに、二次災害による人命保護の立場から土砂災害予警報システムの構築、土砂災害危険区域図の公表等ソフト対策も実施した。
 「ひょうご住宅復興3カ年計画」における被災者向け公的住宅の計画戸数77,000戸について、平成8年度当初予算までの措置で約9割5分の73,000戸に着手し、うち約67,000戸分の用地を確保、約51,000戸に着工した。また、兵庫県が実施した「仮設住宅の実態調査」の結果を踏まえ、被災者住宅対策として、公営住宅の新規整備戸数を約7,000戸増加させて約39,000戸とするとともに、高齢年金生活者等に配慮した家賃の低減対策を行っている。また、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に配慮して、最長2年3ヶ月とされていた応急仮設住宅の存続期間を延長する立法措置を講じた。
 また、被災地域の再生のための面的整備事業として、被災市街地復興推進地域で13地区(約256ha)の土地区画整理事業や6地区(約38ha)の市街地再開発事業を推進している。
 さらに、復興事業においては、単なる復旧ではなく、より積極的に他の地域のモデルとなるような「安全なまちづくり」が進められている。たとえば、震災において著しく交通機能が阻害された一般国道43号線において、防災空間を確保し、道路環境について十分配慮する必要から、沿道約20km(43号兵庫県内延長)を対象に広域防災帯として環境防災緑地の整備を推進しており、現在、用地買収を実施している。また、災害の際の広域防災拠点、地域防災拠点となる都市公園についても108箇所で整備を実施している。また、電気、電話、ガス、水道等のライフラインの安全性・信頼性の向上に資する、ライフライン共同収容施設としての共同溝、電線共同溝の整備を実施している。

写真 復興状況(2号浜手バイパス)

 これらの措置をはじめとして、これまでの応急、復旧、復興にわたる各般の施策・事業を支援するため、政府は平成8年度予算までに、約3兆6,700億円の経費を予算措置してきた。今後とも、被災者の方々が安定した生活を送る上で不可欠な住宅の確保をはじめとして、種々の復興策を推進していくこととしている。また、それと併せて再びこのような災害が繰り返されることのないよう、防災性が高く安全で安心な地域づくりを推進していくこととしている。

(耐震改修の促進)
 阪神・淡路大震災における建築物の被害状況を見ると、現行の耐震基準を満たさない建築物の被害が顕著であり、これらの建築物の耐震改修を促進するため、平成7年に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を制定し、地震による建築物の倒壊等による被害の防止に努めてきた。
 また、震災被害を踏まえ、高速自動車国道、阪神高速道路、一般国道等の緊急度の高い橋梁について橋脚等の補強対策を行ってきたところであり、平成9年度中に概成することとしている。

(密集市街地の危険性と対策)
 阪神・淡路大震災において、地震発生当日から3日間の間に発生した火災の約41%は地震直後の13分間という短い間に発生している。震源に近い神戸市内ではこの傾向がより顕著であり、3日間で発生した火災の138件のうち60件(約43%)はこの時間帯に発生している。また、被害の集中した神戸市においては、その焼失面積の約5分の4(80.2%)が須磨区、長田区及び兵庫区に集中しており、老朽化した木造住宅の割合が高く、かつ敷地が狭小な住宅地において大規模火災が発生しやすかったことが分かる。大都市における直下型大地震においては火災の同時多発が予想されるが、特に老朽化した木造建築物が密集した市街地では、延焼する危険性が高い。
 このように、阪神・淡路大震災においてあらためて老朽化した木造建築物が密集した市街地の危険性が明らかになった。全国的にみた場合、三大都市圏を中心に密集市街地が数多く存在しており、たとえば「東京都住宅マスタープラン」によると、老朽化した木造賃貸住宅等が密集し、住環境整備を要する地域は都下に約13,200haに及んでいる。また、災害時に緊急車両の迅速な通行が困難な幅員4m未満の道路にしか接していない住宅は、近年改善の傾向はみられるものの、平成5年時点で全国で約4割、東京都区部で約3割となっており、いずれも平成5年時点で比べると震災前の神戸市よりも条件が悪いという状況にある(図表1−37)。

図表1−37 4m未満接道住宅割合の推移

 このような状況に対して早急に対策を講じる必要があるが、実際には密集市街地には複雑な土地・建物の権利関係等の様々な問題があり、従来の法制度ではなかなかその解消が進まないという状況にあった。  そこで、密集市街地等の計画的な再開発を促進するため、

等を内容とする凵u密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(密集市街地法)」が平成9年5月に公布された(図表1−38)。

図表1−38 密集市街地法の概要

 この密集市街地法により防災上危険な密集市街地の整備が促進され、建築物の耐震改修の促進に関する法律と併せて地震や火災の際の被害が最小限にくい止められることが期待される。

コラム(都市圏活断層をご存じですか)

2 水害・土砂災害等への対応
 我が国の地形は山岳、丘陵地が多く急峻であり、外国と比べて短くて急勾配な河川、国土面積に比べて長大な海岸線を有している。また、地理上も、環太平洋火山帯、環太平洋地震帯に属しており、世界有数の火山国、地震国である。さらに、地質も大規模な断層や破砕帯が発達し、脆弱な地質構造となっている箇所が多い。一方、気象面でも台風常襲地帯に位置すると同時に、冬季の積雪が著しい地域も多い。
 こうした厳しい自然条件に加え、国土面積の約10%に過ぎない沖積平野の氾濫区域に、総人口の約50%、総資産の約75%が集中しており、都市化の進展に伴って、低湿地、急傾斜地等自然災害に対して潜在的に危険性の高い地域まで居住地が拡大している。
 これに対し欧米諸国では、河川より地盤の高い洪積平野が多く、河川自体も流路が長く勾配が緩い上に、雨量も比較的一定しているために、洪水による被害は局所的、限定的なものとなるケースが多い。こうした事実は、欧米諸国と比べ治水が如何に重要であるかを物語っている。
 このような自然条件、国土利用形態の下で、我が国では、毎年のように様々な災害が引き起こされており、過去10年間をみても約9割の市町村が水害・土砂災害を受けている(図表1−39)。

図表1−39 昭和61年〜平成7年までの水害・土砂災害発生状況

(水害への備え)
 戦後相次いだ伊勢湾台風等の大災害は近年発生していないものの、世界的に見れば各地で1995年のミシシッピ洪水や昨年暮れから今年1月にかけての米国西海岸北部の大洪水等大規模な災害が頻発しており、我が国もいつこうした壊滅的水害に見舞われるかもしれないことを認識する必要がある。もし今昭和22年に首都圏を襲ったカスリン台風と同規模の台風によって利根川が決壊すれば、首都圏で500{km2}以上が浸水し、約210万人が被災、被害は一般資産等だけで約15兆円(いずれも平成4年時点)にのぼると推定されている(図表1−40)。

図表1−40 カスリン台風と同規模の洪水で破堤した場合、氾濫が予想される区域

 こうした壊滅的水害を防ぐために利根川、淀川等の主要河川でスーパー堤防の整備を進めている。また、平成9年度を初年度とする第9次治水事業五箇年計画(案)においては、越水に対し耐久性が高く破堤しにくいフロンティア堤防の整備を進めることとしている他、災害情報を迅速に伝達する総合防災情報ネットワークシステムの整備などを推進することとしており、信頼感ある安全で安心できる国土の形成をめざしている。

(土砂災害対策)
 一方、我が国では土砂災害が数多く発生しており、危険箇所における住民の生命・財産を脅かしているとともに、重要な交通網の寸断などが社会的・経済的にも大きな被害をもたらしているところである。
 こうした状況を踏まえ、市街地を土砂災害から守る都市山麓グリーンベルトの整備や、国道・鉄道等の遮断による重大な社会・経済的被害を防止する重要交通網集中地域の土砂災害対策等、住民の人命と財産に直接影響を及ぼす土石流等土砂災害防除のための砂防事業の整備を推進していくこととしている。
 また、平成8年12月には長野K新潟県境の姫川支流蒲原沢で死者14名を出す土石流災害が発生した。建設省では、林野庁、長野県と連携して(社)砂防学会に学識経験者からなる「12.6蒲原沢土石流災害調査委員会」を設置し、平成9年7月、同委員会から、土石流発生原因、土石流を想定した警戒、避難態勢等について提言を受けた。

(法面防災対策)
 平成8年2月、北海道古平町の一般国道229号豊浜トンネル崩落事故が起きたが、それを契機とし、トンネル坑口部等緊急点検を行った。その結果に基づき、対策が必要とされた811箇所(平成8年10月末現在)のうち、約9割について法面防災工事を行った(図表1−41)。

図表1−41 法面防災対策工事

 なお、平成8年3月、大規模岩盤崩壊による被災の再発防止のための「建設省大規模岩盤崩壊対策委員会」を省内に設置するとともに、土木学会に技術的な検討を委託し、平成9年3月に提言がまとめられた。そこにおいては、施設の計画・設計、施工、維持管理の各段階にわたる各種の対策を組み合わせた施策の実施が必要であること等が指摘されている。これを踏まえ、各種施策の充実強化を図っているところである。
 災害は突然発生するものであるが、迅速・的確な対応が求められる。建設省においても昨年改訂した防災業務計画等に基づき、総合防災情報ネットワークの整備等によって、より迅速かつ的確な対応を進めていくこととしている。

(渇水対策)
 我が国の降水量は世界平均の約2倍あるが、1人当たりに換算すると世界平均のわずか約2割にすぎない。このため、日本の諸都市のダム貯水量も外国の諸都市と比較してかなり低く、過去19年間に全ての都道府県で渇水を経験している状況にある。それにもかかわらず1人当たり生活用水使用量は依然、増加している。このような状況の下で渇水頻発地域を解消するため、ダム群の連携等既存施設の有効利用を含めた総合的な水資源対策を推進するとともに、再生水利用などを推進し、水資源の確保と節水型システムの構築を両輪とした総合的な渇水対策を進めている(図表1−42)(図表1−43)。

図表1−42 各国のダムの総貯水量
図表1−43 全国の渇水状況

コラム(「下水処理場は都市の水がめ?!」)

(交通安全対策)
 平成8年の交通事故死者数は9,942人と9年ぶりに1万人を下回ったものの、交通事故件数は約77万件と4年連続して過去最多を記録するなど、依然として厳しい状況が続いている。これを分析してみると、幹線道路(一般国道、都道府県道、主要市道)の総延長の9%の区間に当たる16,000kmの区間で事故の40%が発生しており、また、交通事故の約4割は、生活に密着した道路(幅員13m未満の市町村道)で発生している。建設省では平成8年度に創設された「事故多発地点緊急対策事業」により、第6次特定交通安全施設等整備事業五箇年計画期間中に、全国3,000箇所の事故多発地点に重点的に投資し、交差点の改良、歩道等の整備、道路照明の設置等の事故防止策を集中的に実施しており、また、住居系地区等の身近な道路においては、歩行者等が安心して歩ける空間を確保するため、公安委員会によるゾーン規制等と併せて道路管理者によるコミュニティ道路等の面的整備を行う「コミュニティ・ゾーン形成事業」を推進している。
 以上のような施策を講ずることにより、災害の危険度を下げ、日常生活や産業活動のポテンシャルを支え、高めていくこととしている。

第2節 活力ある国土の創造

1 日本経済のポテンシャル−少子・高齢社会の展望
 我が国の経済社会の状況をみると、急速な少子・高齢化が進展する中で、生産年齢人口の減少、貯蓄率の低下等により、今後、経済の活力が低下するのではないかとの指摘がなされている。また、経済規模に比べ社会保障費等の国民の公的負担が大きくなった場合には、活力ある経済を維持していく上での制約となる懸念がある。
 しかしながら、我が国の世界に例を見ない国民の勤勉さ、教育水準の高い労働力、高い技術レベルなどの潜在的な力を考えた場合、中長期的にみて日本は必ずしも悲観的な状況にはないはずである。本格的な少子・高齢社会の到来を目前に控えた今、将来へ向けて適切な投資を行い、強靱な発展基盤を中長期的に確立していけば、将来の豊かな国民生活や質の高い福祉を十分に達成することは可能である。我が国のポテンシャルを十分活かして明るい日本を切り開いていくことが必要である。

(本格的少子・高齢社会の到来を控えた現在の投資余力の現状)
 まず、本格的少子・高齢社会の到来を控えた我が国の投資余力の現状をみるために、マクロ経済の部門別貯蓄投資差額をみてみよう。
 近年の国内における貯蓄と投資の動向をみると、家計部門は常に貯蓄超過の状況にあるのに対し、ここ3、4年法人企業部門は投資を差し控えている状況にある。一方、一般政府部門は、93〜95年度のバブル崩壊後の一時期をみると、投資超過となっており、景気の下支えに一定の役割を果たした。しかし、我が国の経済全体は長期にわたり貯蓄超過の状態にあり、しかもそれが国際的にも高水準となっている(図表1−44)。

図表1−44 我が国の部門別貯蓄・投資差額

 図表1−45で見るように、経常収支黒字は、事後的には貯蓄と投資の差に一致しており、家計の貯蓄率が高水準にあるなかで、我が国の経済構造をどのように変革していくかを考える契機ともなるものである。
 21世紀の本格的な高齢社会の到来を控え、豊かさを実感できるような国民生活の基盤を築くとの観点から、公共投資基本計画の考え方を踏まえ、後世代に負担を残さないような財源の確保を前提として、着実な社会資本の整備を図るとともに、将来にわたり、経済の活力を維持できるような基盤を築くため、規制緩和を進め、民間の投資を活発化するなど我が国経済の構造改革を進めていくことが内需主導型の安定的な成長を目指す観点から重要である。

図表1−45 1996年の日本の貯蓄・投資と経常収支の概念図

(経済構造改革と高コスト構造の是正)
 世界経済のグローバル化が急速に進展する中で、企業や資本が国を選ぶという国際的な大競争時代が到来している。このような時代の到来は、これまで我が国の経済発展を支えてきた様々なシステムの変革を迫っており、我が国において適切な経済構造改革を行い、強靱な経済基盤を中長期的に確立することなくしては豊かな国民生活や質の高い福祉は実現できない。このため、経済・社会の変化、産業構造の変遷に対応して経済構造改革を行い、投資を阻む高コスト構造を是正して本格的な少子・高齢社会を迎える前に高い貯蓄や潜在成長力といったポテンシャルを活かす仕組みを早急に作る必要がある。
 建設省では、本年5月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」等に基づき、高規格幹線道路等の物流関係の社会資本整備、電線共同溝等の情報通信関係の社会資本整備、都市活動を支える都市基盤の整備等、経済構造改革に資する社会資本の整備を強力に推進することとしている。
 それではこの面において建設省の施策はどのように貢献しているだろうか。
 高コスト構造の要因として規制の問題、社会基盤の未整備による非効率等様々なものが指摘されているが、我が国の人件費の大きさも一つの要因とされている。日本人の時間的なロスによる機会費用は大きい一方で、道路の混雑により、かなりの時間的なロスが発生していると考えられる。したがって、道路事情の改善は、走行時間の短縮をもたらし、走行経費の節約等と相まって、結果としてコストの縮減に資することとなる(図表1−46)。

図表1−46 道路貨物輸送業のコスト構造

(首都高速湾岸線)
 一つの例として、平成6年に開通した首都高速湾岸線(横浜ベイブリッジ〜羽田空港間)の例を考えてみよう。首都高速湾岸線が開通したおかげで、横浜みなとみらいから羽田空港ターミナルまでの所要時間が従来の55分から25分へと最高30分短縮されたほか、並行して走る高速横羽線及び一般道路の交通量が分散し、渋滞が大幅に緩和された。これらの結果を旅行速度調査をもとに、多摩川渡河部の高速利用交通が横浜〜品川間を走行したものとして計算すると、一日延べ37,000時間が節約されたと試算されている。この節約された時間の中から労働時間を短縮できるものとすれば、多額の経費が削減され得ることとなる。また、さらにこの湾岸線開通の効果として、1年間で13,000kgのガソリンが節約されたと試算されており、この面からも人流・物流等のコスト削減の効果を持っていることが分かる。
 この他にも、道路整備による効果として、渋滞の解消及び代替ルートの整備等による定時性の確保、運転者の疲労の軽減と走行快適性の向上及び荷傷みの減少と梱包費の節約、車両通行の安全性の向上等定量的に測定することが困難な効果があり、いずれも間接的にコスト縮減に貢献している(図表1−47)。

図表1-47 首都高速湾岸線開通によるコストの縮減

 以上は仮定の上に立った試算の一例であるが、道路整備をはじめとする社会資本の整備は我が国経済社会のコスト縮減に大きな効果を有するものであることが分かる。建設省では、次世代の活発な経済・社会活動の展開のための基盤の整備を進めており、全国的なネットワークを形成する高規格幹線道路の整備等の施策を推進している。
 また、国民生活、産業構造等に深いかかわりのある物流分野については、コストを含めて国際的に遜色のないサービスの実現が目指される分野として、関係省庁が連携して総合的な物流施策を推進するため、「総合物流施策大綱(平成9年4月4日閣議決定)」を策定したところである。建設省では、国際化時代に対応して、複数の交通機関の連携により、効率的な輸送体系を確立するため、高規格幹線道路網から空港、港湾、新幹線駅へのアクセス道路の整備を推進することとし、国際的な空港・港湾、道路ネットワーク等を一体的に整備する「国際交流インフラ推進事業」を創設した。さらに、重要港湾等へのアクセス上重要な路線について、車両の大型化に対応する橋梁の補修補強を行うことにより、国際物流の効率化・円滑化を図っており、これらの措置を通じてコストの縮減に貢献している。

(ITS(高度道路交通システム))
 また、高度情報通信社会の実現に向けて、渋滞・交通事故等の道路交通問題解決の切り札としてITS(高度道路交通システム)の研究開発・実用化を推進している。
 ITSは、情報通信インフラとしての光ファイバー網、及び最先端の情報通信技術等を活用した、人と車と道路が一体となった高度な道路交通システムを構築して、道路交通の安全性、利便性を向上させることを目的としている。きめ細かな情報をリアルタイムで提供することにより、ナビゲーション(経路案内)を行う「VICS(道路交通情報通信システム)」、有料道路において料金所で停車することなく自動的に料金徴収の処理を可能にする「ノンストップ自動料金収受システム(ETC)」などからなっている。
 このITSは、交通事故の防止や渋滞の解消に効果を発揮し、その面からコスト縮減に資するだけではなく、今後20年間にわたって約50兆円の新産業や市場を創出すると予測されており、関連企業の大きな期待を集めている。
 平成8年4月から、世界に先駆け、VICSのサービスが首都圏及び東名・名神高速道路等において開始されたところであり、さらに、平成8年7月に関連5省庁(建設省、警察庁、通産省、運輸省、郵政省)が連携して推進計画である「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」を策定し、その一層の推進に努めている(図表1−48)。

図表1−48 ITS(高度道路交通システム)の主要プロジェクトのイメージ

(情報通信インフラの整備)
 また、今後は情報化の進展によりマルチメディア社会の到来が予想されるが、21世紀に向けての経済構造改革をリードする新産業の創出の支援、地域の活性化、生活の質の向上のために、高度情報通信社会に不可欠な光ファイバー等の情報通信インフラの整備が急がれている。建設行政においても、2010年までに光ファイバーの全国整備を行うという「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(平成7年2月高度情報通信社会推進本部決定)に従い、情報通信分野を公共投資の重点分野の一つと位置づけ、高度情報通信社会づくりを強力に推進することとしている。
 具体的には、「建設省情報通信ネットワーク30万km構想」を掲げ、その推進に向け、建設省所管の公共施設について、情報通信インフラの一翼を担う電線共同溝、情報BOX等の収容空間及び道路、河川、下水道等の公共施設管理用光ファイバー等の整備を推進している。これにより、公共施設管理の高度化を図るとともに、電線類地中化等により良好な都市環境の形成を図ることとしている(図表1−49)。

図表1−49 情報BOX・電線共同溝・共同溝のイメージ

(公共分野のアプリケーションの開発、導入、普及等)
 更に、光ファイバー網を活用し、新たなサービスを提供するため、ITS(高度道路交通システム)、防災情報システム、住宅のマルチメディア化、GIS(地理情報システム)を活用した行政システム、建設CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の導入等、建設行政各分野のアプリケーションの開発等を進めるとともに、高度情報化に関係する分野での研究開発の推進を進めている。
 具体的には、防災情報システムの整備等については、地震、豪雨、豪雪等による災害時の情報を迅速かつ的確に収集・処理・提供することにより、速やかな初動期体制の確立と早急な応急復旧対策の策定等を可能とする総合防災情報ネットワークを構築することとする。
 また、高度情報化時代に対応した住まいづくりを推進するため、管理用光ファイバー・CATV等を活用した在宅勤務(テレワーク)・在宅学習(テレラーニング)・在宅ケア等を可能とする、マルチメディア住宅に関する実証実験等により、事業環境の整備等を行う。
 GIS(地理情報システム)については、21世紀初頭までにGISの空間データ基盤の一通りの整備を行う他、平成12年度を目途に、河川・道路管理システム、都市防災システム、環境影響評価システム等を整備し、地域の状況を踏まえた行政サービスの高度化を図る。
 建設CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の導入については、建設事業の調査計画から施工、維持管理までの情報を電子化して共有・活用し、これにより建設コストの縮減、品質向上の実現を図る。

(ものづくりを支える地域の産業の集積の維持・発展)
 さらに、空洞化が懸念される地域の産業の集積の維持・発展を図るため、特定産業集積の活性化に関する臨時措置法の制定を受け、通産省と連携し、道路をはじめとする物流効率化に資する社会資本の整備を推進することとしている。

 以上のような施策を展開することにより、建設省では、国際化の進展、産業の空洞化の懸念の中で、経済構造改革に必要な住宅・社会資本整備を推進することにより、高コスト構造を是正し、国際的に魅力ある事業環境を創出するとともに国民生活の充実を図ることとしている。

(少子・高齢社会のポテンシャル)
 少子・高齢社会を展望した住宅・社会資本の整備のあり方については、次の三つの視点が重要である。
(1)先進諸国にも例をみない急速な高齢化を考えると(図表1−50)、高齢者等の日常生活を支援するバリアフリーの生活空間づくりが急務である。
(2)平均余命の伸びを考えると、高齢者は文化面でも生産面でも豊かなポテンシャルを持った世代との位置づけが可能である。
(3)少子・高齢化を背景として(図表1−51)、女性の社会進出や子育て世代の多様なニーズへの支援が必要である。
 これら三つの視点からのニーズに応えるため、単なる物理的障害の除去にとどまらず、広く生きがいの創出、健康の増進、女性の社会進出等に資する量・質ともに十分な福祉インフラストックを形成することが必要である。

図表1−50 主要国の高齢化率
図表1−51 各国における合計特殊出生率の推移

 まず、我が国の少子化の現状をみてみよう。厚生省の出生動向基本調査により、夫婦の平均の出生児数の推移をみてみると、戦前の昭和15年には4.27人であったものが、その後減少して平成4年には2.21人にまで減少している。しかしながら、一方では「何人の子供が理想か」という夫婦の理想子供数では平成4年現在で2.64人となっており、理想と現実の子供数の間には0.43人の差があることになる(図表1−52)。

図表1−52 我が国の夫婦の理想の子供数と現実の子供数の推移

 この調査によれば、大都市では「家が狭いから」ということも妻が理想の数の子供をもとうとしない理由のひとつとなっており、人口200万人以上の大都市で見ると24.9%の解答者がこれを子供を産まない理由として挙げている(図表1−54)。また、理想の子供数で分類した夫婦の予定子供数をみると、我が国の夫婦は理想の子供数が3人以上となると理想通りには出産を予定できない実態があることがわかる(図表1−53)。

図表1−53 理想の子供数で分類した夫婦の予定子供数
図表1−54 妻が理想の子供を生もうとしない理由

 我が国の少子化の根本的な原因としては晩婚化が指摘されており、家が広くなれば少子化問題が解決するというような単純な問題ではないことはいうまでもないが、住宅の狭さが妻が理想の数の子供をもとうとしない理由のひとつとして挙げられていることには留意する必要がある。
 住宅の広さについては、建設省は累次の住宅建設五箇年計画により誘導居住水準を設定して居住水準の向上に努めており、現実にも状況は改善してきている。
 また、安心して子供を生み育てられる家庭・社会の環境づくりとして、
(1)家族団らんの時間がとれるよう職住近接を目指した都心居住の推進、良質なファミリー向け賃貸住宅の供給などの、子育て世帯の多様なニーズに対応した住宅の供給
(2)自然を学び親しむ身近な遊び場等の整備、安全な通学の確保などの安心して子育てができる居住環境の整備などを進めている(図表1−55)。

図表1−55 安心して子供を生み育てられる家庭・社会の環境づくり

 これらの施策を総合的に展開することにより、子供を産みたい人々が安心して子供を生み育てられる環境を整えていくこととしており、それが同時に急速に進む少子・高齢化の衝撃を緩和し我が国の発展のためのポテンシャルを活かしていくことにつながるであろう。
 第1章でもみたとおり、人々の結婚や家族に関する考え方も時代により変化するものである。社会全体のコンセンサスを見守りながら、建設行政においてもできるだけ柔軟に、求められる住宅・社会資本の整備のあり方を考えていくことが必要である。
 次に高齢化について見ると、2025年には4人に1人が高齢者となるが、これは高齢者が少数ではなく当たり前の社会になるということである。高齢化といえば国民の負担の問題ばかりが取り上げられ、暗い側面が強調される傾向があるが、必ずしも先行きが暗いばかりではない。かつて人生50年といわれた時代と違って平均年齢が約80歳になった現在、高齢者と言われる人々も十分に元気であるし、かつてのからだが資本の農業社会と違って知恵が生産の重要なファクターとなる高度な社会へと移行した現在、生き生きとしたシルバーパワーは日本の活力を支える不可欠のポテンシャルといえる。ハッピーリタイアメントを望む人には豊かな老後の生活が、また、まだまだ働く意欲を持っている人にはその能力を十分に発揮できる機会が用意されている社会を作っていく必要がある。
 高齢者は若者に比べれば必ずしも身体機能が高くないことは争えない。大多数の高齢者に対応した住宅、都市空間、公共施設などを早急に整備して高齢者のポテンシャルを社会にうまく引き出す施策が必要になってこよう。
 建設省では、生き生きとした福祉社会の建設に向けてバリアフリーの推進を行っている。具体的には、人にやさしい建築物を整備するため、官庁施設における障害者対応エレベーターの整備や、不特定多数の人々の利用する建築物で高齢者等に配慮したものについて、低利融資制度等の支援措置を講じて、その普及の促進に努めている一方、高齢者や障害者も安全で快適に移動できるよう駅、商店街、公共施設等主要施設周辺等において幅の広い歩道等の整備を推進するとともに、歩道の段差、傾斜、勾配の改善、利用しやすい立体横断施設の整備等を推進している。また、バリアフリーのまちづくりの先導的事例となるような地区づくりを早急に実現するため、数タイプのモデル都市において、中心市街地などで移動空間、建築物等の連続的・面的なバリアフリー化を集中的・総合的に推進することを検討している。さらに、高齢者にとって長時間通勤は労働するための大きな障害となっており、これを克服するためにも都心居住が重要になろう。

2 都市・地域のポテンシャル−都市・地域の活力創出
 前節では、少子高齢社会を迎えたわが国のポテンシャルを経済的・社会的側面から概観した。本節では都市と地域という視点に立って各々の持つポテンシャルに光を当ててみよう。
 日本全体の総人口の減少が始まると予測されている中で、日本の活力を維持、向上させるためには、都市的活動を維持し高めていくと同時に、各地域が自らのポテンシャルを活かしていくことが必要である。この点で各都市・各地域が自らの持つポテンシャルを的確に認識し、伸ばしていくことが今後の地域間競争を余儀なくされる時代において重要な課題となる。その際に、住宅・社会資本の整備は大きな意味を持っている。

(1)都市空間の有効利用の必要性と課題
 まず、我が国経済社会の発展基盤として、大都市の持つポテンシャルを活かしていくためにはどうしたら良いのだろうか。

(大都市圏の都心回帰の傾向と都心居住)
 第1章で見たように、近年、特に東京において都心回帰の兆しがみられるが、三大都市圏の都心部は、依然として大きな集積を持ち、昼間人口が多い割に夜間人口が少ないために勤労者の通勤距離・時間も長いという従来からの構造に大きな変化はない。
 都心部の人口減少は、居住空間の空洞化やコミュニティの崩壊を引き起こすとともに、住宅立地の遠隔化を通じた勤労者の長時間通勤は経済的に大きな非効率を生んでいるばかりでなく、我々の生活から豊かさの実感を奪い去っている。通勤距離が遠隔化する一方で、大都市の都心には土地利用密度の低い木造密集市街地が広い範囲で横たわっており、またバブルの残した低未利用地が各所に取り残されている。限られた都市空間を有効利用し、都心居住を一層促進する必要性は高く、建設省としても法制度の整備及び各種施策の展開によりこれを一層推進していくこととしている。

(良質な中高層都市住宅の供給促進策)
21世紀に向けて職住のバランスのとれた新たな都市居住の実現のため良質な中高層都市住宅の供給促進を図るとともに、民間による都市開発投資の拡大・誘導を通じて低迷する我が国経済の活性化を図る必要がある。このため、

を内容とする都市計画法及び建築基準法の見直しを行った(図表1−56)。

図表1−56 高層住居誘導地区の創設と容積率等建築規制の緩和

 また、平成9年4月に建設省、東京都、関係各区と住宅K都市整備公団からなる常設の「東京都心居住推進本部」を設置したところであり、関係各者が連携・協調して民間事業者の都市開発プロジェクトの円滑かつ迅速な実施を支援することとしている。
 これらの措置により、21世紀に向けた都市構造の再編成、居住空間の再構築を図ることとしている。
 都心部の有効利用として、さらに、オフィスの持つ国際業務機能、商業空間の持つ都市的な賑わいの場としての機能などの、大都市でなければ成り立たない機能を十分に発揮させることが都市のポテンシャルを活かし、結果的に日本全体のために望ましいと考えられる。

(都市の再整備)
例えば東京都の恵比寿においては、平成6年10月に工場跡地を利用した再整備(住宅市街地総合整備事業)によりホテル、住宅、オフィス、商業施設の複合施設である恵比寿ガーデンプレイスがオープンした。これは恵比寿周辺に新たな集積と人の流れを生み出し、オープンから平成9年3月までの2年半で延べ4,000万人の入場者を集めている。
 また、地方中枢都市の例では、平成8年4月にオープンした福岡市のキャナルシティ博多は、都心部の再開発により作られたアミューズメント要素を持つ複合商業施設であるが、アジアも含めた広い範囲から多数の客を集め、既存の周辺商店街も含め大きな波及効果を及ぼしている。

(投資機会としての民間都市開発)
 これらの例に見られるように、民間の都市開発は都市のポテンシャルを活かして大きな経済的価値を生み出す可能性をもっており、民間資金の投資先としても注目されるものである。しかし、このような先導的事例は現れてきているものの、未だ、民間の都市開発への投資は十分になされていない状況にある。その理由として、バブル崩壊後の不況によりデベロッパーにその余裕がないということ、我が国の土地の権利関係が複雑なため都市開発はリスクが大きいこと、民間都市開発への投資環境が未整備であること、さらに民間都市開発に先立つべき公共的な基盤整備が追いついていないこと、などが指摘される。これらの事情により、民間資金が都市開発に投入され、大きな経済的価値を生みだすような状況には至っていないと考えられる。
 では、我が国の民間資金を都市開発に誘導するための方策にはどのようなものがあるだろうか。
 一つには、複雑な権利関係が絡まりあった土地を一つにまとめる際に、それを円滑化するような制度を整えることが有効である。現在、敷地内に公開空地を設け、まちづくりに貢献するプロジェクトには容積率の割増を行う「総合設計」という制度がある。建設省ではこの制度の改善を行い、デベロッパー等が開発を行う場合、敷地規模が大きくなるほどさらに上乗せして容積率の割り増しが与えられる仕組みとして、権利関係をまとめて敷地を集約化する際のインセンティブとなるように措置した。さらに、これと併せて、土地区画整理事業の技術基準の弾力化等により、換地による交換分合を通じた敷地の集約化を主眼とした敷地整序型土地区画整理事業の実施を積極的に推進している。具体的には、個人・共同施行の小規模な土地区画整理事業の技術基準の運用の明確化により、区画道路の付け替え、道路の角切り等の事業も土地区画整理事業として行うことができるようにし、土地集約化が円滑に進むよう措置した。
 また、一つには民間都市開発への投資環境の整備が考えられる。複数の投資家が共同で不動産の共有持分又は金銭を出資してその出資をもとに事業者が不動産取引を行い、その事業収益を投資家に分配するという不動産共同投資事業について、事業参加者の保護と事業の健全な育成を図る目的から、不動産特定共同事業法が制定されたが、今般、事業参加者がいわゆる投資の専門家である場合について規制の緩和を行い、不動産特定共同事業のより積極的な活用を促すこととした。また、不動産の証券化も投資環境の整備の一手段として考えられる。ただし、わが国の場合、以前から提唱されていたところであるが、プロジェクトのリスク表示の不備、投資家保護の制度の不十分さ、市場の未発達等に今後の課題を残している。今後は、制度の一層の整備により、多様な選択可能性と自己責任原則の下で、経済的なポテンシャルが証券化等を通じて都市環境の整備、国民の生活水準の向上に有効に使われることが期待される。
 さらに、都市開発にはその前提となる公共的な基盤の整備も重要である。我が国の多くの都市では道路の整備が十分ではなく、大規模な都市開発が困難な状況にある。そこで、公共の力で道路を広げ、開発のポテンシャルを飛躍的に向上させることが大きな意味を持っている。たとえば、東京の国道17号(北区滝野川5丁目〜6丁目)で行われた街路事業の例では、沿道1列目の建物の平均階数が約2.4階であったものが約4.7階へと約2倍に高度化されている(図表1−57)。

図表1−57 街路事業実施による土地利用の高度化

 街路事業は一般に事業費に占める用地補償費の割合が大きいが、用地補償費を受け取った人は、自己資金を追加するなどして新しい建物を建てる場合が多く、その結果、建築行為を介して生産を誘発する効果もかなり大きいといえる。公共による基盤整備からは、民間投資を引き出し、民間都市開発を促進する誘い水としての効果も期待される(図表1−58)。

図表1−58 街路事業を契機とする建築行為の生産誘発効果

 また、事業に公共性が要求される場合や、純粋民間ベースではリスクが大きい場合、公的セクターが一定の役割を負って都市開発を進めていくことが重要である。その意味で、住宅・都市整備公団等のノウハウを活かしてプロジェクトのコーディネーターとして活用していくことが期待される。
 魅力ある都市づくりは時間がかかるものである。歴史的蓄積とその時々の生活の質を重視しながら、官民のバランスのとれた役割分担を行いつつ、都市の持つポテンシャルを十分に引き出していくことが必要である。

(2)地方都市及び地域の課題
 地域の活性化のためには、生活基盤や産業基盤の整備を進めていくことが必要であり、また、第1章で見たように我が国の社会資本整備の状況に地域格差が存在することを考えると、今後、地域及びその中心となる地方中小都市で住宅・社会資本整備を進めていくことが重要である。
 最近の厳しい財政事情の中で、前述のとおり、公共投資基本計画や公共事業関係の長期計画は所要の見直しを行うこととされたが、公共事業に関しては地域経済への配慮を行うとともに、国土の均衡ある発展と整備水準についての地域間の格差の是正という観点にも留意することが併せて閣議決定されたところである。

(地方都市の活力要因分析)
 第1章では、中心市街地の衰退や空洞化に悩む地方都市の人口動向の概要をみたが、一定規模の地方中小都市では、人口の増減率に分化の傾向があることがわかった。そこで、ここでは地方中小都市において何が人口を引きつけているのか、その発展の要因を、地域振興整備公団の行った調査に依拠しつつ考えてみたい。
 まず、この調査では、分析の対象として地方圏の人口8万から20万人の都市を選び出した。これは、概ね減少傾向が見られる人口5万人程度の地方小都市と、概ね人口の伸びが安定している地方中核都市(県庁所在都市及び人口30万人以上の都市)を除いて、人口増減率の分化の大きい層を抽出したものである。さらにこれらの都市の中からベッドタウンのように他の都市の影響で人口を伸ばしている都市を除き、昭和60年から平成7年までの人口の伸び率を計算し、その中から伸びの大きかった上位10市と減少の大きかった下位10市を選び出した。但し、その際に、下位10都市のうち不況産業の影響を受けて人口の減少している都市(室蘭市、大牟田市、延岡市、など重化学工業の城下町や炭坑町など)は減少の原因が明確であることから除外した。そして、それぞれの上位10市グループと下位10市グループで、@時間距離、A都市インフラの2分野の指標を比べてみたのが図表1−59である。

図表1−59 人口が増加(減少)している地方都市のアクセス及び都市インフラ整備状況

 その結果、高速道路のインターチェンジへのアクセス時間などの時間距離や公園面積などの都市インフラの整備については、伸びている上位グループと伸び悩んでいる下位グループで明確な格差が現れた。大都市や他の地域へのアクセスの良さや都市インフラの整備水準が地方中小都市の人口増加には大きく影響していることが窺われる。
 なお、人口の伸びが大きかった市に対し、何が人口増加に寄与したと考えられるかについてヒアリング調査を行ったところ、図表1−60のような結果が得られた。交通アクセスや雇用・産業に関する要因、さらに居住者の生活水準や利便性の向上に資するような要因が人口増加に強く働いていることがわかる。

図表1−60 人口の増加要因として考えられるもの

(都市のインキュベータ機能)
 ところで、総理府が行った「これからの国土づくりに関する世論調査」によると、理想の居住地へ実際に移り住むためには、移り住む先でどのような条件が整う必要があるかという問に対し、「就業機会が確保できれば移り住む」と答えた者が最も多かった(図表1−61)。

図表1-61 理想の居住地域へ転居するための条件(複数回答)

 居住地選択に際して、就業機会の確保が重要な要因となっていることが分かる。そこで次に、重要な条件となる「職」について、地方都市・地域のポテンシャルを特に取り上げて分析してみる。
 従来、国の政策においては、地方の雇用や活性化を図るため、様々なインセンティブにより大都市に立地している工場や企業を地方に分散させる、いわゆる誘致型の政策が主として取られてきた。しかしながら、近年のアジア地域の急速な追い上げの中で、従来のように比較的安価な労働力や低い地価を売り物にして地方へ企業を誘致することは次第に厳しくなりつつある。そこで、近年は中央からの企業誘致だけではなく、地場に根ざした内発的な発展による雇用機会の確保が注目されている。すなわち、地方都市においてもいわゆるベンチャー企業が地域の中から生まれてくる土壌をどう醸成するか、ということに大きな関心が払われるようになっている。
 そこで、新たな産業を生み出し易い都市の形態、地域の活力を高めるインキュベータ機能とはどのようなものなのかを考えてみよう。
 ベンチャー企業が地域で生まれるためには、起業家が資金を調達するベンチャー・キャピタル的な資本家や金融機関の存在が重要であるが、その他にも技術者の集積など必要な人材をそこで確保できるかどうかということも重要である。平成7年11月に中小企業庁の行った「中小企業経営状況実態調査」によると、中小企業が創業時に障害となった要因としては、「自己資金が不足」「必要な技術・知識を持つ人材の確保が困難」といった資金や人材の確保に関するものが最も多くなっている。しかしながら、金融機関や学術研究機関の大都市への偏在状況を考えると、この条件は東京、大阪のような大都市圏に比べて相対的に地方中小都市では不利に働くものと思われる。
 図表1−62は、個別の都市について人口規模とそこに存在するベンチャー企業の数をグラフにしてみたものであるが、人口の多い都市ほど多くのベンチャー企業を生み出す傾向があることがわかる。

図表1−62 都市規模とベンチャー企業数の相関図

 都市は様々な人が集まってお互いに刺激しあいながら新しい発想を生み出す上でも、また集積の厚さにより新しい商品の市場としても重要な役割を果たしている。したがって、ベンチャー企業が多数輩出する基盤を整える意味でも地方都市の整備は重要な意味を持っている。
 ただ、ベンチャー企業の創業にとって、地方中小都市より大都市の方が一般に有利であるとはいえそうであるが、それは必ずしも決定的なものではない。現に、近年では高い技術力を持った地方都市のベンチャー企業が生まれつつある。これらの新しいベンチャー企業の中には地域の伝統を活かした技術(和紙の技術を電解コンデンサーに活かした例など)や地域のニーズを活かしたもの(積雪地域に適合した住宅を開発した例など)が現れている。また、先ほどの都市のベンチャー企業数を人口1万人当たりに換算してグラフにすると、次のようになる(図表1−63)。

図表1−63 人口1万人当たりのベンチャー企業数と都市規模の相関図

 このグラフからもわかるように、中小都市でベンチャー企業が存在するところでは、人口1万人当たりで見たベンチャー企業数は大都市のそれより多くなる傾向があり、ベンチャー企業が地域経済に与える影響は比較的大きいということがいえる(ただし、中小都市にはベンチャー企業が一つもない都市が多数あり、小さい都市ほど人口当たりベンチャー企業が多いという訳ではない)。したがって、各地方都市や地域が与えられた条件を受け止めた上で、各種の支援策により積極的にベンチャー企業を支援することは地域の雇用を支える上でも大きな意味を持っている。
 ベンチャー企業は成長が早く、企業の発展に応じて技術者を中途採用していかなければならない場合があり、技術者が来てくれるような住宅や住環境が整備されていることが望ましいと考えられる。したがって、ベンチャー企業を育成するためには産業基盤のみならず生活基盤も含めた都市的基盤・都市的環境の整備が重要な意味を持っている。
 このようにみてくると、地方都市のインキュベータ機能を一層高めていくためには、生活基盤も含めた都市基盤、都市環境を改善していくことが重要であると考えられる。しかしその際、中小規模の都市は、中枢・中核都市と同様な発想での活性化は難しく、伝統や自然環境など地元のポテンシャルを高め、効果的に引き出し、他とは異なった発想に立って活性化を図っていくことが必要であろう。
 建設省では、国際化に対応して我が国の経済の競争力を向上させるため、産業集積地域における空洞化対策や新産業への転換を支援する「新産業創出基盤形成事業」を創設した。これは、産業集積地域における空洞化対策及び新産業創出支援策として、通産省の行う地域産業集積の研究開発能力の向上支援、賃貸工場整備等の施策と連携し、産業集積地域と高規格幹線道路等のインターチェンジや空港・港湾等を連絡する幹線道路などの社会資本整備を計画的・重点的に推進するものである。
 さらに、地方都市の中心市街地の活性化については、「経済構造の変革と創造のための行動計画」等に基づき、関係省庁との連携により、車社会に対応した道路、駐車場等の各種基盤整備、土地の有効・高度利用の促進、公共・公益施設、住宅、商業K業務施設の立地促進等を図り、都市機能の再構築に積極的に取り組むこととしている。
 各地方都市においては、こうした国の施策をも活用しつつ、独自の視点を加えた戦略的な地域振興策を推進していく必要があろう。

(3)都市・地域の交流基盤の強化
 これまでは、一定地域内のポテンシャルを高めるための視点をみてきたが、それだけにとどまらない広域的な交流や連携による活力の創出が必要になっている。そこで、以下では、このような観点から広域を睨んで整備すべき都市機能の分析を行うこととする。

(広域的な施設整備)
 人口減少、持続的・安定的な経済成長へ移行する中で、フルセット型の施設整備から脱却し、広域的な連携の中で施設を整備し利用することの重要性が指摘されているが、このことに関する人々の意識はどのようになっているだろうか。図表1−64は、それぞれ総理府が平成6年2月と平成8年6月に行った世論調査の結果であるが、今後交通機関が十分に整備され、近隣市町村に容易に行けるという前提で、広域的な社会施設の整備に関して聞いたものである。平成6年の「国土の将来像に関する世論調査」では自分の市町村に「あらゆる施設が整備される必要がある」とする人の割合は52.6%であった。一方、平成8年の「これからの国土づくりに関する世論調査」では「個人の負担が増えたとしても、やはり自分の市町村にあらゆる施設を整備してほしい」と回答した人は18.2%にとどまっており、少なくとも負担との見合いでは広域的な社会資本の整備の必要性が認識されてきていると考えられる。

図表1−64 広域的な社会施設整備に関する意識

 それでは、社会施設の整備について市町村の枠にとらわれない広域的な整備を行うとした場合、その施設までの時間距離はどれくらいが限界なのであろうか。平成8年の総理府の世論調査によると、小学校や地域文化センターなど地域に密着した施設まではほとんどの人が30分くらいまでの距離にないと許容できないと答えているほか、医療に関しても身近に整備して欲しいとする人の割合が高い。しかしながら、欧米便が就航する国際空港となると半数程度が1時間以上かかってもかまわないとしている(図表1−65)。

図表1−65 許容できる施設までの所要時間

 この許容される時間距離をより具体的に地方都市の姿に即してみていくため、地域振興整備公団の行った調査を見てみよう。この調査では、二か所の地方都市とその周辺地域において、ショッピングセンター、病院、図書館、スポーツ施設、音楽ホールの五種類の施設について、「どれくらいの時間距離でこれらの施設が整備されれば利用するか」という点に関してアンケート方式で調査したものである。
 まず、この五種類の施設について2つの都市に現実に整備されているものの利用頻度を見てみると、二つの都市では人口の状況・動向に差があるにもかかわらず、同種の施設ではほぼ同程度の利用頻度があることが分かる(図表1−66)。

図表1−66 地方都市における社会施設の利用頻度

 次に、現在、現実に利用している施設より遠方に「理想の施設」が整備された場合、それがどの程度までの時間距離で行ければ利用するかという点について、施設ごとに答えてもらったものを表にしたのが次の表である(図表1−67)。

図表1−67 許容できる想定施設までの時間距離

 これを見ると、利用頻度の高いショッピングセンターについては概ね想定された施設までの時間距離が短く、利用頻度の落ちる音楽ホールについては長いという傾向が読みとれる。その他の施設については傾向は必ずしも明確でないが、広域的な施設整備を考えるに際して、人々の利用頻度がひとつの考慮事項であることが分かる。
 世代によって施設の利用意思が違う可能性があるので、特に60歳以上の世代とそれ未満の世代で分けて許容できる時間距離を集計したのが次の表である(図表1−68)。

図表1−68 60歳以上と未満の許容できる想定施設までの時間距離

 60歳以上の高齢者世帯では、許容できる施設までの時間距離が、病院と図書館を除き概ね短いという結果が出た。今後高齢化時代を迎えるに当たって世代による施設への選好や許容できる時間距離の違いも考慮すべき要素であろう。
 今後、財政的な制約が厳しくなるにつれて、地域にすべての社会施設を整備するフルセット型の施設整備は困難となっていくであろう。広域的な交流や連携を前提とした地域の整備を計画的に進めていく必要があり、その際に地域のニーズを把握した効率的なインフラや施設を整備し、質の高いサービスを提供していくことが重要になってくるであろう。

(交通軸を中心とする交流と連携)
 今後、様々な交流や連携が地域の発展のための重要な要素となってくるが、単に施設を共用したり、道路等によって物理的、空間的につながっているというだけでなく、広域的広がりをもって生活、産業・経済、文化等様々なレベルで社会的な機能が連携していこうという新しい方向性が模索されている。
 平成9年3月に中国横断自動車道岡山米子線の岡山総社〜北房間(40.6km)が開通し、米子と高知が本州四国連絡道路を経て高速道路で、3時間強で結ばれることとなった。この開通を見込んで沿線の食品メーカーや出版社、書店、CATV会社等が地域やセクターを越えて、広域的かつ複合的に交流・連携し、豊かな地域づくりのためのネットワークを形成することを目的に任意団体である『中国四国交流連携倶楽部』が結成されている。この団体の主催で沿線の宿泊施設の共通割引チケットを作成したり、沿線5県の地方出版物を集めたブックフェアを開催したり、また、地域で作成したCATV番組の相互配信を行ったりする等活発な活動を行っている(図表1−69)。

写真 中国横断自動車道 北房JCT

図表1−69 交流基盤整備の例〜中国四国横断ネットワークの場合

 以上見てきたように、地方都市及び地域の活性化のためには、交通アクセス改善や都市インフラ整備などの社会資本の整備が重要である。これから人口減少社会を迎えて地域間競争を余儀なくされる時代にあっては、交通アクセス等の交流基盤整備は地域間の交流や連携を促進する上でも不可欠の前提となるし、都市基盤の整備は地方都市及び地域の内発的な発展を促すためにも必要である。こうした基礎的条件を整えた上で地域間の競争、交流、連携の上にお互いのポテンシャルが十分に引き出される国土の構造を作り出すことが必要となっている。

3 住宅・社会資本とポテンシャル−国土の経営戦略
 前節では建設省の施策にも触れながら都市・地域の持つポテンシャルについて述べたが、本節では特に「住宅・社会資本の整備」に重点を置いて我が国のポテンシャルを活かしていく方策を考えてみる。

(社会資本ストックと豊かさ)
 我が国において経済のストック化がいわれて久しいが、その実態は、よく「豊かさを実感できない」といわれるように、ストック「額」の蓄積の割には必ずしも「質」が伴っていない。それは何故なのだろうか。
 我が国の現在の住宅・社会資本のストックのほとんどは、たかだか戦後50年の間に急速に整備されたものである。先進諸外国の住宅・社会資本が数百年の長い歴史の中で積み重ねられ、さらに生活や経済活動のパターンに合わせた維持・補修や更新が行われてきたのとは、その積み重ねの厚みにおいて違っている。その積み重ねは主として先進諸外国が豊かな時期に行われており、国力と住宅・社会資本の形成がほぼ並行しており、これらの諸国においては投資余力がうまく住宅・社会資本の整備に振り向けられてきたといえる。
 例えば、イギリスでは、工業発展には社会資本の急速な整備が前提となり、道路、水運、鉄道によって産業革命が支えられたと言われている。また、住宅についても、国力が強い時期にストックを形成し、手を入れながら価値を高めており、むしろ経済繁栄期であるヴィクトリア朝期の住宅など、良好な中古住宅の方が市場価値が高いという例もあるほどストックが活かされている。そこでは、国力の豊かな時代に住宅・社会資本を整備し、その蓄積を維持、発展させることにより「豊かな生活」が実現可能となっていると思われる。
 米国も、1930年代半ばから60年代終盤までが最も繁栄した期間で、その最盛期に必要な社会資本をうまく整備したことが、米国民が現在高い生活水準を維持している一つの原因となっている。具体的には1950年代末から60年代始めにかけて、現在の経済・社会活動の基礎となる高速道路網を建設し、都市基盤を整備したことが大きいといえよう。図表1−70にあるように、戦争や大恐慌のあった時期は別として、経済力の最盛期に新規の建設投資が盛んだったことが分かる。

図表1−70 米国の新規建設支出対GNP比と財・サービス・投資収益収支対GNP比の推移

 このように、経済力の最盛期にどれだけ優れた基盤づくりを行っておくかで、そしてそれ以降どれだけ住宅・社会資本ストックの蓄積の厚さを維持・向上させていけるかで、その国の後々の「豊かさ」が大きく影響されるというのが歴史的な経験則である。
 我が国の状況を考えると、経済に活力のある現在のうちに、後世代に負担を残さないような財源の確保を前提として、21世紀初頭に社会資本がおおむね整備されることを目標とする一方、整備された社会資本ストックのポテンシャルを経済、社会情勢の変化に応じて最大限引き出すための利用・運営の充実を図ることが重要になってくる。

(社会のポテンシャルを高める公共投資のストック効果)
 次に、公共投資の持つストック効果に焦点をあてて考える。
 公共投資は単に経済面のみではなく、社会一般にも種々の影響を与えるものであるが、経済面における効果に限定すれば、次の二つの面からとらえられる。
(ストック効果=社会資本がその目的とするサービスを提供することによる効果)
 道路、港湾、空港などの交通関係施設が物流や人流の合理化を通じて経済全体の効率を高め、また、都市内生活に不可欠な道路、公園、上下水道、病院などの生活基盤施設が国民生活における福祉の向上に寄与するというように、事業が本来その目的とする便益をもたらす効果である。これらの効果はストック効果と呼ぶことができる。
(フロー効果=公共投資の実施が総需要等に及ぼす効果)
 公共投資はそれ自体が資材などへの最終需要となって現れ、生産を誘発するとともに、その波及効果によって投資額以上の需要を創出することとなる。公共投資による有効需要の創出は、産業における設備稼働率の向上、設備投資や雇用の創出にもつながるものであり、この面から、不況期においては、公共投資が景気の下支えに一定の役割を果たし得ると言える。このような効果は、一般的に公共投資の需要効果またはフロー効果と呼ばれている(図表1−71)。

図表1−71 公共投資の多様な効果

 このうち、昨年の白書では、特に景気との関係からフロー効果を取り上げたので、今回はストック効果について考える。
 公共投資のストック効果により社会の便益はどれくらい増大することになるのだろうか。先に述べた首都高湾岸線の開通による時間節約や燃料節約の事例も社会資本整備のストック効果の簡単な計算事例であるが、ストック効果は一般にはフロー効果に比べると把握しにくいものである。しかしながら、ストック効果による便益を数値的に計測しようという様々な試みがなされているので、いくつかその事例をみてみよう。

(ヘドニックアプローチ)
 まず、社会資本整備による効用の増加が土地や住宅の価格に反映するという点に着目してその効果を計測する方法としてヘドニックアプローチがある。ヘドニックアプローチは、地点間の社会資本の差によって生じる土地(あるいは不動産)の価格の差が社会資本の価値を表すと考え、地価データを用いて投資の便益を測定する方法である。例えば、常磐新線について、新線開通による効果が計測されており、この例では、社会資本の整備後、ストック効果が長期間にわたって発揮され、最終的には投資総額を上回る便益を生むであろうということが示されている(図表1−72)。また、川崎市の都市公園等の緑地がもたらす便益について計測された事例もあり、そこでは至近距離(50m以内)に0.25haの街区公園が整備されると周辺地域に1m2当たりおおよそ35万円の便益が生じると試算されている(図表1−73)。

図表1−72 ヘドニックアプローチによる効果計測事例@−常磐新線の整備効果の計測−
図表1−73 ヘドニックアプローチによる効果計測事例A−川崎市における公園整備の便益計測−

(仮想的市場評価法)
 また、人々の意識調査により、支払い意志を評価することにより環境や現存しない社会資本の評価を行う手段として、仮想的市場評価法(CVM、Contingent Valuation Method)がある。通常の市場では取り引きできないような財やサービスを交換できるような仮想の市場を想定し、そこにおける個人の選択の結果を意向調査を通じて獲得する方法である。
 例えば、高知県の財団法人政策総合研究所が行った四万十川の事例がある。この例では、「現在の四万十川の水質を50%改善することにより20〜30年前の四万十川が回復するという計画が2000年までに行われる」と仮定して、そのための費用としていくら支払う意思があるかを三鷹市と京都市の住民に聞いたものである。調査結果は、これらの大都市住民は一世帯当たりかなりの額を支払う意思ありと出ており、この事例の報告書では、この結果を踏まえて、森林の保水力の維持のための森林の管理、近自然工法を取り入れた河川管理(多自然型川づくりなど)、自然に配慮した周辺の道路計画(エコロードなど)、等の政策案を提言している。

写真 四万十川の清流

 この方法は、環境の改善という従来評価の対象となりにくかったものを定量的に評価するものであり、社会資本整備の効果をトータルに把握するための一つの視点を提供しているとともに、環境に配慮した形での社会資本整備が大きな価値を生むものであることを示す一つの手法となっている。建設省においても、さらに諸外国における議論や適用事例を踏まえた上で、社会資本の整備効果の評価における本手法の適用可能性について一層の検討を行うこととしている。

(生産力効果)
 さらに公共投資により形成された社会資本ストックが供給面(経済成長や生産性)に及ぼす効果については、マクロ的に生産性を押し上げる効果(生産力効果)があり、それについて様々な推計がなされている。1970年代の生産性の伸びの鈍化を背景に、1990年前後から米国において研究が活発化したもので、我が国でも最近相次いで研究結果が発表されている。それらによると、推計にかなりの幅があるものの、民間投資の持つ生産力効果と遜色ないという試算結果も出ている。社会資本整備には、ストックの蓄積による生産力効果を通じて、今後の成長へのポテンシャルを高めるという重要な役割がある(図表1−74)。

図表1−74 社会資本の生産力効果の計測事例
図表1−75 社会資本ストックの上昇率と生産力上昇率

 図表1−75は、生産性の伸びと社会資本ストックの上昇率の伸びを標準化し、一つのグラフに重ねたものである。社会資本ストックの上昇率と生産性の上昇率には密接な相関がみられ、前者が低い時には後者も概ね低いという傾向が米国でも我が国でも確認できる。これらの研究の結果をもってただちに社会資本ストックの伸びが生産性を引き上げたとは断定できないとする批判もあるが、生産力効果の大きさを示唆するものとして注目される。
 これまで公共事業の持つストック効果のいくつかの計測事例を通して社会資本が経済社会のポテンシャルを高めるものであることをみてきた。これらに関しては評価の観点や仮定の置き方により、様々な結果が導かれ得るという点には注意が必要である。また、それぞれの評価法について様々な問題点が指摘されていることも事実である。しかし、ここで重要なポイントは、蓄積された社会資本ストックがもたらすストック効果はこれだけで全て把握されているわけではないということである。他にも例えば、道路整備による走行快適性の向上や疲労の低減など人々が実感として意識的にせよ無意識にせよ感じているであろう数値化しにくい効用等様々なものがあり、公共事業の持つストック効果はより広い範囲にわたるものである。したがって、公共事業の効果を論ずるときには短期的なフロー効果だけでなく、様々な観点からのストック効果も含め総合的な観点から考えていくことが必要である。

(住宅・社会資本自体の維持・管理・運営の重要性)
 これまでは、公共事業のストック効果を考えることにより住宅・社会資本が経済、社会一般のポテンシャルを高めるという側面をみてきたが、以下では、住宅・社会資本自体についても、その活用の仕方、管理・運営について一層の改善を行えばより効果が発揮されるという既存の社会資本の持つポテンシャルを活かすための取組みを取り上げてみたい。
 社会資本の機能を十分に発揮させていくためには常に適切な維持管理が必要であるが、その維持管理のための費用は、ストックが増大するにつれて増大していく。図表1−76の例でみるように、将来的にはいずれ維持更新が重大な問題となることが予測される。

図表1−76 下水道管渠の老朽化(下水道管渠延長の布設時期別内訳)

 したがって、この維持管理費が最小で済むような技術開発を進め、最小限の維持管理費で最大限の効率性を実現しなければならない。
 その例として、建設省の土木研究所で進めている「ミニマムメンテナンス橋」がある。これは、近年の技術進歩を受けて開発された、橋梁の初期建設費用と維持管理費用及び更新費用の総計であるライフサイクルコストを最小にする技術である。この技術を活用することにより、今後建設される橋梁のライフサイクルコストを最小化することができるだけではなく、既存の橋梁にミニマムメンテナンス工事を施工することによりその維持管理コストを大きく低減させることが可能となる(図表1−77)(図表1−78)。

図表1−77 ミニマムメンテナンス橋(共通仕様)
図表1−78 ミニマムメンテナンス橋の効果(新設橋より採用の場合)

(国土のマネジメント)
 以上、住宅・社会資本とポテンシャルに関していくつかの側面をみてきた。我が国の住宅・社会資本の整備水準は欧米先進国に比べて遅れており、これまでキャッチアップを目指して「ものづくり」としての個別施設整備を推進してきたといえる。しかしながら、現在、質の高い施設整備、メンテナンスを含む低コスト化、環境負荷の低減、省エネルギー対策等様々な政策課題を解決するため如何に政策のベストミックスを図るか、さらにそのための政策的な枠組み、技術体系が如何にあるべきかが問われている。また、個別施設の整備水準はある程度高まっていることから、今後は個別施設を相互に連携させ、増大の予想される社会資本・都市施設のメンテナンスコストを最小にしつつ、質の高い安価な公共施設サービスを国民に提供する視点に立って総合的に管理するための「国土のマネジメント」へと施策を発展・展開させていく必要がある。このため、今後の住宅・社会資本整備については以下の三つの視点が重要となる。

  1. 身近な生活領域から、都市、地域、国土へと広がる重層的な国土空間を対象として、これを総合的に経営・管理するための政策体系の構築
  2. 社会資本の建設・利用・管理を通じた総合的かつ効率的な政策展開
  3. 社会資本ストックの総合的な生産性を高める建設技術開発の推進
また、国土のマネジメントを進めるに当たっては、
  1. 公共投資のシェアの弾力化、縦割り是正などをより実質的に推進するための省内・省庁間の施策の総合化(横の総合化)
  2. 総合的な計画とその実現施策の一元的な推進による計画の実現力の向上(縦の総合化)
  3. 市場メカニズムを活用し需給面に働きかける政策手法の導入(需給両面の総合化)
など総合的な施策展開が重要である(図表1−79)。

図表1−79 国土のマネジメントのイメージ

第3節封頼iある国土の実現


 我が国には優れた文化、自然環境等のポテンシャルがある。それを引き出し、国際社会からも尊敬を集められるような風格ある国土を実現する上で、住宅社会資本整備の果たす役割には極めて大きいものがある。

1 文化の創造・保存
 人々の意識の中で「日本の誇り」とは、どのようなものであろうか。総理府が平成7年12月に行った「社会意識に関する世論調査」によれば、日本の誇りとして、「美しい自然」「長い歴史と伝統」が最上位に挙げられている。
 しかしながら、戦後の50年間の営みの中で日本人の関心の中心は経済的な豊かさの実現に片寄り、文化的な価値に関しては十分に省みられることがなかったのではないだろうか。それは建設行政においても例外ではなく、21世紀を目前に控えて、今まで忘れかけていた文化的価値をもう一度正当に評価することが必要であろう。
 そこで建設省では、昨年6月にとりまとめた「文化を守り育む地域づくり・まちづくりの基本方針」に則り、「文化」を建設行政の担うべき重要な使命として再認識することを基本として、文化への取組みや施策展開を行っている。この指針の中では、
  1. 先人が築いた文化ストック、大切にしてきた自然、歴史に培われた地域の個性を大事に守り・活かし、調和する地域づくり・まちづくりを実現
  2. 日常生活空間の質や水準を高め、文化性豊かな生活環境を享受できるような地域づくり・まちづくりを実現。さらに新たな文化の創造に積極的に貢献
  3. 点として個々の質を高めるばかりでなく、線・面として質を高め、空間全体として文化性豊かな地域づくり・まちづくりを目指す
の三つの基本的視点が示されている(図表1−80)。

図表1−80 文化を守り育む地域づくり・まちづくりの基本方針概要

 このような考え方に沿った形で文化を守り育む地域づくり・まちづくりが様々な形で各地で行われており、今後も一層の施策の展開が期待される。
 また、建設省としては、文化庁とともに、文化の視点を重視した地域づくり・まちづくりを進めていくことが重要であるとの共通認識の下瘁A両省庁の施策連携のあり方を検討し具体化していくことを目的として、「文化庁・建設省連絡推進会議」を設置し、両省庁の関連施策に関する連携の推進について情報交換や協議を行っている。また、先導的なモデル地域を選定し、文化財を活かした具体的な地域づくりを建設省、文化庁および地元が一体となって計画的に進める「文化財を生かしたモデル地域づくり事業」を進めており、平成8年度において10地域を取り上げ、整備を進めている。
 その他、全国各地で公共事業をきっかけとして貴重な文化遺産や遺跡が発見、発掘された事例が数多くあり、事業計画の変更による遺跡の保護や、より積極的に公園として整備することにより市民が文化と出会い親しむ場を作り出す等の取り組みを行っている(図表1−81)。

図表1−81 文化的側面に配慮した社会資本整備等

 今後も、地域の歴史・文化を尊重し、さらにそのポテンシャルを活かし新たな文化の創造に貢献するような住宅・社会資本整備を進めることが、風格ある国土を構築する上で重要なことである。

2 環境の創造・保全
 建設省では、平成6年に策定した「環境政策大綱」において、

  1. ゆとりとうるおいのある美しい環境の創造と継承
  2. 健全で恵み豊かな環境の保全
  3. 地球環境問題への貢献と国際協力の推進
を国土形成における理念として、環境を内部目的化しつつ、「保全と創造」をスローガンに建設行政を推進している。
 「環境」は、大気、水、土、生物等の自然物と、住宅、建築物等の人工物から構成され、人間の諸活動は、このような広い意味での「環境」を基盤として、その上で展開されてきた。われわれ人類は、長い歴史を通じて、自然の脅威から生活を守る安全の確保、人々の営みの活力の増進等のため、人間活動の基盤となる環境を、人間の生存・活動に適したものに作り変えてきた。
 人間活動の活発化に伴って、その規模が大きくなり、環境への働きかけ、環境への影響が大きくなってくると、環境保全をいかに図るかが重要なものとなってきた。

(環境影響評価)
 環境と調和した公共事業の推進を図る上で重要なものとして、平成9年6月に制定された環境影響評価法が挙げられる。
 これまでは、各種公共事業をはじめとする大規模な開発事業の実施に先立って、昭和59年に策定された閣議決定要綱等に基づき、環境影響評価を実施してきた。
 本法の制定により、事業者自らが大規模な開発事業の実施前のできるだけ早い段階から手続が開始されるよう、スクリーニング手続及びスコーピング手続が新たに導入された。一定の規模以上の事業に環境影響評価を義務付けるとともに、これに準ずる規模の事業についても、環境影響評価の対象とするかどうかを個別の事業ごとに国が都道府県知事の意見を聴いた上で判定することとし(スクリーニング手続)、また、早い段階から環境配慮を行うため、環境影響評価の実施前に、事業者が調査等の方法に関して地方公共団体や住民・専門家等の意見を幅広く聴いて、具体的な調査項目等の設定を個別に選定することとなった(スコーピング手続)。また、これらの手続きに基づいて行われた環境影響評価の結果を国が当該事業に係る許認可等に反映させることとされた(図表1−82)。

図表1−82 環境影響評価法の概要と対象事業

 なお、対象事業が都市計画に定められる場合には、これまでの実績に加え、都市計画の案と環境影響評価に関する図書の内容が密接不可分であり、同一主体が行うべきこと等から都市計画決定権者が事業者に代わって、環境影響評価を都市計画手続に併せて行う特例を措置した。
 これらの手続に基づく環境影響評価の適正かつ的確な実施によって、環境と調和した公共事業の推進が一層図られることとなった。

(河川法の改正)
 また、建設省では、河川の持つ多様な自然環境や水辺空間に対する国民の需要の高まりに応えるため、河川法を改正して河川管理の目的として「治水」「利水」に加え、水質、景観、生態系等の「河川環境の整備と保全」を位置付けることとした。また、第9次治水事業五箇年計画(案)において、自然豊かな川づくりを本格的に推進するため、これまでパイロット事業として進めてきた多自然型川づくりをすべての河川を対象とすることに方針を転換し、「自然を活かした川」を目指して、河川・渓流の改修に新たに着手する7,300kmのうち5,700kmでコンクリートのない川を目指すこととしている(図表1−83)。

図表1−83 河川法改定の概要

コラム(「コンクリートのない川」を目指して)

 また、全国各地の具体的な事業において、魚道を設けたり多自然型護岸を採用したりすることで自然環境や生物に配慮している。その結果、河川の遡上環境が改善され、魚種の多様化や魚の個体数の増加等の効果がみられた(図表1−84)。

図表1−84 自然環境に配慮した社会資本整備

 このように、自然との共生の中で自然環境を創造・保全することを通じて、風格ある国土づくりを目指していくことが求められている。

(環境負荷の現状とリサイクル)
 次に、建設行政に係る諸活動の環境への負荷の現状をみてみたい。
 図表1−85に見るように、我が国の産業廃棄物に占める建設業関連の割合は大きく、環境への負荷が大きいことがわかる。平成6年に、工事発注者、工事請負企業及び処理会社が一体となって建設副産物対策を総合的に推進するため、「リサイクルプラン21」が策定された。このプランによれば、将来一部再利用が困難なものを除き、建設廃棄物の処分量をほぼ0にすることを目指し、当面、西暦2000年までに処分量の半減を図ることとしている。このプランの推進により、近年、コンクリート塊及びアスファルト・コンクリート塊についてリサイクル率が7〜8割になるなどの成果が得られている。ただし、建設汚泥、建設混合廃棄物等についてはリサイクル率が低く、今後の大きな課題である(図表1−86)。

図表1−85 産業廃棄物の業種別排出量の割合
図表1−86 リサイクルプラン21における再利用率等の目標と進捗率

 また、全産業廃棄物に関する住民からの苦情のうち建設廃棄物に対する苦情は約24%(平成4年度)もあり、建設産業のイメージダウンの大きな理由となっている。また、近年減少傾向にはあるものの建設廃棄物の不法投棄も解決すべき重要な課題である。
 このような点から、建設産業におけるリサイクルをさらに推進するため、建設省と建設業界は共同して平成8年8月、「建設リサイクル懇談会」を設け、

  1. 建設産業から排出される建設副産物のみを対象とした施策から、関連産業と連携したより大きな循環を視野に置いた施策への転換
  2. 発生抑制、再利用、適正処理といった局面ごとの施策から、住宅・社会資本のライフサイクルを見通した上での一貫した体系的・総合的な施策への転換
などの視点から幅広くリサイクルの推進について検討を行い、平成8年11月に提言「建設リサイクル推進のあり方について」を取りまとめた。
 今後はこの提言に沿って建設産業を「ゼロエミッション」産業システムの中核として、活力と魅力ある環境創造産業に転換していくことが求められている(図表1−87)。

図表1−87 「建設リサイクル推進の在り方について」の概要

(住宅・社会資本整備に係るリサイクル)
 住宅・社会資本整備におけるリサイクルへの取組みをより具体的にみてみると、以下のようなものがある。
●国営公園の緑のリサイクルセンター、高速道路の緑のリサイクル
 東京都立川市と昭島市にまたがる国営昭和記念公園においては、園内で発生する剪定枝や刈草などを廃棄物でなく資源として園内で処理・活用するための施設として、緑のリサイクルセンターを設けている。ここで処理された植物性廃棄物は、チップや堆肥として土壌改良材や園路の舗装材等として活用されている。
 また、高速道路では、環境や景観の保全等を目的に積極的な緑化を進めているが、一方では緑地の管理に伴い刈草や剪定枝葉等の植物発生材が毎年大量に生じている。日本道路公団では、沿道農家等に敷草や堆肥材として有効利用してもらうばかりでなく、高速道路内でのリサイクルを推進する方策として、刈草等を短期間で大量に堆肥化するリサイクル技術を開発し、高速道路緑化の土壌改良材等として使用する等で、発生量の約5割を有効利用している。
●団地建替え時の廃棄物等リサイクル例
 住宅・都市整備公団は既存賃貸住宅の建て替え事業と市街地再開発事業を進めているが、これらの事業の増加に伴い、既存建物の除却工事から発生する建設廃材も増加している。このため、発生するコンクリート塊を計画的に利用すべく、平成2年度から主として路盤材としての再利用に取り組んでおり、その再利用率は平成6年度には約91%、平成7年度には100%を超えるまでになった。さらにコンクリート塊の搬出・搬入等に伴う周辺への影響等を考え、発生団地内におけるリサイクルを目指して一層の取り組みを行っている(図表1−88)。

図表1−88 住宅・都市整備公団におけるコンクリート塊の発生量と再生材使用量

(ゼロエミッション)
 以上で公共事業を行う際などにおける環境への配慮の取り組みをみたが、第1章でも述べたように日本及び地球全体の環境のポテンシャルを考えた場合、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会(循環型社会)の構築が今後重要となってくる。社会のいろいろな分野においても、短期的な効率・コストのみならず、長期的なコスト、将来的な資源の有限性を考慮したシステムづくりへの動きが活発化しつつあり、建設行政においても循環型社会の構築に向けてゼロエミッションの考え方を実践してきている。ゼロエミッションとは、限りある資源、環境容量の中で、企業の生産活動に伴って発生する廃棄物(エミッション)を全体としてゼロにする構想、すなわち、ある主体が出した廃棄物を別の主体の原料とすることでシステム全体の廃棄物をゼロにする構想である。このようなシステムづくりに向けて、住宅・社会資本整備の分野においても今後、リサイクルの経済コストの低減など積極的な取り組みが必要となってこよう(図表1−89)。

図表1−89 建設廃棄物のリサイクル