第II部 国土交通行政の動向 

(2)規制緩和の効果

 公共交通の各分野における規制改革により、各交通事業者等においては、運行頻度の増加、安い運賃等の提供等多様なサービスの提供に向けた取組みが進んでいる。

1)鉄道事業における規制緩和
 旅客鉄道分野については、平成12年3月、改正鉄道事業法の施行により、需給調整規制を廃止し、運賃規制の緩和等が図られるとともに、退出に際して公衆の利便の確保に関し意見聴取することとされた。
 このような中、各鉄道事業者においては、運賃施策を中心としたサービス改善の取組みが進められており、運賃に係る規制が上限認可制の下での事前届出制に緩和されたことを活用して、14年10月現在、全186事業者中、55事業者において運賃の引き下げが実施されている。
 また、規制緩和後においては、新規参入数が高水準で推移しており、鉄道事業の活性化が図られている一方、退出数も増えている。
 不採算路線を抱える地域においては、当該鉄道路線を維持するため、地方公共団体が独自に財政的な支援や第三セクター化等の取組みを行っており、国土交通省においても、地域の生活の利便性を支える生活交通の維持・確保等を図る観点から、地方支分部局が中心となって、関係事業者、地方公共団体等と路線の維持やバス路線への転換方策等の検討に参画し、調整等を実施している。

 
図表II-1-3-2 旅客鉄道事業の免許(許可)、廃止路線数の推移

旅客鉄道事業の免許許可数は、平成7年度の1件から9年度まで1件ずつ増加し、11年度には0件、12、13年度はともに4件であった。それに対し、廃止路線数は、7年度から10年度まで1件、11年度には2件、12年度には7件と急増しており、13年度には3件となっている。
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 また、貨物鉄道分野においては、環境に優しく、長距離輸送におけるコスト競争力に優れた大量輸送機関という貨物鉄道の特性を発揮した多様なサービスの創造や、柔軟な運賃設定等を促進するため、14年6月、貨物鉄道事業における需給調整規制及び運賃の事前規制を廃止すること等を内容とする鉄道事業法の改正を行った。
 さらに、本改正においては、利用運送事業者等との間の貨物の引継ぎの円滑化措置を定め、利用者利便性の向上を図っており、引き続き、物流サービス全体の多様化・効率化や利用者のサービス向上等への取組みを支援していくこととしている。

2)旅客自動車運送事業における規制緩和
 貸切バス事業については平成12年2月に、乗合バス及びタクシー事業については、14年2月に、需給調整規制の廃止等を内容とする改正道路運送法等が施行された。
 これにより、事業の参入については、需給調整規制を前提とした免許制から、輸送の安全等に関する資格要件をチェックする許可制へ移行し、運賃制度についても、事業者の創意工夫により多様な運賃を設定することが可能となった。また、運行管理者制度の新設等輸送の安全対策についても充実を図っている。

(ア)乗合バス事業
 乗合バス事業については、需給調整規制の廃止後、僅かではあるが新規参入がみられる。特に、近年需要が増大している高速バスについては、利用者ニーズに応じた新規路線の開設が行われている。また、運賃サービスについても、ワンコインバスの運行をはじめとする様々な割引運賃の導入が積極的に行われ、利用促進等のための積極的なサービス改善が図られている。

 
図表II-1-3-3 利用促進のための割引運賃制度

平成14年4月1日現在の利用促進のための割引運賃制度の実施状況については、ワンコインバス等利用しやすい運賃設定が全国213地域の民営179事業者、公営11事業者、環境定期券の導入(エコ定期券)が民営147事業者、公営19事業者、高齢者向け定期券の導入が民営103事業者、公営2事業者となっている。
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 一方、地域住民、特に高齢者等のいわゆる移動制約者にとって必要不可欠な生活交通であるバスは、従来の内部補助による路線維持手法を継続することが困難となったこと等から、需給調整規制の廃止を踏まえた新たな制度を運用し、路線の維持確保を図っている。
 具体的には、都道府県を中心に当該地域の関係者で構成される地域協議会を設置し、当該地域の実情に応じた効率的な輸送のあり方等について関係者間で協議することとするとともに、協議会において維持が必要とされた路線のうち一定の基準に該当する広域的・幹線的路線については、国と都道府県が協調して維持対策費の補助を行っているところである。なお、国と地方の役割分担という観点から、国庫補助対象外の路線については、協議会の議論等を踏まえつつ、地方公共団体の判断により維持を図ることとし、そのために所要の財政措置を講じている。

(イ)貸切バス事業
 貸切バス事業については、規制緩和が行われた平成12年度に、新規参入事業者数が前年と比べほぼ倍増するなど市場原理の導入による競争促進効果がみられたが、13年度においては、景気低迷等の影響を受け、横ばいで推移した。
 また、貸切バス事業への新規参入事業者は、タクシー事業者等の異業種からの参入もみられ、事業の合理化・効率化等経営改善の取組みが積極的に行われている。

 
図表II-1-3-4 貸切バス新規参入者の推移

貸切バスの新規参入者数は、規制緩和後の1年間で、申請件数、免許件数ともに約200件急増している。
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(ウ)タクシー事業
 タクシー・ハイヤー事業については、需給調整規制の廃止により、新規参入及び増車が多数行われている。また、主要空港等と利用者の多い一定の地区間において、事前に一定の運賃を定める定額運賃を導入するなど、運賃面からのサービス改善も行われている。

 
図表II-1-3-5 タクシー事業者数及び車両数の推移

タクシー事業者数は、平成3年度以降、9年度まで顕著に減少しているなか、10年度には一旦増加に転じたものの、11年度以降は、再度、減少傾向にある。車両数は7年度まで減少しており、それ以降9年度までは増加に転じ、10年度以降はまた減少している。
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3)貨物自動車運送事業等における規制緩和
 トラック事業や貨物運送取扱事業などの物流事業については、平成2年のいわゆる物流二法の制定以降、他分野に先駆けた規制緩和を行っており、事業者間の競争促進を通じた物流の効率化が図られてきた。また、競争の結果、行き過ぎたコスト削減などにより輸送の安全や公平な市場競争が損なわれないよう、事業者監査体制の充実や行政処分基準の見直しなどを行い、事後チェック体制をより一層強化していくこととしている。

(ア)トラック事業の規制緩和
 トラック事業については、利用者ニーズに即したサービスの実現や事業の更なる効率化等を図るため、運賃・料金事前届出制や営業区域規制の廃止等を内容とした貨物自動車運送事業法の改正を行った(平成15年4月より施行予定)。

 
図表II-1-3-6 貨物自動車運送事業法の改正の方向

21世紀にふさわしいトラック事業の実現のために、規制の見直し、事後チェック体制などの強化、安全環境面への対応を行っている。

(イ)貨物運送取扱事業の規制緩和
 貨物運送取扱事業についても、参入規制の緩和、運賃・料金事前届出制の廃止、運送取次事業に係る規制の廃止や、第二種利用運送事業の幹線輸送モードへの海運の追加等を内容とした貨物運送取扱事業法の改正を行った(平成15年4月より施行予定)。

4)国内旅客船事業における規制緩和
 国内旅客船事業については、平成12年10月に、一般旅客定期航路事業に係る需給調整規制を廃止し、事業参入については免許制から許可制へ、事業の休廃止についても許可制から届出制へ緩和し、事業への参入・退出を自由化した。また、運賃及びダイヤの変更についても、事業者の創意工夫を活かすために許可制から届出制へ緩和し、より迅速な対応が可能となった。
 これにより、一般旅客定期航路事業等の許可事業者数及び航路数は、従来減少傾向にあったのに対し、規制緩和を行った12年度以降増加に転じている。

 
図表II-1-3-7 一般旅客定期航路事業の事業者数及び航路数の推移

一般旅客定期航路事業の事業者と航路数は、ともに平成9年度以降12年度まで減少傾向にあり、13年度から増加に転じている。14年度は、事業者数460、航路数618である。
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5)港湾運送事業における規制緩和
 港湾運送事業については、港湾荷役サービスの効率化・港湾の国際競争力の強化を目的として、我が国コンテナ貨物の95%を取扱う主要9港(注)において、需給調整規制の廃止等を内容とする改正港湾運送事業法が平成12年11月に施行され、14年10月1日現在、新規許可10件、業務範囲変更60件、運賃料金届出95件となっている。
 また、主要9港以外の地方港の規制緩和についても、規制改革推進3ヵ年計画において、15年度中に結論を得ることとされており、このための検討を進めている。

6)航空事業における規制緩和
 航空事業については、事前届出による航空運賃等の割引率の拡大、ダブル・トリプルトラック化基準の廃止等段階的な規制緩和を行ってきたが、一層の競争の促進を通じた利用者利便の向上を図る観点から、平成12年2月に需給調整規制の廃止等を行った。また、新規参入を容易にするとともに、経営の効率化を促進するため、運航又は整備に関する業務の管理の受委託を可能とする許可制度を新設している。
 このような中、スカイマークエアラインズ、北海道国際航空、フェアリンクが順次就航し、14年8月からは、スカイネットアジア航空が羽田-宮崎路線に新規参入している。また、各航空事業者では、利用者の多様なニーズや各地域の状況などに対応して、各種割引運賃の設定等柔軟な運賃設定が行われている。この結果、国内線における平均運賃は近年大幅に下落しており、規制緩和による利用者利益を生んでいる。

 
図表II-1-3-8 国内航空運賃(平均運賃)の推移(大手3社)

大手3社の国内航空運賃は年平均運賃で、平成元年度以降11年度まで約10年間減少を続けていたが、12年度には増加に転じ、13年度には微減している。
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7)公共交通ネットワーク全体の利便性の向上
 各交通分野における規制緩和により、各分野内における事業者間の競争を通じた交通サービスの向上等が図られているほか、航空、新幹線、高速バス等異モード間においても、所要時間、運行の安定性、運賃等それぞれの競争優位性を発揮させた競争が行われており、公共交通ネットワーク全体としてみた場合の交通サービスの向上が図られている。



(注)主要9港:京浜港、名古屋港、大阪港、神戸港、関門港、千葉港、清水港、四日市港、博多港

 

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