第I部 活き活きとした地域づくりと企業活動に向けた多彩な取組みと国土交通施策の展開 

(3)文化・文学を活かした事例

 
長野県小布施町 〜うるおいのある美しいまちづくり〜


 小布施町は、長野盆地の北東に位置する人口約1.1万人の平坦な農村地帯である。半径2kmにほとんどの集落が入るという長野県で一番面積が小さな町である。浮世絵の巨匠・葛飾北斎が晩年に滞在した地であり、平成10年には「国際北斎会議」が日本で初めて開催されている。

 小布施町内には数多くの北斎の作品が残されており、作品の散逸防止と保存展示のために建設した美術館「北斎館」が昭和51年に開館したことから、歴史と文化を活かしたまちづくりが始まった。
 昭和58年には、北斎が滞在した「ゆう然楼」を町が記念館として開館した。その際、周辺住民から地域の特性を活かしたまちづくりを進めるべきであるとの提案があり、関係者により協定が結ばれ、行政と民間がお互いに責任を分担しあった街並みの整備が行われた。具体的には、住民や企業は土地の交換や景観に配慮した住宅や店舗の建設を行い、町は特産の栗の木のブロックを敷き詰めた歩道の整備等を行い、居住環境の改善を行いつつ、歴史と文化の感じられる空間が形成された。

 
<ゆう然楼周辺の街並み>



 昭和61年には、豊かな自然や美しい景観を大切にした「うるおいのある美しい町」を町の総合計画に新たに位置付け、建物の形式、色彩や素材等について誘導する指針「環境デザイン協力基準」を設けるとともに、地域の歴史や風土を活かしたまちづくりゾーンを設け、行政と民間が協力しあってまちづくりを進めた。平成元年には「住まいづくり相談所」が開設され、翌年にはうるおいのある美しいまちづくりに貢献している人々への助成や表彰制度等を盛り込んだ「うるおいのある美しいまちづくり条例」が制定され、環境デザイン協力基準に沿った建物の建築、広告物の変更、生け垣づくりなどに助成が行われている。「外はみんなのもの、内は自分たちのもの」をまちづくりの基本理念に、住民と行政が一体となってまちづくりを進めている。
 これらの取組みにより、景観に対する関心が町全体に波及し、店舗や住宅など、小布施町の伝統建築様式の切妻、大壁造の家が建築されている。また、歴史と風土を活かした町並みが魅力の一つとなり、公・私立の美術館等の文化施設が次々と立地したこともあり、小さな町に全国から年間120万人以上の観光客が訪れている。

 小布施町では、うるおいのある美しいまちづくりの実現に向け、建物の外観の整備とともに花のまちづくりにも取り組んでいる。花のまちづくり運動は、昭和55年に中学校の生徒会が老人クラブや育成会とともに花壇づくりを始めたことが発端となり全町的な運動となった。

 町は、平成4年に花の情報発信基地として「フローラルガーデンおぶせ」を開園、さらに9年には産業の花づくり拠点「おぶせフラワーセンター」を開設し、花きや種苗の新しい地場産品としての確立に取り組む一方、住民とともにヨーロッパの花づくり先進地への視察研修も行ってきた。参加者が帰国後地域における花づくりの先導役として活動したこともあり、庭園づくりに力を入れる住民も増え、花づくり活動は徐々に全町規模に広がりをみせた。町は「フラワーコンクール」「小布施景観賞」を実施して美しい庭づくりに取り組んでいる家庭や地域、学校を表彰している。
 住民による花づくりが町内に広がり、平成12年には一般家庭や商店などの協力を得て、個人の庭を観光客に開放する「オープンガーデン」が始まった。町が作成・配布する参加家庭を紹介した「小布施オープンガーデンブック」を手に町内を散策する観光客も増え、花好きな人との出会い、交流も生まれている。

 
<オープンガーデン>



 これらの様々な花への取組みは、出会いや交流を通じてより高くより豊かな生活文化を「小布施ブランド」として感じる住民の意識の向上につながっており、杉などの丸太から自分たちで作った木製ベンチを町内のあちこちに置こうという住民グループが現れるなど、小布施を訪れる人を町全体で温かくもてなそうとする活動へと広がっている。

栃木県足利市 〜足利学校こだわりのまちづくり〜

 足利市には、日本最古の総合大学とも言われる国の指定史跡「足利学校」があり、史跡周辺の石畳による道路整備等のハード面での取組みに加え、足利学校を生涯学習の起点とするために、論語・唐詩など往時の学問にこだわった内容の全国規模の講座の開設や市民大学の開校、足利学校を会場とするお茶の集いやコンサートの開催等の文化的なソフト面の取組みを行い、足利学校にこだわったまちづくりを進めている。

 
<足利学校さままつり>



石川県加賀市 〜九谷焼を通してのまちづくり〜

 加賀市の大聖寺地区は、かつて大聖寺藩の城下町として栄え、初代藩主前田利治に始まる九谷焼で知られ、地域住民の陶芸に対する関心が高く、茶道・華道など文化的活動が盛んである。市では、九谷焼を核としたまちづくりを進めるため、寺院群等の景観の保全・形成や古民家を移築した交流広場の整備など散策を楽しめる空間の創出を行っている。また、NPOが石川県九谷焼美術館と連携して、九谷焼を中心とした陶芸の調査研究を実施したり講演会等を開催するなど、住民によるまちづくりの取組みが広がりをみせている。

 
<九谷焼>



山梨県塩山市 〜「甘草屋敷」を活用したまちづくり〜

 塩山市は、江戸時代に幕府に上納する薬草(甘草(かんぞう))を栽培していた重要文化財の民家「旧高野家住宅(甘草屋敷)」を「薬草の花咲く歴史の公園」として保存修理・整備を行った。両親が塩山で生まれ育った樋口一葉が新五千円札の図柄に選ばれたことから、樋口一葉と塩山市の関わりを紹介する資料室の屋敷内への開設や、屋敷について説明するボランティアガイドの育成等にも取り組んでいる。

 
<甘草屋敷>



兵庫県出石町 〜住民による城下町を活かしたまちづくり〜

 出石町では、行政が主体となって、歴史的街並みの保存・活用から住環境整備へと対象範囲を広げつつ、計画的なまちづくりを展開してきた。こうした景観形成を重視した行政の姿勢が住民にも浸透し、住民による「出石城下町を活かす会」が発足し、機関紙の発行等による街並み保存に向けた住民啓発、明治時代に建築された芝居小屋の復元推進運動、他のまちづくり団体との交流などに取り組むとともに、行政によるまちづくりに関する計画策定等にも参画している。

 
<城下町の街並み>



熊本県山鹿市 〜歴史的街並みを活かしたまちづくり〜

 山鹿市は、温泉宿場町・街道の要衝として栄え、昔の面影が残る建物が残っている。住民にこうした歴史的な街並みをまちづくりに活かそうという気運が高まり、修復された国の指定重要文化財の芝居小屋「八千代座」を核としたまちづくりを進めている。行政においても、地元建築士の協力を得ながら建物の復元・修復・修景の助成を行うとともに、電線類の地中化や地元材を活用した舗装など街並みにふさわしい道路の整備を行っている。

 
<八千代座>



鳥取県境港市 〜鬼太郎に逢える街づくり〜

 境港市では、平成元年に始まった「緑と文化のまちづくり」の一環として、商店街の通りを同市出身の漫画家・水木しげる氏のマンガに登場する妖怪のオブジェ等を設置した「水木しげるロード」として整備したところ、思わぬ観光名所となった。これを活かすため、周辺住民が結成した振興組織が中心となってのイベントの開催や美化運動、商店街による妖怪を題材とした様々な商品の販売、妖怪を透かしに使った住民票など、行政と民間が協働して「鬼太郎に逢える街づくり」に取り組んでいる。

 
<カニ感謝祭>



愛媛県松山市 〜『坂の上の雲』を軸としたまちづくり〜

 松山市では、小説『坂の上の雲』に描かれた松山出身の3人の主人公(秋山好古、秋山真之、正岡子規)たち、明治の若者のひたむきさと前向きな精神に学んで、「『坂の上の雲』を軸とした21世紀のまちづくり」に取り組んでいる。市内に残る『坂の上の雲』ゆかりの史跡や地域固有の資源を活かして、まち全体を屋根のない博物館とする『坂の上の雲』フィールドミュージアムの整備を進めるとともに、『坂の上の雲』まちづくり市民塾の開催やラジオ番組等を通して市民への理念の浸透と参加促進を図っている。

 
<『坂の上の雲』ゆかりの史跡(子規堂)>



 

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