(4)地域の暮らしと環境を活かした事例 新潟県安塚町 〜雪の活用と田舎体験〜  安塚町は、中山間地に位置する人口約3,700人の山里である。我が国屈指の豪雪地帯にあり、昭和30年代をピークに人口減少が続き、住民の高齢化、基幹産業である農業の衰退など過疎の深刻化に悩まされていた。  安塚町においては、過疎化が進行する中、宿命である雪との関わりを見直すことを地域づくりの最優先課題とし、昭和50年代以降様々な形で克雪、利雪、遊雪に取り組んできた。  その中で、昭和61年の日本で初めて雪そのものを商品化した「雪の宅配便」の発売、62年に東京都で開催された「サヨウナラ後楽園スノーフェスティバル」へのダンプ450台分の雪の運び込みなど、「雪のふるさと安塚」の知名度は飛躍的に向上した。これらの成功により、住民にとって重荷、邪魔者、過疎の元凶であると思われていた「雪」は、最大の資源でもあるという考え方が浸透した。  また、雪冷熱エネルギーの活用にも着目し、昭和62年以来、雪貯蔵による農産物の貯蔵施設や、雪冷房という形で町内の学校・福祉施設などに導入され、活用されている。  平成元年には、雪と雪が育む豊かな緑、そこに暮らす人を活かし、雪国という環境の中で経済、生活、文化の向上を図る「雪国文化村構想」を掲げ、この構想をもとに雪国のまちづくりモデルともいえる理想を具現化していくための研究、実践組織として、翌年に「雪だるま財団」を設立した。 <豪雪の様子> <雪の宅配便>  安塚町を含む東頸城郡6町村は、多雪、中山間地などの自然条件の他、高齢化、過疎化などの共通の課題を持っており、それぞれ人口も3,000人〜5,000人程度の地方公共団体である。平成4年度に、共通課題への取組みのため、「東頸城広域まちづくり委員会」を立ち上げ、様々な事業展開を図ってきた。  「越後田舎体験」は、東頸城郡6町村において展開される農村体験型観光による地域活性化の取組みとして、平成10年度に立ち上げたものであり、自然体験、環境学習、農業体験など70種類以上のプログラムが用意され、「本物の田舎の自然と農業、暮らしを存分に体験してもらう」ことを最大の特色としている。 <田舎体験>  この事業は、広域連携で取り組むことで多様なプログラムの設定など受入能力を向上させるとともに、専門家の助言を踏まえて、平成9年の北越急行ほくほく線の開通で時間距離が短縮された首都圏を中心とする小中学校の修学旅行や体験教育に重点を置いたPRを行政と民間が一体となって展開するとともに、対外的な窓口を雪だるま財団に統一するなどの工夫を行っている。  折りしも教育分野における「総合的な学習の時間」の創設等により体験的な学習が活発となったこともあり、年々着実に受入実績を伸ばしている。宿泊代や指導員(インストラクター)の指導料として、農家にも直接的な経済効果が認められ、また、都会の子供たちとのふれ合いによって地域のお年寄りにも活気が出てきた。この田舎体験により夏場の魅力を見出し、冬場に偏りがちだった観光客の通年化にも成功している。  このような取組みにより、安塚町では、平成元年には年間3万人であった観光客が、近年では50万人以上となっている。  さらに、6町村では構造改革特別区域である「東頸城農業特区」の認定を受け、市民農園開設者に対する農地貸付けや農業者による濁酒製造の特例を活用し、都市の家族向け田舎体験メニューの充実など新たな展開を図ろうとしている。 宮城県加美町 〜食の博物館〜  加美町(平成15年3月まで宮崎町)では、過疎化が進む中、商工会が中心となって、住民総参加によるまちづくりとして、持ち出せる特産品ではなく、ありのままの食こそ地域の活力であるとの考えから、町内の各家庭が家庭料理を持ち寄って展示し、地域の豊かな食文化を発信する「食の文化祭(現・食の博物館)」を開催した。この取組みが地域外から大きな反響を呼んだことから、住民の経験と自信が醸成され、自主的かつ多様な交流活動を展開することを目指した住民主体の組織の立上げにつながった。 <食の博物館> 富山県氷見市 〜ひみ田園漁村空間博物館構想〜  氷見市では、地域の生活・文化・産業・景観・自然等を保全・復元・活用した定住と交流による豊かな農山漁村づくりを目指し、住民の研究集会(ワークショップ)による地域資源の掘り起こしを経て、「ひみ田園漁村空間博物館基本構想」の具体化に取り組んでいる。取組みに当たっては、地区住民の主体的な計画策定と実施に努めており、トンボやホタルの保護活動、ため池の修景、郷土芸能等の保存・伝承、棚田オーナー事業等の活動が行われ、交流人口の誘発にもつながっている。 <棚田での稲刈> 鹿児島県加世田市 〜自転車を活用したまちづくり〜  加世田市は、日本初の「サイクルシティ誓言」を行い、平坦な地形を活かした健康づくりや環境の保全等をテーマに掲げ、自転車を活用したまちづくりに取り組んでいる。市内外の行政機関、民間団体等による「サイクルシティかせだ推進協議会」が中心となり、地域住民を含めた多数のボランティアの参画により、サイクリング大会、小学生一輪車大会、「ツール・ド・かせだ」など様々なイベントを実施している。また、サイクリングターミナルなどの自転車関連施設の整備も進めている。 <ツール・ド・かせだ> 広島県大朝町〜菜の花を活用した循環型社会〜  大朝町は中国山地に位置する人口約3,800人の農業中心の盆地の町である。  大朝町では、過疎化が進む中、「何かしなければ町は変わらない」という思いを持つ住民の有志が何日も語り合い、滋賀県から始まっていた「菜の花エコプロジェクト」に大朝町でも取り組もうと、平成12年秋に菜の花を活用した循環型社会を目指す提案を町に対して行った。そして、この提案に賛同した様々な職種の住民20数名により菜の花エコプロジェクトへの取組みが始まり、活動母体として「INEOASA(い〜ね!おおあさ)」が立ち上げられた。  大朝町の菜の花エコプロジェクトは、菜の花を町内の休耕田で栽培し、収穫された菜種から菜種油を製造・販売し、家庭や学校の調理に利用、そして住民の協力を得て回収した廃食油からバイオディーゼル燃料(BDF)を精製し、町営バスや農耕用機械に利用するというもので、菜の花の絞りかすの堆肥としての利用も合わせ、地域での資源循環を行おうとするものである。  大朝町での取組みはNPO法人が中心となって行われており、会費を中心に活動が行われている。廃食油の精製装置の導入に際しては、住民による協力金の寄付及び町と共同募金会からの助成により資金を調達している。町は、町営バスでのBDF利用に加え、菜の花を栽培する農家に対する奨励金の支出などの協力を行っている。  また、地域住民も廃食油の回収等で協力しており、NPO法人も、講演会や説明会の開催、広報紙の発行など、普及啓発に努めている。  取組みは、菜の花による観光振興や環境教育にも広がっており、菜の花畑での迷路の作成、小学校の総合学習の時間における菜の花学習(会員を講師とした、菜の花の植付けから刈取り、廃食油の回収等)などが行われている。  また、他地域で同様の取組みを行う団体との交流も盛んに行われており、平成15年には第3回の全国菜の花サミットが大朝町で開催された。 <BDFで走る町営バス> <菜の花畑> 北海道沼田町 〜雪と共生するまちづくり〜  豪雪地帯に位置する沼田町では、邪魔者扱いしていた雪を地域の資源・エネルギーと捉え、「雪と共生するまちづくり」に取り組んでいる。米の低温貯蔵施設を建設し、品質を保持した貯蔵米を「雪中米」として販売するなど、雪の冷熱エネルギーを農産物の生産・加工・貯蔵に活用する「雪山センタープロジェクト構想」を推進している。さらに、雪冷熱の住環境への利用も図るとともに、町民参加による雪原での地上絵の制作等にも取り組んでいる。 <雪原の地上絵> 愛媛県瀬戸町 〜風力発電〜  瀬戸町では、過疎化・高齢化と基幹産業である農業・漁業の生産力の低下を背景に、瀬戸町特有の強風を利用した風力発電事業に取り組むこととし、山頂に大型風車11基を建設して、平成15年10月から営業運転を開始している。運転開始後は観光客も増加してきており、風車を町の象徴として位置付け、周辺の観光資源とともに観光ルートの整備を図っていくこととしている。 <大型風車> 沖縄県国頭村 〜エコツーリズムの推進〜  国頭村には、国の天然記念物「ヤンバルクイナ」「ノグチゲラ」など多くの貴重な動植物が生息する豊かな自然環境が存在している。この恵まれた自然環境の持続的な活用を図るため、エコツーリズムに取り組んでいる。民間業者、商工会、行政、研究者等による研究会を中心に資源調査、ツアープログラムの作成、インタープリター(自然解説者)の養成等が行われた。平成14年3月には「国頭村ツーリズム協会」が設立され、森林ツアー、カヌー体験等を行っている。インタープリターを地元住民を中心に養成するなど、自然や文化等の資源の保全と地域経済の活性化の両立に配慮している。 <自然散策ツアー>