第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

(1)脆弱な国土

 アジアは世界の中でも自然災害が特に多い地域であり、その被害についても他の地域に比べて大きくなっている。世界における自然災害による死者の地域別割合を見ると、アジアは洪水、津波・高潮、暴風で8割以上、干ばつ、地震で6割以上を占めている。ヨーロッパは異常気温(熱中症等による死者)で6割以上を占める一方、洪水や暴風による被害はほとんどなく、アメリカは火山で6割以上を占めている。また、世界における自然災害による被害額の地域別割合を見ると、アジアが約46%を占めており、中でも日本は、国土面積が全世界の0.25%を占めるのみであるにもかかわらず、約15%を占めている。
 アジアに属している日本は、その位置、地形、地質、気象等の国土・自然条件から、地震、台風、集中豪雨等の自然災害に対し脆弱な国土となっている。

 
図表I-1-2-1 世界における自然災害別死者数の地域別割合

自然災害による死者数の割合を地域別に見ると、干ばつはアジアが78%、地震はアジアが69%、異常気温は、ヨーロッパが67%、洪水はアジアが98%、地滑り、雪崩はアメリカが38%、火山はアメリカが71%、津波、高潮はアジアが98%、暴風はアジアが91%を占めている。
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図表I-1-2-2 世界における自然災害被害額の地域別割合

日本が15.4%、その他アジアが30.4%、米国が21.2%、その他アメリカが7.3%、ドイツが1.9%、フランスが1.9%、英国が1.4%、その他ヨーロッパが15.9%、オセアニアが2.4%、アフリカが2.1%である。
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(世界有数の地震国)
 日本は世界有数の地震国である。周辺では4つのプレート(「北米プレート」、「フィリピン海プレート」、「太平洋プレート」、「ユーラシアプレート」)がせめぎ合っており、内陸部には多数の活断層が分布している。このため、日本では、主に、プレート境界で発生する地震、沈み込むプレートの内部で発生する地震、内陸部の活断層等の地殻内で発生する地震といった3タイプの地震が発生する。このように地震が発生する地勢にある日本は、1995年(平成7年)から2004年(平成16年)におけるマグニチュード6.0以上の地震回数が全世界の22.2%を占めている。
 日本は、現在、プレート境界で起こる地震である東海地震、東南海・南海地震、プレート境界やプレート内で起こる日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震等の大規模地震発生の切迫性が高まっており、さらに数多くの活断層が全国各地に存在することに加え、活断層の存在が知られていない地域でも地震が発生するなど、いつどこでも地震が発生し得る状況にある。
 また、日本は、地盤が複雑な地質であり、揺れに対して崩れやすい軟弱地盤となっているため、地震による被害が大きくなる可能性がある。

(海岸線が長く、津波の被害を受けやすい地勢)
 日本は、島国であること、また入り組んだ複雑な海岸地形を持つことから、総延長約35,000kmに及ぶ長い海岸線を有している。諸外国と比較しても、国土面積当たりの海岸線延長は、米国の約45倍、韓国の約4倍、英国の約2倍等となっている。このため、日本は津波の被害を受けやすい地勢にある。

 
図表I-1-2-3 日本周辺のプレートと活断層の分布

日本周辺には、北米プレート、フィリピン海プレート、太平洋プレート、ユーラシアプレートがせめぎあっており、内陸部には多数の活断層が存在する。

 
図表I-1-2-4 今後30年以内に大規模地震が発生する確率

今後30年以内に発生する確率は、宮城県沖地震が99%、東海地震が87%、南関東直下地震が70%、東南海地震が60%、南海地震が50%、安芸灘から豊後水道における地震が40%、根室沖地震が30から40%、与那国島周辺における地震が30%、三陸沖から房総沖における地震が津波型の場合20%、正断層型の場合4から7%である。

(台風、集中豪雨等による水害・土砂災害に対して脆弱な国土)
 日本は水害・土砂災害に対して脆弱な国土にある。国土は南北2,000kmに細長く、その中央部には脊梁(せきりょう)山脈があり、平野は国土の約3割と狭くなっている。このため、河川は急勾配であり、降った雨は山から海へと一気に流下するとともに、平野においては地盤沈下等によりゼロメートル地帯が広がっていることから、洪水のみならず高潮による被害の危険性も高い。
 日本は台風の常襲地帯である。太平洋で発生する台風は、太平洋高気圧の縁を廻って北上し、日本付近を通過する傾向がある。台風の日本への上陸について見ると、年間の上陸数は、約3個を平均として毎年変動しており、2004年(平成16年)は10個と観測史上最多となった。このように、日本は台風の被害を受けやすい地勢にある。

 
図表I-1-2-5 台風の発生回数・上陸数の推移

台風の発生回数は、1976年から2005年まで毎年16回から36回発生しており、そのうち、上陸数は、2004年に10回を上限に毎年変動しており、5年移動平均数で見ると、1.2回から4.6回で推移している。
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 近年、降雨の様相が変化している。短時間に局所的に発生する集中豪雨については、発生回数が増加傾向にあり、2004年(平成16年)には1時間降水量50mm以上の降水の発生回数が470回と1976年(昭和51年)のアメダスでの観測開始以来最多となった。また、長期的に見ると、年降水量については、1960年代半ば頃から、少雨の年と多雨の年の変動幅が拡大傾向にある。このため、日本は降雨による水害・土砂災害と渇水の双方が発生しやすい状況にある。

 
図表I-1-2-6 1時間降水量50mm・100mm以上の降水の発生回数の推移

1時間降水量50ミリの降水の発生回数は、昭和51年から60年では平均209回、昭和61年から平成7年では平均234回、平成8年から17年では平均288回である。また、1時間降水量100ミリの降水の発生回数は、昭和51年から60年では平均2.2回、昭和61年から平成7年でも平均2.2回、平成8年から17年では平均4.7回であった。

 
図表I-1-2-7 年降水量の推移(1900〜2004年)

1897年から2001年までの日本の年降水量の経年変化は、1925年前後や1955年前後などの比較的降水量の多い年を経て、最近では、2001年は1547.7ミリメートル、2002年は1408.3ミリメートル、2003年は1650.7ミリメートル、2004年は1761.7ミリメートルである。
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 大雨の発生数が長期的に増加する傾向にあるのは、近年進行しつつある地球温暖化の影響が現れている可能性がある。

(雪害を受けやすい地勢)
 このほか、冬型の気圧配置の下、シベリアからの季節風が日本海上で水分の供給を受け、脊梁山脈の風上側である日本海側を中心に、都市を含む各地で大雪が降り、特に日本海側の山間部は、世界的な豪雪地帯として知られている。このため、雪崩、融雪に伴う出水等による被害や雪下ろし等の除雪に関連した事故が発生しやすい状況にある。

 

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