第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

(2)地震、台風、集中豪雨等の頻発

 
図表I-1-2-8 平成16、17年の日本の主な自然災害の状況

平成16年には、新潟・福島豪雨や福井豪雨、台風第23号が、平成17年は、新潟県中越地震や福岡県西方沖を震源とする地震、台風第14号、さらに豪雪が発生し、全国各地に被害をもたらした。
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1)地震
 平成16年から17年にかけて、全国各地において地震による被害が発生した。中でも、16年10月の新潟県中越地震による被害は甚大であり、現在なお仮設住宅での生活を余儀なくされている被災者が多数存在している。17年には、福岡県西方沖を震源とする地震、千葉県北西部を震源とする地震、宮城県沖を震源とする地震等により、各地で被害が発生した。海外では、16年12月に、スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波により、インド洋沿岸国に甚大な被害が発生した。

(ア)平成16年新潟県中越地震〜阪神・淡路大震災以来の震度7を観測
 平成16年10月23日、新潟県中越地方でマグニチュード6.8の地震が発生し、新潟県川口町において阪神・淡路大震災以来の震度7を観測したほか、新潟県各地で震度6強・6弱を観測し、その後も大規模な余震が長期間にわたって断続的に発生した。この地震は内陸直下型地震であり、一般の人々が発生する可能性は低いと考えていた地域で発生した。この地震によって、建物の倒壊等だけでなく地震によるショックや避難生活によるストレスから死亡する人が高齢者を中心に発生し、死者は59名に達した。また、地震発生直後から多数の被災者が仮設住宅で避難生活を送っており、地震発生から1年が過ぎた時点(17年10月31日現在)で8,835人、現在においてもなお多数が仮設住宅で避難生活を送っている。さらに、多くの箇所で地すべり等の土砂災害が発生し、芋川流域等において大規模な河道閉塞(かどうへいそく)(注1)が発生するとともに、中山間地域では土砂災害や道路の損壊等により交通網が寸断し、多数の孤立集落が発生した。この地震及びその後の余震による被害状況は、図表I-1-2-9のとおりである。

 
土砂災害の状況(新潟県山古志村(現長岡市))



 
図表I-1-2-9 平成16年新潟県中越地震による被害状況

平成16年新潟県中越地震による被害は、人的被害は死者95人、重傷636人、軽傷4,169人であり、住家被害は全壊3,175棟、半壊13,772棟、一部破損104,666棟であり、建物火災は9件であった。
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 国土交通省では、職員の派遣や機材等の貸与・提供を行うとともに、河道や道路等の災害復旧事業を直轄事業として実施するなど、災害復旧活動や救援・支援活動等を行った。

 
図表I-1-2-10 市町村に対する人的支援状況

新潟県中越地震において、国土交通省は、市町村道に係わる支援や土砂災害危険箇所等緊急点検など、市町村に対する各種の人的支援を行った。
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(イ)スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波〜海溝型巨大地震による甚大な津波被害が発生
 2004年(平成16年)12月26日、インドネシア共和国スマトラ島アチェ州沖で、20世紀以降では4番目の規模となるマグニチュード9.0と推定される海溝型巨大地震が発生し、さらにこの地震による大規模な津波が発生した。この地震及び津波により、インド洋沿岸諸国は甚大な津波被害を受け、死者・行方不明者は約30万人と言われている。
 国土交通省は、各国政府からの要請に応え、津波対策や復旧・復興活動の専門家を現地に派遣し、海上保安庁も、被災国における捜索救助活動等を実施するため、国際緊急援助隊援助チームに職員を派遣した。また、気象庁は、インド洋沿岸各国からの要請に基づき、インド洋津波監視情報の暫定的な提供を開始した。

 
津波による被害状況(インドネシア・アチェ州・チャラン南方海岸)



(ウ)福岡県西方沖を震源とする地震〜地震発生の可能性が低いと考えられていた地域で直下型地震が発生
 平成17年3月20日、福岡県西方沖においてマグニチュード7.0(暫定値)の地震が発生し、福岡市等で震度6弱を観測したほか、九州各地で震度5強を観測した。この地震は、平成16年新潟県中越地震と同様、直下型地震であり、一般の人々が発生する可能性は低いと考えていた地域で発生した。この地震によって、死者が1名発生するとともに、住家被害も発生し、特に福岡市西区玄界島においては、地すべり等により住家被害が全壊107棟を含む214棟に上ったほか、多数の島民が島外に避難した。また、福岡市中央区天神においては、この地震によりビルの窓ガラスが割れ、道路に大量に落下する事態が発生した。この地震による住家被害は、全壊133棟、半壊244棟、一部破損8,620棟等であった(注2)
 国土交通省では、職員の派遣や機材等の貸与・提供を行ったほか、全国の地方公共団体に対して、建築物の窓ガラスの状況等について調査し、改修の指導等を行うとともに、その結果について報告するよう通知した。また、緊急的に地すべり対策を実施している。海上保安庁では、地方公共団体の要請に基づき、巡視船艇で玄海島から博多港まで自主避難住民62名を搬送した。

 
がけ崩れの状況(福岡市西区玄界島)



(エ)千葉県北西部を震源とする地震〜エレベーターでの閉じ込めや鉄道の運転停止等が発生
 平成17年7月23日、千葉県北西部を震源とするマグニチュード6.0(暫定値)の地震が発生し、東京都足立区で震度5強を観測した。この地震によって、死者・行方不明者は出なかったものの、首都圏において、エレベーターの運転休止が約64,000件、人の閉じ込めが78件発生するとともに、鉄道や高速道路が一時運転停止・通行止めとなり、運転・通行再開まで時間を要した。
 国土交通省では、地震発生後、被害情報を収集・把握するため、災害対策用ヘリコプターによる調査を実施したほか、エレベーターの地震防災対策について検討の上、対応方針をまとめた。

(オ)宮城県沖を震源とする地震〜スポーツ施設で天井落下事故が発生
 平成17年8月16日、宮城県沖を震源とするマグニチュード7.2(暫定値)の地震が発生し、宮城県川崎町で震度6弱を観測したほか、宮城県、岩手県及び福島県の各地で震度5強を観測した。この地震によって、死者・行方不明者は出なかったものの、一部破損等の住家被害が生じたほか、宮城県のスポーツ施設において、天井が落下し負傷者が発生した。この地震による住家被害は、全壊1棟、一部破損984棟等であった(注2)
 国土交通省では、職員を派遣し天井落下の原因を調査するとともに、地方公共団体に対して、全国の屋内プール等の天井について総点検を実施し、指導を行うよう通知したのと合わせ、今後新築される建築物について、建築確認・検査時における落下防止対策の審査を徹底するよう通知した。

 
天井が落下した状況(仙台市泉区)



2)台風、集中豪雨等
 平成16年から17年にかけて、全国各地において台風、集中豪雨等による被害が頻発した。16年は、過去最多の10個の台風が日本に上陸するとともに、全国各地において、1時間に50mmや100mmを超す集中豪雨が発生するなど、これまでの記録を超える降雨量を観測した(注3)。この結果、激甚な水害・土砂災害が全国各地で多発した。17年は、台風の上陸数こそ少なかったものの、台風第14号に見られるように、豪雨による土砂災害が多発し、各地で甚大な被害が発生したほか、首都圏では、記録的な集中豪雨により、各地で浸水被害が発生した。また、米国ではハリケーンが続発し、各地に甚大な被害をもたらした。
 また、平成16年から17年、17年から18年にかけての冬季には、記録的な降雪によって被害が多発した。

(ア)平成16年新潟・福島豪雨〜中小河川での破堤等により浸水被害・土砂災害が発生
 7月12日夜から13日にかけて、日本海から東北南部に停滞する梅雨前線の活動が活発化し、新潟・福島豪雨が発生した。7月13日の新潟県栃尾市の日降水量は、平年7月の月間雨量の約2倍に相当する421mmに達したほか、各地で記録的な集中豪雨が発生した。この豪雨により増水した信濃川水系の五十嵐(いからし)川や刈谷田(かりやた)川等の中小河川では堤防が決壊し、市街地や農地で浸水被害が多数発生するとともに、新潟県長岡市、栃尾市等の中山間地域を中心に274件の土砂災害が発生した。この豪雨により、死者16名、床上浸水2,149棟、床下浸水6,208棟等の被害が発生した(注2)

 
五十嵐川の堤防が決壊し浸水した状況(新潟県三条市)



(イ)平成16年福井豪雨〜中小河川での破堤により浸水被害が発生
 7月17日夜から18日にかけて、活発な梅雨前線が北陸地方をゆっくりと南下したのに伴い、福井豪雨が発生した。福井県美山町では、最大時間雨量96mmの猛烈な雨が降り、総降水量は平年7月の月間雨量236.7mmを上回る285mmとなった。この豪雨により、九頭竜(くずりゅう)川水系の足羽(あすわ)川の堤防が決壊し、福井市市街地や上流の美山町等で浸水被害が多数発生した。この豪雨により、死者・行方不明者5名、床上浸水4,052棟、床下浸水9,674棟等の被害が発生した(注2)

 
足羽川の堤防が決壊し浸水した状況(福井市)



(ウ)平成16年台風第16号〜高潮による浸水被害が発生
 8月30日には、台風第16号が鹿児島県に上陸、九州を縦断した後、山口県から能登半島沖を進み、その後北海道に再上陸した。中国・四国地方では、台風の襲来時期が年間で最も潮位が高くなる時期と一致したこと、気圧低下の吸い上げ効果による海面上昇、強風による吹き寄せという条件が重なったため、高潮による被害が甚大になった。香川県高松港では従来の最高潮位1.96mを上回る2.46mを記録するとともに、岡山県宇野港でも、観測史上最高の潮位に達した。さらに、高潮によって高松市街が浸水し、電気、ガス、水道等のライフラインが遮断されるとともに、水没した乗用車内や自宅の居間で水死した人が出た。この台風により、死者・行方不明者17名、床上浸水16,799棟、床下浸水29,767棟等の被害が発生した(注2)

 
高潮により浸水した状況(高松市)



(エ)平成16年台風第22号〜首都圏の地下鉄・地下街で浸水被害が発生
 10月9日には、台風第22号が静岡県伊豆半島に上陸した。この台風と前線の影響により、東海地方から関東地方南部にかけての各地で、総雨量300mmから400mmに達する大雨となった。東京都千代田区大手町では最大時間雨量69mmの激しい雨を観測し、地下鉄の駅が浸水したほか、横浜市でも駅周辺を流れる帷子(かたびら)川が氾濫し地下街が浸水するなど、広い範囲で浸水被害が発生した。この台風により、死者・行方不明者9名、床上浸水1,561棟、床下浸水5,485棟等の被害が発生した(注2)

 
集中豪雨により地下鉄の駅が浸水した状況(東京都港区)



(オ)平成16年台風第23号〜平成に入って最大規模の人的被害が発生
 10月20日には、台風第23号が高知県に上陸し、その後大阪府に再上陸した。この台風は、平成16年最後に上陸した台風となったが、10月20日の上陸というのは観測史上3番目に遅い記録である。総雨量は、四国地方や大分県で500mmを超えたほか、近畿北部や東海、甲信地方で300mmを超え、広い範囲で大雨となった。この大雨により、円山川水系の円山川や出石(いずし)川の堤防が決壊するなど、京都府や兵庫県を中心に河川の氾濫、土石流等による浸水被害・土砂災害が発生した。また、京都府舞鶴市で由良(ゆら)川が氾濫した結果、国道175号が水没し、観光バスが冠水して立ち往生し、多数の乗客が救出されるまでの間、長時間孤立する事例が見られた。また、高知県室戸市の菜生(なばえ)海岸において、激しい高波により海岸堤防が約30mにわたって倒壊し、背後の住宅家屋が崩壊して3名の死者が出た。この台風による被害が広範にわたったこと及び高齢者の被災が多かったことから、死者・行方不明者数は98名に上り、平成に入って最大となった。そのほか、この台風により、床上浸水14,330棟、床下浸水41,228棟等の被害が発生した(注2)

 
円山川の堤防が決壊し浸水した状況(兵庫県豊岡市)



(カ)平成17年台風第14号に伴う集中豪雨〜首都圏で局地的な豪雨により浸水被害が発生
 9月4日夕方から5日未明にかけて、台風第14号周辺から前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、関東地方で大気の状態が不安定となり、関東地方の南部で雨雲が急速に発達したため、東京都や埼玉県を始めとした首都圏において、時間雨量100mmを超える局地的な豪雨が発生し、各地で越水や内水(注4)による浸水被害が発生した。東京都及び杉並区が設置した雨量計のデータでは、この期間の総雨量は、杉並区下井草で264mm、杉並区久我山及び練馬区石神井(しゃくじい)で240mmを観測し、最大時間雨量は、杉並区下井草で112mm、練馬区石神井で107mm、三鷹(みたか)市で105mmを観測した。この豪雨により、妙正寺(みょうしょうじ)川及び善福寺(ぜんぷくじ)川上流部を中心に越水等により半地下ビルが浸水するなど、東京都杉並区、中野区及び新宿区で浸水家屋3,588戸(床上浸水1,582戸、床下浸水2,006戸)の浸水被害が発生した。

 
集中豪雨により浸水した状況(東京都杉並区)



(キ)平成17年台風第14号〜勢力が強く速度が遅い台風に伴う長期的な雨による被害の発生
 台風第14号は、9月4日に九州地方の西岸に沿って北上し、6日に長崎県付近に上陸した後、九州北部を通過し、山陰沖を抜け、その後北海道に再上陸した。この台風は、勢力が強く速度が遅かったことから、広い範囲で長時間にわたり大雨をもたらした。九州、中国及び四国地方の各地で平年9月の月間雨量の2倍を超える雨量を観測し、宮崎県南郷村(なんごうそん)1,321mm、えびの市で1,307mm、日之影(ひのかげ)町で1,201mmと1,000mmを超える総雨量を観測した。このため、大淀(おおよど)川や五ヶ瀬(ごかせ)川等の大河川を始めとする多くの河川で計画高水位や危険水位を長時間にわたって超過し、危険な状態が続くとともに、大規模な越水や内水による被害も発生した。また、長時間にわたる降雨により、広い範囲で斜面が緩み、九州地方の中山間地域を始めとした各地で約300件に上る土砂災害が発生し、15名の高齢者を含む死者19名、行方不明者3名の人的被害が発生したほか、宮崎県椎葉村(しいばそん)においては、土砂災害等により道路が各所で被災し、通信手段も使えず村全体が孤立した。

 
図表I-1-2-11 平成17年台風第14号による主な土砂災害発生箇所



 
土砂災害の状況(鹿児島県垂水(たるみず)市)



 首都圏を中心とする集中豪雨及び台風第14号により、死者・行方不明者29名、床上浸水7,626棟、床下浸水13,534棟等の被害が発生した(注2)
 国土交通省は、以上の台風や集中豪雨等に対して、職員を現地に派遣するとともに、洪水予警報及び水防警報を発令したほか、災害対策用ヘリコプター、衛星通信車等の配備による現地調査・情報収集を実施し、排水ポンプ車、照明車等を現地に派遣した。また、洪水等により激甚な災害が発生した地域については、再度の災害を防止するため、河川激甚災害対策特別緊急事業により、河川の改修を緊急に実施している。

(ク)ハリケーン・カトリーナ〜ハリケーンによる甚大な高潮被害の発生
 海外では、米国においてハリケーンによる被害が続発した。特に2005年(平成17年)8月29日にニューオリンズ市付近に上陸したハリケーン・カトリーナは、ニューオリンズ市を始めとするメキシコ湾岸沿いで壊滅的な高潮災害をもたらした。このハリケーンによる死者・行方不明者は約1,300人以上、経済損失額は1,250億ドル(約14兆6,700億円)(注5)と言われている。市域の約7割が海抜0m以下であるニューオリンズ市では、高潮による越水や運河堤防の破堤によって、市内に湖や河川の水が流入し、浸水が1ヶ月半に及んだ。また、避難方法の周知不足や避難拒否、車での避難による大渋滞の発生、避難用バス等の避難手段の未稼働・不足、災害時要援護者関係施設での高齢者や入院患者等の逃げ遅れや置き去り等、避難体制の不備が被害を拡大させたと言われている。

 
ハリケーン・カトリーナによる浸水状況(米国・ニューオリンズ市)



(ケ)平成18年豪雪〜記録的な大雪が発生
 平成17年から18年にかけては、17年12月上旬以降、北極からの寒気が数回にわたって南下したため日本各地で低温となり、日本海側の各地は暴風を伴った大雪に見舞われ、記録的な積雪となった。この降雪によって、積雪による家屋等の倒壊、屋根の雪下ろし作業に伴う事故等の被害が発生しており、死者139名、住家全壊19棟、住家半壊25棟、住家一部破損3,955棟等(18年2月末現在)となっている。(注2)また、各地で交通障害や雪崩被害が発生するとともに、新潟県内の国道405号が雪崩のおそれにより通行止めとなったため、新潟県、長野県で合わせて193世帯、500人が孤立する事態となった。
 国土交通省では、各道路管理者に対し適切な道路管理について注意喚起を促すとともに、除雪費が不足している地方公共団体の状況を踏まえ、除雪費補助の支援措置を講じた。また、特に積雪が多く集落雪崩の危険性が高い長野県、新潟県に職員を派遣し、現地調査や技術指導を行った。気象庁は、降雪の状況を把握・予測し、大雪警報・注意報等を発表するとともに、全国各地の大雪の状況を取りまとめた情報をホームページに掲載するなど、警戒を呼びかけた。


(注1)地すべりや大規模な土砂崩壊等の急激な土砂移動により川がせき止められ、水がたまる現象
(注2)消防庁資料
(注3)雨の強さの目安:1時間雨量50mm以上80mm未満の場合、雨が滝のように降り、傘は全く役に立たない状況。その他詳細については、気象庁ホームページ(http://www.kishou.go.jp/know/yougo_hp/amehyo.html)を参照
(注4)ここでいう内水は、本川水位の上昇に伴い支川の自然排水が困難となり川の水が流域内に溜まるもの
(注5)経済損失額は、 国際防災戦略(ISDR)の試算による

 

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