第II部 国土交通行政の動向 

(2)造船業、舶用工業の課題と対策

1)造船業の国際競争力強化のための取組み
 世界経済の好況に伴う海上輸送の増加、国際的な規制の強化に伴う需要の増加等により、平成16年の世界の新造船建造量は4,017万総トン(我が国建造量は1,452万総トン、世界の36.1%)と過去最高で、初の4,000万総トン台を記録した。

 
図表II-5-4-8 世界の新造船建造量の推移

平成16年の世界の新造船建造量は、4017万総トンと、過去最高で、初の4000万総トン台を記録した。我が国建造量は、1452万総トンで、世界の36.1%を占めている。長く第1位のシェアを占めていた、日本は、平成14年以降、韓国に第1位の座を奪われているが、なお、世界第2位の造船こくである。
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 日本の造船業は、ほぼ100%の国内生産比率を維持しながら新造船建造量において半世紀近くにわたり世界第1位を維持し、その後も韓国とトップを争っているまれな産業となっている。その要因としては、工程の全自動化が困難な製造現場において、高度な判断と裁量性に対応できる優秀な人的資源の存在があげられる。しかし、現在、技能者の半数近くが50歳以上と高齢化しており、今後、急速な世代交代の中で有効な対策を講じなかった場合には、製造現場の技術レベルが一気に下がる可能性が生じているため、造船に関する「匠」の技の円滑な伝承が必要となっている。

 
図表II-5-4-9 造船技能者の年齢構成

造船技能者の半数近くが50さい以上と高齢化しており、大手、中小造船しょ、協力会社ともに平均年齢は、40才だいなかばとなっている。
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 このような状況の中、次世代を担う人材を育成するため、(社)日本中小型造船工業会を通じ、新人・中途採用者の即戦力化のための座学・実技研修等を支援している。
 一方、激化する国際競争に対応し、造船業の競争力を強化させるため、「産業活力再生特別措置法」に基づく税制や金融等の支援制度の活用を促進している。
 
造船技能(ぎょう鉄(注))



2)舶用工業の活性化に向けた取組み
 平成16年における我が国舶用工業製品の生産額は、近年の中国経済の急成長による海上輸送の活発化等による大型外航船の建造需要の増大を背景に、8,795億円(対前年比約10%増)と大幅に増加し、当面は高水準の操業状態が継続する見通しにある。
 しかしながら、舶用工業製品の当面の供給対象が、船価の低い時期に受注した船舶向けであることや原材料価格の上昇による収益性の低迷、韓国・中国市場における舶用工業製品の国際競争の激化、熟練労働者の減少等、我が国の舶用工業が解決すべき課題も多い。
 国土交通省では、平成17年3月に舶用機関業界の今後のあり方について、「舶用ディーゼル機関製造業の現状と課題」として取りまとめた。これらを踏まえ、「産業活力再生特別措置法」等の各種支援措置を活用して、中核的事業の強化や産業構造の転換、事業者の経営革新を推進するほか、情報技術を活用した生産の高度化促進や技術基盤強化のための取組み、改正されたJISマーク表示制度による工業標準化の促進等を通じて、産業基盤及び国際競争力の強化を図っている。
 さらに、我が国舶用工業を含む産業・社会を支えてきた「ものづくり」を継承・発展させるため、関係省庁と共同で創設した表彰制度「ものづくり日本大賞」を通じて、ものづくりを支える人材の意欲の向上等を図っている。

3)中小造船業・舶用工業の経営基盤強化
 中小造船業・舶用工業は、国内物流の約4割(トンキロベース)を担う内航海運に船舶を供給している重要な産業である。しかしながら、近年は内航海運事業者の経営の悪化、漁船の減船等による中小型船舶の新造船需要の長期間にわたる低迷に、従業員の高齢化や人材育成の遅れも相まって、経営基盤が極めて脆弱化しており、社会ニーズに対応した良質な船舶の供給ができなくなるなどの事態も懸念されている。
 このような中、「中小企業経営革新支援法」に基づいて業界団体が策定した経営基盤強化計画(人材の育成・有効活用、事業の再構築等が柱)の実施により事業者の経営基盤強化を推進している。今後は「中小企業経営革新支援法」等を整理統合して施行された「中小企業新事業活動促進法」に基づいて事業者の経営革新や異分野の事業と連携した自主的取組みに対して、税制・金融等の支援を行うこととしている。

4)海事産業技術の開発・実用化
 近年、海事産業技術については、造船技術を核とした21世紀型物流システムの構築が求められるとともに、京都議定書が発効されるなど、環境・エネルギー問題への取組みも一層急務となっている。
 こうした社会的要請を的確に捉えた技術の開発を推進することにより、船舶の高度化及び国際競争力強化を図るための支援を行っている。具体的には、中小ガス田開発を促進することにより天然ガスの安定供給に資する天然ガスハイドレート(注)輸送船、海洋環境保全に寄与するノンバラスト船、船舶からの排出ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)を削減する活性炭素繊維(ACF)を活用した舶用高機能排煙処理システム、NOx及びCO2の排出を同時削減する超臨界水を活用した舶用ディーゼル燃焼技術の研究開発を推進している。
 一方、我が国発の最先端技術であるメガフロート技術は、メガフロート空港利用調査検討会及び羽田空港再拡張事業工法評価選定会議において浮体式空港の建設が可能との結論を得るとともに、「メガフロート情報基地機能実証実験」により、低廉かつ高信頼の情報基地としても利用可能であることが実証された。これを踏まえ、国土交通省としてはメガフロートに関する技術の周知、啓発に努めるとともに、日ASEAN交通連携においてASEAN諸国におけるメガフロート利用計画の実現可能性を調査するなどの国際的な対応を進めている。そのほか、次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発等先進的な技術の開発・実用化も推進している。

 
メガフロート空港モデルでの実証実験




(注)天然ガス分子をカゴ状の水分子が取り囲んだ固体物質

 

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