4 アスベスト問題の広がり  平成17年6月、アスベスト(石綿)建材を製造するメーカーが、従業員が肺がんや中皮腫で死亡していたこと、工場の近隣の住民や従業員の家族が中皮腫を発症・死亡していたことを公表したことが発端となり、アスベストによる健康問題が、それを取り扱う労働者だけでなく多くの国民の問題であることが広く知られるようになり、社会的な問題となった。  アスベストは、不燃性、耐熱性及び耐腐食性に優れていることから、生活を取り巻く様々な場面において使用されてきた(アスベストの9割は建材で使用)。特に高度経済成長期においては、アスベストが大量に輸入され、アスベスト含有製品が大量に製造されたが、現在このような時期から中皮腫の平均的な潜伏期間と言われる35年前後が経過している。このため、アスベストによる健康被害は今後、更に増加すると懸念されており、環境省の推計によると、アスベストが原因とみられる中皮腫及び肺がんを今後発症する人は約8万5千人とされている。  これまで政府は、1972年(昭和47年)にILO(国際労働機構)やWHO(世界保健機関)がアスベストのがん原性を公的に認めたのを踏まえ、アスベストを扱う労働者の安全を確保する観点から、労働安全衛生法令により、他の物質への代替化指導や使用禁止措置を段階的に行ってきた。  国土交通省では、建築物における対応として、これまで、1)所管の官庁施設について公共建築物に関する工事の発注者として必要な対応、2)住宅・建築物について吹付けアスベストを「建築基準法」の耐火構造の規定から削除するなどの対策、3)建設業について関係法令を遵守しアスベストを適切に取り扱うよう関係業団体への通知を行うとともに、自動車関係については、関係団体による自主的な非石綿材部品への切替え、国際調和による基準の設定を進めてきた。  今般のアスベスト問題が社会的な問題となった後には、直ちに、「労働安全衛生法」等のアスベストの取扱いに係る関係法令の周知等を行うとともに、建築物や運輸関連施設における吹付けアスベスト等の使用実態に関する調査や、関係団体を通じた健康被害等の実態調査を実施した。  さらに、平成17年12月に政府として取りまとめた「アスベスト問題に係る総合対策」を踏まえ、国土交通省としても、今後の被害を未然に防止するための対応、隙間のない健康被害者への対応、及び国民の有する不安への対応として、各種対策を実施している。 図表I-1-2-14 国土交通省によるアスベスト対策の実施状況(平成18年2月末現在)