3 少子高齢化を踏まえた災害時の安全・安心  我が国は、高齢者人口が増加するとともに、若年人口が減少し、高齢者層が他の年齢層に比べ大きな割合を占める社会へと移行しつつある。このような中で、高齢者を始めとする災害時要援護者が自然災害により被災する事例が多発しており、自然災害からこれらの人々の安全・安心を確保することが求められる。 (高齢者の被災の増加)  高齢者の増加に伴い、近年、自然災害によって高齢者が被災する事例が多発している。平成16年は、続発した台風、集中豪雨等に伴う水害・土砂災害による死者・行方不明者のうち、約6割が高齢者であった。また、17年の台風第14号に伴う土砂災害による死者・行方不明者22名のうち約68%を占める15名が高齢者であり、台風第14号による被災が特に多かった九州地方において死者・行方不明者が発生した市町村の平均高齢化率が約28%(全国平均約20%)であることを考慮しても、高齢者の被災率が非常に高いことが分かる。  さらに、平成18年豪雪に伴い、屋根の雪下ろし等の除雪作業、倒壊した家屋の下敷き等により多数の死者が出ており、そのうち、およそ3人に2人が高齢者である。(注) (高齢者が避難するに当たっての課題)  このように、高齢者の自然災害による被災が多発している背景には、災害発生時に高齢者が避難するに当たっての課題が存在する。  災害を100%未然に防ぐことは不可能である以上、高齢者に限らず、災害から身を守るためには、避難場所等の安全な場所に避難することが最も重要である。  したがって、災害発生時に適切かつ迅速に避難できるよう、平常時より、実際に自然災害が発生した場合を想定して、居住地域における自然災害の危険がある場所を把握しておくとともに、避難経路及び避難場所をあらかじめ決めておくことが肝要である。  国土交通省が平成17年12月に実施した意識調査によると、高齢者は、居住地域における自然災害の危険がある場所や避難経路・避難場所に関する情報を把握している割合が比較的高い。これは、職場や学校が居住地域と異なることが多い若年層や中年層と違い、高齢者の多くが、1日の大半を居住地域で過ごしていることや長年居住地域で生活していることから、居住地域に関する情報や知識に触れる機会が相対的に多いためであると考えられる。  しかし、高齢者のうち、約3割強は、居住地域における自然災害の危険がある場所を知らず、約2割強が避難経路・避難場所のどちらかを知らない状況にある。 図表I-2-1-10 「居住地域における自然災害の危険がある場所の認知」及び「居住地域における災害時の避難場所や避難経路の認知」  自然災害による高齢者の被災を防ぐため、居住地域における避難場所等の防災情報について、より一層周知徹底を図る必要がある。  また、自然災害が発生し、実際に避難する場合に、高齢者は障害に直面することになる。高齢者は、一般に、身体機能の低下等から、避難に時間を要する場合や避難するための支援を必要とする場合が多い。このため、高齢者が被災する事例の中には、避難が遅れたために被災したり、支援が欠如・不足していたために被災する事例が見られる。  こうしたことから、高齢者の被災を防ぐためには、災害発生時において高齢者が適切かつ迅速に避難できるよう、地方公共団体は、避難情報を早期に確実な方法で提供することが重要である。 (高齢者の避難の支援に関する課題)  高齢者が適切かつ迅速に避難するためには、高齢者の避難を、家族や近所の住民といった周りにいる人々が支援することも有効である。  しかし、高齢者の単身世帯が増加するとともに、高齢者の子どもが近隣には住んでおらず、災害発生直後に高齢者の避難を支援することが困難な状況にある。さらに、今後少子化の進展により、高齢者の避難を支援するに当たって中心となるはずの若年・中年層が減少し、支援がより一層困難な状況となることが見込まれる。  ただし、内閣府の意識調査によると、避難する場合に、災害時要援護者を支援するかとの質問に対して約8割が「支援する」と回答しており、支援する意欲・意識は高いと言える。実際に、平成16年新潟県中越地震においては、避難した人の約3人に1人が、高齢者を始めとする「一人では避難の難しい近所の人」と一緒に避難するなど、高齢者に対して何らかの援助行動を行っている。 図表I-2-1-11 高齢者(65歳以上)の単身普通世帯の子どもの住んでいる場所 図表I-2-1-12 平成16年新潟県中越地震における援助行動(複数回答)  今後、災害時において高齢者が適切かつ迅速に避難するためには、若年・中年層の防災に対する意識の高揚及び積極的な参加を促していくなど、高齢者を支援する体制を充実させていくことが重要である。 (注)消防庁資料