第II部 国土交通行政の動向 

1 災害に強い安全な国土づくり

(1)治水対策

 我が国の都市の大部分は、洪水時の河川水位より低い土地により形成される沖積平野に位置しており、水害に対して脆弱な構造となっている。国土の約10%の想定氾濫区域(洪水が氾濫する可能性のある区域)には、人口の1/2、資産の3/4が集中しており、治水対策は国民の生命や財産を守るため極めて重要である。
 
図表II-6-1-2 地盤の大半が洪水時の水位より低い日本の都市

ロンドンの市街地はテムズ川の洪水時の水位よりも高いところに位置している。一方、例えば東京の市街地の多くは、江戸川、荒川、隅田川の洪水時の水位よりも低いところに位置している。日本の都市の大部分は洪水時の河川水位より低い位置にあり、水害を受けやすい地理的条件にある。

 また、平成16年における観測史上最多の10個の台風の上陸や、17年、18年と連続で発生した総雨量1,000mmを超える豪雨等に見られるように、気候変動等の影響による近年の集中豪雨の増加、施設能力を超える大規模な降雨等、自然的条件が変化してきている。さらに、少子高齢化による災害時要援護者の増加、従来型コミュニティの衰退による地域の防災力の低下等の社会的な状況の変化に起因した、新たな災害の様相も見られる。しかしながら、全国で見れば洪水による氾濫(注)から守られる区域の割合は未だ60%(17年度末)にとどまっているため、計画的かつ重点的な治水対策を実施する必要があり、ハード整備とソフト対策を一体的に推進している。

1)水害予防対策の推進
 災害後に対策を講じるよりも、事前に災害を防ぐための投資を着実に推進することが、より効率的・効果的である。例えば、平成12年9月の東海豪雨水害を受け、約716億円を投じて緊急対策を実施したが、この投資をもし事前に実施していれば、被害額を約5,500億円軽減することが可能であったと推定されている。
 
図表II-6-1-3 事前投資による被害軽減効果(平成12年東海豪雨)

平成12年9月に名古屋市を中心に発生した東海豪雨水害を受け、約716億円を投じて緊急対策を実施したが、この投資をもし事前に実施していれば、約6,700億円の被害額を約5,500億円軽減することが可能であったと推定されている。

2)洪水氾濫が発生した場合における氾濫域での減災対策
 これまでの治水対策においては、一定の外力を想定し、連続堤防や洪水調節施設等の整備により、洪水氾濫そのものを発生させない対策を行ってきた。これらの施設整備を引き続き進める一方、整備には長時間を要し、整備途上で災害が発生する危険性があることから、氾濫流の制御や警戒避難体制の確立等、氾濫した場合でも被害を最小限にするための施策を充実していく必要がある。
 具体的には、土地の利用状況等を踏まえつつ、二線堤や輪中堤等の整備を進めるとともに、既存施設の有効活用、ハザードマップの整備や災害情報の収集・伝達体制の構築等のソフト対策を充実するなど、関係する地方公共団体等と協力しつつ進めている。

3)大規模水害の再発防止対策
 大規模水害を受けた地域を対象として、同規模の災害を再び発生させないための対策を短期間かつ集中的に実施している。平成18年7月豪雨による被災箇所に対する再発防止対策としては、諏訪湖・天竜川(長野県)、川内川及び米之津川(いずれも鹿児島県)にて、河川激甚災害対策特別緊急事業が採択されている。

4)豪雨災害対策緊急アクションプランの実施
 平成16年を始めとする近年の豪雨災害の課題を踏まえ、緊急に対応すべき事項を同年12月に取りまとめた。各種施策について時限や数値目標を設けてその具現化を図っている。
 
図表II-6-1-4 豪雨災害対策緊急アクションプランの主な項目の実施状況

平成16年12月に豪雨災害対策緊急アクションプランを取りまとめた。被災経験の減少等により市町村の避難勧告の判断が遅れたことから、避難勧告の目安となる特別警戒水位を設定、情報を提供することとし、平成18年度末までに約1,100河川、21年度までに約2,000河川で実施することとしている。また、中小河川は流下能力が十分把握されていないことから、全国で航空レーザー計測を行い、平成19年度末までにすべての一級水系河川の安全度を調査・評価・公表することとしている。さらに、堤防は計画高水位を基準に必要な断面の確保を優先するため、市街地等を流れる区間で堤防の質的強化を実施することとし、平成18年度末までに直轄河川で約7,400キロメートルの詳細点検、中小河川で約7,700キロメートルのカルテの作成、21年度末までに直轄河川約10,000キロメートルで実施、中小河川はカルテを作成し、順次実施する予定である。加えて、ダムの操作ルールは、計画に基づき洪水調節と利水容量を区分して管理するため、事前放流等ダムの機能をより有効に活用できるよう操作ルールを変更することとし、平成18年度末までに直轄・水機構・補助の延べ29ダムで事前放流、今後は直轄・水機構のすべてのダムで事前放流等を検討している。


(注)当面の計画として、大河川においては30〜40年に一度程度、中小河川においては5〜10年に一度程度の規模の降雨により発生する氾濫被害

 

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