第1節 「地域に住まう」 

3 取り巻く環境の現状と課題

 「住まう」は住宅本体だけではなく、意識調査でみたように、周囲のいろいろな要素に支えられ成り立っている。買い物など日常の活動や公共交通など移動に関するものについては次節以降で記述するとして、本項では、緑・公園や親水・水辺空間、まちなみや景観、地域の人々とのつながり等の「住まう」を取り巻く環境と、自然災害や犯罪等の「住まう」を脅かすものについてみる。

(1)「住まう」を取り巻く環境(→第2章第3節1第5節3
(緑、水辺、まちなみ)
 「住まう」にゆとりや潤いを与える緑などの現状については、都市域における水と緑の公的空間確保量(注1)は、平成14年は一人当たり12m2 であったが、19年は13m2 と増加傾向にある。また、一都三県でみると、昭和40年以降、農地、林地の緑は減少傾向にある一方、都市公園は増加傾向にある。都市公園は、市街地化が進む中で、良好な都市環境の形成、身近な自然的環境とのふれあいの場、震災時等非常時における避難拠点等、重要な役割を果たしている。他方、遊具における事故などの心配事も発生しており、子供等が安心して利用できる公園空間の整備が課題である。
 
図表I-1-1-20 一都三県における都市公園、農地、林地の推移

図表I-1-1-20 一都三県における都市公園、農地、林地の推移
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 水辺については、近代における都市化の進展に伴い、河川・水路等水面の覆蓋化や湧水の枯渇等により、水辺空間は減少している。河川についてみると、一級河川において、人と河川のふれあいに関しては、「川の中には入れない」、「川に近づきにくい」と評価された河川は約4割となっている(注2)。人がふれあうことのできる親水・水辺空間の整備が求められる。
 
図表I-1-1-21 近代化による水辺空間の減少と再生・創出

図表I-1-1-21 近代化による水辺空間の減少と再生・創出

 まちなみについては、屋外広告物等への規制により良好な都市景観を形成するなどの取組みが引き続き必要である。また、歴史的建造物の老朽化や維持管理費用等の問題など、失われつつある歴史的風致(注3)の保全が課題となっている。
 
図表I-1-1-22 歴史的風致の喪失

図表I-1-1-22 歴史的風致の喪失
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(地域のつながり)
 地域における人のつながりも、「住まう」を支える大切な要素である。しかし、意識調査では、「地域の人々のつながりや地域のコミュニティ」に対する満足度は約2割と低い。例えば、治安が悪くなった原因として5割近い人が地域社会の連帯意識が希薄となったことを理由に挙げるなど(注4)、地域のつながりが果たす役割を認識するとともにそれが弱まっていることを感じている。実際に、近所の人との行き来は減少傾向にあるなど近所づきあいの希薄化が進んでおり、「住まう」を地域社会で支えるためにもコミュニティの維持・回復が求められる。
 
図表I-1-1-23 近所づきあいの程度

図表I-1-1-23 近所づきあいの程度
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(2)「住まう」を脅かすもの(→第2章第1節12
(自然災害)
 「住まう」は、自然災害により常に脅かされている。
 これまでも、台風や豪雨により浸水被害が発生してきたが、最近では、地球温暖化による災害リスクの増加も指摘されている。台風等による大規模水害の多発が懸念されるとともに、集中豪雨や局地的な大雨により、身近な都市河川が氾濫したり、低地やくぼ地が水没したりするなど、まちの中で被害が発生している。また、地下街や地下鉄、さらに住宅でも半地下の居住など地下空間利用が進んでいることから、浸水に対する危険度が増加している。沿岸域でも、海面水位の上昇や台風の激化等の災害リスクの増大や大規模地震・津波災害が懸念されるとともに、高潮災害等の頻発などに脅かされている。
 地震対策については、住宅個々の耐震性だけではなく、災害時に危険な木造密集市街地が残っているなど、まち全体でみても地震に対する弱点がある。
 土砂災害も近年増加傾向にある。宅地開発により山麓まで住宅地が及んでおり、土石流や崖崩れの被害を受けやすい。
 
図表I-1-1-24 1時間降水量50mm以上の年間発生回数の推移

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図表I-1-1-25 土砂災害発生件数の推移

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 他方で、被害を受ける側からみても、高齢者は被災者になる確率が高いため高齢者の増加に伴い災害時要援護者が増大するなど、新たな対応が必要となっている。
 安全・安心の確保は「住まう」の基礎であり、様々な自然災害から「住まう」を守るための対策が求められる。

(治安や防犯)
 平時においても、「住まう」は犯罪による被害と隣り合わせにある。ここ10年間で日本の治安は悪くなったと考える人が多い(注5)。まちの中においても、住まいにおいても、多数の犯罪が発生している。
 
図表I-1-1-26 主な犯罪の認知件数(平成19年)

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 一例として、東京都内の犯罪発生状況を見ると、粗暴犯はターミナル駅周辺などの繁華街で発生している一方で、住宅侵入は広く一般住宅街で発生しているなど、どこにおいても犯罪に巻き込まれる可能性がある。
 治安に関する世論調査でも、“犯罪に遭うかもしれないと不安になる場所”として、「路上」、「公園」が上位にくるなど、身近な空間に対する不安は強い。住宅本体の防犯性を高めるとともに、死角となる空間をできる限りなくすなど、安全も考えたまちづくりが求められている。
 
図表I-1-1-28 不安になる場所

図表I-1-1-28 不安になる場所
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(注1)都市域において、自然的環境(樹林地、草地、水面等)を有する空間のうち、都市公園等制度的に永続性が担保されている空間の一人当たりの面積
(注2)「今後の河川水質管理の指標について(案)」(平成17年3月)により、人と河川のふれあいに関してごみの量、水のにおい等を調査し、各項目の評価レベルから「川の中には入れない」「川に近づきにくい」等のランクを設定し、住民と協働で調査したもの
(注3)地域固有の歴史、伝統を反映した人々の活動、そして人々の活動が行われる歴史価値の高い建造物・周辺市街地が一体となって形成された良好な市街地の環境のこと
(注4)内閣府「治安に関する世論調査」(平成18年12月調査)によれば、“治安が悪くなった原因は何か(複数回答)”を聞いたところ、「地域社会の連帯意識が希薄となったから」(49.0%)となった。
(注5)内閣府「治安に関する世論調査」(平成18年12月調査)によれば、“ここ10年間で日本の治安は良くなったと思うか、それとも悪くなったと思うか”を聞いたところ、「どちらかといえば悪くなったと思う」(46.6%)、「悪くなったと思う」(37.7%)となり、84.3%の人が悪くなっていると思っている。

 

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