第2節 自然災害対策 

2 災害に備えた体制の充実

(1)安全・安心のための情報・広報等ソフト対策の推進
 自然災害や事故等に対応するため、安全・安心に関する情報提供、災害時の業務継続計画等のソフト面での対策として、平成18年に策定した「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に基づき、毎年進捗状況の点検を行っている。21年6月時点で大綱等に掲げている110施策のうち77件(70%)が達成された。

(2)防災情報の高度化
 人命等の被害をできるだけ軽減するため、ハード整備に加え、関係機関が連携して防災情報を収集・活用し、的確な危機管理活動を可能とするとともに、国民の的確な判断や避難行動等につながる情報をわかりやすく提供するなど、災害に対する安全性を高めるための総合的な情報施策を推進している。
1)防災情報の集約
 「国土交通省防災情報提供センター」(注1)では、国民が防災情報を容易に入手・活用できるよう、国土交通省が保有する雨量情報や災害対応等の情報を集約・提供している。また、地理情報システム(GIS)を活用し、気象、河川の水位、潮位、地殻変動の蓄積データ等を利用できるようにしている。
2)ハザードマップ等の整備
 災害発生時に、住民が適切な避難行動がとれるよう、避難場所、避難経路等を住民にあらかじめ周知すべく市町村によるハザードマップの作成・配布を促進するとともに、全国の各種ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト(注2)を開設している。
 洪水ハザードマップの作成は「水防法」により義務化されており、作成に関し手引き等を示している。また、河川氾濫時の浸水深や避難場所等の洪水関連標識を電柱等に表示する「まるごとまちごとハザードマップ」を推進している。
 
まるごとまちごとハザードマップ

まるごとまちごとハザードマップ

 内水ハザードマップについては、浸水被害を軽減するためのソフト対策としての重要性にかんがみ、作成の手引きを示し、地方公共団体における早期作成等を支援している。
 津波・高潮ハザードマップについては、東海地震、東南海・南海地震等の大規模災害対策の1つとして、関係省庁が連携して、作成マニュアルや事例集を示している。
 土砂災害ハザードマップについては、「土砂災害防止対策基本指針」に基づき、土砂災害警戒区域等の指定に合わせてハザードマップの整備を促進している。
 火山ハザードマップについては、火山活動による社会的影響の大きい29火山を公表している。
 
図表II-6-2-7 ハザードマップの整備状況について

図表II-6-2-7 ハザードマップの整備状況について
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3)洪水時に関する防災情報の提供
 洪水に対する注意喚起や円滑な避難等に資する情報提供を行うために、大河川では洪水予報河川を指定し、洪水予報(氾濫注意情報・氾濫警戒情報等)の周知等が行われている。また、それ以外の主要な中小河川は、避難勧告発令の目安となる避難判断水位(特別警戒水位)への到達情報の周知等を行う水位周知河川(水位情報周知河川)として指定している。平成21年12月現在、洪水予報河川は365河川、水位周知河川は1,414河川が指定されている。
 また、水位・雨量、洪水予報、水防警報等の提供を目的として、「川の防災情報」(注3)において、一般向けに即時の河川情報の提供を行っている。21年9月末の台風時には、一日当たり約400万件近くのアクセスがあるなど、洪水時の警戒や避難等において役立てられている。
 さらに、XバンドMPレーダ(注4)網の整備、洪水予測の高精度化を図るとともに、21年4月に地方整備局に水災害予報センターを開設し、関係自治体等への河川情報提供の強化を図るなど、局地的大雨や集中豪雨への対策を推進している。
 
図表II-6-2-8 わかりやすい防災情報の提供

図表II-6-2-8 わかりやすい防災情報の提供

4)土砂災害警戒情報の発表
 大雨による土砂災害のおそれがある時に、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう、土砂災害警戒情報を都道府県と気象庁が共同で発表し、都道府県消防防災部局等を通じて市町村等に提供している。
 
図表II-6-2-9 土砂災害警戒情報について

図表II-6-2-9 土砂災害警戒情報について

5)防災気象情報の高度化
 気象庁では、平成21年5月から台風進路予報を5日先までに延長し、早期の防災準備活動の支援の充実を図った。また、同年6月に交通政策審議会気象分科会において取りまとめられた「局地的な大雨による被害の軽減に向けた気象業務のあり方について」を受け、新たに作成した防災気象情報の利活用の手引きを用いて教育機関等への安全知識の普及啓発等を行うとともに、気象ドップラーレーダーの追加整備、気象レーダーの観測間隔の短縮化により監視能力の向上を行った。

(3)地域の防災力の向上
1)高齢者や乳幼児等の災害時要援護者対策
 「土砂災害防止法」に基づき、土砂災害特別警戒区域等内への災害時要援護者関連施設等に係る開発行為の制限等を実施している。さらに、「水防法」に基づき市町村が災害時要援護者関連施設への洪水予報等の伝達方法を策定するに当たり、都道府県と連携して支援を行っている。平成21年12月現在、487市区町村で対象となる災害時要援護者施設を、市町村地域防災計画に定めている。
 
図表II-6-2-10 土砂災害による死亡・行方不明者に占める災害時要援護者の割合(平成17〜21年)

図表II-6-2-10 土砂災害による死亡・行方不明者に占める災害時要援護者の割合(平成17〜21年)
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2)水防体制の強化
 水防団等の技術力の向上を図るため、市町村等の要請を受けて水防訓練・講習会等に水防専門家を派遣する「水防専門家派遣制度」に基づき、水防技術の指導者が不足する市町村等でも、専門的な技術指導を受けることができるよう支援している。

(4)災害発生時の危機管理体制の強化
 国土交通省では、自然災害への対処として、災害に結びつくおそれのある自然現象の予測(気象庁)、災害時の施設点検・応急復旧等の対応(施設管理関係部局)、海上における救助活動(海上保安庁)等を行うとともに、職員の非常参集、災害対策本部の設置等の初動対応体制を構築している。また、地方公共団体等への応援・支援メニューに基づき、関係機関等への応援も積極的に実施している。
1)危機管理体制の強化
 大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、被災地方公共団体等が行う被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施するため、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)を派遣する体制を整えている。平成21年度は平成21年7月中国・九州北部豪雨、台風第9号、8月11日の駿河湾を震源とする地震において1,287名の隊員等を派遣し、被災地の迅速な復旧及び再度災害防止に向けた技術支援を行った。
 
TEC-FORCE隊員による復旧工法の指導(平成21年7月中国・九州北部豪雨)

TEC-FORCE隊員による復旧工法の指導(平成21年7月中国・九州北部豪雨)

2)国土交通省業務継続計画
 首都直下地震時の重要業務継続のため「国土交通省業務継続計画」に基づき、訓練の実施、業務継続力の向上を図っている。
3)災害に備えた情報通信システム・機械等の配備
 災害時の情報連絡体制を確保するため、本省、各地方支分部局、関係機関等の間で、光ファイバと多重無線通信回線を用いた信頼性の高い自営ネットワークを構築している。また、迅速な災害情報集約、応急復旧等のため、災害対策用ヘリコプター、衛星通信車、排水ポンプ車、照明車等の災害対策用機械を配備し、災害対応に活用している。
4)実践的な危機管理訓練の実施
 災害対応を擬似体験するロールプレイング方式の実践的な危機管理訓練を積極的に実施し、災害対策要員の能力の向上に取り組んでいる。また、地域住民・企業、NPO等のより一層の参加促進、避難場所・避難経路の確認を行うなど、より実践型、参加型の水防演習を実施した。さらに平成21年6月には土砂災害に対する全国統一防災訓練を実施するとともに、「大規模土砂災害危機管理計画」に基づく天然ダム対応危機管理訓練を行った。また、同年7月には静岡県静岡市において大規模津波総合防災訓練を実施した。
5)海上での初動対策の準備
 海上保安庁では、災害発生に迅速に対応できるよう巡視船艇・航空機を配備し、24時間即応体制をとっている。また、災害発生時には対策本部等を設置し、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等を実施するなど、迅速かつ的確に対応している。

(5)地震・火山活動等の監視・情報発表体制の充実
1)気象庁における取組み
 (ア)地震・津波対策
 地震・津波による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動を24時間体制で監視し、緊急地震速報、津波警報、地震・津波情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。平成21年度には、港湾局のGPS波浪計6箇所、港湾局及び海上保安庁等の検潮所5箇所の潮位データの津波情報への活用を開始し、気象庁が監視するGPS波浪計の観測点は8箇所に、検潮所は165箇所になった。
 (イ)緊急地震速報
 改正「気象業務法」に基づき、地震動の予報・警報として確実な提供を行ってきており、平成21年12月末までに12の地震に緊急地震速報(警報)を発表し、テレビやラジオ等を通じて国民に提供した。地震から身を守るには日頃からの訓練が重要であり、同年6月と12月に全国的な訓練を実施した。特に12月の訓練では、中央官庁や地方公共団体向けに加え、初めて一部の一般利用者の受信端末向けに訓練用緊急地震速報を配信した。また、同年8月には、緊急地震速報の迅速化や精度向上のため、新設観測点の活用やマグニチュード推定式の改良を実施した。
 (ウ)火山対策
 火山噴火災害の防止と軽減のため、全国4箇所の火山監視・情報センターで全国の火山活動を24時間体制で監視し、噴火警報等の迅速かつ的確な発表に努めている。平成21年8月からは、火山噴火予知連絡会で監視・観測体制を充実すべきとされた47火山について、地中埋設(ボアホール)型の地震計・傾斜計等の観測機器の整備を進めている。
2)海上保安庁における取組み
 (ア)海底地殻変動等の監視
 巨大地震の震源域である日本海溝、相模トラフ及び南海トラフ周辺において、地殻変動を観測している。また、地震及び火山噴火の予知に資するため、南関東の離島において、GPSにより島しょ等の動きを監視している。
 (イ)海底火山噴火に係る観測等
 海底火山の噴火の前兆として周辺海域に認められる変色水等の現象を観測し、航行船舶に情報を提供している。また、海底火山噴火予知の基礎資料とするため、総合的な調査を実施し、海域火山基礎情報の整備を行っている。
3)国土地理院における取組み
 (ア)地殻変動観測・監視体制の強化
 全国の電子基準点1,240点を運用し、GPS連続観測による国土の監視を図るとともに、陸域観測技術衛星「だいち」を用いた地殻変動の監視を強化している。
 (イ)地震、火山噴火等に伴う自然災害に関する研究等
 GPS、干渉SAR(注5)、水準測量等測地観測成果から、地震・火山噴火の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。また、航空機レーザ測量データや高分解能衛星画像をGIS等で解析することにより、地形変化による自然災害の軽減に資する研究・技術開発を行っている。さらに、関係行政機関・大学等と地震予知に関する各種データ・情報を交換し、検討を行う地震予知連絡会、及び地殻変動監視のために各省庁や公共機関等が観測した潮位記録の収集・整理を行う海岸昇降検知センターを運営している。
 
図表II-6-2-11 GPS連続観測が捉えた日本列島の動き

図表II-6-2-11 GPS連続観測が捉えた日本列島の動き

(6)ICT化による既存ストックの管理の高度化
 光ファイバ網の構築等により、ICT(注6)を活用した公共施設管理、危機管理の高度化を図っている。具体的には、光ファイバを活用した道路斜面の継続監視による管理の高度化、インターネット等を活用した防災情報の提供等安全な道路利用のための対策を進めている。また、水門・排水機場等の管理の遠隔操作、河川の流況や火山地域等の遠隔監視のほか、下水処理場・ポンプ場等の施設間を光ファイバ等で結び、遠隔監視・操作をするなど管理の高度化を図っている。さらに、海岸の状況を把握するための光ファイバ網及びCCTV等の整備を図り、海岸管理者等への安全情報の早期提供を行うとともに、水門等の施設を迅速かつ一元的に操作し津波・高潮被害の未然防止を図る津波・高潮防災ステーションを整備している。(平成20年度末現在8地域供用)
 
図表II-6-2-12 津波・高潮防災ステーションのイメージ図

図表II-6-2-12 津波・高潮防災ステーションのイメージ図

(7)公共土木施設の災害復旧等
 平成21年は、全国で10,610箇所、約1,227億円の国土交通省所管施設の被害が発生している。これらの自然災害による道路、河川、港湾、下水道等の被害について、被災直後より現地に緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)等を派遣し、復旧・復興及び再度災害防止に向けた技術的支援等を行うとともに、事業採択までの手続を極力短期間で実施し、被災地の迅速な復旧に努めている。
 また、住民の安全・安心の確保を図るため、災害対策等緊急事業推進費を執行して、豪雨や台風の自然現象により災害を受けた地域等において、緊急に再度災害防止のための事業を実施した。


(注1)http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/
(注2)http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html
(注3)http://www.river.go.jp[インターネット版]、http://i.river.go.jp[携帯版]
(注4)既存のレーダに比べ、より高分解能(250m〜500mメッシュ)かつ高頻度(1分ごと)の観測が可能
(注5)人工衛星から地表面の変動を監視する技術
(注6)我が国では、情報通信技術を表す言葉として「IT(Information Technology)」の語が広く普及しているが、国際的には、「ICT(Information and Communications Technology)」の語が広く定着している。今後のユビキタスネット社会においては、誰でも簡単にネットに接続することにより、多様で自由かつ便利な「コミュニケーション」を実現していくことが重要であることから、原則ICTを使用する。


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