第2節 国土交通省の総力対応 

第2節 国土交通省の総力対応

1 初動・応急復旧対応

(総力を挙げた緊急対応体制の確立)
 東日本大震災が発生した日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震対策については、政府において、明治三陸タイプの地震や宮城県沖の地震等の8つのタイプの地震を想定して、被害想定が公表されていたが、最大でも死者数約2,700人(明治三陸タイプ)等とされており、今回のような極めて広範囲に及ぶ震源域での巨大地震や大津波、それに伴う甚大な被害の発生は想定できていなかった注1
 こうした従前の想定をはるかに超える広域にわたる甚大な被害の発生により、被害状況の把握を含め、初動対応は困難を極めることとなった。

 政府は、東日本大震災の発生を受け、1961年の災害対策基本法制定以降初めて緊急災害対策本部を設置し、内閣総理大臣を本部長として全閣僚が参加する緊急対応体制を立ち上げた。
 国土交通省においても、地震発生から30分後には国土交通省緊急災害対策本部注2を設置し、被災地内にある東北地方整備局や東北運輸局を始め省を挙げた緊急対応に当たった。
 初動・応急復旧対応の段階においては、人命救助を第一義とし、被災者の救急救助、陸海空にわたる緊急輸送路の確保等に全力を挙げた。時々刻々変わる被害の状況、被災地のニーズの把握に努めるとともに、関係府省庁との連携、被災地方自治体を始めとする地方自治体との連携はもとより、関係する民間業界団体等とも緊密に連携し、様々な災害対応に持てる手段を総動員し、総力を挙げて取り組んだ注3
 国土交通省では、現地対策本部の活動支援や、特に今般の大震災の特徴である被災地方自治体への支援のため、職員を延べ24,779人派遣した(8月7日時点)。このうち、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)として、発災当日に62人、翌日には約400人を派遣し、最大500人以上の体制を構築するなど、これまでに2008年の組織創設以来の派遣実績を上回る延べ18,053人を派遣したほか、災害対策機材を延べ19,512台派遣した。
 
図表48 国土交通省による被災地への職員等の派遣状況
図表48 国土交通省による被災地への職員等の派遣状況
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(前例のない捜索救助活動)
 海上保安庁では、震災当初は日本海側も含めて津波警報・注意報が発表されたことから、全管区において船艇、航空機を発動した(3月12日には最大で巡視船艇349隻、航空機46機)。津波警報等の解除以降は被害の激しい東北地方太平洋側に巡視船艇や航空機を派遣投入した。
 
図表49 海上保安庁の活動状況
図表49 海上保安庁の活動状況
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 大津波の影響により沿岸海域には大量のがれきが散乱・浮遊する中、要救助者の捜索救助活動により、漂流した船舶に取り残された人、陸上の孤立者や漂流者、傷病者等計360人を巡視船艇やヘリコプター等で救助した。また、漂流船の生存者等の確認調査を実施し、これまでに504隻についてすべて無人であることを確認するとともに、漂流遺体321体を揚収している(8月11日時点)。
 
図表50 海上保安庁による捜索救助活動の状況
図表50 海上保安庁による捜索救助活動の状況


(緊急排水の実施・二次災害の防止)
 今般の巨大地震に伴う津波により沿岸部が広範囲に浸水し、3月13日時点での湛水量は約1億1,200万m3(25mプール約31万杯分)に及んだ。この湛水が、一刻を争う行方不明者の捜索活動や被災した施設の復旧活動の実施の大きな障害となったため、国土交通省が全国に配備している排水ポンプ車を集結し、湛水面積、湛水深が大きく自然排水が困難な箇所について排水作業を実施した。仙台空港周辺を始め岩手県、宮城県及び福島県の10市6町66箇所において、延べ約4,000台の排水ポンプ車により湛水解消を重点的・機動的に実施し、6月末までには排水作業を完了した。
 
図表51 津波による湛水地区における排水活動の状況
図表51 津波による湛水地区における排水活動の状況

 
図表52 排水前後の状況(宮城県東松島市大曲地区)
図表52 排水前後の状況(宮城県東松島市大曲地区)

 被災地においては、広範囲にわたる地盤沈下や浸水に加え、巨大地震及び大津波により海岸堤防や河川堤防等の国土保全インフラに甚大な被害が生じたことにより、余震やそれに伴い生じうる津波のみならず、高潮や大雨・洪水、土砂災害等の二次災害が起きやすく危険な状況となった。
 最大84pの地盤沈下を記録した陸前高田市等では、大潮の時期には満潮時に岸壁や道路等の冠水が相次いでおり、被災者の生活の平常化や被災地における復旧・復興活動の障害となっている。
 こうした状況に対応し、国土交通省では、航空レーザ計測等により、地震に伴う地盤沈下の状況について調査し、二次災害リスクの評価・公表を実施したのを始め、排水ポンプ車を被災地周辺に配備し機動的に浸水被害への対応を行うなど、融雪出水期、梅雨期、台風期に備え、二次災害の防止に向けた取組みを進めてきている。
 
図表53 二次災害防止関連の復旧スケジュール
図表53 二次災害防止関連の復旧スケジュール

 気象庁においては、被災地での生活や復旧活動等を支援するためのきめ細かな防災気象情報等を発表している。例えば、活発な余震活動やその見通し等を随時に発表しているほか、大雨・洪水警報や土砂災害警戒情報等の発表基準を引き下げて運用し、浸水害や土砂災害に対して早めの避難を呼びかけている。また、地盤沈下した沿岸地域では、高潮注意報や潮位情報を発表して注意を呼びかけている。さらに、大震災の発生直後から関連ポータルサイトを開設し、被災地等における気象情報が一目でわかるよう市町村毎に1枚にまとめた情報等の様々な支援資料を提供している。また、英語版の関連ポータルサイトも開設し、国際機関等の活動を支援している。
 今後も、臨時観測点の増設、衛星を用いた通信回線のバックアップ等の観測ネットワークの復旧・強化等を行い、的確かつ確実に防災気象情報を提供していくこととしている。

 高潮への対応については、海岸堤防の復旧として、地域の復旧・復興に不可欠な施設が背後に控えている箇所を優先して、梅雨期までに、大潮や満潮時でも冠水しないよう土のう積み等の対策を進めるとともに、台風期までに、それらの補強を実施することなどにより、約50kmの海岸で高潮等による二次災害の防止に取り組んできている。
 本復旧については、被災地のまちづくり計画や産業機能の復旧・復興等との調整を図った上で、適切な対策を実施することとしている。
 
図表54 海岸堤防の応急復旧状況(岩手県宮古市)
図表54 海岸堤防の応急復旧状況(岩手県宮古市)

 大雨・洪水への対応としては、東北の4水系(北上川、鳴瀬川、名取川、阿武隈川)や関東の利根川、那珂川等の直轄管理河川において、津波による堤防の決壊や地盤の液状化による堤防の沈下等により洪水を流す能力が著しく失われた箇所が多数に及ぶことから、震災後直ちに応急復旧に着手し、梅雨期までにまず堤防と同程度の高さ・幅を確保するなど必要な対策を実施している。このうち特に堤防の損傷等の著しい53箇所において緊急復旧工事を実施するとともに、出水期中は、避難判断水位等を引き下げるなど警戒避難体制を強化している。
 本復旧については、地盤沈下対応(被災前の標高高の確保)、矢板等による液状化対策、所定の堤防嵩上げ(計画堤防高)、水門等の自動化・遠隔操作化等を実施する予定としている注4
 また、都市内排水の役割を担う下水道の雨水排水ポンプ場で、被災により停止している箇所については、仮設電源による仮復旧や仮設ポンプ等により応急対応を実施している。
 
図表55 河川堤防の復旧状況
図表55 河川堤防の復旧状況

 土砂災害への対応については、震度5強以上を観測した市区町村において、融雪期や梅雨期等における土砂災害を防止・軽減するため、土砂災害危険箇所の緊急点検等を行い、応急対策や継続的な監視等を実施している注5。また、地震で崩壊等が発生した箇所において、緊急的に砂防堰堤等の整備に着手し、台風期までを目途に新たな崩壊等のおそれのある箇所において、砂防堰堤等の整備を進めてきている。さらに、都県と気象台が連携して土砂災害警戒情報の発表基準を引き下げて運用し、早めの避難を呼びかけている。
 今後、緊急点検の結果等を踏まえ、降雨等により土砂災害が発生するおそれが高い箇所において、都県と連携してハード・ソフト両面から計画的に土砂災害対策の検討を進めるほか、被災地における復興まちづくり主体等と連携した土砂災害対策を推進することとしている。

(交通インフラの応急復旧と緊急交通・物流ルートの確保)
 交通関係のインフラの途絶は、救急救助活動を始めとして、迅速な災害応急活動にとって大きな障害となることから、被災地に至る交通インフラの応急復旧は最優先課題であり、特に大津波被害を受けた太平洋沿岸部に広がる被災地の孤立の一刻も早い解消に向け、陸海空の全方面での一日も早い緊急交通・物流ルートの確保に努めた。

 交通インフラの早期復旧に当たっては、従前からの耐震化等の対策により深刻な被害を免れたことが功を奏した面もあった。例えば、阪神・淡路大震災での阪神高速道路の橋脚の崩壊による高架橋の倒壊や新幹線の700本を超える橋脚の損傷、新潟県中越地震での新幹線の走行中の列車の脱線といった教訓を踏まえ、高速道路や新幹線の橋脚の耐震化や早期の地震検知による列車の自動停止システムの整備等を進めてきた。これにより、高速道路や新幹線の高架橋に深刻な被害が生じなかったことにより、早期の復旧が可能となった。
 また、仙台空港においても、従前からの耐震性向上の取組みにより液状化被害を免れたことから、滑走路の平坦性、舗装強度を保つことができたことにより、早期の復旧作業を進めることができた。

 その反面、地域の足を支え、集落の孤立化を防ぐ命綱でもある生活道路や地方鉄道等の交通インフラは、特に大津波による壊滅的な被害を受けたことにより、復旧作業は困難を極めている。また、仙台空港でも、津波に伴う漂流物対策や非常用発電設備の浸水対策も含め、ここまでの大津波対策はなされておらず、各地の港湾においても、大津波のすさまじい外力による施設の損壊、膨大な量のがれきや港内に沈んだ船、魚網等の航路障害物となっている海上漂流物等の発生など、従来想定していなかったような事態の発生は、復旧作業に深刻な影響を及ぼしている。
 
図表56 交通関係の復旧状況の推移
図表56 交通関係の復旧状況の推移
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図表57 高速道路と新幹線の早期復旧
図表57 高速道路と新幹線の早期復旧

i)道路
 陸上交通に関しては、一日も早い緊急交通・物流ルートを確保する観点から、道路交通による被災地へのアクセスの確保が求められた。高速道路を始めとする道路網の早期復旧を戦略的に進めるため、津波被災地が点在する三陸沿岸地域等への進出を図る「くしの歯」作戦を展開した。東北自動車道、国道4号の縦軸を震災発生翌日には確保し、そこから三陸等の沿岸各地への15ルートの横軸を3月15日までには順次確保した。さらに沿岸部の国道6号、45号の応急復旧へと展開し、震災から1週間後の3月18日には97%まで啓開を終えた。
 その後、国道6号、45号については、東電福島第一原発の規制区間を除き、震災から約1ヶ月後の4月10日には応急復旧を概成し、長大橋梁が被災した2区間を除き、広域迂回を解消した。また、東電福島第一原発の規制区域内の国道6号についても、5月8日には迂回路を含めた応急復旧を完了した。
 さらに、市町村道を含む生活道路についても、地方自治体からの要請に応じて、被災状況調査、災害復旧に関する助言等を行っている。
 
図表58 道路啓開に向けた「くしの歯」作戦
図表58 道路啓開に向けた「くしの歯」作戦

 
図表59 道路の応急復旧状況(国道45号二十一浜橋(宮城県気仙沼市))
図表59 道路の応急復旧状況(国道45号二十一浜橋(宮城県気仙沼市))

 震災前後の東日本の道路交通量の変化をみると、東北・関東間の道路網の機能が制限され、太平洋側の東北自動車道や常磐自動車道の交通量が震災前から約8割減少したのに対し、日本海側の北陸自動車道や関越自動車道、直轄国道は、震災前に比べ交通量が増加しており、日本海側ルートが太平洋側ルートを代替する役割を担ったことがうかがえる。
 
図表60 東日本大震災前後における道路交通量の変化
図表60 東日本大震災前後における道路交通量の変化

 
図表61 高速道路の復旧状況
図表61 高速道路の復旧状況

 また、東日本大震災による被災者支援及び復旧・復興支援のため、東北地方(水戸エリアの常磐自動車道を含む)を発着する被災者及び原発事故による避難者、トラック、バス(中型車以上)について、6月20日から無料開放することとした。

ii)鉄道
 新幹線については、3月11日の被災以降復旧作業が進められ、18日には秋田新幹線(盛岡・秋田間)が、31日には山形新幹線(福島・新庄間)が、それぞれ全線で運転を再開した。東北新幹線についても、3月15日に東京・那須塩原間で運転が再開されるなど、順次復旧が進められた。4月7日の余震により、再度各新幹線で運転が休止されたが、4月29日までに全線での運転が再開された。
 
図表62 新幹線の復旧状況
図表62 新幹線の復旧状況

 在来線については、東北線が4月21日までに全線で運転が再開され、常磐線が5月14日までに久ノ浜・亘理間(東電福島第一原発の警戒区域等の区間及び甚大な被害を受けた区間等)を除き運転が再開された。
 一方で、沿岸部のJR東日本及び三陸鉄道では、多くの区間で運転再開の見通しが立たない状況が続いており、まちづくりと一体となった復旧・復興への検討が行われている。

iii)港湾
 海路での燃料を含めた緊急物資輸送を一刻も早く実施するため、航路や泊地等の啓開作業を実施するとともに、岸壁等の応急復旧を進めた。これにより、3月15日に釜石港、茨城港(常陸那珂港区)を皮切りに、3月24日までに被災した国際拠点港湾及び重要港湾のすべてにおいて、一部の岸壁の供用が開始された。被災港湾の暫定利用可能岸壁数(水深4.5m以深の公共岸壁)は、199バース(全体の約53%、8月11日時点)に至るまで復旧した注6。被災港湾の入港隻数も順調に伸びてきている。
 また、3月23日までにすべての国際拠点港湾及び重要港湾において港湾運送事業者の荷役作業体制の確保を図った。
 
図表63 港湾別の復旧状況
図表63 港湾別の復旧状況

 
図表64 東日本大震災後の被災した港湾における入港実績
図表64 東日本大震災後の被災した港湾における入港実績
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 海上保安庁では、緊急物資輸送に供する港湾内を優先的に、航路障害物となっている漂流船85隻を曳航救助(8月11日時点)したほか、海上漂流物についても、民間回収船に委託して回収作業を実施した。また、船舶の安全な入港を支援するため、巡視船等による警戒や被災した航路標識に簡易な灯火を設置するなどの応急復旧、測量船による水路測量等を行っている。このほか、倒壊・傾斜した防波堤灯台の近傍に大型灯浮標を設置し仮復旧を進めるとともに、本復旧に向けてはできる限り電源の太陽電池化や光源のLED化を推進し、災害に強い航路標識として復旧することとしている。

iv)空港
 空路の確保としては、震災当日に運用を再開した山形、花巻、福島の各空港では、3月12日(山形)、13日(花巻、福島)にそれぞれ24時間運用を実施し、救援航空機等の増大に対応した。また、迅速な救援活動を確保するため、航空機からの救援物資投下の際に必要となる届出等の手続の弾力化等を図った。一方、救援航空機以外の航空機に対しては1,500ft以下の飛行自粛を強く要請した。
 仙台空港においては、大津波による甚大な浸水被害を受けたが、従前からの滑走路等の液状化対策により深刻な被害を免れたことから、救援機のための滑走路の確保を目指した早期の復旧作業が進められた。また、アクセス道路等周辺地域においても、TEC-FORCEによる排水作業等が行われた。3月15日には救急救助・緊急輸送用のヘリの運用が開始され、翌16日には自衛隊等の救援機に限定した1,500m滑走路の運用が開始された。3月29日からは夜間を含め3,000mの滑走路の使用が可能となった。また、損傷を受けたターミナルビル等の使用が依然として大きく制約される中、4月13日には民間機の運航を再開し、臨時便となる羽田のほか、大阪等との間で空路の翼がつながった。
 今後は、更なる早期復旧が可能となるよう、空港施設の浸水対策や移動式発電設備の常備等の応急対策等の検討が急がれる。
 また、著しい被害を受けた仙台空港アクセス線については、名取・美田園駅間が7月23日に運行再開されたほか、仙台空港駅までの全線を9月末に運行再開する目標が立てられており、復旧に向けた作業が進められている。
 
図表65 仙台空港の被災から復旧への状況
図表65 仙台空港の被災から復旧への状況


注1 内閣府中央防災会議において、今回の地震・津波被害の把握・分析を踏まえ、今後の地震動推定、被害想定のあり方等を検討しており、6月26日には、「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」により「中間とりまとめ〜今後の津波防災対策の基本的考え方について〜」及び「中間とりまとめに伴う提言」が公表された。
注2 4月11日までは連日開催したほか、8月11日までに49回開催した。
注3 政府の緊急災害対策本部に「被災者生活支援特別対策本部」(3月17日設置、5月9日に「被災者生活支援チーム」に名称変更)が設置され、さらにその下に「被災地の復旧に関する検討会議」等の検討・推進会議が設けられ、様々な課題に対し関係府省庁が連携して取り組んだ。
注4 2011年8月8日までに本復旧が終了しない389箇所については、台風期明けに本復旧に着手し、できる限り速やかに完了させる予定(2012年6月末までには全箇所完了予定)。
注5 点検対象33,301箇所のうち、32,302箇所(約97%)が点検済(交通途絶や原発事故の影響等による点検不能箇所を除き点検完了)。このうち、分類A(変状が大きく、緊急的な工事等を行う箇所)は66箇所(8月11日時点)。
注6 青森県八戸市から茨城県までの国際拠点港湾、重要港湾及び地方港湾のうち、水深4.5m以上の公共岸壁を有する18港湾の暫定利用可能岸壁数。施設の大部分で復旧工事が必要であり、利用にあたっては、吃水制限や上載荷重制限がかかっている施設もある。


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