参考資料 

II.本論

第1章 新しい地域のかたち

(1)序

 被災地における地域づくりを推進するにあたっては、大自然災害を完全に封ずることができると想定するのではなく、「減災」の考え方に立って、「地域コミュニティ」と「人と人をつなぐ人材」に注目する必要がある。災害の発生を明確に前提として、地域と国のあり方を考える発想は、最近まで、この国では重視されてはいなかった。むしろ、そうした発想から目をそむけ、「戦後」の平和を享受し安全神話に安住し続けてきたのが、実情ではあるまいか。
 新たな地域づくりは、災害ありうべしとの発想から出発せねばならぬ。災害との遭遇に際しては、一人一人が主体的に「逃げる」という自助が基本である。一人一人が「逃げる」ことが「生きる」ことを意味する。それを可能にするためには、「共助」「公助」へと広がる条件を整備せねばならない。その方途が一つではなく、多様な手段の組み合わせであることを本「提言」は論ずるであろう。また、地域の再生に必要な新たな制度的対応についても提案するであろう。
 留意すべきは、さまざまな施策を講ずるに際して、人と人とを切り離すのではなく、人と人とを結びつける工夫である。「つなぐ」ということは各種施設を作るハード面でも、コミュニティを作るソフト面においても、同じように重要である。
 すべてを喪失した地域の再生を考えるにあたって、まず必要なのは、被災した人々の声を聴きつつ、その要望を実現できる所に「つなぐ」ことである。多様な要望を正確に迅速に伝える機能は、要所要所にパイプをもち的確にその声を届け、実現に導く人材によって担われる。彼らは、人と人を、また人と組織を「つなぐ」ことを続け、やがてはコミュニケーションのネットワークを形成し、地域のコミュニティを再生させる役割を果たす人材に成長していく。
 彼らが、ボランティアなどの形で被災地の外から立ち現われ、自らの活動を通じて人と人を「つなぐ」と同時に、そうした活動を支える被災地の人材を育成するようになることもあろう。そこには、ボランティアから雇用へとむかう道筋も当然用意されよう。
 そして、被災地の再生のためには、人と人を「つなぐ」専門知識や技能を持つ人材が望まれる。医療・福祉・ケアなどの専門家、さらには科学技術の知識を現場で活用できる専門家などを被災地外から呼び寄せ、いずれは地元の人材養成に役立たせていく。また、地域づくりに必要な知識と技術を広範に手にするため、まちづくりプランナー、建築家、法律家、そして行政官などを導き入れる仕組みも作られねばなるまい。
 地域のコミュニティは、被災した人々を孤立させるのではなく、縦に横に結びつけていく多様な人材の輩出によって支えられていくことになる。
 被災地のなかで「つなぐ」やり方を確立した人々のなかからは、いずれさらに全国各地に赴き、「減災」の考え方を展開するとともに、「つなぐ」モデルを各地の実情にあわせつつ利用価値を高めていく人材が輩出するであろう。


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