参考資料 

(2)地域づくり(まちづくり、むらづくり)の考え方

1) 「減災」という考え方
 今回の津波は、これまでの災害に対する考え方を大きく変えた。今回の津波の浸水域は極めて広範囲であり、その勢いは信じ難いほどに巨大であった。それは、物理的に防御できない津波が存在することをわれわれに教えた。この規模の津波を防波堤・防潮堤を中心とする最前線のみで防御することは、もはやできないということが明らかとなった。
 今後の復興にあたっては、大自然災害を完全に封ずることができるとの思想ではなく、災害時の被害を最小化する「減災」の考え方が重要である。この考え方に立って、たとえ被災したとしても人命が失われないことを最重視し、また経済的被害ができるだけ少なくなるような観点から、災害に備えなければならない。
 この「減災」の考え方に基づけば、これまでのように専ら水際での構造物に頼る防御から、「逃げる」ことを基本とする防災教育の徹底やハザードマップの整備など、ソフト面の対策を重視せねばならない。さらに、防潮堤等に加え、交通インフラ等を活用した地域内部の第二の堤防機能を充実させ、土地のかさ上げを行い、避難地・避難路・避難ビルを整備する。加えて、災害リスクを考慮した土地利用・建築規制を一体的に行うなど、ソフト・ハードの施策を総動員することが必要である。なお、地域づくりにあたっては、これまで以上に、人と人の結びつきを大切にするコミュニティの一体性を確保することについても、十分に考慮しなければならない。
 復興計画を策定するにあたり種々の選択肢を比較検討するに際しては、地形の特性に応じた防災効果や、それにかかる費用、そして整備に必要な期間等を考慮すべきである。その上で、防波堤注1、防潮堤注2、二線堤注3、高台移転等の「面」の整備、土地利用・建築構造規制等の適切な「組み合わせ」を考えなければならない。
 確かに、「安全・安心な地域づくり」は時間がかかる。他方、被災者には「一日も早く元の生活に戻りたい」という切実な願いがある。この両者の調和を図りながら地域づくりを進める必要があり、復興を先導する拠点的な市街地をいち早く安全な位置に整備するなど、地域を段階的に復興していくという考え方に基づかなければならない。

2) 地域の将来像を見据えた復興プラン
 復興に際しては、地域のニーズを優先すべきである。同時に、長期的な展望と洞察を伴ったものでなくてはならない。一方で高齢化や人口減少等、わが国の経済社会の構造変化を見据え、他方で、この東北の地に、来るべき時代をリードする経済社会の可能性を追求するものでなければならない。
 そこで、高齢者や弱者にも配慮したコンパクトなまちづくり、くらしやすさや景観、環境、公共交通、省エネルギー、防犯の各方面に配慮したまちづくりを行う。とりわけ景観については、地域住民の徹底的話し合いと納得によって、統一感のある地域づくりが望まれる。
 また、再生可能エネルギーと生態系の恵みを生かす地域づくりや、次世代技術等による産業振興、地域資源の活用と域内循環を進めることにより、地域の自給力と価値を生み出す地域づくりを行うべきである。その際、地域のニーズに応じたトップランナー方式での支援を検討する。
 これらを通して、新しい地域づくりのモデルとなるこの地の復興を目指すことが望まれる。


注1 「防波堤」とは、外洋の波浪から港湾や漁港を守り、また津波から陸域を守るため、海中に設置される構造物をいう。
注2 「防潮堤」とは、台風などによる大波や津波等から陸域を守るため、陸上(海岸部)に設置される構造物をいう。
注3 「二線堤」とは、防潮堤よりも陸側にある防御のための構造物をいう。例えば、道路や鉄道線路を盛土構造にして堤防の役割を果たすものなどである。


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