7 不動産業の動向と施策 (1)不動産業を取り巻く状況  不動産業は、全産業の売上高の3.0%、法人数の10.8%(平成21年度)、国内総生産の14.7%(21年、62兆円)を占める重要な産業の一つである。  平成22年の1年間において三大都市圏及び地方の中心都市における地価はほぼすべての地区で下落し、住宅着工戸数は年ベースで100万戸を大きく割り込み、80数万戸ペースで推移するなど、依然として厳しい状況が続いているものの、地価の下落率は前年と比べ縮小し、新築マンション販売については、22年以降、供給戸数が上向くなど、明るい兆しが見え始めている。  既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)注1の21年度の成約件数が12.4万件(前年比7.8%増)と堅調に推移している。 (2)宅地建物取引業法の的確な運用  宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者については、126,582業者(平成22年3月末)であり、近年、微減傾向が続いている。  国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、21年度の監督処分件数は380件(免許取消し212件、業務停止64件、指示104件)となっている。  また、マンションの販売の際の悪質な勧誘に対する苦情・相談が増加していることから、ホームページで消費者に注意喚起を図るとともに、悪質勧誘業者に対して監督処分を行うなど、関係機関とも連携し、必要な指導監督に努めている。 (3)マンション管理業者による適正な管理の確保  マンションストックの増大に伴い、その適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や業務規制を実施している。また、マンション管理業者による法令遵守の向上を促進し、不正行為の未然防止を図る観点から、マンション管理業者に対する立入検査を実施している。 (4)不動産市場の活性化 1)不動産市場の現状  国民経済計算によれば、我が国における不動産市場(土地市場も含む。以下同じ)の資産額は、平成21年度末現在の総計で約2,200兆円となっている。そのうち、法人所有は約470兆円、国・地方等の公的セクター所有は約460兆円と大きなプレゼンスを占めており、その有効活用に向けた合理的なマネジメントの普及が進んでいる。Jリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業、特定目的会社等により証券化された不動産の資産額累計は、21年度末には約47兆円、22年度末には約49兆円となっている。また、証券化された不動産資産額の年度実績は、21年度は約1.7兆円であり、22年度は約2.2兆円となっている。  Jリートは、豊富な資金を使った不動産の取得や耐震改修等の不動産の価値向上を通じて我が国の都市整備等にも大きく寄与しており、23年3月末現在、35銘柄が上場し、約3.5兆円の不動産投資証券が流通している。リーマンショック等による金融収縮の影響で19年以降下落基調にあった東証リート指数も(最安値:20年10月28日704.46)、22年秋以降、堅調に推移しており、震災直後の東証リート指数は、地震発生前日(10日)の終値1092.29から、4日後の3月15日には926.83にまで下落したが、3月31日には1055.18まで回復した。 2)不動産市場の条件整備  国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム注2)を通じて公表している(平成23年3月現在の提供件数は、1,045,986件、Webアクセス数は、約1億7千万件)。  また、指定流通機構(レインズ)が保有する取引価格情報の加工情報を、不動産取引情報提供サイト注3を通じて提供するとともに、不動産取引の成約情報に基づく住宅価格指数について、東京証券取引所が指定流通機構(レインズ)等の関係機関と協力して開発し、23年4月から試験配信を開始することとしている。さらに、宅地建物取引業者が取り扱う物件情報を、網羅的に消費者へ提供する不動産統合サイト(不動産ジャパン)注4を不動産業界が一体となって整備しており、国土交通省としても、引き続きこの取組みを支援している。  また、サブプライム危機等の教訓から、不動産バブルに対するEarly Warning Signalを構築するため、2011年(23年)5月に国際機関が協力して、不動産価格指数の作成に関する指針(RPPIハンドブック)を取りまとめることとしている。国土交通省では、この指針に対応した不動産価格指数の作成に取り組み、24年度以降の試験運用とその後の本格運用に向けて検討を進めている。 図表II-5-3-12 土地総合情報システム 3)税制の活用  平成23年度税制改正においては、Jリート及び特定目的会社に係る不動産取得税の特例措置について、価格から控除する額を見直した上、延長が認められた。 4)事業用定期借地権の活用  社会経済情勢の変化に伴う土地の利用形態の多様化に対応するため、改正「借地借家法」に基づき、事業用定期借地権の存続期間の上限が20年以下から50年未満に延長されている。 5)新しい時代に対応した不動産  市場の構築に向けて不動産鑑定評価に対するニーズの多様化や企業会計における不動産時価評価の進展等を踏まえ、鑑定評価等業務の手順に「業務の目的と範囲等の確定」(Scope of Work)の考え方を取り入れた価格等調査ガイドラインを策定し、その周知に努めている。また、投資家等依頼者以外の第三者に広く影響を与える証券化対象不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定業者への立入検査等を行い、鑑定評価の適正性の確保を図っている。  また、我が国の不動産投資市場が、世界金融危機以降の状況を脱却し、「不動産と金融」を適正に結びつける機能を構築できるよう、戦略的な見地から検討を行うため、平成22年11月に「不動産投資市場戦略会議」が開催され、不動産と金融市場を取り巻く課題を、大きく1)デット市場の課題、2)Jリートの課題、3)私募ファンドの課題、4)不動産市場固有の課題、5)税・会計上の課題、6)不動産投資市場と金融の循環システムの課題とに分けて整理し、それぞれの課題についての具体の対応策について同年12月に提言が行われた。  さらに、関係業界、有識者、行政等を構成員とする「投資家に信頼される不動産投資市場確立フォーラム」において、平成22年12月に、遊休化・老朽化した不動産の再生のため、不動産特定共同事業法の改正の必要性と、Jリート及び不動産特定共同事業法以外の不動産証券化手法の課題について、取りまとめを行った。  また、地球環境問題への対応における不動産分野の役割が大きいことから、環境価値を重視した不動産市場形成に向けて、環境不動産の経済価値分析や国内外の取組事例等、環境不動産ポータルサイト注5や市場関係者との意見交換等を通じて広く情報発信を行っている。 注1 宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。 注2 http://www.land.mlit.go.jp/webland/ 注3 http://www.contract.reins.or.jp/ 注4 http://www.fudousan.or.jp/ 注5 http://tochi.mlit.go.jp/kankyo/index.html