第3節 震災後における国土交通行政の転換 

1 防災のあり方の転換

(ハード・ソフト施策を総動員した津波対策)
 これまでの津波対策では、過去に繰り返し発生し、近い将来同様の地震が発生する可能性が高く、切迫性が高いと考えられる津波を想定してきた。しかしながら、今回の大震災の津波はこの想定を大きく上回り、甚大な被害を発生させた。発生頻度が低く規模の大きい津波に対してまで背後を構造物のみで守りきることは困難であり、今回の津波によって水位低減、津波到達時間の遅延、海岸線の維持等で一定の効果が見られたものの、構造物の防災機能にのみ依存することの限界が改めて認識された。
 大震災以降、中央防災会議、復興構想会議等において様々な議論がなされ、社会資本整備審議会・交通政策審議会計画部会においても、平成23年7月6日に「津波防災まちづくりの考え方」についての緊急提言が行われた。この緊急提言では、「災害に上限なし」という認識のもと、最大クラスの津波が発生した場合においても「人命が第一」として、ハード・ソフト施策を総動員する「多重防御」を津波防災・減災対策の基本とすることとしている。
 
図表49 これからの想定津波の考え方

図表49 これからの想定津波の考え方

 この考え方は、政府の「東日本大震災からの復興の基本方針」にも位置付けられた。
 また、中央防災会議は「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」を設置し、最終報告を平成23年9月に公表した。その中で、今後の津波対策を構築するに当たっては、津波の規模や発生頻度に応じて、基本的に2つのレベルの津波を想定するとしている。
 1つ目のレベルは、比較的発生頻度が高い津波(概ね数十年から百数十年に1回程度の頻度で発生する津波)であり、これに対しては、海岸保全施設等構造物で人命保護に加え、住民財産の保護、地域の経済活動の安定化、効率的な生産拠点の確保を図ることとしている。
 2つ目のレベルは、発生頻度は極めて低いが甚大な被害をもたらす最大クラスの津波(概ね数百年から千年に1回程度の頻度で発生する津波)であり、これに対しては、被害の最小化を主眼とする「減災」の考え方に基づき、海岸保全施設等のハード対策とハザードマップの整備等のソフト対策といったとりうる手段を尽くした総合的な津波対策を確立することとしている。

(津波防災地域づくりに関する法律の成立)
 このような考え方を踏まえ、平成23年12月に、「人の命が第一」、「災害に上限はない」という考えのもと、「減災」の視点に立ち、最大クラスの津波を対象に「逃げる」ことを前提として、ハード・ソフト施策を組み合わせた「多重防御」の発想による津波災害に強い地域づくりを推進するため、「津波防災地域づくりに関する法律」(平成23年法律第123号)が成立した。
 
図表50 津波防災地域づくりのイメージ

図表50 津波防災地域づくりのイメージ

 同法に基づく津波防災地域づくりを推進するに当たっては、まず、国土交通大臣が定める基本指針に基づき、都道府県知事が津波防災地域づくりを実施するための基礎となる津波浸水想定(津波があった場合に想定される浸水区域及び水深)を設定する。その設定のために津波浸水シミュレーションを実施するに当たっては、東日本大震災の津波で見られたような海岸堤防、河川堤防等の破壊事例等を考慮し、最大クラスの津波が悪条件下において発生することを前提に算出することが求められる。
 その上で、当該津波浸水想定を踏まえて、ハード・ソフトの施策を組み合わせた市町村の推進計画の作成、推進計画に定められた事業・事務の実施、推進計画区域における特別の措置の活用、津波防護施設の管理等、都道府県知事による警戒避難体制の整備を行う津波災害警戒区域や一定の建築物の建築及びそのための開発行為の制限を行う津波災害特別警戒区域の指定等を、地域の実情に応じ、適切かつ総合的に組み合わせることにより、最大クラスの津波への対策を効率的かつ効果的に講じていくこととしている。
 また、盛土構造である既存の道路、鉄道を活用し、その施設の背後地への津波による浸水を防止するための閘門、胸壁等のうち、一定の要件を満たすものの新設又は改良に対して補助を行う津波防護施設整備事業(同法に規定する推進計画に記載されているものに限る。)が創設されている。

(公共施設の津波対策の強化)
1) 海岸堤防設計の見直し
 東日本大震災においては、津波が海岸堤防等を越流することにより多くの施設が被災し、また、背後地に甚大な被害が発生した。これを踏まえ、平成23年12月、設計対象の津波高を超えた場合であっても、施設の効果が粘り強く発揮できるようにする構造及び海岸堤防等の耐震対策について、基本的な考え方を通知した。来襲した津波の水流が海岸堤防を越流した後、裏法尻(のりじり)部(堤防の海に面していない面の基部)の地面等に衝突することにより施設が流失する被災形態が見られたことから、堤防の裏法尻部を被覆して保護することや、裏法(のり)の勾配を緩やかにすることにより、堤防を「粘り強い構造」へ強化することとしている。
 
図表51 堤防の裏法尻部の強化例

図表51 堤防の裏法尻部の強化例

2) 河川の津波・地震対策
 東日本大震災では、河川を遡上した津波が河川堤防を越えて沿川地域に甚大な被害をもたらしたほか、河川堤防の液状化等、多数の河川管理施設が被災した。これを踏まえ、河川の津波遡上対策として、今後発生すると想定されている東海地震に係る地震防災対策強化地域、東南海・南海地震に係る防災対策推進地域等において、津波に対して堤防の高さが不足している区間の嵩上げを推進している。
 
図表52 堤防の嵩上げ

図表52 堤防の嵩上げ

 また、河口部等では、平常時の河川水位が地盤高より高いところも多く、大規模地震の発生と津波の河川遡上により、甚大な浸水被害が発生する懸念があることから、必要となる河川堤防の液状化対策を推進している。
 
図表53 堤防の液状化対策

図表53 堤防の液状化対策

 さらに、堤防の機能が確保されるためには、堤防に設置されている水門・樋門等が、津波の遡上前に確実に操作されている必要がある一方、津波の来襲が予想される状況での水門等の操作には危険が伴う。今回の震災においても水門操作を行うことができなかった箇所があったことや、操作員が亡くなったことから、水門等の自動化・遠隔操作化を図っている。
 
図表54 水門等の自動化・遠隔操作化

図表54 水門等の自動化・遠隔操作化

3) 港湾の津波・地震対策
 東日本大震災では、津波により防波堤が損傷したものの、津波の高さを低減させる、到達時間を遅らせるといった効果が確認されている。このため、発生頻度の高い津波高を越える津波に対しても、構造物による減災効果を考慮しつつ、避難等の対策を総合的に進める。
 
図表55 港湾における「減災」のイメージ

図表55 港湾における「減災」のイメージ

 また、液状化により荷さばき地等が沈下し、荷役に支障が発生したが、耐震強化岸壁が緊急物資等の輸送に利用されるとともに、北海道や日本海側の港湾が貨物の輸送を補完する役割を果たした。これを踏まえ、港湾BCP(事業継続計画)の策定を通じ、耐震性・耐津波性を高めるべき施設の計画と発災後の行動計画を定め、対策を講じることにより、被害の最小化や物流機能の早期復旧を図る。あわせて、液状化による岸壁等の港湾施設への影響とその対策について検証を進める。
 また、南海トラフ巨大地震や首都直下地震では被害が広域化する恐れがあることから、港湾相互の広域的なバックアップ体制の構築や、拠点性の高い物流ターミナルにおける地震・津波対策により、災害に強い物流ネットワークの構築を進める。

4) 下水道の津波対策の強化
 今回の震災前においては、下水道施設では津波による被害の経験がほとんどなかったために、事前の対策を必ずしも十分には施しておらず、機械・電気設備をはじめとして多くの施設が損傷、破壊、流出した。今後は、機械・電気設備等がたとえ損壊、流出しても迅速に復旧できるよう配慮するとともに、処理場、ポンプ場の揚水位は地盤沈下しても流下できるよう配慮する。
 
図表56 「最大クラスの津波」に対する下水道施設の標準的耐津波性能

図表56 「最大クラスの津波」に対する下水道施設の標準的耐津波性能

5) 空港の津波対策への着手
 各空港においては、地震対策として、耐震化等を着実に進めてきたものの、津波への対応という視点での取組みは十分に行われてきていなかった。そのため、今回の大震災を教訓として、最大クラスの津波を想定した上で、津波が来襲する可能性がある空港においては、主にソフト対策を強化する観点から、緊急避難体制を構築する。空港内の旅客、関係職員及び周辺からの避難住民等の人命を保護するとともに、地上走行中の旅客機に対しても、適切な指示と情報提供により誘導し、旅客の生命を守るために、避難実施判断基準の設定、避難場所の設定、避難者への対応、情報提供の方法等を具体的に検討していき、実施体制の構築や役割分担、情報入手及び伝達手法の確保、訓練等を実際に行い、東京国際空港等一部の空港で本体制を構築した。他の空港についても、順次、体制を構築していくこととしている。また、被害にあった場合には、発災後3日以内に空港が緊急救命活動や物資輸送活動の拠点としての機能を発揮するよう、様々な復旧活動に関わる関係機関との間の協力体制を早期に構築し、空港内に流入した漂流物の撤去ならびに仮設発電設備の搬入等を実施する。また、早期の民航機運航に必要なセキュリティエリアを確保するための場周柵(フェンス)の復旧を実施する。
 これらの早期復旧を可能にするための作業計画の策定等の対策を仙台、羽田、中部、関空、高知、宮崎の6空港で講じる。

6) 鉄道の津波対策
 東日本大震災の津波発生時における鉄道旅客の避難誘導等の状況を検証し、通信手段が途絶した場合の津波警報等発令情報入手の方策、浸水の可能性のある区間で停止した場合の迅速な避難方策、夜間における避難方策等について検討を進めており、津波発生時における避難誘導を迅速化し、鉄道旅客の安全確保を図る。

7) 官庁施設の津波対策
 官庁施設については、災害応急対策活動の拠点施設として、あるいは、一時的な避難場所として、人命の救済に資するものであるため、これまでの耐震化に加え、津波対策を総合的かつ効果的に推進することとする。具体的には、設備機器の水損、重要書類の滅失を避けるため、重要諸室や設備室の高置、屋外階段や屋上避難スペースの整備等を行う。
 
図表57 官庁施設における津波対策(イメージ図)

図表57 官庁施設における津波対策(イメージ図)

(長周期地震動への対応)
 長周期地震動は、揺れの周期が長い波を多く含む地震動で、ゆっくりとした揺れが非常に長く続く特徴があり、超高層建築物等への影響が大きいと考えられる。東日本大震災においては、長周期地震動によって、首都圏や大阪府等の高層ビル等で大きな揺れが観測された。近い将来に発生が懸念されている南海トラフにおける巨大地震では、東京、名古屋、大阪等に立地している超高層建築物等に大きな揺れが生じることが懸念されている。そのため、高さ60mを超える超高層建築物等の長周期地震動対策について、現在、内閣府や文部科学省において行われている南海トラフの巨大地震に関する検討の結果を見極めながら、建築基準法による認定の運用を見直すための検討を行っている。また、長周期地震動による人的・物的被害の早期把握といった地震直後の初動対応のため有効な情報提供のあり方について検討を進め、長周期地震動に関する観測情報の発表開始を目指している。

(津波警報の改善)
 今回の大震災において、気象庁は地震発生3分後に津波警報の第1報を発表したものの、発表された津波の高さ予想が過小であったこと等により住民避難が遅れ、被害の拡大につながった可能性が指摘された。この教訓を踏まえ、気象庁は、有識者等による津波警報の改善に向けた検討を行い、より住民の避難につながる警報となるよう改善の方向性について整理し、早期に運用を開始することとした。
 具体的には、津波警報の第1報において、地震規模の過小評価の可能性があると判定される場合には、当該海域で想定される最大のマグニチュード等を適用し、また、予想される津波の高さを数値ではなく、「巨大」等の定性的表現で発表することにより、通常の地震とは異なる非常事態であることを伝え、迅速な避難を促すこととした。また、津波の高さ予想の区分は、津波の高さと被害の関係や津波予測の誤差、とりうる防災対応の段階等を踏まえて、現状の8段階から5段階にすることとした。
 また、津波警報の発表をより確度の高いものとし、かつ、迅速確実に行うため、巨大地震でも測定可能な広帯域強震計を国内に整備(全国80箇所)するとともに、海底津波計(ブイ式)を東北地方太平洋沖の3箇所に設置、活用することとした。
 
図表58 津波警報の高さ区分の基準と警報について

図表58 津波警報の高さ区分の基準と警報について

(災害に強い都市・交通拠点づくり)
 今回の大震災では、首都圏においても、大正12年(1923年)の関東大震災以来初めて、最大震度6弱以上を観測し、ほぼ全域において強い揺れを観測した。この影響により、東京湾岸を中心に広い範囲にわたり液状化現象が起こるとともに、多くの地域で電気、ガス、上下水道、通信等のライフラインの稼働停止、公共土木施設の損壊があった。また、発災日においては、首都圏の主要な鉄道の運行停止に伴い、様々な施設が集積する大都市の交通結節点周辺等のエリアを中心に首都圏で約515万人の帰宅困難者(内閣府推計)が発生するとともに、サプライチェーンの分断、物流の停滞も発生した。
 大震災からの教訓も踏まえ、今後発生が想定されている首都直下地震や東海地震等による大規模災害に備え、災害に強い都市づくりを推進するため、平成23年10月、「都市再生特別措置法」に基づく都市再生基本方針が改正(閣議決定)された。
 
図表59 都市再生基本方針の改正の概要

図表59 都市再生基本方針の改正の概要

 その後、24年3月には、「都市再生特別措置法の一部を改正する法律」が成立し、官民が連携してハード・ソフト両面にわたる都市の安全確保を図ることとした。同法では、都市再生緊急整備地域を対象として、国、関係地方公共団体、都市開発事業者、鉄道事業者、大規模ビル所有者等を構成員とする都市再生緊急整備協議会が「都市再生安全確保計画」を策定することができることとし、計画に記載された事業等の実施主体は、計画に従って事業等を実施し、国はその予算支援を行うこととしている。
 同計画には、ハード・ソフト両面の対策(退避経路、退避施設、備蓄倉庫等都市再生安全確保施設の整備・管理、退避施設への誘導、災害情報や公共交通機関の運行情報等の提供、備蓄物資の提供、避難訓練等)が定められる。同計画に位置付けられた都市再生安全確保施設の整備・管理については、その継続的な管理を可能とするため、施設の所有者が代わっても新たな所有者に協定の遵守を義務付けることができる協定制度を新設した。
 
図表60 改正都市再生特別措置法に基づく対策の概要

図表60 改正都市再生特別措置法に基づく対策の概要

 また、東日本大震災発生時において、鉄道ターミナル駅等交通結節点については、多くの人々が殺到した。このため、大規模地震発生時における首都圏鉄道運転再開のあり方に関する協議会を開催するなどにより課題抽出を行い、迅速な避難誘導、円滑な運転再開のための情報提供、都市施設等における帰宅困難者の受け入れ方策、帰宅経路の容量確保等の対応策の検討を行った。また、内閣府及び東京都が共催する首都直下型地震帰宅困難者等対策協議会にも参加し、一斉帰宅抑制の方針の徹底、駅等での利用者保護、駅前滞留者の誘導・搬送、適切な情報提供等について協議し、24年3月に中間取りまとめが行われた。今後、24年夏から秋にかけて、大規模な集客施設や駅等における利用者保護のガイドラインの作成、帰宅困難者の搬送のシミュレーション結果に基づく課題の解決の方向性を取りまとめる。
 さらに、旅客の安全確保や帰宅困難者の一時避難場所としての重要性から、1日当たりの乗降人員が1万人以上、かつ、複数路線が接続するなどの機能を有する主要な駅(約270箇所)について、耐震補強の緊急的実施等を推進している。

(液状化対策)
 東日本大震災による地盤の液状化による宅地被害は、26,914件にのぼっている(平成23年9月27日現在)。再度災害の抑制のためには、復旧のみならず、地盤改良が必要であり、かつ、その際には周辺宅地との一体的な対策をとることが効率的・効果的である。
 公共施設の液状化対策費は公費で負担するが、民間家屋の液状化対策費は所有者が負担することが基本であるところ、今回、道路・下水道等の公共施設と隣接宅地等との一体的な液状化対策を推進する事業を創設した。
 具体的には、1)液状化対策に必要な調査、事業計画案の作成、コーディネートに対する支援、2)敷地境界、基準点等の混乱が著しい地域では地籍整備と液状化対策を行う土地区画整理事業による支援、3)土地区画整理事業を活用しない場合にも、一定規模以上(3,000m2以上かつ家屋が10戸以上)で、公共施設と宅地との一体的な液状化対策が行われているものと認められるものに対する支援を行うこととした。
 また、港湾についても、仙台塩釜港、茨城港等において液状化による被害が生じた。今後大規模地震が発生した場合、今般の震災と同様に液状化の被害が発生する可能性があり、企業の生産活動・物流機能等の停止による地域経済の停滞が懸念される。
 このため、岸壁等港湾施設の耐震性について、継続時間の長い地震動を考慮した技術的な検証を進めることが必要であり、港湾の施設に係る技術上の基準の見直し、港湾における液状化対策手法の向上等を検討している。

(地籍整備の積極的な推進)
 地震等の被災後において復旧・復興に速やかに取り組むためには、土地の境界をあらかじめ画定しておくことが重要である。東日本大震災の被災地では地籍調査の進捗率が高く、特に津波による浸水地域の約9割で地籍調査が実施済みであることから、迅速かつ簡便な地籍調査の成果の再生を通じて復旧活動に貢献している。
 東海地震や東南海・南海地震の想定地域等では地籍調査の進捗率が低い地域が多いため、東日本大震災の教訓を踏まえ、当該地域等においては、被災時の医療活動や物資輸送に不可欠となる道路整備等の防災関連事業と連携した地籍整備を積極的に推進する。
 
図表61 「東海地震に係る地震防災対策強化地域」及び「東南海・南海地震防災対策推進地域」に指定された市町村(平成23年4月1日時点)

図表61 「東海地震に係る地震防災対策強化地域」及び「東南海・南海地震防災対策推進地域」に指定された市町村(平成23年4月1日時点)

(国土交通省における大規模災害への対応の強化)
 東日本大震災における災害対応を踏まえ、平成23年8月、「国土交通省防災業務計画」を改正し、津波対策の強化等危機管理体制の強化を行った。さらに、要員や物資の全国規模の活用等の広域的支援体制構築のため、TEC-FORCE等の具体的活動計画の作成や関係機関等と連携した広域的な防災訓練の実施、より一層の活動体制の強化に取り組んでいる。
 また、「水防法」を改正し、著しく激甚な災害が発生した場合には、国土交通省自らが浸入した水の排除等の水防活動を行うことができることとした「特定緊急水防活動」を創設した。
 さらに、海上保安庁においては、迅速かつ的確に災害対応を行い、被害の局限化等を図るため、災害対応能力を強化した巡視船、救難・防災資器材、耐震補強や自立型電源化を施した航路標識等の整備、大規模地震・津波対策に資する測量観測体制の強化等の防災体制の充実強化に取り組んでいる。

(災害対応の担い手としての地域建設産業の再生)
 地域の建設企業は、災害対応、除雪、インフラの維持管理等、地域社会の維持に不可欠な役割を担っている。今回の大震災において、被災地の建設企業は、国や地方公共団体との間で締結している災害協定等に基づき、震災発生直後からいち早く現場に駆けつけ、地域における被災情報の収集、重機や資機材の調達、応急復旧工事の実施等に大きな役割を果たすとともに、被災者雇用の維持にも貢献した。
 しかしながら、特に地方圏において、企業体力の低下、企業の小規模化、軽量化等が進んできていることから、採算性が低く、かつ、一定の労働者や機械の確保が必要となる災害対応、除雪、インフラ維持管理等の地域維持事業を行い得る企業が減少し、このままでは最低限の維持管理等まで困難となる地域が生じかねないなど、地域社会の維持に支障をきたす事例や懸念が発生している。大半の地方公共団体も、地域維持事業の実施に将来的な懸念を抱いており、とりわけ、除雪については既に支障が生じているとする団体が少なくない。このため、平成23年8月、「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」の一部変更を閣議決定し、地域維持事業の担い手確保に資するための新たな契約方式として「地域維持型契約方式」を導入し、同年11月には地域維持型建設共同企業体運用準則の策定を行った。国土交通省や地方公共団体が行う地域維持事業の一部においては、必要に応じて、複数企業による共同組織との間で、複数の地域維持事業を一括した契約や、複数年契約を結ぶなどの工夫が始まっている。
 さらに、24年3月、被災地域の建設企業が被災地域外の建設企業と共同で工事を受注することにより、地域における雇用の確保を図りつつ、被災地域において不足する技術者や技能者を広域的な観点から機動的に確保するため、岩手県・宮城県・福島県の3県において「復興JV」制度を試行導入した。
 
図表62 復興JV制度

図表62 復興JV制度

 

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