第3節 震災後における国土交通行政の転換 

2 多重性(リダンダンシー)、ネットワークの重要性の再認識

(高速道路のミッシングリンク解消と事業評価の充実)
 東日本大震災では、太平洋沿岸の国道45号は被災・寸断されたが、部分的に供用していた三陸沿岸道路等の高速道路は、過去の津波を考慮して高台に整備していたため、損傷がほとんどなく、発災後も国道45号の迂回路や緊急輸送路として大きな役割を果たした。また、過去の震災を踏まえ耐震補強を実施してきた結果、幹線道路は致命的な被害を受けずに早期復旧が可能となった。さらに、被災後に利用が制限された太平洋側の高速道路の代替として、日本海側の幹線道路網が物資の輸送ルートとして機能したなど、災害時に高速道路ネットワークが果たす役割を再認識したところである。
 しかしながら、依然として唯一の国道が津波により被災し孤立しやすいなど、国道に防災上の課題があり脆弱な地域が存在するため、「繋げてこそのネットワーク」を改めて認識し、脆弱な地域の災害への対応量を高め、国土を保全するネットワーク機能の早期確保を最優先課題とし、高速道路のミッシングリンクの解消等による道路ネットワークの強化に取り組む。
 
図表63 高速道路のミッシングリンク

図表63 高速道路のミッシングリンク

 また、従来の「渋滞解消等を図るネットワーク」の考え方(交通量や時間短縮といった経済効率性の評価に着目)に加え、平成23年度第3次補正予算における三陸沿岸道路等の新規事業採択においては、「災害時に地域の孤立化等を防ぐネットワーク」という観点から、防災面の広域的なネットワーク効果等を評価する手法が取り入れられているところである。こうした事業評価の適用事例を通じて、防災上の課題やネットワーク効果も含めた整備効果をより一層反映するよう手法の改善を図ることとしている。
 
図表64 防災機能の評価手法(暫定案)のポイント

図表64 防災機能の評価手法(暫定案)のポイント

(多様な移動・輸送手段の確保)
 東日本大震災では、鉄道網の寸断に対して高速バスによる代替輸送が大きな役割を果たした。また、燃料不足への対応としてタンカー等による日本海側港湾への輸送及び日本海側を迂回する臨時貨物列車による輸送が行われた。さらに、航空においては、仙台空港の代替として花巻、山形空港等を活用し、救援機の活動や代替輸送の拠点としての役割を担わせた。このような東日本大震災での経験を教訓に、大規模災害発生時においては、被害拡大防止、応急対応、復旧・復興対策の迅速かつ円滑な実施のため、広域的なバックアップ体制や適切なリダンダンシーの確保等、陸海空が連携して移動・輸送手段の確保を図るための検討が必要である。
 このため、現在、大都市圏においては、大規模地震等により長期間にわたり鉄道の運行障害が発生することも想定されることから、鉄道の復旧状況に応じてバス輸送を活用するなどモード横断的な旅客代替輸送の確保を図るための検討を行っている。

(社会資本の多面的な活用:避難地・防災拠点としての都市公園、道路)
 今回の津波災害においては、海岸部の大部分の樹木が倒伏し、樹木自体が流失して被害が生じている一方、樹林が後背地の家屋への被害を軽減した事例や車両等の漂流物を捕捉した事例等、津波災害の減災に一定の効果が見られた。
 
図表65 自動車等の漂流を防いだ樹木

図表65 自動車等の漂流を防いだ樹木

 このことを踏まえ、地方公共団体が復興まちづくり計画の検討等に活用できるよう「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」をとりまとめた。この指針では、公園緑地が、多重防御の1つとしての機能、避難路・避難地としての機能、復旧・復興支援の機能、防災教育機能の4つの機能を有するものとし、減災効果が発揮されるための公園緑地の計画・設計等の考え方を示している。
 道路についても、住民の避難場所として機能した例(三陸縦貫自動車道)、浸水拡大防止効果のあった例(仙台東部道路)が確認されている。また、道の駅、SA・PAやインターチェンジと一体開発された施設が防災拠点として活用された。このことを踏まえ、災害発生時の被害を軽減するために、平成23年度第3次補正予算等において、道路の防災対策(斜面崩落防止、盛土補強等)や橋梁の耐震補強を引き続き推進しつつ、交通施設への防災機能の付加(道の駅やSA・PAの防災拠点化、緊急連絡路の整備、避難階段の整備)を進めるなど、道路の防災・震災対策等を実施した。
 海沿いの高速道路の盛土法面等を津波の際の緊急避難場所にする動きは全国に広がっている。被災地以外でも、徳島県、徳島市が23年8月、西日本高速道路株式会社と四国横断自動車道の徳島市域において津波緊急避難場所を設置する協定を結んだ。同年11月には、静岡県静岡市、焼津市が、津波の際に東名高速道路の盛土法面に緊急避難できるよう中日本高速道路と協定を締結した。
 
図表66 社会資本の多面的な活用

図表66 社会資本の多面的な活用

(災害時を想定した河川利用)
 東日本大震災を踏まえ、緊急時における船着場の安全かつ確実な利用のため、平常時からの利用が必要であることから、平成23年9月に、東京都、墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区等の自治体と観光・教育・水面利用等関係諸団体、学識経験者から構成する「東京低地河川活用推進協議会」を設立し、荒川等の船着場の利用促進に向けた基本的な考え方を24年3月に取りまとめた。
 また、荒川下流部については、緊急用河川敷道路や緊急用船着場等の防災施設及び河川敷を有効的かつ円滑に利活用することにより、迅速な災害対策活動に資することを目的として、東京都、埼玉県、沿川の2市7区の自治体、警察、消防、自衛隊で構成する「荒川下流活用計画運用協議会」を24年2月に設立し、新たな運用マニュアルを策定した。

(情報通信網の多重化)
 今回の震災においては、被災地域の自治体との情報通信の断絶も見られ、支援活動の妨げとなった。これらの状況を踏まえ、自治体と道路・河川管理のための映像・データ交換用として接続している光ファイバ回線を活用し、新たにマイクロ電話と接続可能な電話回線の構築を推進し、公衆回線等による情報通信が途絶えた場合においても自治体が国土交通省等との情報通信を確保できるようにする。
 
図表67 光と無線の連携によるネットワーク、自治体ルート多重化イメージ

図表67 光と無線の連携によるネットワーク、自治体ルート多重化イメージ

(災害時の支援物資物流拠点や体制の構築)
 今回の東日本大震災は未曾有の大規模災害であったことから、地方公共団体だけでなく、国も初めて支援物資の調達と輸送等を実施した。その際、多くの物流事業者による支援物資の輸送の重要性が認識されたところである。
 
図表68 東日本大震災時の物流

図表68 東日本大震災時の物流

 こうした教訓を踏まえ、関東、東海、近畿、中四国・九州の4ブロックにおいて、災害に強い物流システム構築に関する協議会を設置した。国・地方公共団体、有識者、物流事業者・事業者団体等で構成するそれぞれの協議会で、支援物資物流を円滑に実施するため、発災時に取り組むべき事項や役割分担の整理、地方公共団体と物流事業者・事業者団体の災害時における協力協定の締結に向けた調整、支援物資集積・管理・配送のための民間物流拠点の選定、平時における訓練の実施等について取りまとめ、災害時に物資拠点として活用する民間物資拠点として全国で395箇所をリストアップした。
 
図表69 各協議会の対象地域

図表69 各協議会の対象地域

(緊急輸送道路の確保)
 首都直下地震の切迫性が指摘される中、災害で倒壊した建物が緊急輸送道路を塞ぐことを防止するため、東京都は、平成23年3月、緊急輸送道路沿道の建築物の耐震を推進する条例を制定した。24年4月から、特定緊急輸送道路(1,000km指定)の沿道のビルやマンション約5,000棟の所有者に耐震診断の実施を義務付ける。25年度までに約3,000棟の耐震診断を完了させ、改修が必要な建物については、実際に改修工事を進めていくこととなる。

(東京圏の中枢機能のバックアップ)
 東日本大震災では、甚大な被害が広範囲に及び、また、その経済的な影響が広く国内外に及んだことから、このような広域巨大災害による被害を最小限に食い止めるための国土のあり方が国土政策上の重要な課題となった。とりわけ、国の中枢機能が集中している東京圏が被災した場合には、東京圏のみならず我が国全体に計り知れない深刻な影響が及び、さらには国際的にも広くその影響が及ぶことは明らかである。
 このため、東京圏の中枢機能については、いかなる事態が発生した場合にも停止しない、あるいは即座に復旧できるような防災面の強化に加え、万一停止した場合にも他の地域で最低限必要な機能を代替する「バックアップ」の必要性が各方面から指摘されている。
 これらを背景に、有識者による検討会を設け、東京圏の中枢機能のバックアップについて基礎的な検討を行い、平成24年4月、バックアップすべき業務、バックアップすべき業務の実施に必要な資源(指揮命令系統、要員、施設・設備、情報、資源のあるべき準備体制(平時のスタンバイ状態))、バックアップ場所等の要件、バックアップ体制への移行等の判断及び手続等について基礎的な論点とその考え方等を取りまとめた。マグニチュード7クラスの地震の発生確率が今後30年間で70%とされている首都直下地震の切迫性にかんがみ、東京圏の中枢機能のバックアップ体制を構築するための実現プロセスにつなげていくために、政府全体としての速やかな取組みが期待される。

 

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