第1節 持続可能で活力ある国土・地域づくりをめぐる現状と課題 

7 官民連携や広域連携等幅広い連携の強化

 高齢社会の進展に伴い、歳出に占める社会保障関係費のシェアは年々増加している一方で、公共事業関係費のシェアは低下している。また、行政の財政制約が厳しくなっている一方で、国民が多額の金融資産を保有している。我が国の家計の金融資産1,488兆円の保有状況について見ると、現金・預金が占める割合が多く(57%)、その保有世代は60歳以上で約6割を占める。厳しい財政状況の中にあって、国土・地域の活力を高め、持続的な成長を実現していくためには、民間の知恵と資金を活用し、真に必要な社会資本の整備を着実に行っていくことが不可欠である。
 
図表172 公共事業関係費・社会保障関係費の推移

図表172 公共事業関係費・社会保障関係費の推移
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図表173 民間資金の状況

図表173 民間資金の状況
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(PPP/PFIへのニーズの高まり)
 これまで公共事業の主要な実施手法であった国直轄事業、地方公共団体補助事業・地方単独事業に加えて、民間の資金・知恵・人材を活用するPPP(官民連携)/PFI事業が「第三の柱」として成長するための新しい環境整備が重要である。PPP/PFI事業としては、包括的民間委託、指定管理者制度、PFI方式、コンセッション方式等が考えられる。国土交通省では、平成22年に策定した国土交通省成長戦略において、空港、港湾等を重点分野として具体的なプロジェクトを形成、実施するとともに、行政財産の商業利用についても積極的に支援することとしている。また、国土交通省関連のPPP/PFI事業費について、2020年までの合計で新たに2兆円実施することとしている。国土交通省成長戦略を受けて、23年の通常国会で、港湾運営会社制度の創設を内容とする「港湾法」の改正、関空・伊丹のコンセッション活用を内容とする「関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律」の制定、「都市再生特別措置法」の改正を行った。
 
図表174 主要なPPP手法

図表174 主要なPPP手法

 政府の新成長戦略(22年6月18日閣議決定)においても、民間資金の活用を促進すべきことが述べられており、
 ・PFI事業規模について、2020年までの11年間で、少なくとも約10兆円以上(従来の事業規模の2倍以上)の拡大を目指す
 ・その実現のため、コンセッション方式の導入等、PFI制度の拡充を平成22年度に実施する
とされているところである。
 
図表175 新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)抜粋 IV 観光・地域活性化戦略

図表175 新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)抜粋 IV 観光・地域活性化戦略

 新成長戦略における方針に基づき、23年5月、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が改正された。改正後のPFI法では、コンセッション方式による施設運営が可能になったほか、対象施設の中に賃貸住宅、船舶・航空機等が新たに追加され、民間事業者がPFI事業を計画し、行政に提案できる制度が導入されている。
 コンセッション方式では、施設の所有権を民間に移転しないまま、運営権を長期にわたって民間事業者に付与し、事業者はサービス内容や施設の利用料金を自ら決定することができる。これによって、事業者による自由度の高い運営が可能になり、民の経営努力により低廉な料金設定や質の高いサービスを実現することが可能となる。
 今回の国民意識調査でも、コンセッション方式の導入について、「財政が厳しい中、民間資金の導入はよいことだと思う」と回答した者が45%、「民間部門のノウハウがより一層活用できるのでよいことだと思う」が30.7%と、民間の資金やノウハウに期待を寄せている様子が推察される。
 
図表176 コンセッション方式について

図表176 コンセッション方式について
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(関空国際空港及び大阪国際空港に係るコンセッションの実現)
 関西国際空港と大阪国際空港については、平成24年4月1日に新関西国際空港株式会社が設立され、24年7月1日から同社が両空港を一体的に運営することとなる。同社は、両空港の事業価値を増大し、公共施設等運営権の設定(コンセッション契約)をできるだけ早期に実現することにより、関西国際空港の債務の早期の確実な返済を行うとともに、両空港の適切かつ有効な活用を通じて、我が国の国際競争力の強化及び関西経済の活性化に寄与することを目指すこととなる。

(空港経営改革の推進)
 国管理空港(大阪国際空港を除く27空港)についても、平成23年7月に「空港運営のあり方に関する検討会」において報告書が取りまとめられた。同報告書では、1)着陸料等の収入がプール管理されているため、空港ごとの経営効率化が図られない、2)滑走路等は国が運営する一方で、空港ビル等は民間事業者が運営するという運営主体の分離によって、空港全体での一体的・機動的な経営が実施できていない、という2つの問題点が指摘されたところである。
 こうした課題を解決し、空港の本来の役割を最大限発揮させるために、個別空港ごとの経営を実現することで、より地域と向き合った空港運営とするとともに、民間の能力を活用して、空港ビルも含めた一体的な経営を実現することで、機動的空港運営を可能とすることとしている。
 具体的な取組みとして、24年3月に国管理空港等について公共施設等運営権制度を活用した民間への運営委託を可能とするための法案(「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律」案)を第180回国会に提出した。法案成立後、すみやかに国管理空港の空港経営改革についての実行方針(基本方針)を策定し、概ね2020年度までに、27空港について空港経営改革を実現する予定である。

(港湾運営会社制度の導入)
 平成23年12月、戦略的かつ効率的な港湾運営を実現するため、民の視点を取り込んだ港湾の一体運営を担う港湾運営会社制度が創設された。港湾運営会社は、主要コンテナ埠頭等の運営及びポートセールス等を一元的に実施することとなる。国、港湾管理者は港湾施設の貸付け、無利子資金の貸付け、税制特例等を通じ総合的支援を行う。24年度から、東京港、横浜港、川崎港、大阪港、神戸港において、順次、港湾運営会社による効率的な港湾運営を実現する予定である。
 
図表177 国際コンテナ戦略港湾における港湾運営会社設立のイメージ

図表177 国際コンテナ戦略港湾における港湾運営会社設立のイメージ

(PPP/ PFI事業の案件形成)
 国土交通省では、PFI制度に基づく事業を拡大するとともに、新たなPPP/PFI制度の構築と具体的案件形成を推進するため、平成23年の5月から6月にかけて、地方公共団体及び民間事業者から、官民連携案件の募集を実施した。
 対象としたのは、1)先導的官民連携支援事業、2)官民連携事業の推進に関する検討案件、3)官民連携事業による震災復興案件の3分野であり、合計で144件の応募があった。
 
図表178 PPP/PFI事業の案件形成

図表178 PPP/PFI事業の案件形成

 先導的官民連携支援事業については11件採択し、採択された各地方公共団体等において、公共下水道、有料道路等の個別の公共施設におけるPPP/ PFI手法の導入方法策等について調査検討を行った。
 官民連携事業の推進に関する検討案件については、応募のあった案件を基に検討課題を設定の上、公共施設等運営事業等における経営面の課題の検討、官民連携事業による複数公共施設の包括マネジメントの効果検討等を行った。
 官民連携事業による震災復興案件については、11件の案件の調査検討を実施した。具体的には、福島県における官民連携による地域特性を踏まえた災害公営住宅等の整備に係る検討、宮城県石巻市における官民連携手法を活用した津波避難モール整備手法検討、岩手県山田町における被災地復興のための官民連携による仮設コミュニティ形成検討等を実施した。

(海外において積極的に活用されるPPP/PFI)
 PPP/PFIの発祥地英国をはじめとして、海外では、公共投資と財政健全化の両立という課題への対応として、PPP/PFIの導入が積極的に進められている。特に、インフラ整備のための資金調達の仕組みとして、海外で活発に行われているのがインフラファンドである。インフラファンドは、投資家から資金を集め、道路、鉄道、港湾等のインフラへの投資を行う基金であり、その資金調達額は、ピーク時の2007年には442億ドルに上っている。その後、経済危機により落ち込みを見せているものの、2010年以降、回復の兆しが見えている。インフラへの投資は、リスクが少なく、長期間の運用に向いていること等から、オーストラリア、カナダ、英国等では、インフラファンドを通じた、年金・保険機関による資金運用が拡大している。
 
図表179 非上場インフラファンドの資金調達

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図表180 インフラ投資家ランキング(2010年)

図表180 インフラ投資家ランキング(2010年)

 英国では、2011年11月までに契約されたPFIの事業数(財務省に報告されたもの)は、約700事業あり、その事業資産価値は約540億ポンド(約7兆円)である。
 
図表181 英国のPFI事業の推移

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 その期間設定を見ると、20年以上40年未満が90%を占めており、また、分野別に見ると、教育省関係と健康省関係が50%を占める。
 
図表182 英国のPFIにおける期間設定

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 さらに、2011年11月、英国政府は、英国年金基金2機関(The National Association of Pension FundsとThe Pension Protection Fund)との間で、インフラへの新たな投資を促進する官民連携プラットフォームづくり等の環境整備を行うことで合意しており、政府としては、追加投資の目標を200億ポンド(約4兆円)とするなど、今後もPFI事業の拡大が見込まれるところである。
 
図表183 分野別PFI実施件数

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(官民連携によるインフラの海外展開)
 建設・運輸産業の国内市場が中・長期的に縮小傾向にある一方で、アジア等の地域においては、引き続きインフラ整備への大きな需要が見込まれている。これらの需要を取り込むための官民連携による海外プロジェクトの推進は、新成長戦略の中に重要施策として位置付けられており、トップセールスの展開や各種協議会の開催、人材の育成、個別企業では対応が困難なリスクに対する支援を行うなど、プロジェクト構想段階から発注・実施段階に至るまで、総合的・戦略的な支援を行うこととしている。
 
図表184 我が国建設企業の海外受注実績の推移

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 また、海外のインフラプロジェクトに関し、官民連携による海外展開に向けた取組みを推進するため、民間企業、地方公共団体、関係機関、関係省庁をメンバーとする協議会を設置・開催している。これまでに、海外水インフラPPP協議会、海外道路PPP協議会、海外鉄道推進協議会、海外港湾物流プロジェクト協議会、海外エコシティプロジェクト協議会が開催されており、東アジアを中心とした各国からの参加者も得ているところである。

(「新しい公共」の参画の推進)
 地域の課題を解決する新たなアプローチとして、これまで行政が担ってきた公共サービスを地域住民や事業者の協働によって実現する、いわゆる「新しい公共」の考え方が広がっている。地域の抱える課題を自ら解決するため、地域の住民や企業、NPOといった主体が自発的に活動する場が生まれてきている。NPO法人数は、この10年で約3,000から40,000以上となり、10倍以上に増加している。東日本大震災後の復興支援においても、多数のNPO法人等が活躍している。
 
図表185 NPO法人数の推移

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 しかしながら、欧米諸国と比べると、生産年齢人口に占める非営利セクターの就業者の割合は低い水準にある。
 
図表186 各国の生産年齢人口に占める非営利セクターの就業者の割合

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 一方で、国民の間においては、NPO・社会参加の意向は強くなっている。地域活動へ参加したいと回答した者の割合は、平成20年度の国民意識調査では約3割であったが、今回の国民意識調査では約4割へと増加している。行政意識としても、NPO、市民一人ひとりをはじめとする多様な主体による地域づくりへの期待が大きい。
 
図表187 居住地域の地域活動に対する参加意欲の変化

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図表188 参加してもよいと思う地域活動

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図表189 地域づくりの担い手についての市町村の意識調査結果

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 しかしながら、NPO法人や地域住民等から構成される法人格をもたない任意団体等の「新しい公共」の主体となる団体の現状を見ると、その6割が人口規模10万人未満の都市で活動し、また、その半分が高齢化率25%以上の地域で活動している。
 
図表190 団体の活動都市の人口規模

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図表191 活動地域の高齢化率

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 また、団体の経営状況を見ると、1団体当たり平均スタッフ数は12.1人であり、年間総収入額500万円未満の団体が5割弱を占める。人材確保、育成のための資金が十分にないことが課題といえる。
 
図表192 人材面全般における課題

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図表193 団体の年間総収入額

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 このような中、22年6月に閣議決定された政府の「新成長戦略」においても、「新しい公共」を「官だけでなく、市民、NPO、企業等が積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、教育や子育て、まちづくり、介護や福祉等の身近な分野において、共助の精神で活動する」と位置付け、その支援を推進することとされた。
 23年6月には、NPO法人の健全な発展のための環境整備を図るため、「特定非営利活動促進法(NPO法)」の改正により、1)活動分野の追加(観光振興、中山間地域振興等)、2)手続の簡素化、3)仮認定を含む新たな認定NPO法人制度の創設が行われた。これらにより、NPO法人等の「新しい公共」の担い手への寄付や参画を促進し、多様化する社会のニーズを人々の支え合い、地域の絆によって充足することを目指すことが重要である。

(コミュニティファンドの展開)
 NPO等の事業主体が地域のための公益的な活動を行うに当たって、公的支援や寄付のみでは調達できる金額に限りがある。市民の中には、自らの出資により自分たちの住む地域を良くしたいという気持ちを持つ人も多くいると考えられる。地域に眠っている「志ある資金」が、公共性のあるサービスを提供しようとする事業者に対して投入される仕組みも求められている。
 そのような仕組みの一環として、コミュニティファンドと呼ばれる、地域のために活動する企業や個人と何らかの形で資金を提供したいと考えている個人や法人との間で、資金の仲介機能を果たす存在が期待されている。地域の志ある住民、企業、自治体等から出資を募り、地域に貢献する公益的な事業に出資するものである。これらの機関を通じた資金循環の仕組みを構築することにより、地域の資金を地域内で活用することができる。

(広域連携・地域間連携)
 今後、日本の人口が減少する中で、地域の再生・活性化を図る方策の一つとして、地域間の連携を強化し、広域的な人の交流やモノの輸送の拡大を通じて、活力を生み出していくことが求められる。今回の国民意識調査によると、広域連携で政策効果が高まると思う分野について聞いたところ、道路・鉄道等の交通分野と答えた人が最も多く(29.7%)、防災分野(23.4%)、環境・廃棄物・エネルギー分野(22.0%)がそれに続いて多かった。
 
図表194 広域連携で政策効果が高まると思う分野

図表194 広域連携で政策効果が高まると思う分野
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 防災分野の広域連携の展開については、今回の大災害を契機として、地域防災力向上に向けた体制づくりが広がっている。
 岩手県遠野市は、三陸沿岸と内陸を結ぶ地点に位置し、放射状に国道が延び、沿岸の陸前高田市や大船渡市、釜石市まで車で1時間の距離であることから、後方支援拠点構想を打ち出し、津波災害に備えてきた。震災発生直後から、市内の遠野運動公園を自衛隊や警察、消防、医療チームの前線基地として開放したほか、全国からの救援物資を被災地に届け、災害ボランティアを派遣した。この経験を踏まえて、平成24年3月に、遠野市防災会議において、修正した市地域防災計画に、新たに「後方支援活動編」を加え、津波災害に対する岩手県沿岸部への支援を市の「任務」として明確に位置付けることが承認された。また、他自治体や関係機関と後方支援協定を締結することや後方支援のための条例を制定することを検討しているところである。
 東日本大震災の教訓を踏まえ、市区町村単位による災害時の「水平的支援」を展開するための体制整備として、災害時相互支援の条例を制定する検討が始まっている。東京都杉並区、福島県南相馬市、北海道名寄市、新潟県小千谷市、群馬県東吾妻町の5市区町は、災害発生時には5市区町の間で支援物資を供給し、また、被災者を受け入れること等を盛り込んだ条例を24年中に制定することを目指している。
 エネルギー分野においても、広域連携の動きがある。東京都は、22年3月、再生可能エネルギーの地域間連携を行うため、北海道、青森、岩手、秋田、山形との間で協定を締結した。東京都は、都内のエネルギー需要者に再生可能エネルギーの需要創出を働きかけ、北海道、東北4県は、地域内で再生可能エネルギー開発と供給を行う。
 再生可能エネルギーのポテンシャルを都道府県別に見ると、北海道や東北等でポテンシャルが高く、一方で、大都市圏を構成する都道府県で電力使用量が圧倒的に多い。そこで、都市と地域の連携を図り、豊かな自然を有する地域のエネルギーを電力の大量消費地で有効活用することで、地域の雇用や活力を生むことも期待できる。
 
図表195 都道府県別電力使用量と再生可能エネルギー使用可能量

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