3 エネルギー・環境制約の再認識  東日本大震災においては、東京電力福島第一原子力発電所の事故が生じた。その後、全国の原子力発電所が定期検査等により順次運転を停止したこと等により、全国的に電力需給が厳しい状況となり、東北電力・東京電力管内をはじめとする全国の多くの地域において節電の取組みが実施されることとなった。  一方、地球温暖化は地球全体の環境に深刻な影響を及ぼすものであり、国連における気候変動枠組条約の目的である「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準で大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」が人類共通の課題となっている。我が国は、この課題に率先して立ち向かっていくとの姿勢で温室効果ガスの削減に取り組んできたところであり、東日本大震災を契機に喚起された新たなエネルギー需給のあり方の議論を通じた低炭素社会の実現に向けて、省エネルギー・再生可能エネルギーについての先進的な取組みを展開していくことが重要である。  省エネルギーについては、その徹底に加え、電力ピークのカットが必要になっている。また、再生可能なエネルギーでこれまで未利用だったものに着目していくことが必要である。これまでは採算ベースにのらなかった未利用エネルギーも、将来的な電気使用コストの増加が見込まれる中では、採算ベースにのってくるものがあると思われる。再生可能エネルギーの活用のため、事業者をはじめ個々人の取組みが求められている。 (環境未来都市の推進)  政府においては、震災前の「新成長戦略」(平成22年6月閣議決定)において、未来に向けた技術、仕組み、サービス、まちづくりで世界トップクラスの成功事例を生み出し、国内外への普及展開を図る「環境未来都市」の創設という構想が定められていたが、震災後の「日本再生のための戦略に向けて」(23年8月閣議決定)においても同構想は盛り込まれた。 図表70 大船渡市・陸前高田市・住田町の「環境未来都市」構想  23年12月、被災地について、6件(岩手県大船渡市・陸前高田市・住田町、岩手県釜石市、宮城県岩沼市、宮城県東松島市、福島県南相馬市、福島県新地町)の環境未来都市が選定され、優れたモデルを全国に展開していくことが期待される。国土交通省としても、震災をきっかけとしてまちづくりのあり方が根本から問い直されていることにかんがみ、最優先課題である防災・減災機能を付加した災害に強い土地利用・交通体系の構築を目指すとともに、環境への負荷の小さい集約型都市構造、低炭素まちづくりの実現に向けた支援に取り組むこととしている。 (低炭素化に向けた取組み)  低炭素化に向けた取組みを推進するため、国土交通省としての総合力を発揮し、地域社会・国民生活の構成要素となる住宅・建築物、輸送機関、公共施設について、将来スタンダード化されるべき環境性能を先取りして具現化していく。さらに、これらを組み合わせて、まち・住まい・交通分野等をパッケージにした、町全体の創蓄省エネ化を進めていく。具体的には、以下のとおり、個別の施策を展開している。 1) 住宅・まちづくりに係る取組み (ア)ゼロ・エネルギー住宅等の推進  現在の省エネ基準を満たした住宅は、新築住宅全体の4割にとどまっている。断熱性能等の向上に資する先導的な省エネ技術の導入等、住宅における省CO2化の取組みを一層加速させるため、ゼロ・エネルギー住宅等に対し重点的な支援を行う。  なお、被災地におけるゼロ・エネルギー住宅の普及促進等を図るため、民間事業者等からプロジェクトを公募採択し、支援を行っている。 図表71 ゼロ・エネルギー住宅のイメージ  また、(独)住宅金融支援機構では、長期・固定金利の住宅ローンである「フラット35S」について、省エネルギー性の優れた住宅を取得する場合の当初5年間の金利引下げ幅の拡大措置(被災地0.3%→1.0%、被災地以外0.3%→0.7%)を実施している。 (イ)住宅エコポイントの再開等  平成23年度第3次補正予算において、住宅市場の活性化と住宅の省エネ化を推進しつつ、東日本大震災の復興支援を図るため、住宅エコポイントは「復興支援・住宅エコポイント」(以下、「新制度」という)として再開された。  エコ住宅の新築は、以前と同様、1)省エネ法のトップランナー基準相当の住宅、又は、2)省エネ基準(11年基準)を満たす木造住宅がポイント発行対象であり、新制度では復興支援のため、被災地注1においては、その他地域の倍となる30万ポイントが発行される。  エコリフォームは、以前と同様、窓・躯体の断熱改修やこれらと合わせて行われるバリアフリー改修、住宅設備の設置にポイントが発行されるが、新制度では新たに、エコリフォームに合わせてリフォーム瑕疵保険に加入した場合にもポイントが発行される。1戸当たりの発行上限は30万ポイントであり、さらに耐震改修を行えば15万ポイントが加算され、最大45万ポイントが発行される。  また、発行ポイントの半分以上を被災地で生産された商品や被災地への寄附等と交換するという復興支援に資する仕組みとなっている。 図表72 住宅エコポイントの再開  さらに、24年度税制改正において、「都市の低炭素化の促進に関する法律」の制定に伴い、優れた省エネ性能を有するなど低炭素化のための措置が講じられたことにつき認定を受けた住宅に対する住宅ローン控除の控除対象となる住宅借入金等の年末残高の限度額を引き上げるなどの税制特例措置を創設することとしている。 (ウ)住宅・建築物の省エネ基準適合義務化に向けた環境づくり  平成32年までにすべての住宅・建築物の省エネ基準について段階的に適合義務化することに向けた検討を関係省庁と進めている。その一方、省エネ基準適合義務化に向けた環境づくりとして、省エネ性能の評価・審査体制の整備及び人材の育成、中小工務店等の省エネ施工技術習得の支援等を行う。 (エ)エネルギーの面的利用  太陽光や工場排熱等の活用促進を図るため、市街地整備の一環として、これらエネルギーを地区・街区単位等で面的に活用するシステムを構築するための計画策定、事業実施のコーディネート、実証実験、施設整備に対して支援を行う。 2) 交通分野に係る取組み (ア)電気自動車等の加速度的普及促進  ゼロエミッション自動車(走行中にCO2やNOx、粒子状物質等を排出しない自動車)として環境性能が特に優れた電気自動車の普及を図るため、他の地域や事業者による電気自動車の集中的導入を誘発・促進するような地域・事業者間連携等による先駆的な取組みを重点的に支援している。  被災地において、低炭素まちづくりと連携したバス・タクシー及びトラックの電気自動車の導入を行う自動車運送事業者等を支援している。  また、環境性能に優れた自動車に対して自動車重量税・自動車取得税を減免する特例措置(エコカー減税)や、自動車税の税率を軽減する一方、新車新規登録から一定年数以上を経過した自動車に対しては税率を重課する特例措置(自動車税のグリーン化)等を講じている。  さらに、自動車の燃費基準についても、平成23年10月、32年度を目標年度とする新たな燃料基準の最終取りまとめを行い、より一層の燃費改善を図ることとしている。 (イ)鉄道における低炭素・省エネルギーの取組み  車両や変電所に設置した蓄電池を利用することによる回生電力注2の有効活用、駅・駅ビルの照明等への再生エネルギーの活用等、鉄道分野においても低炭素・省エネルギー対策を進める。また、節電効果が期待されるエネルギー効率の高い鉄道車両の技術開発に対して支援を実施している。 (ウ)港湾における低炭素・省エネルギーの取組み  港湾活動に伴う温室効果ガス排出量の削減を図るため、港湾活動に使用する荷役機械等の省エネルギー化、再生可能エネルギーの利活用、CO2の吸収源拡大等の取組みを進めるゼロエミッションポート施策を推進する。具体的には、環境省と連携した省エネルギー型荷役機械、大規模蓄電施設の普及促進、官民共同による風力発電施設の活用推進等を図っている。 (エ)国際海運におけるCO2排出規制の導入  平成23年7月、国際海事機関(IMO)において、我が国の主導により(日本は規制の仕組み等の提案文書を提出)、国際海運におけるCO2の排出規制に関する国際条約が採択された(平成25年条約発効)。これを受け、25年から新造船にCO2排出基準適合を義務付ける方針であり、国内法である「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」の改正案を第180回国会へ提出している。 3) その他再生エネルギーの利用 (ア)下水道の再生可能エネルギー利用  下水汚泥のエネルギー利用、下水熱利用、下水処理に係る革新的技術について、国が主体となって、実規模レベルのプラントを設置して、技術的な検証を行い、ガイドラインを取りまとめ、民間企業のノウハウ、資金を活用しつつ、全国の下水道施設への導入を図る。 (イ)都市における地産地消型再生可能エネルギー活用の推進  都市の公園・街路等から発生する未利用の植物廃材(剪定枝等)を、地産地消型再生可能エネルギーとして活用することにより、災害にも強い低炭素・循環型都市の実現を図るため、平成24年度に、都市由来の植物廃材の特性を踏まえた、エネルギー化効率の高い発電プラントの開発に向けた実証実験と、災害時に非常用電源として使用するための運営計画の策定、植物廃材の収集・運搬、エネルギー転換、副産物の処理等の一連のプロセスにおいて金銭的収支及びCO2収支が成立する方策等の検討と、その成果による技術的指針の作成等を行う。 図表73 都市における地産地消型再生可能エネルギー活用の推進 (ウ)小水力発電の推進  再生可能エネルギーの導入促進等を目指して、平成23年度に検討が開始されたエネルギー分野の規制・制度改革の一環として、河川から取水した小水力発電(従属発電)について、河川の流量への新たな影響が少ないことから、現行の水利使用の許可制度に代わり、新たに登録制の導入を24年度に検討する。 (エ)風力発電の推進  平成23年度に検討が開始されたエネルギー分野の規制・制度改革の一環として、風力発電設備に関する審査について、建築基準法上の審査基準と電気事業法上の電気工作物に求められる技術基準の内容を整理した上で、太陽電池発電設備と同様に電気事業法上の審査に一本化することについて24年度に検討し、結論を得る。  洋上沖合に設置する浮体式洋上風力発電施設特有の課題である漂流、転覆・沈没等、浮体・係留設備の安全性に関する技術的検討を開始し、24年4月、「船舶安全法」に基づく「浮体式洋上風力発電施設技術基準」を制定した。引き続き、安全性に関する技術的検討を実施し、「安全ガイドライン」注3を作成し、浮体式洋上風力発電施設の普及拡大に向けた環境整備を図るとともに、我が国のルールの国際標準化を推進する。 注1 「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」における「特定被災区域」 注2 回生電力とは、電車の減速時のブレーキとしてモータを用い、このモータを発電機として利用し発生させた電力のこと。 注3 「安全ガイドライン」は、技術基準を満たすための具体的な設計手法等をまとめたものであり、例えば「50年間に想定される最大風速に耐えること」という基準に対して、収集すべき気象データの種類、風の影響を評価するために使用可能な計算プログラム、実験の方法等を定めることとなる。