6 社会資本の適確な維持管理・更新 (社会資本老朽化の進行)  我が国では、高度経済成長期に社会資本が集中的に整備され、これらのストックは、建設後既に30〜50年の期間を経過していることから、今後急速に老朽化が進行すると想定される。建設後50年以上経過した社会資本の割合を現在(平成22年度)と20年後で比較すると、例えば、道路橋は約8%が約53%に急増する。河川管理施設である排水機場・水門等についても約23%が約60%、下水道管きょは約2%が約19%、港湾岸壁は約5%が約53%と急増する。 図表150 建設後50年以上経過したインフラの割合 図表151 老朽化する施設 (維持管理・更新費の増加)  このような社会資本の老朽化の現状にかんがみれば、今後、維持管理・更新費の増大が見込まれる。図表152は、国土交通省所管の社会資本(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)を対象に、過去の投資実績等を基に今後の維持管理・更新費(災害復旧費を含む。以下同じ。)を推計したものである。今後の投資総額の伸びが2010年度以降対前年度比±0%で、維持管理・更新に従来どおりの費用の支出を継続すると仮定すると、2037年度には維持管理・更新費が投資総額を上回る。2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費(約190兆円)のうち、約30兆円(全体必要額の約16%)の更新ができないと試算している。 図表152 従来どおりの維持管理・更新をした場合の推計  維持管理・更新費の不足により、適切な維持管理が行われないことになれば、インフラの機能不全により、人々の生活に影響を及ぼすおそれや、老朽化により事故や災害等を引き起こす可能性が懸念される。実際に、米国では、2007年にミネソタ州でミシシッピ川に架かる橋梁が崩落する事故が起きている。この事故は死者13人、負傷者100人以上を出す大惨事となった。古くなったインフラの点検や補修等がおろそかになれば、インフラの本来の機能の提供が困難になるだけでなく、場合によってはこのような重大事故を引き起こしかねない。 図表153 ミネソタ州ミネアポリスの橋梁崩落事故(2007年) (アセット・マネジメントによる社会資本の経営)  このような我が国の社会資本の老朽化の問題について、国民がどの程度認知しているだろうか。今回行った国民意識調査によると、「聞いたことがあるが、よく知らない」(36.7%)、「知らなかった」(33.5%)と、約7割の回答者が十分な認識をしていなかった。また、更新に当たっては、費用負担が増えないようにという前提があるものの、約6割の回答者が「すべての施設の更新」を進めることを希望する旨回答している。  国土・地域の安心・安全を支えるという社会資本の最も重要な役割を果たすためには、老朽化したインフラを効率的かつ適切に更新することが求められる。 図表154 社会資本の老朽化の問題の認知度 図表155 社会資本更新の費用負担について  また、今後のインフラの更新に当たっては、少子高齢化や人口減少、環境問題、エネルギー制約といった、我々が直面する社会情勢の中で、インフラに求められる機能や地域のニーズも変化してゆくものであることを前提に更新しなければならない。逼迫する財政状況の中、時代の要請に合った適切なインフラ維持管理・更新を行っていくためには、総合的かつ戦略的なマネジメントにより、計画に基づいた効果的・効率的な施設の経営管理を実現する必要がある。  すなわち、保有する社会資本について、その量、老朽化の程度や更新のコストを把握し、同時に、人口減少・高齢社会における今後の需要を把握し、計画的・効果的な維持管理・更新、処分・利活用、複合化、民営化等、社会資本に対する時代的要請、地域のニーズを踏まえた社会資本ストックの価値の最大化を図る必要がある。 図表156 アセット・マネジメント (社会資本の実態把握(見える化))  今回の国民意識調査によると、老朽化した社会資本について「施設の更新が必要」との回答が約6割(61%)を占めたが、そのために重要なことは「実態把握(見える化)」と回答した人が最も多く、そのほか、「ニーズに合わせた集約・再統合」、「長寿命化」、「一体的整備」、「多面的利用」と答えた人も多い。 図表157 社会資本維持管理で重要だと思うもの  社会資本の大部分は地方公共団体が管理する施設であるため、国、都道府県、市町村を通じた社会資本データベースの整備とそれを活用して広域的な観点から一定の社会資本サービス水準を確保しながら経営管理マネジメント(アセット・マネジメント)を行っていくことが今後の検討課題である。 (アセット・マネジメント推進の現状)  アセット・マネジメントの推進は、以下のとおり大きく3つのレベルに分けて考えることができる。 図表158 アセット・マネジメントの3つのレベル 1) 日常的マネジメント:日々の清掃・保全・修繕等の効率化  道路や堤防といった構造物は、日々、疲労・劣化し、損傷が発生していくものであり、利用者の安全の確保のためには、日常の監視や維持管理が欠かせない。一方で、国・地方公共団体の厳しい財政状況の中では、コスト削減を図りながら、効率的・経済的に維持管理を実施していく必要がある。  このため、例えば、直轄国道の維持管理においては、平成22年度に設けた維持管理基準のうち、除草等については23年度から基準を見直し運用しており、引き続き、地域からの意見等の把握や維持管理に関するデータ収集・分析を行い、適確な維持管理水準について検討を進めるとともに、コスト削減等の様々な工夫・取組みや、利用者の参画による道路管理として、ボランティア・サポート・プログラムの導入により、清掃、除草等の日常管理業務に地域住民が参画することを支援している。 図表159 道路の日常的な維持管理 2) 管理的マネジメント:長期的視点からの予防保全(長寿命化)によるトータルコストの縮減  既存インフラを効率的かつ適切に維持・更新していくためには、早期発見・補修により、施設全体の長寿命化を図る「予防保全的管理」が重要であり、高い耐久性が期待できる素材・構造の活用を図り、長寿命化計画の策定・実施、重量制限違反車両に対する指導や処分の厳格な実施等の社会資本の適正な利用による長寿命化対策等を推進し、トータルコストの縮減を実現する必要がある。 図表160 社会資本の戦略的な維持管理・更新に向けた取組み 図表161 社会資本整備重点計画(平成21年3月31日閣議決定)における各施設ごとの長寿命化・老朽化対策の進捗率 3) 経営的マネジメント:社会資本の「選択と集中」、複合化、処分・利活用、民営化等  人口減少、高齢社会における厳しい財政制約の中で社会資本整備を図る上で、政策資源を重点的に投入することが求められており、その「選択と集中」が必要である。  具体的には、平成23年11月の「社会資本整備重点計画の見直しに関する中間とりまとめ」において、「選択と集中」の基準が次のとおり定められており、引き続き計画策定に向け検討が進められている。  1)今整備をしないと、大規模又は広域的な災害リスクを低減できないおそれのあるもの  2)今整備をしないと、我が国産業・経済の基盤や国際競争力の強化が著しく困難になるおそれのあるもの  3)今整備をしないと、「持続可能で活力ある国土・地域づくり」の実現に大きな支障をもたらすおそれのあるもの  4)今適確な維持管理・更新を行わないと、将来極めて危険となるおそれのあるもの  こうした「選択と集中」という社会資本の経営戦略の大きな方向性の下、個々のマネジメント戦略として、社会資本の管理の効率化、そのための新たな先進技術の導入・規制や計画の見直し、新たな資金調達手法の確立等、これまでと異なる革新的なアプローチを進める必要がある。これまで実施してきた主な社会資本マネジメントの手法としては、指定管理者・包括的民間委託、民間による社会資本の利活用、PFIの推進、社会資本の複合化、事業連携・広域連携、民営化等があり、以下にその現状を述べる。 (ア)指定管理者制度・包括的民間委託制度  指定管理者制度は、住民の福祉を増進する目的を持つ公の施設について、指定管理者(地方公共団体が指定する法人)が公共施設の整備・管理を代行する地方自治法上の制度である。民間企業や各種法人その他の団体について指定管理者とすることができ、施設全体の維持管理や利用料金の設定等を包括的に代行する。  本制度は、民間事業者等が有するノウハウを活用することにより、弾力的な運営を行い、利用者サービスの向上や財務内容の改善等を図ることをねらいとするものである。平成15年9月に本制度が導入されて以降、都市公園、公営住宅等の公の施設の管理において活用されている。 図表162 都市公園における指定管理者制度の導入状況  一方、包括的民間委託は、詳細な業務運営を定めず、性能発注方式によって、一連の業務を民間企業に委ねることで、民間の創意工夫を活かした効率的なサービス提供を行うものである。  主に下水処理場の維持管理に活用されており、その実施団体数は年々増加し、21年度は118団体となっている。また、契約期間の長期化(約9割が3年契約(最長6年))、民間企業のノウハウの発揮により、平均約10%のコスト縮減効果が確認されている。さらに、最近は、下水道管路施設についても、施設の老朽化が進む一方、自治体における厳しい財政状況・職員数減少等により、民間のノウハウを活用した低コスト改築へのニーズが高まっており、調査、修繕、改築等をパッケージ発注した包括的民間委託の導入について24年度にモデル事業を実施し、具体的手法の推進、ガイドライン化を検討することとしている。 図表163 下水処理場における包括的民間委託の導入実績 (イ)民間による社会資本の利活用  社会資本を民間に開放することにより、既存のストックを有効活用する手法を展開している。例えば、道路空間については、適正な道路管理や良好な市街地環境の確保等の観点から、原則利用を制限した上で、高架下の駐車場利用等、公共的な要素等から認められた範囲で、民間への開放が行われてきた。道路管理用光ファイバーを収容するために道路の地下に設置されている「情報BOX」についても、施設管理に支障のない範囲で、民間電気通信事業者等に開放している(平成23年度募集において約18,000km開放)。河川空間についても、以前は、地方公共団体、公益事業者等の公的主体が公園、運動施設、橋梁、送電線等の公共性又は公益性のある施設を設置する場合にのみ占用許可がなされてきたが、16年以降、河川敷地の占用に関して規制緩和を行い、指定された区域(道頓堀川、堀川等8区域)においてのみ、社会実験として民間事業者がイベント施設や船上食事施設等を設置する場合においても占用許可の特例(規制緩和)が認められることとなった。 図表164 情報BOX  その後、22年5月に策定された「国土交通省成長戦略」において、道路空間や河川空間のオープン化が提案されたことを踏まえ、道路空間については、23年10月、改正「都市再生特別措置法」が施行され、にぎわい・交流の創出のための道路占用許可の特例が導入された。例えば、道路とその周辺の民間開発の協働が図れる場合に、民間からの収益還元を活用した新たな官民連携によるインフラの整備・管理を展開すること、一般道路を含め、都市の道路空間を活用して新たなビジネスチャンスを創出する場合等に特例を利用すること等が考えられる。河川空間についても、23年度より、社会実験としての区域指定を行わずに全国で規制緩和の実施が可能となった。これにより、イベント施設やオープンカフェの設置等、地域のニーズに対応した河川敷地の多様な利用が可能となり、水辺におけるにぎわいの創出や魅力あるまちづくりを通して、都市及び地域の再生等を進めることとする。  道路空間や河川空間の利用制限を緩和し、これらの空間を民間に開放し、行政財産の商業的利用を図ることにより、民間からの収益還元を活用したインフラの整備・管理の展開、地域活性化にもつながる新たなビジネスの展開等の効果が期待されている。 図表165 河川空間利用のイメージ (ウ)PFIの推進  PFI(Private Finance Initiative)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法である。我が国の公共施設・インフラ等への民間資金やノウハウの活用は、昭和60年代におけるNTT、JR等の民営化、いわゆる民活法による第三セクター方式の導入にはじまり、平成11年には「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」の制定によってPFI制度が確立された。内閣府によると、このPFI法に基づき、23年12月までに実施方針を公表したPFI事業は393事業となり、総事業費は3兆8,074億円に達している。  これまで実施された国土交通省関係のPFI事業を見ると、実施件数は24年1月時点で累計101件であり、事業内容はグラフに示すとおり、庁舎、公営住宅等の建築物が中心となっている。 図表166 PFI事業数及び事業費の推移(累計) (エ)社会資本の複合化・集約化・連携  既存の社会資本を更新する際に、効率化・集約化を図ることも必要である。限られた財源の中で満足度の高い行政サービスを提供するには、社会情勢や、利用者のニーズの変化に合わせ、施設の転用を行い、複合的な機能を提供する施設を整備することが求められる。  市町村等の自治体においては、文化施設・公民館等の公共施設の整理・複合化が進んでいる(さいたま市等)。国土基盤の社会資本においても、地域ニーズに合わせて、可能なものについては、統合化や複合化、他の事業主体との連携による効率化等柔軟な対応に取り組むことが必要である。  例えば、公営住宅については、複合化・集約化が進んでいる。平成23年3月に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)では、公的賃貸住宅団地(100戸以上)と医療・福祉サービス施設、子育て支援サービス施設等との併設状況を、21年の全体比21%から32年の同比25%へと向上させることを目標としている。また、公営住宅の建替え時に再編、集約化を進めている自治体もあり、公営住宅の管理戸数の推移を見ると、17年の約219万戸をピークに年々減少し、22年には約217万戸と、5年間で約2万戸減少している。 図表167 建替えと併せて県営住宅1階に地域の福祉・交流拠点を整備している事例(公営住宅健軍団地(熊本県)) 図表168 公営住宅の管理戸数の推移  また、汚水処理においては、施設の効率的な整備や維持管理のため、集約化や事業連携、広域連携が推進されている。例えば、下水道と農業集落排水施設、漁業集落排水施設との接続については、平成22年度末までに、33府県123箇所において実施中である。これは、下水処理施設2,136箇所(21年度)のうち約5%に相当する。  そのほか、各汚水処理施設(下水道、農業集落排水施設、合併処理浄化槽等)から発生する汚泥について、集約化を図り、下水道施設での共同処理を行う汚水処理施設共同整備事業(MICS)は、22年度末時点において、28道府県81箇所で実施されている。 図表169 MICS事業(汚水処理施設共同整備事業)  さらに、複数市町村が連携する特定下水道施設共同整備事業(スクラム)については、14道府県28箇所(22年度末)で実施されている。 (オ)民営化等の拡大  社会資本の整備・運営主体の民営化については、コスト削減と民間経営ノウハウの導入によるサービスの向上等を主な目的として、これまでにも行われてきたところである。  道路分野においては、道路関係四公団が平成17年に民営化され、高速道路株式会社と(独)日本高速道路保有・債務返済機構による高速道路事業の実施により、確実な債務返済と、民間のノウハウ発揮による効率的な運営による多様なサービス提供に努めている。 図表170 道路関係四公団の民営化  空港管理においては、23年5月に成立した「関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律」により、24年4月1日に新関西国際空港株式会社(国が100%出資)が設立されることとなり、国管理空港である大阪国際空港は、24年7月1日より関西国際空港とともに同社のもとで一体的に運営されることとなる。 図表171 関西国際空港と大阪国際空港の一体的な運営  特定外貿埠頭管理運営においては、埠頭公社の株式会社化により効率化が図られてきており、これまでに、東京港、大阪港、神戸港において、埠頭株式会社が業務を開始している。  (空港管理及び港湾管理についてのPPP/PFIの推進に係る今後の取組みについては、7で記述する。)