(1)雇用環境の変化 (高学歴化の進行)  少子化に伴い18歳以上人口が減少する中、高等学校進学率及び大学進学率は上昇を続けている。高等学校進学率は1974年に初めて90%を超え、近年は100%に近い水準で推移している。大学進学率は1960年代から1970年代半ばにかけて及び1990年以降に上昇しており、2012年には50.8%と、過半数の者が大学に進学することになった(図表34)。 図表34 高等学校進学率及び大学進学率の推移  こうした若者人口の減少と高学歴化は、新規学卒者の就職の動向にも影響を与えている。新規学卒就職者数の推移を見ると、ピークの1966年には160万人を超えていたが、2011年には約63万人にまで減少している。学歴別に就職者数の推移をみると、1950年代は、中学校卒業者が新規学卒就職者の中心であったが、1960年代には高校卒業者中心に逆転し、その後、中学校卒の就職者は急速に減少した。1990年代には、大学進学率の上昇を受けて高校卒就職者が大きく減少し、1998年には大学卒就職者が高校卒就職者を上回った(図表35)。大学卒就職者は、2010年時点では就職者の過半数を占める54.3%となった。近年では、大学院卒の就職者も増加しており、新規学卒就職者の高学歴化が進行している(図表36)。このように、かつては中学校卒や高校卒で働き始めていた人々が大学に進学するようになった結果、大学卒業者の進路の多様化が進んだと考えられる。 図表35 学歴別就職者数の推移 図表36 学歴別就職者割合の推移 (大学卒業者の就職率の低下)  次に、大学卒業者について卒業後の進路を見ると、1990年代始めまでは卒業者のうち就職した者の割合は70%から80%台の水準で推移したが、バブル崩壊後は低下を続け、1991年の81%から2000年の56%まで下落した。2001年以降は回復を見せていたものの、2008年以降はリーマンショックの影響等により再び厳しい状況となっている(図表37)。 図表37 大学卒業後の進路  一方、大学卒業者のうち一時的な仕事に就いた者及び就職も進学もしない者の割合は、バブル崩壊後の就職率の低迷と表裏一体の動きとして上昇し、2003年には過去最高の27.1%となった。一時的な仕事に就いた者及び就職も進学もしない者の増減は、卒業時の景気や雇用情勢に大きく左右されると考えられ、厳しい雇用情勢(低い求人倍率)となった2000年前後のほか、2000年代末に上昇している。また、1960年代〜1970年代半ば及び1990年代に大学進学率が上昇した時期にも一時的な仕事に就いた者及び就職も進学もしない者の割合が大きく上昇していることから、大学卒業者の中での就職競争が激化していることが要因となっているとも考えられる(図表38)。 図表38 大学進学率・一時的な仕事に就いた者及び進学も就職もしない者の割合の推移 (非正規雇用割合の上昇)  次に、就職をした者について雇用形態の変化を見てみる。年齢階級別に非正規雇用割合の推移を見ると、非正規雇用者の割合は長期的に上昇しており、特に15〜24歳の層ではバブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代半ばにかけて大きな上昇が見られた(図表39)。 図表39 年齢階級別非正規雇用割合の推移  世代別に非正規雇用割合の推移を見ると、男性では、20代前半の非正規雇用割合が継続的に上昇しており、特に1970年生まれ以降の世代で大きく上昇している。また、どの世代でも20代前半から20代後半にかけて一旦非正規雇用割合が低下しており、一度非正規雇用に就職したとしても、その後正規雇用への転換が見られる。1978〜1982年生まれの世代では20代前半から後半にかけての非正規雇用割合の低下が大きかったが、依然、20代後半の非正規雇用割合は他の世代よりも高い水準となっている(図表40)。 図表40 世代別に見た非正規雇用割合の推移(男性)  一方女性については、おおむねどの世代で見ても、20代前半の非正規雇用割合が低く、年齢とともに非正規雇用割合が上昇していく傾向にある。ただし、1978〜1982年生まれの世代については、20代前半の非正規雇用割合が高い水準となり、その後20代後半にかけて非正規雇用割合が低下した。女性の社会進出が進む中で、正規雇用での働き方を希望する者が増えていると考えられるが、世代ごとに見ると、20代前半の非正規雇用割合は男性と同様に1970年代生まれ以降の世代で大きく上昇している(図表41)。 図表41 世代別に見た非正規雇用割合の推移(女性)  フリーターやニートと呼ばれる若年無業者(15〜34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者)の数も増加している。フリーター数はバブル崩壊以降急速に増加し、2003年には217万人に達した。その後5年間は減少が続いたが、2009年にはリーマンショック等を受け再び増加に転じ、2012年は180万人となった(図表42)。ニート数は、2002年以降、60万人を超える水準で推移しており、2010年には一旦減少が見られたものの、2012年には再び増加し63万人となった(図表43)。 図表42 フリーター数の推移 図表43 若年無業者数の推移 (離職率は高水準で推移)  また、一旦就職したものの、離職する者も多い。大学卒の就業者の就職後3年以内の離職率を見ると、バブル崩壊後に上昇し、1995年以降は30%を超える水準が続いた。2004年3月の卒業生の離職率については、ピークとなる36.6%を記録し、以後は低下傾向にあるものの、2009年3月の卒業生については28.8%となるなど依然として高い水準にある(図表44)。高校卒の就業者についても同様に、バブル崩壊以降に離職率が上昇し、2000年3月の卒業生については離職率が50.3%となった。その後は低下傾向にあるが、2009年3月の卒業生で35.7%となっている(図表45)。 図表44 新規大学卒業者の在職期間別離職率の推移 図表45 新規高校卒業者の在職期間別離職率の推移  若者(15〜34歳)の失業率の内訳を求職理由別に見ると、最も割合が高いのは自発的離職による失業で、その構成比は2011年で約4割を占めている(図表46)。また、転職入職者の「前職をやめた理由」を見ると、10代〜30代の女性では、全年齢と比べ、労働条件の悪さや結婚・出産等を挙げる者が多い。 図表46 求職理由別若年失業率の推移  10代〜30代の男性では、全年齢と比べ、会社の将来に不安を感じたり、収入や労働条件に不満を感じたりした者が多い(図表47)。このように若者が就職後短期間のうちに離職してしまう背景としては、学校卒業時の就職環境が厳しい世代ほど、不本意な就職先に就職した者が多いために将来の離職が増えるということが考えられ、実際に、大学卒業者の離職率は新卒時の大学卒求人倍率が低いほど高まる傾向にある。 図表47 転職入職者が前職をやめた理由  このように、労働環境の改善を求めて離職をする者は多くいるものの、必ずしも転職を経て収入が改善されたり、雇用形態が改善されたりするとは限らない。転職者について転職前後の収入の増減を見ると、転職後に収入が増加した者の割合は、25〜34歳、35〜44歳のいずれの年齢階級についても20%台後半から30%台後半となっている(図表48)。 図表48 収入が増えた転職者の割合  また、雇用形態の変化について見てみても、フリーターから正社員への転職は、フリーター期間が半年以内の場合、男性では約7割、女性では約6割が正社員になっているが、フリーター期間が3年を超える場合、正社員になれた割合は男性で約6割、女性で約4割となっており、フリーター期間が長ければ長いほど正社員になることが難しくなると言える(図表49)。 図表49 フリーターから正社員への転職状況 (収入は減少傾向)  我が国の経済状況や若者の雇用環境が変化する中で、若者の収入にも変化が見られる。収入の変化は、いつどれだけのお金を何に費やすかといった消費行動のあり方を変化させるものであることから、若者の暮らしの変化の根本にあるものと言うことができる。 1)年収の変化  年齢階級ごとに年収の変化を見ると、20代及び30代の年収は他の年齢層よりも低い水準で推移している。また、1990年代後半から現在にかけては、それぞれの年齢階級で年収の減少が見られるが、30〜34歳及び35〜39歳については特に減少傾向が顕著である(図表50)。 図表50 年齢階級別一般労働者の年収の推移(実質) 2)賃金上昇率の変化  世代別に実質賃金の推移を見ると、より高齢の世代では年齢の上昇に伴う賃金の上昇が相対的に大きく、カーブが急な右上がりになっているのに対し、若い世代では、年齢の上昇に伴う賃金の上昇が相対的に小さく、カーブの傾きが鈍くなっている(図表51)。 図表51 世代別に見た実質賃金の推移(20〜24歳時の実質賃金=100)  このように、年齢の上昇に伴う賃金の上昇が若い世代で縮小している背景には、若い世代における非正規雇用割合の高まりがあると考えられる。正規雇用者と非正規雇用者の賃金を比較すると、非正規雇用者の賃金水準が正規雇用者に比べて低いのと同時に、非正規雇用者については正規雇用者に見られるような年齢の上昇に伴う賃金の上昇が見られないことが分かる。これは、非正規労働者では、労働組合等を通じた賃金交渉力が弱いことのほか、技能形成を進める仕組みが乏しい結果、賃金が上昇しにくい状況にあるためと考えられる(図表52)。 図表52 雇用形態・年齢階級別賃金 3)収入格差の動向  このように非正規雇用者の増大を背景とした収入の減少が起こる中で、世代内の収入格差も増大している。世代別に、雇用者の年間収入についてのジニ係数の推移を見ると、女性については大きな変化は見られないものの、男性については、若い世代ほど、各年齢時点においてジニ係数が高まっており、収入の格差が拡大していることが分かる(図表53)。 図表53 世代別に見たジニ係数の推移(男女別)