第2節 人口減少が地方のまち・生活に与える影響

コラム 空き家の現状と「空家等対策の推進に関する特別措置法」の成立

 近年、全国的に空き家が増加しており、建物の不適切な管理や老朽化による倒壊、雑草の繁茂や不法投棄の誘発による公衆衛生の低下や地域の景観の悪化、放火や不法侵入による治安の低下といった様々な問題(外部不経済)を引き起こす可能性があるため、対策が必要となっています。
 このような課題が生じている空き家は主として、転勤・入院等のため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や、建て替え等のために取り壊すことになっている「その他の住宅」であり、それらが適切に管理されているのであれば問題ありませんが、そのまま放置され、管理が不十分になってしまうと、外部不経済を引き起こす可能性が生じます。
 2013年の都道府県別総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は、山梨県が22.0%と最も高く、次いで長野県が19.8%となっています。しかし、この空き家率には「二次的住宅」や「賃貸または売却用の住宅」が含まれています。そこで、総住宅数に占める「その他の住宅」の割合(以下「その他の住宅空き家率」という。)を見ると、空き家率が高い山梨県と長野県は、「その他の住宅空き家率」においては、上位10県にも入っていません。この2県は東京圏からのアクセスがよく別荘が多いため、このような結果となっていると考えられます。空き家の構成比を見ても、他の都道府県よりも「二次的住宅」の占める割合が突出して高く、「その他の住宅」が占める割合は山梨県が36.2%、長野県が38.4%であり、全国平均の38.8%よりも低くなっています。
 
図表1-2-8 空き家の構成比とその他の住宅空き家率
図表1-2-8 空き家の構成比とその他の住宅空き家率
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 都道府県別に「その他の住宅空き家率」と「人口増減率」の関係を見ると、「人口減少率」が高い都道府県は、「その他の住宅空き家率」も高くなる傾向があることがわかります。また、「その他の住宅空き家率」と「高齢化率」の関係を見ると、「高齢化率」が高い都道府県は、「その他の住宅空き家率」も高くなる傾向があることがわかります。これらの相関関係を踏まえれば、地方においては今後、人口の減少や高齢化が一層進むと言われていることからも、空き家が更に増加すると予想されます。
 空き家の中でも、外部不経済をもたらす空き家について、これまで地方公共団体は個別に空き家の適正管理に関する条例を制定し、対策に取り組んでいましたが、1)所有者や管理者の特定が困難であること、2)個人財産に対し条例を根拠に命令等の強制力のある措置を講じることの懸念等が指摘されたことから、外部不経済をもたらす空き家に対処するための法整備が国に対して求められていました。
 こうした状況を受け、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が議員立法により2014年11月19日に成立し、2015年2月26日に一部施行され、5月26日に完全施行されました。また、同法第5条第1項に基づき、「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」が定められました。
 同法において、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地を「空家等」とした上で(2条1項)、市町村は、上述の基本指針に即して空家等対策計画を定めることができることとされています(6条)。この空家等対策計画には、空家等に関する対策に関する基本的な方針、計画期間、空家等の調査、適切な管理や活用の促進、「特定空家等」に対する措置、住民等からの相談への対応、対策の実施体制等について定めるものとされ、適切な管理が行われていない空家等に関する対策だけでなく、その予防的な措置についても定めることとされています。
 「空家等」の中でも、1)そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、2)そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態、3)適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態、4)その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態の4つの状態にあると認められるものを「特定空家等」と定義しています(2条2項)。
 「特定空家等」に対しては、除却、修繕、立木竹の伐採等の必要な措置について、助言・指導、勧告、命令から代執行までを行う権限が市町村長に付与されました(14条)。助言・指導によって措置がされない場合は勧告、さらには命令へと段階的に手続を進めることとしていますが、これはその所有者等自らによる措置の履行をまずは促すためです。また、命令を受けた者が正当な理由なく必要な措置を実施しない等の場合は、市町村長は代執行をすることができることとされています。
 また、国土交通省は、例えば市町村による空家等対策計画の策定等に必要な空家等の実態把握調査を空き家再生等推進事業の支援対象に追加し、空家等の活用・除却を推進する地方公共団体の取組みを支援しています。さらには、2015年3月31日に成立した「地方税法」の一部改正により、市町村長が「特定空家等」の所有者等に対し同法に基づき必要な措置を勧告した場合で、翌年1月1日までに所有者等が当該措置を講じなかったときは、当該「特定空家等」の敷地の用に供されている土地について、固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外することとされました。これらの制度を組み合わせて活用することにより、市町村による空家等対策の一層の推進が期待されます。
 
図表1-2-9 都道府県別その他の住宅空き家率と人口増減率の関係(2013年)
図表1-2-9 都道府県別その他の住宅空き家率と人口増減率の関係(2013年)
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図表1-2-10 都道府県別その他の住宅空き家率と高齢化率の関係(2013年)
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