■3 海上交通における安全対策
我が国の周辺海域では、毎年2,500隻前後の船舶事故が発生している。ひとたび船舶事故が発生すると、尊い人命や財産が失われるばかりでなく、我が国の経済活動や海洋環境にまで多大な影響を及ぼす可能性があるため、更なる安全対策の推進が必要である。
（1）船舶の安全性の向上及び船舶航行の安全確保
1)船舶の安全性の向上
船舶の安全に関しては、国際海事機関（IMO）を中心に国際的な基準が定められており、IMOにおける議論に積極的に参画するとともに、平成26年7月には、SOLAS条約注1の改正に伴う騒音に対する保護要件の追加、36人以下の旅客船における隔壁及び甲板の防火要件の変更等、国内法令の整備を実施した。
25年6月にインド洋で発生したバハマ船籍の大型コンテナ船MOL COMFORT号折損事故を契機として、大型コンテナ船の安全対策を検討するためコンテナ運搬船安全対策検討委員会を開催し、27年3月に就航中の大型コンテナ船の安全対策を内容とする報告書を取りまとめ、公表した。
また、サブスタンダード船注2の排除のため、ポートステートコントロール（PSC）注3を実施している。
2)船舶航行の安全確保
STCW条約注4に準拠した「船舶職員及び小型船舶操縦者法」に基づき、船舶職員の資格を定め、人的な面から船舶航行の安全を確保している。平成22年6月に、船員が備えなければならない新たな知識の追加等を内容とした改正STCW条約（マニラ改正）が採択されたことから、国内法の一部改正を行い、26年4月に施行した。また、水先制度については、水先を行うことができる者の資格を定め、船舶交通の安全を図っているところであるが、後継者の確保が課題となっており、人材の安定的確保を図りつつ、必要な養成教育を着実に推進している。
職務上の故意又は過失によって海難を発生させた海技士、小型船舶操縦士及び水先人に対しては、「海難審判法」に基づく調査、審判を実施しており、26年には339件の裁決を行い、海技士、小型船舶操縦士及び水先人計424名に対する業務停止（1箇月から2箇月）及び戒告の懲戒を行うなど、海難の発生防止に努めている。
海難防止対策としては、沿岸域情報提供システム（MICS）、灯浮標をプラットホームとした気象情報提供システムによる情報提供、海難防止施策の効果的な連携を図ることを目的とした関係省庁海難防止連絡会議の開催、関係機関等が連携した「全国海難防止強調運動」等を展開している。また、小型船舶の海難防止に向け、関係省庁と連携した海難防止講習会の開催、地域に応じた各種海難防止キャンペーンを実施している。
交通政策審議会「船舶交通の安全・安心をめざした取組み（答申）」（25年10月）を踏まえ、大規模災害発生時における船舶の安全かつ円滑な避難と被害の極小化、平時における船舶の管制信号待ちや渋滞の緩和のため、東京湾における一元的な海上交通管制の構築を進めている。
加えて、狭水道における通航船舶の安全性や運航の効率性の向上を図るため、来島海峡において、詳細で正確な潮流観測を行ない、面的なシミュレーションによる潮流情報をインターネットで提供している。
海図については、電子海図情報表示装置（ECDIS）普及に伴い、重要性の増した電子海図の更なる充実を図っている。また、外国人船員に対する海難防止対策の一環として英語表記のみの海図等を刊行するとともに、26年度には、航法の複雑な海域について、航法等に関する理解促進のために英語版のルーティングガイドの刊行を開始した。さらに、東日本大震災により被災した主要15港湾について、海図の改訂を進めている。
水路通報・航行警報については、26年6月から有効な情報を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供している。
航路標識については、船舶交通の環境及びニーズに応じた効果的かつ効率的な整備を行っており、26年度に354箇所の改良・改修を実施した。
また、東日本大震災により被災した航路標識158基のうち、復旧が完了していない28基（27年3月時点）については、今後、港湾や防波堤の復旧に合わせて復旧していくこととしている。
さらに、（独）海上技術安全研究所に設置した「海難事故解析センター」において、事故解析に関する高度な専門的分析や重大海難事故発生時の迅速な情報分析・情報発信を行うとともに、再発防止対策の立案等への支援を行っている。
輸入原油の8割が通航する我が国にとって極めて重要な海上輸送路であるマラッカ・シンガポール海峡については、船舶の航行安全確保が重要であり、「協力メカニズム」注5の下、航行援助施設基金注6への資金拠出等の協力を行っている。26年9月の同メカニズムにおける第7回協力フォーラムにおいて、我が国より、同海峡の同海峡の水路測量調査が行われてから16年が経過しており、その間潮流の影響で海底地形も変化していることから、同海峡の海図を改訂するため水路測量調査の再実施を提起した。これを受け、沿岸国は、沿岸3国技術専門家会議において、我が国と共同で水路再測量調査を実施することを決定した。今後も沿岸国との良好な関係を活かし、官民連携して同海峡の航行安全・環境保全対策に積極的に協力していくこととしている。
（2）乗船者の安全対策の推進
乗船者の事故における死者・行方不明者のうち約55％は海中転落によるものである。転落後に生還するためには、まず海に浮いていること、また、その上で速やかに救助要請を行うことが必要である。このため、海上保安庁では、ライフジャケットの常時着用、防水パック入り携帯電話等の適切な連絡手段の確保、海上保安庁への緊急通報用電話番号「118番」の有効活用の3つを基本とする自己救命策の普及・啓発に努めている。また、小型船舶（漁船・プレジャーボート等）からの海中転落による乗船者の死亡率は、ライフジャケット非着用者が着用者の約3倍と高く、ライフジャケットの着用が海中転落事故からの生還に大きく寄与している。このため、LGL注7に対する支援やライフジャケット着用推進モデルマリーナ等注8の指定を行うとともに、関係省庁や地方公共団体と連携し、年間を通じてライフジャケットの着用を推進している。
（3）救助体制の強化
海上保安庁では、迅速かつ的確な救助を行うため、24時間体制で遭難周波数の聴守及び緊急通報用電話番号「118番」の運用を行うなど、事故発生情報の早期把握に努めている。また、特殊救難隊、機動救難士、潜水士等の救助技術・能力の向上を図るとともに、救急救命士が実施する救急救命処置の質を保障するメディカルコントロール体制の充実・強化、巡視船艇・航空機の高機能化等、救助・救急体制の充実・強化を図っている。さらに、関係省庁、地方公共団体、民間救助団体等との連携についても充実・強化を図っている。