■2 人口減少が地方のまち・生活に与える影響  ここでは、人口減少が進行した場合に想定される地方のまち・生活への具体的な影響について主なものを見ていく。 (1)生活関連サービス(小売・飲食・娯楽・医療機関等)の縮小  我々が日常生活を送るために必要な各種サービスは、一定の人口規模のうえに成り立っている。必要とされる人口規模はサービスの種類により様々であり、その分布状況を示したものが図表1-2-3である。例えば、ある市町村に一般病院が80%以上の確率で立地するためには、27,500人以上の人口規模が必要(50%以上の確率で立地するためには5,500人以上の規模が必要)である。人口減少によって、こうした生活関連サービスの立地に必要な人口規模を割り込む場合には、地域からサービス産業の撤退が進み、生活に必要な商品やサービスを入手することが困難になるなど、日々の生活が不便になるおそれがある。 図表1-2-3 人口規模とサービス施設の立地(三大都市圏を除く)  これに加え、サービス業等の第3次産業は地方圏の雇用の6割以上を占めており、こうしたサービス産業の撤退は地域の雇用機会の減少へとつながり、さらなる人口減少を招きかねない(図表1-2-4)。 図表1-2-4 地方圏の産業別構成比(2010年) (2)税収減による行政サービス水準の低下  人口減少は地方財政にも大きな影響を及ぼす。人口減少とそれに伴う経済・産業活動の縮小によって、地方公共団体の税収入は減少するが、その一方で、高齢化の進行から社会保障費の増加が見込まれており、地方財政はますます厳しさを増していくことが予想される。こうした状況が続いた場合、それまで受けられていた行政サービスが廃止又は有料化されるといった場合が生じることも考えられ、結果として生活利便性が低下することになる。  こうした厳しい地方財政状況のなかで、高度経済成長期に建設された公共施設や道路・橋・上下水道といったインフラの老朽化問題への対応も必要となる。 (3)地域公共交通の撤退・縮小  これまで、地域公共交通は主として民間の事業者によって支えられてきた。しかし、人口減少による児童・生徒や生産年齢人口の減少が進めば、通勤通学者が減少し、民間事業者による採算ベースでの輸送サービスの提供が困難となり、地方の鉄道や路線バスにおいて、不採算路線からの撤退や運行回数の減少が予想される。他方では、高齢化の進行に伴い、自家用車を運転できない高齢者等の移動手段として公共交通の重要性が増大しており、地域公共交通の衰退が地域の生活に与える影響は従前より大きいものとなっている。 (4)空き家、空き店舗、工場跡地、耕作放棄地等の増加  人口が減少する一方で、総住宅数は増加しており、全国的に空き家数は一貫して増加傾向にある。なかでも、賃貸または売却の予定がなく長期にわたって居住世帯が不在の住宅等を含む「その他の住宅」が増加している。「その他の住宅」は、管理・処分方針が未定のものもあり、他の区分の空き家と比べて管理が不十分になりがちな傾向がある(図表1-2-5)。 図表1-2-5 空き家数の種類別推移  また、地域の経済・産業活動の縮小や後継者不足等によって空き店舗、工場跡地、耕作放棄地も増加しており、空き家の増加とともに、地域の景観の悪化、治安の悪化、倒壊や火災発生といった防災上の問題等が発生し、地域の魅力低下につながってしまう。 (5)地域コミュニティの機能低下  人口減少は、地域コミュニティの機能の低下に与える影響も大きい。町内会や自治会といった住民組織の担い手が不足し共助機能が低下するほか、地域住民によって構成される消防団の団員数の減少は、地域の防災力を低下させる懸念がある。  また、児童・生徒数の減少が進み、学級数の減少、クラスの少人数化が予想され、いずれは学校の統廃合という事態も起こり得る。こうした若年層の減少は、地域の歴史や伝統文化の継承を困難にし、地域の祭りのような伝統行事が継続できなくなるおそれがある。  このように、住民の地域活動が縮小することによって、住民同士の交流の機会が減少し、地域のにぎわいや地域への愛着が失われていく。  以上のように、人口減少による地方のまち・生活への影響は様々であり、既に多くの地域で起こっているものもあれば、まだ顕在化するには至っていないものもある。図表1-2-2で人口減少の「実感がある」、「どちらかといえば実感がある」と回答した人に対し、どのような場面で人口が減少したと感じるかを尋ねたところ、「商店街にシャッターが下りたままの店舗が増えた」、「空き家をよく見かけるようになった」と回答する割合が高く、「バスや鉄道の本数が減った、路線自体がなくなった」は、地方で特に高い割合となっている(図表1-2-6)。 図表1-2-6 人口減少を実感する場面(最大3つまで回答)  人口減少による地方のまち・生活へのそれぞれの影響は、生活利便性の低下や地域の魅力の低下を通じて、さらなる人口減少を招くという悪循環に陥ることが考えられ、その一例をイメージ図で示したものが図表1-2-7である。 図表1-2-7 人口減少の悪循環のイメージ図  地域の特性によって起こり得る影響やその程度は異なるため、すべての地域で図のような流れが当てはまるわけではない。しかし、人口減少を漠然とした危機意識ではなく、自らが居住する地域でも起こり得る身近な問題として認識を共有することが重要と考える。そのうえで、地域全体として人口減少がもたらす問題に立ち向かっていく必要がある。  国土交通省としても次章で記述するとおり、都市のコンパクト化による機能集約や交通ネットワークの強化による地域の生活サービスの確保等による魅力的な地域づくりを促進すること等を通じ、将来世代にわたる豊かな暮らしを実現するための国土・地域づくりを進めていくことが重要である。