第1節 我が国を取り巻く環境と社会経済状況

■3 イノベーションの必要性

 これまで見てきたように、我が国は人口減少や少子高齢化、それに伴う生産年齢人口の減少、あるいは厳しい財政状況といった制約条件の下で、切迫・激甚化する災害に備え、加速するインフラ老朽化に対応し、地域を活性化し、厳しい国際競争に勝ち抜いていくための競争条件を整えて行かなければならない。
 そのような中、近年、IoT、ビッグデータ、AI、ロボット・センサーなどに代表される第4次産業革命が世界的に進みつつあり、生産や消費といった経済活動だけでなく、働き方やライフスタイルも含めて経済社会の在り方が大きく変化しようとしている。我が国は、こうした世界的な潮流をとらえ、イノベーションを創出し、我が国を含めた世界各国で創出されたイノベーションを社会実装していくことにより、生産性を飛躍的に高め、様々な課題を克服し持続的な経済成長を実現する必要がある。

(1)イノベーションによる課題解決
 「必要は発明の母」との言葉もあるが、課題の存在はイノベーションが創出される一つのきっかけになると考えられる。
 例えば、建設分野や交通運輸分野においては今後担い手不足が懸念されている状況であるが、劇的な進展を遂げるAI、IoTなどを活用しながらイノベーションを創出し、世界に先駆けて生産性の極めて高い建設産業や交通運輸産業を創造していく好機であるとも言える。
 さらに、少子高齢化について幅広く考えると、シルバーエコノミーの潜在市場規模は極めて大きく、介護ロボット、自動運転車、AIの実用化、ビッグデータの医療活用などの需要が潜在している。また、今後、世界各国で高齢化社会対応型のサービスや商品需要が増加していくことが見込まれており、日本において創出された新たな商品やサービスを国際展開することにより、我が国の持続的な経済成長につなげることも考えられる。
 また、創出されたイノベーションが社会に受け入れられるためには、新しい技術やサービスに対する人々の不安が払拭される必要があるが、我が国においては、例えば、自動車の自動運転では、安全面を不安視する声がある一方で、交通弱者の生活交通の確保や渋滞や交通事故の削減等に大きな効果を期待する声もあり、課題先進国であるがゆえに、社会的受容が醸成されやすい環境にあるとも考えられる。

(2)イノベーションによる経済効果
 イノベーションによる経済効果について、需要と供給の面から考察する。

(イノベーションによる需要創出効果)
 イノベーションによる経済効果としては、新たな財・サービスの提供や価格の低下等による需要創出効果が期待される。
 例えば、総務省「平成28年版情報通信白書」注4によると、ICTの新たなサービスの需要創出効果が推計されている(図表1-1-13)。特に需要創出効果が大きい分野は、サービスロボットであり最大約5,600億円とされている。次いで、スマートホーム(見守り系・エネルギー系)の効果がそれぞれ約1,900億円、約1,600億円、コネクテッドカー(自動運転機能)の効果が約1,200億円となっており、国土交通分野に係る新サービスについても、大きな需要創出効果が見込まれている。
 
図表1-1-13 経済効果の推計結果
図表1-1-13 経済効果の推計結果

(イノベーションによる経済成長)
 供給面からイノベーションの影響を考えると、既存の設備の稼働率の上昇、業務の効率化、資本の生産性向上という経路を通じて生産性の向上に寄与することが期待される注5。経済財政諮問会議専門調査会「選択する未来」委員会の報告によれば、人口減少下において、生産性向上シナリオと生産性停滞シナリオを比較すると、実質GDP成長率で1%強の差が生じる(図表1-1-14)とされており、生産性向上が労働力減少分のマイナスを補うことができれば、今後の人口減少下においても、経済成長を達成することが可能であると考えられる。
 
図表1-1-14 将来の人口と実質GDP成長率の推計
図表1-1-14 将来の人口と実質GDP成長率の推計


注4 総務省「平成28年版情報通信白書」では、消費者向けアンケート調査結果をもとに、新しいICTサービスごとの利用意向率と支払意思額の積を求めることで、需要創出効果を算出。なお、取り上げたサービスは、ICT全般にわたって2020年頃までに実現を想定した新しいサービスやアプリケーションが対象。
注5 内閣府「日本経済2016-2017」(2017年1月)によると、第1は、既存の設備の稼働率の上昇による生産性の上昇である。設備の稼働状況の正確な把握、ビッグデータを用いた需要予測の精緻化、シェアリング・サービスによる利用者(需要者)とサービス提供者(供給者)のマッチング機能の向上などは、いずれも設備の稼働率の向上を通じて生産性の上昇につながると考えられる。第2は、ビッグデータやAI等の活用によって、業務が効率化されることによる生産性の上昇である。バックオフィス業務や一部の単純労働のみならず、ハイスキルとみなされている知的労働についても、その一部がAIの活用等によって代替され、結果として労働生産性が上昇する可能性がある。第3は、クラウドの活用や分散型のシステム構築によって、設備投資が節約され、資本の生産性が上昇する可能性である。特に、金融サービスについては、ブロック・チェーンの導入などによって、既存設備に膨大なシステム投資をしなくとも、決済手段の構築や安全性の確保が容易になる可能性がある。


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