第1節 イノベーションの創出と社会実装に向けた各国の取組み

■1 諸外国の科学技術イノベーション政策の動向

 我が国を始め主要国では、科学技術イノベーション政策において研究開発関連の投資目標を定めている(図表2-1-1)。
 
図表2-1-1 日本及び諸外国の研究開発投資目標
図表2-1-1 日本及び諸外国の研究開発投資目標

 各国の研究開発費のGDP比率を見ると、韓国やイスラエルの比率の高さが目立つ。また、イノベーション国別ランキング上位5ヶ国注38の比率は、2.5%以上と高い傾向にあることがわかる(図表2-1-2)。
 
図表2-1-2 研究開発費の対GDP比
図表2-1-2 研究開発費の対GDP比
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(米国の動向)
 米国では、2015年10月に公表された「米国イノベーション戦略2015」において、世界におけるイノベーション創出国家としての牽引的な地位の確保、健康長寿社会や持続可能な成長などの国家的課題への対応、そして政府によるイノベーション支援をさらに重点化し未来の経済成長に先行投資を行うとしている。この戦略では、連邦政府による投資、民間セクターによる取組みの加速、並びにイノベーション人材の育成を主要な要素としており、これらの構成要素に基づき、「質の高い雇用創出及び持続可能な経済成長」、「国家的優先課題に対するブレイクスルーの促進」、並びに「国民と供にイノベーティブな政府の実現」を目指す方向性が示されている(図表2-1-3)。「イノベーションの基盤的要素への投資」として、総研究開発費(民間と政府の研究開発費合計)を対GDP比3%とするなどの目標が設定されるとともに、イノベーションの担い手を育てるための科学・技術・工学・数学(STEM)教育や官民パートナーシップの強化も重視されている。さらに近年では、製造業を再興することを目的として、先進製造技術の研究開発を推進しており、省庁横断による研究開発の優先事項として位置付けている。
 
図表2-1-3 米国イノベーション戦略2015の構成要素
図表2-1-3 米国イノベーション戦略2015の構成要素

(欧州の動向)
 欧州連合(EU)では、2010年3月に新戦略「欧州2020」が決定された。欧州2020のうち、研究開発・イノベーションに関する戦略は「イノベーション・ユニオン」と呼ばれ、当該戦略を実現するフレームワークプログラムとして、2013年12月に「Horizon 2020」が採択された。「Horizon 2020」では、「卓越した科学」、「産業界のリーダーシップ確保」、「社会的課題への取組」(図表2-1-4)が三つの柱として掲げられ、重点投資が進められている。研究開発費に関しては、対GDP比の3%とする目標が掲げられている。
 
図表2-1-4 EUのHorizon2020における社会的課題
図表2-1-4 EUのHorizon2020における社会的課題

 ドイツでは、2006年8月に策定された「ハイテク戦略」が、科学技術イノベーション政策の基本戦略として推進されている。同戦略は、2010年7月に「ハイテク戦略2020」として更新され、今後ドイツが力を入れていく五つの分野(気候・エネルギー、健康・栄養、輸送、社会安全、通信・デジタル化)と各分野を横断した「未来志向プロジェクト」が掲げられた。2011年11月には、第4次産業革命を掲げた「Industrie 4.0」が「未来志向プロジェクト」の一つとして新たに提案され、製造業の高度化に向けた産学官共同のアクションプランとして推進されている。その後、2012年度に総研究開発費の対GDP比3%が達成され、2014年9月に発表された第3次の「新ハイテク戦略」においても、引き続きイノベーション推進の姿勢が打ち出されており、既にイノベーションの推進力が大きい分野を特定し、優先的に研究を実施するとしている(図表2-1-5)。これらの課題解決のルールとして、産学連携の強化と、起業支援も含めた中小企業の力を伸ばす方針があげられている。
 
図表2-1-5 ドイツの政策文書から抽出された社会的・技術的課題
図表2-1-5 ドイツの政策文書から抽出された社会的・技術的課題

 英国では、2014年12月に発表された新たな戦略「成長計画:科学とイノベーション」において、英国が科学とビジネスにおいて世界で最も適した国になるために、「優先分野の決定」、「優れた人材の育成」、「科学インフラへの投資」、「科学研究に対する支援」、「イノベーションの促進」及び「グローバルなレベルで科学・イノベーション活動に参加」の六つの柱が掲げられた(図表2-1-6)。また、政府全体として緊縮財政下にある中で、2015年度までは2010年度と同水準の予算を科学研究に投資するとともに、施設建設等の科学技術インフラに係る2015年度の予算として、対前年度比で約2倍を措置することが決定された。
 
図表2-1-6 英国の政策文書から抽出された社会的・技術的課題
図表2-1-6 英国の政策文書から抽出された社会的・技術的課題

 フランスでは、2013年7月に、Horizon2020との整合性を重視した基本戦略「France Europe 2020」が策定された。2015年3月には、「France Europe 2020」の更新が行われ、社会的な課題に基づいて研究開発の優先事項・方向性を示しており(図表2-1-7)、製造業の情報化やIoT、ビッグデータの利用に関する研究開発等を重要事項として掲げている。フランスの研究開発関連の投資目標についてみると、「France Europe 2020」には、研究開発費の対GDP比としての目標値は示されていない。ただし、ヨーロピアン・セメスターの枠組みにおいて、フランスが毎年欧州委員会に提出している経済成長戦略「国家改革プログラム」には、官民合わせた総研究開発費の対GDP比の目標値は3%とすることが示されている。
 
図表2-1-7 フランスの研究戦略における社会的課題
図表2-1-7 フランスの研究戦略における社会的課題

(アジアの動向)
 中国では、2006年2月に15年間の計画である「国家中長期科学技術発展計画綱要」が発表され、2020年までに中国を世界トップレベルの科学技術力を持つイノベーション駆動型国家とするために、総研究開発費の拡充(2020年までに対GDP比2.5%)や重点分野の強化等を通じて、自主イノベーション能力を高めていくことが掲げられた。2015年5月には、情報通信技術の発展を受けた製造業の高度化に向けた先進諸国の動向や中国国内における労働コストの上昇など中国経済をめぐる状況等を背景として、今後10年間における製造業発展のロードマップを示した「中国製造2025」が打ち出された。「中国製造2025」では生産効率と品質の向上を目的に、製造業の情報化レベルを高め、中国の製造業を飛躍的に発展させることが掲げられている。
 韓国では、2013年7月に「第3次科学技術基本計画」が策定され、科学技術とICTとの融合による新産業創出や国民の生活の質向上等のための具体策として、5つの戦略分野の高度化(「High5戦略」)が掲げられている。投資目標に関しては、5年間で92.4兆ウォンの政府研究開発投資を行うことや、政府研究開発投資の40%を基礎・基盤研究へ充てるなどの数値目標が設定されている。


注38 イノベーションランキングの経年推移(図表1-2-3)。ここでは、スイス、イスラエル、フィンランド、米国、ドイツ。


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