第1節 イノベーションの創出と社会実装に向けた各国の取組み

■2 諸外国におけるイノベーション創出のための取組み例

(1)ベンチャー企業の創出支援
 イノベーションの創出や産業の新陳代謝の促進のために、ベンチャー企業の果たす役割がますます重要となっている。米国では、大学や研究機関を中心に、ベンチャー・キャピタル(以下、VC)による初期投資を受けたベンチャー企業が大量に生まれ、こうした中から巨大企業に成長する企業も現れている。注39
 VC投資の各国の対GDP比を見ると、イスラエルや米国が他国に比べ突出して高い。また、2015年以降のイノベーション国別ランキング上位4ヶ国注40は、初期段階でのVC投資のウェイトが我が国より高いことがわかる(図表2-1-8)。
 
図表2-1-8 VC投資の各国対GDP比(2015年)
図表2-1-8 VC投資の各国対GDP比(2015年)
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■米国における中小企業イノベーション研究プログラム
 米国ではイノベーション志向の大型ベンチャーが多数生み出され急成長し経済発展のドライバーとなっているが、その基盤として政府が提供する中小企業イノベーション研究プログラム(SBIR:Small Business Innovation Research)がひとつの成功要因としてあげられることが多い。SBIR制度は、優れた技術(製品)を持つ中小企業の研究成果を商用化するために競争的な補助金を供与するというプログラムであり、1億ドル以上の研究開発予算を有する省庁は毎年一定割合(約3%)の予算を、SBIR制度に拠出することが義務づけられている。「多段階選抜(ステージゲート)方式」注41のプロセスによって、研究段階と商業化の間の「死の谷」のギャップを埋める重要な機能を果たしており、米国のイノベーションの起爆剤になっていると広く認知されている。
 
図表2-1-9 米国のSBIR制度
図表2-1-9 米国のSBIR制度

(2)産学官連携
 持続的な経済発展を促すことを目的として、大学が生み出す知識を産業界に移転しイノベーションを創出するための取組みとして、産学官連携があげられる。大学における研究費の民間負担率をみると、英国や米国、ドイツといった主要国は我が国と比較して高いことがわかる(図表2-1-10)。
 
図表2-1-10 大学における研究費の民間負担率
図表2-1-10 大学における研究費の民間負担率
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■ドイツにおける先端クラスターの選定
 ドイツには多数の優れた大学、連邦・州政府の出資による公的研究機関(マックス・プランク、フラウンホーファー等)、企業研究所があったが、第二次大戦の敗戦により深刻なダメージを受けた。その後東西ドイツ統一を機に、取組みが遅れていたバイオテクノロジーや情報通信等新分野の研究を強化し、「クラスター創生プログラム」として、各地域で、テーマを特定して大学や研究機関、企業等の連携を支援し、産学官連携による地域イノベーションの促進を図った。バイオ分野の例では、このプログラムを通じて世界有数のバイオクラスターが成長し、ドイツ国内のバイオ企業数は欧州第1位となった(1999年)。現在、ドイツには、数百箇所に「産業クラスター」が存在しているが、連邦政府は、それぞれの地域が競合しないよう積極的に関与して、地域ごとに分野の異なる産業クラスターの形成を促進している注42。ドイツにおける高度な科学技術ポテンシャルとそれを支える強固な産学官連携注43は、「Industrie 4.0」(2011年〜)の素地となっている(図表2-1-11)。
 
図表2-1-11 ドイツの最先端クラスター
図表2-1-11 ドイツの最先端クラスター


注39 内閣府「平成27年度 年次経済財政報告」
注40 イノベーションランキングの経年推移(図表1-2-3)。ここでは、スイス、イスラエル、フィンランド、米国。
注41 特定補助金等において、複数の段階を設け、最初の段階で研究開発又は事業化の実現可能性についての調査・検討(F/S)等を実施し、段階を移行する際に事業者の選抜を行うことを前提として審査を行う方式をいう。
注42 連邦政府が15の産業クラスターをコンペ方式で選び、大学、研究機関大企業、中堅・中小企業、金融等が一体となってイノベーションを推進。
注43 企業が技術革新プロセスの課題を克服するための支援を、大学(総合大学105校、工科大学211校)を中心とする地域ネットワークが担う。


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