第2節 イノベーションが描く2050年の我が国

第2節 イノベーションが描く2050年の我が国

■1 現状から想定される未来と理想の未来

(1)想定される未来
(現状から想定される未来)
 国土交通省が人口、社会経済、国土基盤、産業等の幅広い分野の専門家・識者を対象に実施した「国土の長期展望に関する意識調査」注69によると、2050年の我が国の姿は、以下のように想定されている。
 人口移動の状況については、人口が都市圏に集中すると想定する回答が多くなっている。また、居住スタイルは、回答者の75%超が「高齢者単独など、世帯人員が一人の世帯で暮らす居住スタイル」の増加を予想し、72.1%が、高齢者が親族以外で集まって暮らす居住スタイルの増加を予想しており、居住スタイルの変化が予想されている。(図表3-2-1)(図表3-2-2)
 
図表3-2-1 2050年における人口移動
図表3-2-1 2050年における人口移動
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図表3-2-2 2050年における居住スタイル
図表3-2-2 2050年における居住スタイル
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 交通や人・物の移動については、仕事や医療等、様々な分野で情報・通信ネットワークの活用が進み、人・物の移動を必要としない活動が増えると考えられているが、情報・通信ネットワークが発展・普及しても、人・物の移動は増加すると予想されている(図表3-2-3)。2050年における自動車の利用状況を見ると、農山漁村については46.7%の回答者が、自家用車の利用が増加すると回答した(図表3-2-4)。農山漁村では、公共交通網の縮小等を背景に、車への依存が更に高まり、運転できない高齢者の移動手段の不足が深刻化すると懸念されている。
 
図表3-2-3 2050年における人・物の移動
図表3-2-3 2050年における人・物の移動
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図表3-2-4 2050年における自動車の利用分担率(都市規模別)
図表3-2-4 2050年における自動車の利用分担率(都市規模別)
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 また、インフラ整備に関しては、現在の投資状況のままでは様々な問題が生じると予想されている。特に、既存インフラについては、回答者の約70%が、維持・更新が困難になり、安全性が低下することや、人口減少や社会経済状況の変化に伴い、利用されないインフラの増加・放置が深刻な問題になると予想されている(図表3-2-5)。
 
図表3-2-5 2050年におけるインフラ整備に生じる問題
図表3-2-5 2050年におけるインフラ整備に生じる問題
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 また、社会的な課題への対応では、低炭素社会の実現に向けて、エコカーが急速に普及することや公共交通の利便性・経済性が大きく向上し、自家用車からの利用転換が進展するなど、交通分野の変化を予想する回答が他の回答に比べ多くなっている(図表3-2-6)。また、低炭素の視点に配慮した暮らしを促す都市構造として、コンパクトシティの形成も進むと考えられている。
 
図表3-2-6 2050年における低炭素社会に向けた社会の変化
図表3-2-6 2050年における低炭素社会に向けた社会の変化
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 以上のように、現状から2050年を想定すると、人口やインフラ等に関する国内の社会課題が深刻化・顕在化する中で、環境問題等の地球規模の社会的課題への対応も必要となることがわかる。また、居住スタイル等のライフスタイルの変化に応じた環境づくりが求められる。

(企業や地域が描く未来)
 次に、企業や地域による未来に向けたまちづくりやイノベーションの取組みを見ていく。

■未来を創るまちづくり
 環境問題や将来予想されるエネルギー問題等を契機に、社会全体でICTを活用し再生可能エネルギーを最大限に活用する「スマートシティ」の取組みが国内外で注目されている。こうした「スマートシティ」の取組みに、プラスアルファを試みる新しいまちづくりが各地で行われている。
 藤沢市のパナソニック(株)工場跡地で進められているFujisawaサスティナブル・スマートタウン(FujisawaSST)構想は、パナソニック(株)を始めとする民間企業と藤沢市の官民一体の共同プロジェクトである。広さ約19haのまちの中に、住宅地区(低層・中高層)、生活支援地区、福祉・健康・教育地区が配置され、約1,000世帯の入居を予定しており、2014年3月には一部入居を開始し、2020年以降、街の完成を予定している(図表3-2-7)。
 
図表3-2-7 Fujisawa SST全体図
図表3-2-7 Fujisawa SST全体図

 地域内の全ての戸建住宅には太陽光発電システムと蓄電池が設置され、各家庭や施設の電力使用量の見える化や、まち全体でCO270%削減等のエネルギー目標値を設定するなど、地域が一体となり、環境に配慮した取組みを行っている。
 また、FujisawaSSTのまちづくりの特徴としては、暮らしを起点として、エネルギーだけではなく、モビリティ等の様々な分野に先端技術やサービスを導入し、エコでスマートな暮らしの構築に取り組んでいることが挙げられる。
 例えば、モビリティでは地域内で電気自動車や電動アシスト自転車のシェアリングサービス、レンタカーサービス等の様々な移動手段を提供するとともに、移動の目的や状況に応じて最適な交通手段を提案する「モビリティコンシェルジュ」サービス等を提供することで、居住者が移動しやすい環境を整えている。(図表3-2-8)
 
図表3-2-8 Fujisawa SSTモビリティサービス
図表3-2-8 Fujisawa SSTモビリティサービス

 また、全住宅に設置されているスマートテレビを使ったタウンポータルでは、各家庭や街全体のエネルギー情報に加え、タウンマネジメント会社や各施設からのお知らせやイベント情報が発信され、街の最新情報を確認できる。住人からの投稿も可能であり、サークル活動の情報や、各自が持っている物やスキルを共有できるほか、様々な生活情報をリアルタイムで共有する街の掲示板的な役割を果たしている。
 このように、FujisawaSSTでは、地域で活動する個人・団体等が積極的に地域活動に参加する仕組みを作り、地域の意見をまちづくりに活かしている。また、未来に向けた新しい街や社会の構築を目指し、先端技術・サービスの導入や実証実験を行う場となっている。2016年10月には、配送の効率化等を目的に、ヤマト運輸(株)が中心となり、地域の物流拠点に各社の荷物を集約し、ヤマト運輸(株)が各世帯へ一括配送する取組みが開始された。これは、改正物流総合効率化法に基づく総合効率化計画の認定第一号案件となっている。
 以上のように、官民連携や暮らし起点によるまちづくりは、未来社会を創る新たな取組みであり、今後こうした取組みにより、まちづくりがイノベーションを創出する場となっていくことが期待される。また、未来の暮らしにおいて、地域の生活に関する機能が充実し、利便性の向上が図られるとともに、地域等を単位にしたつながりある社会の構築が期待される。

■未来を見据えた気象情報ビジネス
 AI等の技術の進展により、幅広い産業で気象データの活用が行われている。国内気象情報会社大手の(株)ウェザーニューズは、新技術の活用と顧客ニーズの把握により新サービスの提供に取り組むとともに、将来予測される気候変動や技術革新により新たに生じる課題を見据え、新たな気象情報ビジネスの創出に取り組んでいる。
 気候変動への対応では、近年の地球温暖化により夏場の北極海の海氷が減少し、アジアとヨーロッパを結ぶ第3の航路注70として北極海航路が海運業界の注目を集めていることから、海氷の観測と予測を行い、運航支援を行うサービスを提供している。今後も同航路の利用が活発になることが予想され、独自の観測を行うため、衛星の打ち上げも計画している。
 技術革新により新たに生じる課題では、例えば自動運転の実用化に当たっては、車載センサにより路面境界や白線を検出し、走路を認識することが必要となるが、降雪時には白線の認識が難しくなる。そのため、雪に関する質の高い情報を提供するなど、新技術の実用化等を支えている。
 また、近年増加している予測が難しい突発的かつ局地的大雨(「ゲリラ雷雨」)注71による被害を減らすため、自社のサービスにAI等の新技術を導入し、「ゲリラ雷雨」の気象予報を利用者により早く通知する取組みを行っている。同サービスでは、観測された気象データと、同サービスに登録する利用者から得られた空の変化や体感の報告を元に、AI技術やアルゴリズムを利用して解析し、「ゲリラ雷雨」の可能性をできるだけ早く利用者に通知している。(図表3-2-9)
 
図表3-2-9 「ゲリラ雷雨」通知の仕組み
図表3-2-9 「ゲリラ雷雨」通知の仕組み

 以上のように、企業単位で、将来を見据えた社会課題の克服や技術革新を支える取組みが始まっている。また、新技術と人による情報のシェアを活用し、気象災害から暮らしを守る取組み等が進められることで、今後ますます災害予測の精度が向上するとともに、災害情報や被害状況のタイムリーな情報共有が行われ、迅速な避難行動や災害対応に活かされることが期待される。

■社会課題から生まれた超小型モビリティ
 世界的な環境意識の高まりや、高齢者の移動手段の問題、都心部の人口増加や渋滞等の問題を背景に、エコでコンパクトな超小型モビリティ注72の普及が期待されている。
 道路交通センサスによると、自動車を利用する多くの人は近距離での移動をメインとしており、1人で移動することが多い(図表3-2-10)。こうした利用のあり方を背景に、小型モビリティを1)日常の交通手段、2)都心部における小口配送等の商業目的の交通手段、3)観光時の移動手段として利用する取組みが行われている(図表3-2-11)。
 
図表3-2-10 地域交通における自転車利用の実態(平日)
図表3-2-10 地域交通における自転車利用の実態(平日)
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図表3-2-11 超小型モビリティ導入事例
図表3-2-11 超小型モビリティ導入事例

 小型モビリティは社会課題に対応した未来の移動手段として有用であり、本格的な運用に向けて、各種インフラの整備(走行レーン、駐車スペース、充電等)、安全性の確保等、技術革新に対応した環境整備の検討を進めている。こうした取組みにより、未来の暮らしにおいて地域の交通手段が充実するとともに、高齢者や旅行者等の全ての人にとってストレスのない移動が可能となり、人や物の移動が更に活発化することが期待される。

(2)国民が願う未来
 国土交通省が実施した「国民意識調査」から、イノベーションによって大きく変化する未来社会において、国民はどのような暮らしを望んでいるのか、国民が願う未来社会を第2章3節と同様に、国土・インフラ整備分野、交通分野、暮らし方分野の3分野に分けて考察していく。

(国土・インフラ整備分野〜人口移動)
 2050年の社会では、交通インフラの整備が進み、都市間では高速ネットワークの整備により移動が速く、便利になるとともに、地域内ではコンパクトシティの取組み等により、徒歩や公共交通による移動で生活に必要な機能が全て揃うことが想定される。また、テレワーク等の新しい働き方の普及等により、働く場所や・時間の制約が少なくなると想定される。そのような社会で、国民は居住地をどのように選択するのか質問したところ、約半数の人が現在と異なる居住地に住むことを希望するという結果になった注73(図表3-2-12)。
 
図表3-2-12 2050年に希望する居住地
図表3-2-12 2050年に希望する居住地
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 また、居住地選択の理由では、「大都市圏の中心部」を希望する人は、「人やものが多く集まっているから」、「娯楽施設が充実しているから」といった人やものの集約や施設の充実等の利便性を重視しており、「大都市圏以外の都市の中心部」を希望する人は、人やものの集約や利便性に加え、自然や気候の良さ、「親や子が住んでいるから」といった家族に関する条件も重視している(図表3-2-13)。一方、上記以外の地域を希望する人は、自然や気候の良さ、家族に関する条件のほか、「災害リスクが低い」ことを居住地選択の理由に挙げる人が比較的多い。
 
図表3-2-13 居住地選択の理由
図表3-2-13 居住地選択の理由
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(国土・インフラ整備分野〜災害時の行動)
 2050年の社会に向けて、災害に関する予報の精度は向上すると想定される。国民意識調査では、災害の予報の精度が、天気予報の精度と同程度まで高まったと想定し、現在の居住地に5年以内に起きる災害の種類、規模、時期が正確に分かっていたら、どのように行動するかを質問した。
 国民の行動を居住地別に見ると、三大都市圏では、「居住地の変更を検討する」との回答が34.4%と最も多く、「一時的に他の地域へ避難する」が続く(図表3-2-14)。政令都市・県庁所在地、その他の地域では、「防災グッズを準備する」がそれぞれ34.8%、38.0%と最も多い。このことから、都市部の居住者の方が、居住地の変更や避難を志向し、災害予報を活用して、居住地を離れ安全を確保しようとする傾向があることがわかる。
 
図表3-2-14 精度の高い災害予報を活用した防災・減災の行動
図表3-2-14 精度の高い災害予報を活用した防災・減災の行動
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(交通分野〜自動車)
 現在、自動運転技術の実用化に向けて、産学官が一体となり様々な取組みを行っており、2050年の社会では原則自動運転となることも予想される。前述のように交通インフラの整備が進展した場合に、国民が希望する自動車の利用環境について調査した。居住地別に傾向を見ると、いずれの地域でも自動車の所有を希望する割合が全体の半数以上を占める(図表3-2-15)。また、その他の地域では、所有を希望する割合が73.2%と最も高く、「自動走行の自家用車を所有したい」割合も41.2%と最も高い。
 
図表3-2-15 2050年における自動車の利用状況
図表3-2-15 2050年における自動車の利用状況
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(交通分野〜人・物の移動)
 2050年の社会では、交通インフラの整備等により、人・物の輸送技術が高速化・高度化することが想定される。そうした社会で、人・物の移動に関する意向はどのように変化するだろうか。鮮度が重視される生鮮食料品を例に、その購買意欲を調査したところ、物流を利用して国内外の生鮮食料品を購入する機会が増えるとする人が41.7%、直接現地へ行って購入する機会が増えるとする人が18.1%であり、輸送技術の高速化・高度化により人・物の移動が活発になることがわかる(図表3-2-16)。
 
図表3-2-16 2050年の人・物の移動
図表3-2-16 2050年の人・物の移動
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(暮らし方分野〜働き方)
 テレワーク等の新しい働き方が普及することで、働く場所・時間に制約が少なくなることが予想されるが、そうした社会で国民はどこで仕事を行いたいか質問したところ、51.5%の人が自宅の勤務を希望するという結果になった(図表3-2-17)。このように仕事を行う場が職場だけではなく自宅等に変化することで、日常の消費活動等を行う場所にも変化が生じる可能性や、仕事場として住宅に求められる機能が変わってくる可能性がある。
 
図表3-2-17 2050年における主な仕事場
図表3-2-17 2050年における主な仕事場
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 また、職業別の傾向を見ると、「専業主婦、専業主夫」は73.7%が自宅を選択しており、新たにオフィスワークを行うことを想定する場合には、自宅を志向する傾向がある(図表3-2-18)。一方、「正社員、正規職員」は59.2%が職場を選択しており、既に社会で働いている場合には、引き続き職場で働きたいと考える人が多い。
 
図表3-2-18 2050年における主な仕事場(職業別)
図表3-2-18 2050年における主な仕事場(職業別)
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 以上のことから、国土交通分野におけるイノベーションは国民の行動や意識を変えるきっかけになることや、国民の意識やライフスタイルにおける変化が国土交通分野に新たなニーズをもたらす可能性があることがわかる。


注69 日本学術会議、日本建築学会ほか、国土計画に関連する約30の学会会員を対象に実施。実施期間は2010年7月7日から同年7月28日、回答総数は約620名。
注70 アジアとヨーロッパを結ぶ航路には、北極海航路のほか、スエズ運河経由、喜望峰経由がある。
注71 (株)ウェザーニューズでは「ゲリラ雷雨」という表現を使用している。
注72 超小型モビリティとは「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人から2人乗り程度の車両」と定義される。
注73 三大都市圏を「大都市圏の中心部」及び「大都市圏の中心部からやや離れた郊外」、政令都市・県庁所在地を「大都市圏以外の都市の中心部」及び「大都市圏以外の都市の中心部からやや離れた郊外」、その他の地域を「町村の中心部」及び「町村の中心部からやや離れた郊外、農山漁村」とそれぞれ仮定すると、このような傾向がいえる。例えば「その他の地域」には三大都市圏や政令都市・県庁所在地ではない地方都市が含まれるため、厳密には異なる可能性がある。


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