第2節 観光先進国の実現に向けた取組み

■2 観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に

(1)観光関係の規制・制度の総合的な見直し及び民泊サービスへの対応
 通訳案内士の圧倒的な不足や悪質なランドオペレーターによる高額なキックバックを前提とした土産物屋への連れ回し等の事案に対応するため、通訳案内士の業務独占規制の廃止及び名称独占の存続、通訳案内の質の確保、ランドオペレーターの登録制の導入、地域限定旅行業に係る規制緩和等を内容とする「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律案」を平成29年3月に国会に提出した。
 また、規制改革実施計画(28年6月2日閣議決定)及び「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」の最終報告書(同年6月取りまとめ)の内容を踏まえ、適切な規制の下でニーズに応えた民泊サービスが推進できるよう、「住宅宿泊事業法案」を策定し、29年3月に国会に提出した。

(2)産業界ニーズを踏まえた観光経営人材の育成・強化
 観光分野における人材の育成及び確保のため、トップレベル、中核レベル、実務レベル、それぞれのレベルで取組みを行った。
 トップレベルについては、我が国の観光産業全体を牽引できる人材を育成することを目的に、一橋大学及び京都大学の大学院段階(MBAを含む)に観光の経営人材を恒常的に育成する拠点の平成30年の設置に向け、産学官連携によるカリキュラム内容の検討等を開始した。
 中核レベルの人材については、平成27年度に行った小樽商科大学での教育プログラムを水平展開し、和歌山大学及び大分大学において地域の宿泊産業の経営力向上に向けた講座を開講するとともに、産業界が求める人材ニーズ等に係る調査を行った。
 実務レベルの人材については、観光産業の人手不足の対応として、専修学校のカリキュラム内容についての調査や、観光産業を志望する学生や働きたいシニア・女性などに対する就業ニーズ等の調査を行った。
 さらに、外国人旅行者に対して旅行の手配を行うツアーオペレーターについて、JATA(一般社団法人日本旅行業協会)が事務局として運用するサービスの質や企業の信頼性の水準を示す認証制度及び認証取得事業者のPRを実施した。

(3)宿泊施設不足の早急な解消及び多様なニーズに合わせた宿泊施設の提供
 宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度の運用を明確化する指針を策定し、地方公共団体へ通知を発出した。また、宿泊施設が提供するサービスと旅行者のニーズのマッチングによって旅行者の満足度向上を図るため、まずは旅行者の多様なニーズを分析することで、宿泊施設において、どのようなサービスの仕方がありうるのかについて検討を行っているところである。

(4)世界水準のDMOの形成・育成
 地域における多様な関係者の合意形成の下、観光振興を戦略的に推進する専門組織である日本版DMOの全国各地での形成・確立を促進するため、DMO候補法人に対し、情報・人材・財政金融支援の3つの側面から支援を行った。平成28年度末時点で134のDMO候補法人が登録された。

(5)「観光地再生・活性化ファンド」の継続的な展開および次世代の観光立国実現のための財源の展開
 観光庁と包括的連携協定を締結している株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)において、地域金融機関等と共同して佐賀県等各地域に平成28年度末までに12件の観光活性化ファンドを組成し、これらのファンドから26件の投融資を行った。観光庁では、同機構の取組みに関連性の高い事業の情報提供、ファンド組成等のウェブサイトでの周知など、同機構の取組みに対する支援を行った。
 また、観光立国の実現による経済再生と財政健全化を両立させる観点から、引き続き観光関係予算の適切な確保に努めるとともに、今後のインバウンド拡大等増加する観光需要に対して高次元で観光施策を実行するため、国の追加的な財源の確保策について検討を行うこととしている。

(6)オリパラ後を見据えた訪日プロモーションの戦略的高度化及びインバウンド観光促進のための多様な魅力の対外発信強化
 訪日外国人旅行者のリピーターの増加や富裕層の取り込みを図るため、必要な情報をいつでも・どこでも入手しやすい形で発信するべく、日本政府観光局(JNTO)ウェブサイトの外国人目線での充実化を図るとともに、有力雑誌等のメディアや旅行会社を日本各地へ招請するなどにより、日本の歴史・伝統文化等を強力に発信した。
 また、欧米豪からの旅行者の訪問地域、訪問時期や訴求コンテンツの一層の多様化を図るため、英国「Ski & Snowbord Show」等、スノー関係の旅行博へ出展するとともに、スキー旅行を扱う旅行会社の招請等を実施した。一般の招請事業においても、サイクリング等のアクティビティを行程に取り入れて発信を行った。さらに、現地目線でのプロモーションの高度化を図るため、平成28年度に外国人有識者等からなるアドバイザリーボードを設置した。
 日本各地の観光地としての魅力を強力かつ戦略的にアピールするため、28年8月に開催されたリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、次回開催国としての注目の高まりを最大限生かすべく、「Tokyo 2020 JAPAN HOUSE」の日本政府エリア内に他省庁と連携してビジット・ジャパンブースを出展した。加えて、オリンピック金メダリストによる日本各地の観光地体験の様子を、グローバル・メディアを活用して世界に配信した。

(7)MICE誘致の促進
 国際会議等(MICE)誘致促進のため、海外競合都市との誘致競争に勝つことのできる「グローバルMICE強化都市」5都市に支援を実施するとともに、学会等で影響力があり、国際会議の誘致を担う方々を「MICE誘致アンバサダー」として認定して活動の支援を実施した。さらに歴史的建造物等でレセプション等を開催し、特別感を演出するユニークベニューの利用促進等に取り組んだ。
 グローバル企業のビジネス活動を支える会議施設等の整備への支援制度を平成28年9月に新設したほか、政府レベルでMICE誘致を支援する体制を構築するため、同年12月に「MICE推進関係府省連絡会議」を新設した。

(8)ビザの戦略的緩和
 観光ビジョン等において戦略的なビザ緩和に取り組むこととした5か国(中国、フィリピン、ベトナム、インド、ロシア)に関し、平成28年度の目標であった、中国、インド及びロシアを対象としたビザ緩和については、関係省庁との連携のもと申請手続の一部簡素化、数次ビザの新規導入、商用数次ビザの発給対象者拡大等が実現した。

(9)訪日教育旅行の活性化
 観光ビジョン等を踏まえ、平成28年4月に、JNTOに一元的窓口を設置して訪日教育旅行の受入マッチングを開始したほか、台湾等の市場において教育関係者等の招請事業等を行った。

(10)観光教育の充実
 子どもたちが地元や日本各地の歴史や文化の魅力的な観光資源等を学習し、その魅力を発信する取組事例を収集するとともに、教材の作成及び普及の検討にも着手した。

(11)若者のアウトバウンド活性化
 若年層のアウトバウンドの拡大が進まない原因の分析、旅行業団体等と連携した若年層の海外旅行を更に促進する若者割引等のサービスの開発・普及、(一社)日本旅行業協会が平成29年2月に関係者の参画の下設立した「アウトバウンド促進協議会」等と連携し、インバウンド・アウトバウンド双方向の市場の活性化に向けた海外紙毎年の交流推進等の促進策の検討を行った。


注 DMO:Destination Management/Marketing Organization。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む