第3節 産業の活性化

■3 海事産業の動向と施策

(1)安定的な海上輸送の確保
1)日本籍船・日本人船員の確保
 四面環海で資源の乏しい我が国にとって、貿易量の99.6%を担う外航海運は、経済安全保障の確保に重要な役割を果たしている。このため、緊急時においても、我が国と船舶の船籍国との管轄権の競合を排除できる日本船舶・日本人船員を一定規模確保することが必要であるが、プラザ合意以降の円高によるコスト競争力の喪失から減少傾向が続いていた。
 
図表II-6-3-6 我が国商船隊・外航日本人船員数の推移
図表II-6-3-6 我が国商船隊・外航日本人船員数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 このような事態に対処するため、「海上運送法」に基づき日本船舶・船員確保計画の認定を受けた本邦対外船舶運航事業者が確保する日本船舶を対象として、平成21年度からトン数標準税制注1の適用が開始され、25年度には日本船舶を補完するものとして、本邦外航船舶運航事業者の子会社保有船舶のち航海命令発令時における日本籍化が確保されるよう措置された外国船舶(準日本船舶)に対象を拡大して、日本船舶・日本人船員の確保を進めている。
 
図表II-6-3-7 日本人船員数の推移
図表II-6-3-7 日本人船員数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 さらに、近年の我が国周辺海域における急激な情勢変化を受け、安定的な海上輸送の早期確保を図るため、準日本船舶に本邦船主の子会社が保有する一定の要件を満たした外国船舶を追加すること等を内容とする「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律案」を平成29年2月に国会へ提出した。
 これらの取組みを通じて、できる限り早期の安定的な海上輸送の確保を図っていく。

2)船員(海技者)の確保・育成
 船員は、海運の人的基盤であり、日本人船員を確保し、育成することは我が国経済の発展や国民生活の維持・向上に必要不可欠である。内航船員は、50歳以上の割合が約5割と高齢化が著しく、高齢船員の大量離職に伴う担い手不足が生じないよう、十分な数の若年船員の確保・育成が必要である。このため、船員教育機関を卒業していない者を対象とした短期養成課程への支援や調理師専門学校に対して就職説明会への参加を直接呼びかける等の就業ルート拡大に取り組むなど、船員供給体制を強化するとともに、新人船員を計画的に雇用する事業者への支援や新卒向け就職面接会の開催にあたり、これまで日程的に参加が困難だった新卒者の取り込みを図るため、関係者との調整を行い開催回数を増やすなど、新人船員の就業機会の拡大を図っている。
 一方、外航日本人船員は、経済安全保障等の観点から一定数の確保・育成が必要であるため、日本船舶・船員確保計画の着実な実施等による日本人船員の確保に取り組んでいる。
 併せて、我が国商船隊の大宗を占めるアジア人船員の確保・育成のため、開発途上国の船員教育者の技能向上を図り、より優秀な船員を養成することを目的とした研修を行っている。
 国土交通省が所管する船員養成機関として(独)海技教育機構(JMETS)が設置されている。平成28年4月、(独)航海訓練所と(独)海技教育機構が統合し、発足したJMETSは、我が国最大の船員養成機関として、新人船員の養成、海運会社のニーズに対応した実務教育及び商船系大学・高等専門学校の学生等に対する航海訓練を実施している。
 JMETSは、今後とも、教育内容の高度化に取り組み、保有するリソースを最大限に活用して、若手船員の確保・育成を着実に推進していく。
 こうした船員の確保・育成のための取組みに加えて、船員の職業的魅力を高めるために、船員災害の持続的減少を図る取組みである「船内労働安全衛生マネジメントシステム」及び「船内向け自主改善活動(WIB)」の普及についても、引き続き取り組んでいく。

3) 海洋に関する国民の理解の増進
 安定的な海上輸送の確保は、我が国の経済、国民生活を支える上で極めて重要なものであるが、国民の海に対する理解は必ずしも十分でない。このため、国民各層、特に若年層を対象として、自治体・事業者・関係団体・学校・教育委員会等と協力・連携しながら、「海の月間」、海フェスタ(平成28年は豊橋市ほか5市2町1村で開催)、海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣表彰)等海洋に関する国民の理解の増進に関する活動を推進している。
 また、28年「海の日」の安倍内閣総理大臣メッセージにおいて海洋教育推進組織「ニッポン学びの海プラットフォーム」の立ち上げが表明された。これを受け、初等中等教育における海洋教育プログラム等の検討を進めるとともに、28年8月には、将来の海洋産業を担う人材を確保するため、地方運輸局・関係団体等が教育委員会と連携し、中学生を対象に、海に関わる仕事の魅力・重要性を知り、進路選択の一つとなるようキャリア教育を実施した。

(2)海上輸送産業
1)外航海運
 平成27年の世界の海上荷動き量は、107億1,800万トン(前年比2.0%増)で、我が国の海上貿易量は9億4,671万トン(前年比1.2%減)となった。
 27年度の外航海運は、米国における緩やかな景気回復、燃料油価格の低下等が見られたものの、新興国の景気減速と船舶の過剰供給等による運賃市況の低迷により全体としては厳しい事業環境となった。

2)国内旅客船事業
 平成27年度の国内旅客船事業の輸送需要は88百万人と、前年度比2%増となっているが、長期的には人口構造の変化等に伴い減少傾向にある。また、平成26年をピークに高騰していた燃油価格が低下しつつあるものの、経営環境は依然として厳しい状況にある。国内旅客船事業は地域住民の移動や生活物資の輸送手段として重要な役割を担っており、また、海上の景観等を活かした観光利用の拡大も期待される。さらに、フェリー事業についてはモーダルシフトの受け皿として、また、災害時の輸送にも重要な役割を担っている。
 
図表II-6-3-8 国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移
図表II-6-3-8 国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移
Excel形式のファイルはこちら

 このため、(独)鉄道・運輸機構の船舶共有建造制度や税制特例措置により省エネ性能の高い船舶の建造等を支援している。また、平成28年4月より「船旅活性化モデル地区」制度を設け観光に係る新サービスの創出を支援(29年3月末現在13地区)している。さらに、「交通政策基本計画」(27年2月閣議決定)に定められたモーダルシフトの目標(内航海運による貨物輸送:32年度 367億トンキロ,27年度実績340億トンキロ)の達成にむけて船舶共有建造制度を活用したモーダルシフトに資する船舶の建造支援、28年10月に改正された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」に基づく総合効率化計画の認定制度の活用等を進めている。
 加えて、関係省庁及び民間フェリー事業者と連携し、南海トラフ地震等発生時に民間フェリーで広域応援部隊を迅速に輸送するための対策を取りまとめ、同年12月に国土交通大臣より旅客船事業者に対して広域応援部隊の優先的輸送に係る要請を行い、災害時の円滑な輸送の実現を図っている。
 
図表II-6-3-9 国土交通大臣からの要請文の手交
図表II-6-3-9 国土交通大臣からの要請文の手交

3)内航海運
 平成27年度の内航海運の輸送量は1,803億トンキロ(前年度比1.5%減)であり、近年は横ばいであるものの、国内経済の伸び悩み、国際競争の進展等の影響や荷主の経営統合等により産業基礎物資を中心とする輸送需要は長期的には低下傾向にある。内航海運は、国内物流の44%、産業基礎物資輸送の約8割を担う、我が国の経済・国民生活を支える基幹的輸送インフラであるとともに、フェリーと並んでモーダルシフトの重要な担い手となっている。しかしながら、老朽船が全体の7割を超え、50歳以上の船員が5割を超えるという船舶と船員の「2つの高齢化」が構造的な課題となっている。
 これらの課題を踏まえ、平成28年4月より「内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会」を開催し、内航海運が安全・良質な輸送サービスを持続的に提供できる産業として発展していくために取り組むべき方向性について議論を開始し、同年7月には早急に着手すべき取組みを中間とりまとめとして整理した。引き続き「安定的輸送の確保」「生産性向上」を中・長期的に目指すべき方向性の軸として、これを実現させるための具体的な取組みについて議論を進め、平成29年6月頃を目途に結論の取りまとめを行う予定である。あわせて、内航海運暫定措置事業注2の円滑かつ着実な実施の支援等も行っている。
 
図表II-6-3-10 内航海運の活性化に係る検討状況について
図表II-6-3-10 内航海運の活性化に係る検討状況について

4)港湾運送事業
 港湾運送事業は、海上輸送と陸上輸送の結節点として、我が国の経済や国民の生活を支える重要な役割を果たしている。平成28年3月末現在、「港湾運送事業法」の対象となる全国93港の指定港における一般港湾運送事業等の事業者数は868者(前年度比0.7%減)となっている。また、27年度の船舶積卸量は、全国で約13億9,900万トン(前年度比2.7%減)となっている。

(3)造船産業
1)造船産業の現状
 我が国造船産業は、船主の多様なニーズに応じた良質な船舶を安定的に提供することにより、地域経済・雇用に貢献している非常に重要な産業である。また、我が国は、海運業、造船業、舶用工業が互いに強く結びついて集積した海事産業クラスターを有している。
 
図表II-6-3-11 我が国の海事産業クラスター
図表II-6-3-11 我が国の海事産業クラスター

 造船業については、平成20年のリーマンショック後、世界経済の停滞と船腹過剰によって受注量は低迷したが、円高是正にも支えられ高性能・高品質な日本船への回帰が進み、我が国の受注量は24年を底に3年連続で増加した。新興国における経済成長の減速等により28年に入ると世界の受注量が激減したが、我が国は前年までの受注により、2−3年先までの手持ち工事量を確保しており、堅調に操業を維持している。28年の我が国の建造量は1,331万総トン(世界の建造量6,816万総トン)、世界シェアは19.5%(前年比0.6ポイント増)となった。我が国舶用工業製品については、近年の造船の受注増に伴い2年連続で生産額が増加し、27年の生産額1兆221億円(前年比約5.1%増)、輸出額3,525億円(前年比約6.7%減)となった。
 
図表II-6-3-12 世界の新造船建造量の推移
図表II-6-3-12 世界の新造船建造量の推移
Excel形式のファイルはこちら

 
図表II-6-3-13 我が国の舶用工業製品生産・輸出入実績の推移
図表II-6-3-13 我が国の舶用工業製品生産・輸出入実績の推移
Excel形式のファイルはこちら

2)造船産業の国際競争力強化のための取組み
 我が国造船業が、今後とも熾烈な競争を勝ち抜いていくためには、強みである生産効率や省エネ技術等の高さを更に向上させるべく、近年著しく発展している情報技術等も活用して抜本的な生産性向上を図る必要がある。
 このため、国土交通省では平成28年より船舶の開発・建造から運航に至るすべてのフェーズでIoTやビッグデータ等を活用し、造船業の現場生産性向上や燃料のムダ使い解消・故障による不稼働ゼロの運航を実現するための取組みである「i-Shipping」を推進している。
 具体的には、新船型開発の迅速化、現場生産性の向上、高付加価値船の供給に向けた取組み等を推進しており、技術開発補助や設備投資に対する税制の支援等により、生産性向上に積極的に挑戦する事業者を支援するための取組みを開始した。また、先進的な技術を用いた先進船舶の導入等を促進し、我が国海事産業の活性化及び国際競争力の強化を図るため「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律案」を29年2月に国会へ提出した。
 i-Shippingの柱の一つである造船業における人材の確保・育成については、高校の教員や生徒らに造船の「ものづくり」の魅力への理解を深めてもらうインターンシップの推進、工業高校における造船の教育体制強化等、産学官が一体となった取組みを実施している。また、このように国内人材の確保に最大限努めることを基本とした上で、緊急かつ時限的措置(32年度で終了)として即戦力となり得る外国人材の活用を図っている。
 これらの施策によって、我が国造船業の建造シェアを現在の20%から37年(2025年)に30%に拡大することを目標に国際競争力の強化に取り組んでいる。

(4)海洋産業
 海底からの石油・天然ガスの生産に代表される海洋開発分野は中長期的な成長が見込まれる。また、この分野では多くの船舶が用いられ、一隻当たりの受注金額も大きいことから、我が国の海事産業(海運業、造船業等)にとって重要な市場である。しかしながら、国内に海洋資源開発のフィールドが存在しないため、我が国においては、海洋開発分野は産業として未成熟である。このため、国土交通省生産性革命プロジェクトのひとつとして位置づけた「j-Ocean」では、海洋開発分野の施設等の設計、建造から操業に至るまでの幅広い分野で我が国海事産業の技術力等の向上を図り、もって海洋開発市場の獲得を目指していくこととしている。まずは、喫緊の課題である海洋開発技術者の育成に向けて教材の開発・整備等に引き続き取り組むとともに、技術開発支援等を着実に進めていく。


注1 毎年の利益に応じた法人税額の算出に代わり、船舶のトン数に応じた一定のみなし利益に基づいて法人税額を算出する税制。世界の主要海運国においては、同様の税制が導入されている。
注2 保有船舶を解体、撤去した者に対して一定の交付金を交付するとともに、船舶建造者から納付金を納付させる制度(交付金の交付は平成27年度末までに終了)。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む